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猫忍えくすはーと×竜姫ぐーたらいふ クロスオーバーSS 第五話(最終回)

-西金市立西金中学校 屋上-


「遅い! ええい、遅い遅い遅い~っ」

 とうに夜の帳が下りた西金市立西金中学校の狭い屋上を、先刻から一人の人影が落ち着きなく徘徊していた。

 猫の耳に猫の尻尾。

 猫忍・風魔ゆらその人である。

「サッと家に顔を出して戻ってくるくらいで、これほど時間がかかるはずないであろう。

 あやつとて風魔の上忍、道草を食っているわけでも……

 いや、あやつか。あやつ意外とそういうところあるからなぁ~」

 鈴夏にしてみれば、何度も聞かされた自問と自答だ。

「道に迷ってるとかじゃないの?」

 痺れを切らして、縛られている少女・鈴夏が声をかけてみる。

「お主、忍者を軽んじているのではないか? このような狭い町、我らにとってはいーじーもーどであるのだが?

 拙者などはすでに小道の一本まで地図が頭に入っている」

 妹は普通に道に迷っていたが。

「じゃあ、何かあったのかもね」

 それは鈴夏の気のない相槌ではあったが、ゆらの顔色を変えさせるには十分な威力があった。

「まさか、か、勘付かれたか? いかにたまとて準備もなしにドラゴンと鉢合わせになったとすれば……」

(こっちまで不安になってきたな……)

 一応は家主であり保護者の宮本武と「無茶しない」と約束していることは知っているが、それも時と場合によりけりだ。

 先ほど、鈴夏の中の古竜が『何か』の気配に怯えを示したのも気になっている。

(まさかとは思うけど……)

「ニン~~~~……」

 妹を案ずるしょぼくれた顔が最後の後押しになった。

「わかったわかった。あの子、ウチに向かったんだよね? ちょっと行って様子見てくるから」

「はあ? 何を言い出す。お主は人質――」

 バサバサバサッ!

 縄を切るついでとばかりに鈴夏は背中に無骨な翼を出し、軽く動かす。

 腕を動かすくらいの気安さで、すでに鈴夏は翼や角の出し入れくらいはできるようになってたりする。

「ついでにハルにも声かけてくるから、ちょっとここで待ってて」

「待っ、は? いやいやいや! お主……」

 ゆらのリアクションを待つことなく、鈴夏は背中の羽根をバサバサいわせて夜の空に飛翔する。

「……えええええーーーーーーーーーーーーーー!?」

 だいぶ遅い、手遅れの驚愕である。

 ゆらが現実と向き合うために要したその数秒で、鈴夏の姿はすっかり見えなくなっていた。


「あやつドラゴ……う、ウソであろう? そのような気配など微塵も見せていなかったというのに……。

 狐に鼻先をヒョイとつままれたような気分だ。

 であればあったで、なぜ、抵抗もせずに我らの手に落ちたのだ」

 お人好しだからである。

「……もしや、偵察? 我らの手の内に探りを入れてきたのか」

 そういう考えに到達するのも無理のないことではあるが。

「まんまといっぱい食わされたと、そういうことであるか……こんなのってあるぅー?

 ここまでは上手くいってたのに。あるいは慢心が拙者の目を曇らせたのか。

 我らの動きは敵に筒抜け……たまはやつらの手に落ち、こちらの目的も手の内も全て先の娘を通じて敵の知るところとなる」

 ――いや、これ、普通に考えて詰みであろう?

 血の気を失ったゆらの唇が、状況を客観的に結論づける。

「功に逸って行動を起こした挙げ句、たまを失い……おめおめハルキ殿の元に帰るわけにもいかぬ。

 嫌だ、野良は嫌だ。拙者はすでに主様に愛でていただく幸せを知っているのだ」

 癇癪半分、自棄半分くらいのテンションでジタバタしていたのは10秒ほど。

 これでも忍びだ。感情の切り替えは早かった。

「かくなる上は……」

 ピュイーーーーーッ!!

 ゆらが発した鋭い指笛に、空の彼方で反応したものがあった。

 バサバサバサッ!

「おお、風切丸か。久しいな」

 ゆらは空に向かって声をかけ、上空に現れた忍鷹・風切丸を掲げた腕に止まらせる。

 風魔の里は情報収集と連絡係を兼ね、鍛え上げた数多の忍鷹を常に巡回させているのだ。

 余談だが、日頃のゆらたまの様子も里には筒抜けである。

「ちょっと待っておれよ? ニンニンニンッ……っと、これでよし」

 腕に忍鷹をとまらせたまま、ゆらはサラサラと片手で書をしたためる。

「この手紙をじじ様に届けてくれ。ここが我ら風魔の関ヶ原……伸るか反るかの分水嶺である」

 クイッと首を縦に動かした忍鷹が、力強く翼をはためかせて夜に消える。

「あの娘がいつドラゴン仲間を連れて戻ってくるかわからぬ。業腹だがここは一時退却……ではなく、戦術的転進としよう。

 ここは耐えよ、たま。すぐに拙者が助けに行くぞ」


 はたして、彼女が離脱してから5分も経たないうちにハルを連れて鈴夏が戻ってきたものの全ては遅きに逸した格好。

 猫忍VSドラゴン――

 かつてない窮地に立たされた孤独な猫忍・ゆら、挽回なるか。




-山中-


 そして、翌朝――

「援軍が来ないのであるがぁーーーーーーー!?」

 早朝の山奥に響き渡った悲痛な叫びに、鳥達がバサバサと逃げていく。

「里の皆のハルキ殿への忠義を疑っちゃうでござるな。こんな時こその我ら風魔忍軍であろう。

 それはまあ、確かに? ハルキ殿直々のご命令ではないが。

 ふむ……むしろ、拙者の独断で里を動かそうとしてるという見方もできなくはない」

 言いながら納得した感じだ。

 里はゆらからの文を受け、対応を話し合っているのだろう。

 多分、悪口も出てる。

「再度、文を……いや、催促に意味はあるまい」

 手詰まりだ。

 だが、投げやりになったところで妹の身も、失いつつある(←自覚済み)信頼も帰ってこない。

「いいだろう。拙者一人でもできるというところを見せてやろうではないか。

 ……だが、一応? 念の為? なちにも文を送っておくか」

 実姉のなちは北条家とは違う組織に属しているので今回の行動は伝えていなかったが、溺れるものは、もとい念の為だ。

「ハルキ殿と鈴木の今後の関係性を考えても、借りなどは作りたくないが……

 たまの窮地とでも書いておけば個人的に来るであろう。あやつ意外と妹煩悩であるからな」

 ピュイーーーーーッ!!

 手近な木を駆け上がって指笛を放つと、反応はすぐにあった。

 バサバサッと頭上から翼が風を切る音が降ってくる。

「おお、今度は疾風丸か! 久しいな。なちの気配を探してこの書を届けてくれ。おおよそでいえば方角はあちらの方だ」

 ゆらの指が示す方をちゃんと見て、クイッと頷いた忍鷹・疾風丸がその腕から飛び立つ。

「うむ、これでよい。案外、里からの援軍もこちらに向かっているやもしれぬし……

 ありえるでござるな、風魔おーるすたーず大集合」


 そして、正午を回る頃――

「やっぱり来ないのでござるがぁーーーーーー!?」

 やけっぱち気味の叫びに、今度は山の野鳥達すらも応えてくれなかった。

 ただ、虚しい。

「いや、向かってる途中? その可能性はあるが、あるいは見捨て……ゲフンゲフン」

 待つのは堪える。

 雲のような不安に囚われながらであれば、なおさらだ。

「こうしていても仕方ない。皆の動きがわからぬ中ではあるが、そーっとこう……偵察くらいは?

 拙者、できる子であるがゆえ?」




-西金市 住宅街-


 のどかな住宅街の風景が、すでに昨日と同じようには映らない。

 もはや敵陣。

 オンボロ道場と和菓子屋を同時に臨むことができる細いT字路に身を潜め、ゆらはそーっと首を伸ばす。

(偵察任務は妹の方が得意なのだが、そんなことを言っていても仕方……ぬっ!)

 人影だ。

 オンボロ道場の前で中腰になっているふたつの背中は、ゆらにとって見覚えのあるもの。

 和菓子屋店主・一ノ瀬秋乃と、その娘の鈴夏。

 ……ドラゴンだ。

 アスファルトと電信柱の二回、しゅたっ、しゅたっと、ゆらが足場を蹴る。

(ヤツら、このような場所で一体何を……)

 そうして二人の頭上を大きく周り込み、瓦があちこち剥げている道場の屋根から正門前をそーっと見下ろす。

「にゃんにゃんにゃーん♪」

「見て、ママ。この子あたしの指カシカシしてくんの。甘えんぼさんなのかな」

「やぁん、鈴夏ちゃんばっかり。ママにもおなかナデナデさせて~」

「うおおおおおおおおおおおおい!!」

 なんだかもう、目立っちゃまずいとか我慢とかそういう次元ではなかった。

 感情の爆発だ。

「にゃっ?」

「あ、昨日の」

「たま! 囚われの身になっているのかと心配して来てみれば、何がにゃんにゃんにゃーんだ。

 よその子になるなんて許さんぞ」

「猫のふりして油断させてただけだもん。おねえちゃんこそ迎えに来るのが遅いよ」

 鈴夏の指をカシカシするのをやめて、囚われの猫忍・たまが抗議する。

「まあ、猫ちゃんが喋ったわ~」

「うん、その辺りは後で説明す……わっ」

「ニンッ!? そこか!」

 身を翻しながら抜き打ちに放たれたゆらの苦無が、カンカンカンッと立て続けの金属音を響かせる。

「……ええと? もう一人の忍者さんですよね。こんにちは」

 かわすでもなく、弾くでもなく、不可視の障壁に阻まれた苦無をチラ見だけして、竜姫・ハルが道場からのっそりと顔を出す。

「ゆらちゃんだっけ? そういうのやめた方がいいよ。ハルだからいいようなものの、死んじゃうよ普通に」

「私でもよくはないんですよ、すずか」

「ニン~ッ、おのれ……バリアーとは小癪な真似を」

「なんだかすいません」

 昨日のあれこれを思い出した黒猫・たまがこっそり顔をしかめる。

「気が済んだならいいですか? 昨日も鈴夏から話を聞きまして、なんだか誤解があるみたいなのでその辺りを……」

「ニンニンニンニンニンニンニンニンニンニンニンニンニン!!」

 先手必勝。

 問答無用のラッシュがマシンガンにも似た炸裂音と共に、ハルの小柄な身体を捉え、吹き飛ばす。

「怯んだぞ! たま、一度撤退だ。大勢を立直……」

 がしっ!

「いえ、怯んではないですよ」

「…………………………」

 吹き飛ばしたはずの相手がもう戻ってきて、自分の手首を掴んでいる。

 そうはならんだろという成り行きに、猫忍・ゆらは掴まれた自分の手と竜姫を真顔で見比べる。

「忍者さんは人の話を聞いちゃいけないってルールでもあるんですか?

 ああ、うっかりしてました。クスクス、私は人じゃありませんでしたね。

 笑っても大丈夫ですよ? 今のはドラゴンジョーク……」

「ニンニンニンニンニンニンニンニンニンニンニンニンニン!!」

 意地のラッシュが再びハルを捉え、小柄な身体がアスファルトを4~5メートルほども跳ねていく。

「ハルーーーーーーーーーーーーっ!?」

 最後には隣家(一ノ瀬家)の壁にめり込んで、ようやく止まった。

「効いたかっ」

「ぐえー、やーらーれーたー」

「気を遣うな!」

「……無傷なんかい」

 こっそり安全圏まで避難した鈴夏にも引かれている。

「乱暴なことはやめてくださいよ。別に痛いとかはないですけど、びっくりしちゃいますし。

 こちらは話を聞いてくださいって言ってるだけじゃないですか」

「むぅ、そこまで冷静な態度を貫かれてしまえばやむを得ぬ。交渉に応じよう……

 と見せかけて、てやっ!」

 ぼむん! というどこかユーモラスな炸裂音と共に、もうもうと立ち上った鉛色の煙が空間を染め上げる。

「散! たまよ、への十二で合流だ」

「への十二ってなんですか? あ、わかりました暗号ですね。種族の記憶が――」

「ついてくるなあぁぁぁぁーーーーーーー!!」


 当然というか無情にというか、煙が晴れた時、黒猫・たまは指示を無視してその場におすわりしていた。

 昨日でもう懲りている。

「なんていうか、めちゃくちゃだね……たまちゃんのおねえちゃん」

「おねえちゃんはめちゃくちゃだけど、さすがにドラゴンさんには言われたくないと思うの」

 同様に鈴夏も介入を諦めている。

 先の超人的な攻防を見せつけられてしまうと、さすがに「怪我してまで首を突っ込みたくない」というのが本音だ。

「なんだかよくわからないけど込み入った事情なのね。……ところで武くんは?」

「多分、奥で寝てる」

「……そう、寝てるの」




-山中-


 人間の領域外である上空や屋根の上、町の暗がりを舞台に繰り広げられている、猫とドラゴン双方共に二度目の追いかけっこ――

 竜姫・ハルは慌てて尻尾を掴みには行かずに、見失わない程度の距離を保ちながら相手の根負けを待っている。

 言葉で説明を受けなくても、追われているゆらは背中でそんな意図がわかった。

(そうやってせいぜい見くびっていろ、トカゲの化け物め! これより先は風魔が魔境よ……)、


 ということで、なんとかたどり着いた山中。

 地の利に勝る猫忍・ゆらは最後のひと頑張りでなんとかハルを引き離し、森の暗がりに身を潜める。

「あれ? どこか行っちゃいました。うーん……木がモジャモジャしててよくわからないです」

 追っ手のハルは息ひとつ切らしていないのだが、それはいい。考えない。

「ニン! ニン! ニンッ!!」

 ゆらは懐の小刀を抜き、いち「ニン」ごと一本ずつ、仕掛けの縄を断ち切る。

 夜を徹して頑張った仕込みの成果を解き放つために。

「ん? なんでしょうか、この音……」

 ひゅるひゅると放物線を描いて、巨岩がひとつ、またひとつと投石機から空に打ち上げられていく。

 普通であれば、ハルがそうしたようにのんびり軌道を見上げちゃいけないレベルの危機だ。

「わっ」

 ズウウゥゥーーーーーン……。

 ハルがもらした小さな驚きの声を、重力で加速した岩が立て続けに地面を押し潰す音がかき消す。

「ウハハッ! 慢心が祟ったな、ドラゴンよ。すでにお主は我が術中」

 放った石の命中率は七分の五というところ。

 物心もつかない頃から忍びの先達に手ほどきされてきた罠の仕込み術が、ゆらの人生で初めて活きた瞬間である。

「卑怯などとは言わせぬぞ。主義も理想も思想もなく、ただただ主命に尽くすが忍びの生き様!」

 岩に分厚く埋もれたところで、あの竜姫は怪我ひとつ負ってはいないだろう。

 だが、人の身体であればそう容易くは抜け出せない。

「我ら北条が野望の露と消えよ、ドラゴンめ!

 食らえ、我が最終究極奥義! 猫斗吃驚掌(にゃんとびっくりしょう)ーっ!」

 これが風魔・必勝必殺の策。

 ハルを覆い尽くすようにうず高く積み上がった石には、ゆらの忍力に反応するように猫忍・たまがあらかじめ仕込んでいた起爆符が、これでもかと仕込まれている。

 そこに、ゆらの掌底から放たれた必殺の忍力が『引火』すれば――


 ドッゴオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


「ミャーーーーーーーー!?」

 自らが起こした爆風に煽られたゆらが、受け身も取れずに吹っ飛ばされ……刹那、意識まで手放していた。

 森の動物達は隣の山まで逃げ出したことだろう。

「オオッ!」

 地形が変わるほどの大爆発だ。

 もうもうと立ち込める土埃の中、ボロボロになったゆらが全身の痛みを堪えて立ち上がる。

「今度こそやったかっ」

「いたた。ケホッ、なんだったんですか今の……ああっ!? 服が~」

「…………………………」

 ありったけの忍力や意地とか信念を突っ込んだ成果は、少年マンガ程度のサービスシーンだった。。

 もうこれ無理であるな――

 ゆらが全てを悟って虚無の顔になる。

「耳がキーンってなってます。人間態ではあんまり無茶がきかないんですから勘弁してくださいよー……」

 ぱんぱんとおざなりに泥を払って、ハルが立ち上がる。

 気持ち、頬も膨れていた。

「まさか、まだ何か出てくるとかないですよね? そろそろ本当に……」

「もうっ! 煮るなり焼くなり好きにすればいいであろう!!」

 諦めた。

 ずてーんとこうして大地にひっくり返ってしまえば、なんとはなしに無敵の気分だ。

「だが、勘違いするなよドラゴンの姫。これはあくまで拙者の負けであって、風魔の負けではない!

 拙者がこの地の肥やしとなったとしても、第二、第三の風魔が貴様の前に現れるであろう」

「えー、困るー……」

「フハハっ、怖いか。ならばこの度の勝負は水入り、のーこんてすとにしてやらぬでもないのだが?」

「そうですか。では、それでお願いします」

 予想外の反応に、駄々っ子ポーズのままゆらは目をぱちくり。

「見逃すということであるな」

 起きた。

「拙者だけではなく、できれば妹も返して欲しいのだが?」

「別に取り上げる気なんかないですよ。武さんも猫なんか飼わないってずっと言ってますし」

「……そういうことでは、いや、別にそういうことでも構わぬが」

 言ってみるものだ、という顔だ。

 ちょっと面食らっている。

「もう付きまとわないでくれるんですよね? それだけ約束していただけるなら、あとは別にどうでもいいです」

「それは約束できぬ」

「ふむふむ。覚え違いかもしれませんけど、あなたさっき降参してましたよね?」

「拙者は忍び! 任務を放棄して手ぶらで帰ることなどできるものか。

 猫忍・ゆら、信念に死す! 殺さば殺せーーーーー!!」

 今度はさっきよりもだいぶわざとらしくジタバタ暴れて見せたゆらが、竜姫をチラッと見る。

 得意のジタバタチラッの術である。

「えーと。あなたはドラゴンが人類を相手にむちゃくちゃやることを懸念してるんですよね?

 すずかからもその話は聞きましたけど……。

 大丈夫ですよ。お母様のあれはノリで言っただけみたいなところもありますし」

「ノリで頭をパーンされてたまるか」

「撤回したじゃないですか。ドラゴンの中には強硬派もいますけど、会議のトーンもだいぶ落ち着いてきてるみたいですし。

 人類の奴隷化とか頭パーンとかは私が止めるから大丈夫ですよ。

 夫が人間なのに、仲間であるドラゴン達にそんな無茶を許すわけないでしょう」

 むぅ、とゆらが小さく唸る。

「お主の話はわからぬでもないが、そういうのはどうでもよい。

 我ら風魔にとっての肝要は、時代の混乱に乗じて我らが主君・ハルキ殿が天下を収めることであるがゆえ?」

 ぶっちゃけた。

「でしたら、将来的にそのハルキ殿さんが天下を収められるように私が推薦しておきますよ」

「まことであるかっ」

「形式的なやつでいいんですよね? 私の中では人間の王様は武さんかなっていうのはあったので。

 そこと上手く折り合いさえつけばあとはなんでも」

 ここで一度言葉を切って、ハルは難しい顔で眉を動かす。

「武さんはバカでぐーたらなので、ハルキ殿さんがちゃんとした人だと助かるんですが」

「我が主・ハルキ殿は徳深くお優しい御方だ。お勉強もできる」

「そうですか。安心しました」

「おい、絶対であるな? お主が言うその男はお飾りで、ハルキ殿はえーとえーと……征夷大将軍であるぞ。

 ノブナガのぽじしょんはハルキ殿であるからな」

 せめて、北条でたとえてはどうかという声も出そうなものだ。主にはご先祖様等から。

「はあ、ではノブナガ枠で。……ノブナガが誰なのかは知りませんけど」

「ならばよし! ドラゴンの姫であるお主との盟約を戦果とし、この場では刀を収めるとしよう」

「あなたさっき降参……」

「しゃあああ! 拙者やってのけたぁー、これ完全に褒められるやつであるな。律の吠え面が目に浮かぶようだ」

「もういいです。それじゃ、私はこれで失礼しますね」

「ニンニーーン♪」


 はしゃぐ忍者から離れたハルは、その姿が見えなくなるま黙々と足を進めて――

「……よかった、引いていくみたいですね。やっぱり会話とか全部聞かれてましたか」

 一人、ホッと胸を撫で下ろす。

 ハルの感覚ですら全容を掴めなかった『大群』……先刻まで遠巻きにこの地を取り囲んでいた気配は、すでに一切の痕跡を消していた。

 統一された意志を持つ、個の集団。

 一糸乱れぬ統率という次元を越えた、まるで一人の生き物であるかのような動きであった。

「あらかじめ武さんを気絶させておいて正解でしたね。下手にうろちょろされてたら、どうなっていたか……」

「あ、いたいた、ハルー」

 慣れない山歩きでサンダルの足元を気にしながら、友人の少女が鈍くさく寄ってくる。

「もうっ、すずかがいるのがわかったから急いだんですよ。

 あとちょっと交渉成立が遅れてたら、相手がどんな手段に出ていたか……」

「なんの話?」

「貸しですからね」

「えっ、生意気。今回あたしあんたらのために相当頑張ったと思うんだけど?」

 喉元に気配なき忍び達の刃が突きつけられていたことなど知るよしもなく、鈴夏が拗ねて見せる。

 ハルもそれ以上の説明をしようとはしなかったが、疲れた吐息は出た。

「地球も一筋縄にはいかないかもですね。今回の件で私が見たもの、感じたことは種族への警告となることでしょう」

「だから、なんの話?」

 種族の記憶とはドラゴンという種のみに許された共有の知識――

 ハルの言葉通り「へぇ、亜人やるやん」という認識は王にまで伝達されたし、「『天』の姫は人間とそんな約束したのね」という認識も生まれている。

 ドラゴンという種全体に。

 このことは後に北条春希と仲間達に未曾有の災禍をもたらすことになるのだが。

 それはまあ、異なる場所の別の話である。

「とにかく決着したならよかった。あんま絡めなくて、ちょっと残念……とかも思ったりはするけど。

 なんか面白い感じの子達じゃなかった?」

「全然、面白くありません。これっきりにして欲しいです」

「そ。まあ、ぐーたらなハルにしては今回珍しく頑張ってたもんね」

「仕方ないですよ」

「何それ諦め? ハルはもちろん、あたしも今回散々な目に遭ったのに……あいつは例によって呑気なもんよねー」

「事情を知ったら私を庇おうとして首を突っ込んでくるに決まってるでしょ。武さんは……」

 口ごもったハルが、納得顔でひとつ頷く。

「私のことが大好きですからね」

 はいはいと、鈴夏は竜姫の肩を叩く。

 多分、本当にそうするだろうなぁと思いながら。悔しいからそれは言わずに。

「だから、いいんですよ武さんは何も知らずにぐーたら寝てて。こういうの内助の功って言うんでしたっけ?」

「言いませーん」

「言いますよ。知らないんですか?」

 恋敵だが、友人。

 二人の微妙な関係性がそこにはあった。

「ああ、ところで、あの黒い……たまさん? たまさんはどうしたんですか。返すって約束しちゃったんですけど」

「ああ、たまちゃんね。さっきの暗号みたいなやつで二人の居場所わかるって言うからここまで連れてきてもらったんだけど。

 さっきそこで、ご主人様だかなんだかに会ってさ」


 ――などという会話が、同じ山中の別の場所で交わされている頃。

 とうにハルが立ち去った池のほとり。

「ククク、上手くいったようだな……これぞ風魔忍法・猫かぶり」

 猫忍・ゆらが邪悪に笑う。

「貴様の口約束など誰が信じるものか。ドラゴン滅すべし! 今回は遅れをとったが最後に勝てばそれでよい。

 今回の盟約は一応の保険としつつ、あやつの周辺をさらに……」

「あぁ、あそこです。いましたにゃ」

「なんかクレーターみたいなのができてるぴょん」

 不意のその声は、懐かしくも愛くるしい仲間達のもの。

 心のスイッチを押されたように、猫忍・ゆらの内側が瞬時に切り替わる。

「皆……ハルキ殿まで!? なんでー、迎えに来たのでござるかぁー」

 竜姫ハルをも(ちょっとだけ)たじろがせた凄腕の忍びから、子猫のそれへと。

「なんでー、じゃないよ。心配かけて」

 そのハルキ殿は胸の中のものをいっぺんに吐き出そうとするように、深々と吐息する。

 心の底からの安堵だ。

「おめー、出かける時はせめて姉貴くらいには行き先を伝えておくにゃ。

 変な鷹が手紙運んできたから、ここがわかったけどよー……」

「なち……あやつ、情報を売ったのか」

「しばらく見ないうちにゆらのバカに磨きがかかってるぴょん」

「ぬかせ! 拙者の頑張りも知らずに、この肉! 駄肉めがーーーーっ!!」

 わしわしわしわしわしわしっ!

「ぴょーーーーん!?」

 以心伝心、長年の付き合いで培った「止めてもらい待ち」のおなかモチモチである。

「やめなさい」

 当然、すぐやめた。

「おねえちゃんも負けたんでしょ? だと思った。あのお姫様は違う次元って感じしたよね」

「なんでしれっとそちらに混じっているのだ、妹よ。

 ていうか負けてないし! ヤツから持ちかけてきた盟の中身に価値を感じたから刃を収めたに過ぎぬ」

「……なんだか大冒険があったみたいだね」

「そんな言葉で片付けないで! だいたい、ハルキ殿が拙者の本気をあしらうから……」

「わかってるって。ごめんごめん、ちゃんと伝えるべきだったよね。

 ゆらにはそんなの無理って意味じゃなくて」

 猫忍達が主と戴く少年……北条春希は、人の好さそうな顔に照れた笑いを浮かべる。

「みんながいれば心強いし、どんな時代だって生きていけるって……そんな風に思っただけだよ。

 もちろん、傷ついて欲しくないっていうのもあるけど」

「ンモウ、ハルキ殿ってばそうやって! 大好き」

 なんじゃそら、とツリ目の猫忍・律の声。

「ねぇねぇ、たまもすっごい活躍したんだよ。ドラゴンさん倒したもん」

「倒したの!?」

「おい、抜け目なしか妹よ。活躍の割合でいえば拙者が7、お主が3くらいであろう。

 拙者のたふねすがなければあやつを陣には捕らえられなかった」

「おねえちゃんの攻撃は通じてなかったでしょ」

「渾身の一撃はちゃんと効いたであろう!? あやつがグハッと血を吐いていたのが見えなかったのか」

 まじかこいつら……と、うさ耳の忍・マヤがつぶやく。

 北条春希の頬にも汗が伝っていた。

「むふふのふ。土産話がたっぷりござる! 覚悟してくだされ、ハルキ殿」


猫VSドラゴン第3試合無制限一本勝負


 猫忍ゆら X VS ○ 竜姫ハル

(2分55秒 戦意喪失)




-山中 別場所-


 そして、猫忍一向が町を去ってからさらに数日後――

「お手数おかけしてすいません、我が神・ハル様。あれがそうかな? グレンテル様いたっぽいですー」

「もうっ、私はそんなお安くないんですからね。ドーナツお願いしますよ」

「まったく手間かけさせて。ハル様のドーナツの分、グレンテル様は当分おやつ抜きですわー」

「グレンテル様ー? ……ってこれ生きてんのかな」

「すーすー言ってるから寝てるだけみたいですな」

「口開けてがーがーいびきかいてるんじゃないよ。アホみたいな顔して」

「写真撮っておきます? 何かに使えるかも」

「皆さんはドラ美さんが寝てると素が出るんですね。なんていうか、お似合いだと思います」

 こうしてドーナツと引き換えに竜姫・ハルの鼻で救出された一人のドラゴンは忍者への復讐に燃えることになるのだが。

 そっちもそっちでまた別の話である。




猫忍えくすはーと×竜姫ぐーたらいふ クロスオーバーSS 第五話(最終回)

Comments

めちゃくちゃ面白かったです。猫忍好きなので永遠にss書いていて欲しいです。今度は律とマヤが活躍する話が読みたい!

お疲れ様でした。ホッコリ出来るオチでした。2作品とも好きな作品なので、お互いを立てる様な終わり方良かったです。次回の作品も楽しみに待ってます。


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