ローズベルではヒルデが町長の家に到着しており、歓待を受けていた。
しかしそこで聞いたのは、相当に切迫した事態であった。
ここから東、縦に走る山脈の向こうにマウスヒルという町がある。
そこからこちらへ発った行商の一団が、道中に野盗からの襲撃を受け逃走したが山に迷い込み、疲れと負傷で動けなくなってしまったらしい。
積み荷には町にとって重要な物資が多数含まれており、これを救わないことには町の経済に関わってしまう。
ローズベルの人間も彼らを救うべく色々と考えを巡らせたのだが、助けを求めて単独でやってきた商人は山脈を南に迂回し、ここまで一週間ほどかかっている。
しかし山脈を突っ切れば、その半分もかからずにすむ。
そこで白羽の矢が立ったのはヒルデであった。
山脈の上層にはフロストトロールたちが棲み着いており、人が踏み入れることは難しい。
しかし名高い天騎士であればそれも可能なはずと、そういう話であった。
「それは急を要しますね……」
「お願いします、ヒルデ様。我々にはもうどうしようもできないのです」
渋面を机にこすりつけて、町長は懇願してくる。
「わかりました。ご安心ください。必ず助けてまいります」
ヒルデが微笑んで承諾すると、町長らの表情が自然と緩んだ。
こうして人々の平和に寄与することこそ、天騎士の本懐たるところである。
ヒルデが準備を整えて町の入口へ向かっていた頃、視界の端になにか動いているのに気がついた。
「あら……?」
そちらを見ると、あのホーンドドックが草むらで走り回っていた。しかしリードは外れており、飼い主のテオの姿も見えない。
「バッキーだったかしら……」
近づいていくと、バッキーは嬉しそうに駆け寄ってきた。
ヒルデは身をかがめてわしゃわしゃと頭を掻いてやる。
「バッキー? 御主人様はどうしたの?」
相当気持ちよかったのか、バッキーはわふわふとヒルデにじゃれつき、押し倒してしまう。
「こ、こら! そんなことをしては……あっ!?」
バッキーはヒルデの股間にマズルを埋め、クンクンと鼻を鳴らす。
「んっ……! ダメッ……あっ!?」
布越しに秘所を刺激され、ヒルデの喉からくぐもった嬌声が漏れる。
そしてバッキーは鼻先でヒルデのビキニの下に潜り込むと、その割れ目をペロペロと舐め始めた。
「んはぁっ!?♥ あんっ♥」
おそらくはバッキーに近しい女性が、自分が愉しむためにそのように躾けたのだろう。
(う、上手い……敏感なところをっ……!)
逃れようと身体をよじるが、逆にバッキーはねじ込むように身体を寄せてきた。
「あ、うっ、もぅ、やめっ♥ んっ♥」
街角の草むらで行われる情事。
誰にも気づかれることもなく、であるがゆえに、ヒルデがそれを拒絶するきっかけも失っていた。
(誰かにこんなところを見られたりしたら―)
怖気が背筋を駆け上っていくのがわかる。
しかし同時に、それとは別の背徳が自分を高ぶらせている。
「んはぁぁ♥ だめ、あんっ! 見られちゃう、見られてしまうっ……♥」
飼い主のテオが、この行為を目撃したらどうなるだろうか。彼はきっと両親に告げるだろう。それがどういうことかもわからないまま……。
(ーーーっ!!♥)
ぞくぞくぞくっ!!
そしてヒルデはバッキーの舌使いに導かれるまま、高みへと駆け上っていく。
「んっはぁ……♥ い、く……あ♥ あっ♥ ああーーーっ!!♥♥」
ヒルデは体を反らせて絶頂した。びくんびくんと身体を痙攣させ、潮をバッキーの顔面に降り注がせる。
(気持ちいいっ♥ ワンちゃんの舌気持ちイイッっーー!!)
そしてヘタリと身体を弛緩させ、草むらの中に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁっ……あ、ん♥」
(イッてしまった……♥)
倒錯と背徳の痺れに酔ってしまった自分に嫌悪感を抱く。
結局バッキーの愛撫を突っぱねることなく、高みに達してしまったのだ。
そしてヒルデは不意になにかに気づき、青ざめた。
そう、バッキーの股間から、男根が屹立していることに気づいてしまったのだ。
「あ、あぁ……!」
戦場でさえ平静そのもののヒルデの声が震えていた。
今の弛緩したヒルデではそれを撥ねつける力はなく、雷の魔力を使ってバッキーを傷つけでもしたらテオはどんなに悲しむだろう。
(つまり、犯されるしかない――?)
その現実に恐怖した、その時だった。
「バッキー! バッキーったらーっ!」
交わりかけていた二人の間を、少年の声が駆け抜けた。
バッキーは顔を上げて、声のした方にだっと駆けていった。
その変わり身に、ヒルデは乱れた格好のまま呆然としていた。
「いた! バッキー、すぐどっかいくんだから!」
しかしほんの眼と鼻の先でテオとバッキーが合流したのを見て、慌てて身なりを整える。
(な、なんなのあのワンちゃん……)
今起こったことはなんだったのか。
「あれ? お姉ちゃん、こんなところで何してるの?」
「えっ? い、いえ、なんでもないのよ……」
一つ言えるのは、ヒルデの火照った身体は、たしかにバッキーを受け入れる準備ができていたということだった……。