紫と青の閃光がはしって、ルージュを拘束していた影の触手がズバズバと切り裂かれる。
「カイさんっ……キョウちゃん!」
開放されたルージュが喜色を浮かべ、二人を出迎える。
「ルージュ、この禍々しいやつは一体なんだ」
「あの巨人です……変化して、あんな姿に」
この姿になっても巨人から感じられた圧倒的な威圧感は何ら変わることがない。
「怪人を生み出していたのもこいつ……要はボスってことです!」
「……ゲームじゃないんだから」
「キョウちゃん、もうっ! さあ、行くよっ!!」
「よしっ!」
そして三人は散開し、多角的な猛攻を仕掛ける。
「舞えよ光翼っ! フェザーボルト!」
ジェイドが展開した光の翼から眩い弾丸が数え切れぬほど射出され、ネガアークを追い回す。
光弾は漆黒の影を捉えることはできなかったが、逃げた先にはルージュが待ち受けていた。
「ルージュストライク!」
ルージュの拳がネガアークの芯を狙って繰り出される。
拳道がネガアークの身体を捉え、その体が揺らぐ。
ネガアークは背中から触手を伸ばし、拳打を繰り出しているルージュの背中に忍び寄らせたが、それはアズールの遠隔射撃によってことごとく撃ち落とされ、散り散りに避けて消える。
「いけるっ! たぁあああっ!!」
パワーアップした三人の猛攻にはさすがのネガアークといえども防戦一方となっていた。
「たあっ! やっ! はっ!!」
距離を取ったネガアークに、今度はジェイドの光剣が迫る。
ネガアークは振り下ろされた光剣をすんでの所で受け止めたが、次の瞬間上空から降ってきた青い光槍に貫かれ、動きを止める。
「ミサキ、今……っ!」
「だああああああっ!」
アズールの攻撃で身体を縫い止められたネガアークの横腹にルージュの拳がめり込み、大爆発を起こす。
「よしっ……!」
大爆発が晴れると、黒い巨体は大きく後退していた。ネガアークの影のように黒い外装が剥がれ落ち、そこから紫色の炎のようなエネルギーが漏れ出している。
「やった……!?」
ルージュが期待を込めて叫ぶ。しかし、ジェイドの表情は険しいままだった。
「いや、まだだ……何か様子がおかしい」
ネガアークは低くうめき声を上げながら、ゆっくりと体を起こす。そしてひび割れの中から紫色のエネルギー体が姿を現した。
「こ、これは……あうっ!」
エネルギー体となったネガアークは広く薄く辺りに充満して、三人を取り込んでしまう。
「これが、正体……!?」
三人の視界が一瞬で暗転し、紫色の霧が渦巻く空間へと引き込まれた。
「これは……っ!?」
ジェイドの声が奇妙な響きを持って響く。周囲は無限に広がる闇のようであり、上下左右の感覚さえ失われてしまう。
「ここは……あいつの中ってこと……?」
アズールの声が遠くから聞こえてくる。しかし姿は見えない。
「そうかも……でもどうしてこんなことを……!」
ルージュが不安げに呟く。
そのとき、三人それぞれの前に不思議な映像が浮かび上がった。
ルージュの前には、かつて自分が守れなかった人々の姿が映し出される。
その先頭に立つのは、リンだった。怪人に改造され、夢を追うこともできず命を絶たれた親友――。
(ミサキちゃん……私、もっと生きたかった)
「そんな、そんな……ああああああ!!」
ルージュは叫んだが、リンはただ立ち尽くし、冷たい眼差しで彼女を見つめるだけだった。
アズールの前にも、ジェイドの前にも、様々な人々が現れ、彼女らの心を切り裂くような言葉を投げかける。
「これは……幻だ……! っしかし……」
心の内ではそうわかっている。だが、眼の前に浮かぶ人々の姿は生々しい現実感を持っていた。
いつの間にか、ルージュとアズールは隣合わせに立っていた。
それに気づかずカチカチと歯を鳴らしているルージュの手を、アズールがそっと握った。
(っ……)
凍りつきかけていた心がすっと解けるのを感じる。ネガアークが見せていたのは、自分の心の闇だ。やつが司り、力とするのは人の負の感情そのものなのだろう。
「そう、だね……」
ルージュはアズールの手をぎゅっと握り返し、リンの姿をじっと見据えた。
(過去を忘れるわけじゃない。でも―ーそこに留まり続けてはいられない……)
ルージュはアズールとともに力強く足を踏み出し、リンの幻影に近づいた。
(私はいま傍らにいる大事な人と、前に進みたい!!)
そして幻影と重なる瞬間――リンの顔がふっと和らいだように感じられた。
一瞬、視界が白く飛んだ。
永遠に思えた濃霧は晴れ、抜け出た二人が一斉に顔を見合わせる。
そこは真っ白な空に、薄く乳白色の幕が点々と浮かぶような非現実的な空間だった。
そして二人の目前には、小さなエネルギー体のようなものがふよふよと浮いていた。
形は取ってはいないが、それからはネガアークから発せられていた威圧感を覚える。
「これ、が……」
ネガアーク、ひいては怪人を生み出していたエリミネーターの根源そのものなのだろうか。
それを目の前にして立ち尽くしているルージュの肩をアズールが叩く。そちらを見やると、強い意志を秘めたアズールの瞳に視線が吸い込まれた。
これがエリミネーターとの決着なら――それを背負う躊躇いがルージュにはあった。だが、アズールの目は、共に運命を背負う強さと慈愛に満ちていた。
「行くよっ!」
「うん!」
「「でやあああああああああっ」」
二人の拳が、同時にそれを貫いた。
その瞬間、光が満ちて、二人はその光芒に飲み込まれていった。