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ハルカナ
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ショーダウンⅡ 『25:にらめっこ』

#25 にらめっこ  開始の合図と共に、牡丹の足裏は綾香の右手によってくすぐりが開始された。 ――コチョコチョコチョ♥  5本の指が足の外側から中央へと集まってくる様な……足裏全体を刺激するようなくすぐり。それを綾香は最初から牡丹に味合わせて来た。 ――こちょこちょ♥ コチョコチョ♥ こちょこちょこちょ♥  軽快に……リズミカルに……それでいてしっかりと刺激が足裏に伝わるよう爪の先で引っ掻くような刺激の仕方で…… ――コチョコチョ、こちょこちょ、コチョコチョ、こちょこちょ♥  様々な角度から、最終的に土踏まずのど真ん中に集まるよう……手の向きを変えたり指を動かすスピードを変えたりと工夫を凝らして彼女の裸足の足裏をくすぐっていく。  牡丹は、この綾香の意地悪なくすぐり方に顔を斜めに傾けて、苦しそうな表情を浮かべ笑うのを必死に堪えている。 『くっ! や、やめっ! くすぐったい!! その触り方ッっ! ひ、卑怯……ですよ!』 ――こちょこちょこちょ? コチョコチョ? こちょこちょ~♪ コチョコチョコチョ♥  ココはどう? このルートはどう感じる? こっちは? と、訊ねかけるように綾香のくすぐりは様々に変化しその都度刺激に変化をもたらしていく。 『はぐぅぅぅっ!? じれったいっっ!! 強くもなく弱過ぎる事もない指の刺激で……足裏全体を撫でて来るのが……無性にじれったくて……こそばいっ!!』  触れるか触れないかの位置に置かれた指先がゆっくりグッパグッパと手を開いたり閉じたりを繰り返し、牡丹の片方の足裏に確実なムズ痒い刺激を送り込み続ける。刺激に耐えられなくなった牡丹は、必死に足先を逃がそうとバタつかせようとするが……その動きは枷の拘束に邪魔され自分の思い通りには動かせない。  結局……綾香の意地悪なくすぐり攻撃からは逃げる事は許されず、足先や足指をパタパタと動かすくらいしか彼女には許されない。 ――コチョコチョコチョ、コチョコチョコチョ……コチョコチョ♥ 『うぅぅっ! 駄目! 意識しては駄目です!! くすぐったいと思ったら……余計にくすぐったくなる!! だから……足裏に意識を向けては……』  額に我慢の汗を浮かべ、眉間にシワを寄せてつつ笑い出してしまいそうなっている自分に必死の我慢を自ら強いている牡丹は、足裏から意識を逸らそうと瞑っていた目を薄く開いて目の前に立っている女性(夏姫)の顔を見てしまう。  にらめっこをするという事であるから、何かしら面白い顔を作っているだろうと警戒していた牡丹だったが……しかし目の前の夏姫は、口元に企みの笑みこそ浮かべてはいるが特別変顔をしたりワザとらしく可笑しい顔を作ったりはしておらず……真っ直ぐに牡丹の顔を見つめる真顔に留まったままだった。  にらめっこが始まってようやく目を合わす事となった夏姫は、自信たっぷりな口元を小さく開いて小声で牡丹に話しかける。 『牡丹さ〜ん♪ 目なんか閉じずに私の顔……もっと見てくださいよぉ〜♥ 折角のにらめっこ勝負なんですから、お互い見つめ合わないと……ね?』  にらめっこをしようというその言葉とは裏腹に変な小細工はせず真顔を維持し続けている夏姫……。その顔は普段の整った可愛い顔からは崩れておらず、何一つ可笑しいと思える要素は見て取れなかった。しかし、牡丹には逆に……このにらめっこというゲームをやらされているのに変顔の一つもしようとしない夏姫の真顔に状況から来る可笑しさを感じ、途端に笑いの圧が数倍に膨れ上がる事となってしまう。 『くっっふっ!? お、可笑しくないっ!! 何も可笑しくない筈ですのにっっ!! 真顔でジッと見つめられると……何故か笑いが込み上げてきてしまう!!』  これ以上見ていてはいけない! と、牡丹は危険を避けるように再び目を閉じて自身の視界から夏姫の姿を消そうと試みるが……一度見てしまった彼女の姿は瞼の裏に焼き付く様にハッキリと記憶されていて、目を閉じても彼女の見つめる姿が思い出せてしまう。  更に、目を閉じてしまうと今度は“くすぐったい”という刺激にも意識が向いてしまう事となり……危機を回避しようとして目を閉じた筈が逆に自分を窮地に追い込む結果を招く事となってしまう。 ――サワサワ♥ スススス~~♥ コソコソ……コショコショ……カリカリ♥  再び意識を足裏へと戻してしまった牡丹は、自分の足裏に施されていたくすぐり方が大きく変化している事にそこで気付かされた。 『ちょっっ!! や、やだっっ!! くすぐり方が……変化してて……動きの予測ができな――ひっっ!!?』  綾香の右手は広げて閉じての単純な動きから、撫でたり引っ掻いたり薄く触ったりランダムな箇所に移動したり……と、様々なバリエーションに富んだ刺激の仕方を足裏に施すようになっていた。 『あっっひゃ!? だ、駄目……! くふ!! 刺激が強すぎて……勝手に笑いが……』  面積の広い土踏まずの窪みを優しく指先でサワっと撫で上げたかと思えば、同じ箇所を今度は爪の先でカリカリカリっと引っ掻いて強く刺激したり……  足指の股に爪先を忍ばせてコソコソと優しく刺激したかと思えば、足指の付け根に当たる母指球の膨らみを親指と人差し指の先で摘まむように挟んでコリコリと揉み解したり……  母指球とその隣の小指球の間に出来た谷間を、溝の筋に沿って撫でるような刺激を送ってみたり……そのまま人差し指だけで触ったまま土踏まずを下から上へとツ~~~っとなぞる刺激を与えたり……  カカトを包むように全ての指で触ってコショコショとくすぐってみたり……足の側面のラインを逆手で下から上に撫で上げてみたり……  牡丹の足裏全体をいじくり回すかのように綾香はあの手この手を使って彼女の素足の足裏にこそばゆい刺激を送り込んでいく。 『あふっ! うふっっふふ! や、やぁぁ……無理! こ、これ以上は……我慢が……』  あまりのこそばゆさに顔を横に振って嫌がる仕草を取ってしまう牡丹だが、その顔を夏姫の両手がしっかりと掴んで正面だけを向くよう強制させる。 『どうですか……牡丹さん、お姉様のくすぐりは? と~~っても、こしょばくて……ゾクゾクするでしょ? 私……仕事が終わると……毎日、コレ……受けてるんですよ? だから、どれだけこしょばくて笑いたくなるか……想像出来ちゃいます♥』  顔を手に挟まれ夏姫にその様に囁かれた牡丹は、ハッとなる様に思わず目を開け夏姫の顔を再び見てしまう。  夏姫はいつの間にやら用意した踏み台に登り、牡丹の顔の高さに合わせるように顔を近づけ相変わらずの真顔を見せつけている。  その顔を見た牡丹は思わず吹き出しそうになってしまう。  特別面白い顔を見せつけられている訳ではなく……ただ、単純に顔の位置が極端に近くなったというだけであるのに、夏姫の存在が間近に接近したと自覚しただけで可笑しさは更に何倍も膨らんでしまう。  普段なら可笑しい事など一つもないただの一コマでしかない場面だが……笑ってはいけないという制約と、足裏をくすぐられているという非日常的な体感が……夏姫の真顔を可笑しいモノへと昇華させてしまっていた。  笑わせようとしなくてはならない筈なのに真顔で見つめるだけの夏姫……。子供の様に愛らしく同性から見ても可愛いとすら思える夏姫の普通の顔が……今の牡丹にとっては可笑しくて堪らない。  真面目ににらめっこなんてしてきていないじゃないか! とツッコミを入れたくなるような今の状況こそが……牡丹にこれ以上ない違和感を与え、笑いのツボを刺激されてしまう。  くすぐったい足の裏……  真顔のまま語りかけて来る夏姫……  牡丹はこの両方の責め苦に苛まれ、目に涙を溜めて開きそうになっている口を必死に閉じようと努力する。  しかし、口元は波立つように歪み、顎はクックッと小刻みに震え、堪え切れない笑いを吐き出す準備に取り掛かってしまっている。  もはや、笑ってしまうのは時間の問題……  そう思った時、夏姫が更に顔を近づけてきて……あと数センチでキスできてしまうという距離まで口元を近づけて来た。  牡丹の目の前に夏姫の真剣な顔が接近している。息をすれば呼気が頬に当たってしまう程の近さ……  そこまで顔を近づけながら、夏姫はそっと小さく口を開いて言葉を紡ぐ。 『ほ~~ら、可笑しいでしょ? 面白いでしょ? 真っ直ぐあなたの目を見ている私の顔を見て? 口の動きを……目の真剣さを……頬の火照りを……その目で見て?』  夏姫の生暖かい呼気が頬を掠めていく。その呼気を感じた瞬間、牡丹の口は我慢の形から一気に口角を持ち上げた笑いの形に歪まされてしまう。 『可笑しくて……可笑しくて……堪りませんよね? 足の裏も……くすぐったい……。とってもくすぐったくて……今にも笑い出したくて堪らない。でも我慢しなきゃいけないから……苦しい……。笑うのを自分の意思で我慢するのは……と~っても苦しい……ですよね?』  夏姫のその煽り言葉に、牡丹は強く生唾を呑み込んで最後の抵抗を試みる。  せめてあと数分は笑う事を我慢したい……せめて自分の限界まで我慢して少しでも紅葉への誠意を見せておきたい! と、そう思っていたが…… 『ほらほら……綾香お姉様のくすぐりも……どんどん、こしょばくなりますねぇ~? お姉様の指が牡丹さんの逃げられない足裏に絶え間なく這い回ってコチョコチョとくすぐり続けるのですから……我慢しても無駄ですよぉ? それを我慢し続けるのは苦しいでしょう? だったら……いっそのこと笑ってしまいましょう♥ 素直に……欲を解放するように……はしたなく……笑ったらいいんです♥』  夏姫のその言葉に同調するように、綾香のくすぐり方がまたもや変化した。  今までは右手で片足だけのくすぐり……に留まっていたが、その右手のくすぐりはそのままに……今度は左手がもう片方の足裏に添えられ、そのままくすぐりを開始したのだ。 『ひぐぎぃぃぃぃぃひぃぃぃっ!?!? りょ、両足ぃぃっ!!? ちょ、両足同時は……っっふぁあぁぁぁぁぁっ!!!』  今まで刺激されてきた右足のこそばゆさは据え置きで、それに加え今まで刺激されてこなかった左足に右足同様のこそばゆさが突然湧き上がり始め……牡丹は半ばパニックになる様に目を白黒させてしまう。  口の端からは少し吹き出してしまった唾が飛沫を宙に散らすが、それでもギリギリ口は閉じたままの状態を維持し笑い出す事だけは耐えていた。  しかし、その我慢も……次々に襲い来る新鮮で強烈なこそばゆさに圧を強められ……牡丹の口は波型から歯を見せて震えながら食いしばる姿を露わにしてしまう。 ――こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ♥  無防備に晒された左右の足裏を“踊り場”に見立てるように、綾香の両手の指先が足裏の肌の上で踊り回る。まるでピアノを演奏しているかのように、指先をランダムに動かして足裏全体を縦横無尽に撫で回していく。  牡丹はその激しいくすぐりに必死に足をバタつかせて逃れようとするが、足首の枷がガチャガチャと音を立てるだけで一向にそのくすぐりから逃れられる気配はない。  綾香の手は牡丹の足が逃げられないのを良い事に、指先からカカトに至るまで足裏の肌という肌を縦横無尽に触って撫でて引っ掻いてを繰り返しくすぐり責め立てていく。 「あっぐっ……ふっ……ふぐぐぐぐ……ぅっっふ! くぅぅ……ふふっ……ふっ……」  逃げられないこそばゆさが……もどかしさを生み、そのもどかしさはやがてジッとしてなどいられない拒絶感を足裏に植え付けていく。  その拒絶感はくすぐりが続けば続く程足裏に蓄積され……それが解消できないモノだと悟ると、途端にその拒絶感はくすぐったいという感情に置き換わっていく。 ――コチョコチョコチョコチョコチョコチョ、コチョコチョコチョコチョコチョ、コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ! 「くっっふっ! くふふ……ふふっ!! ぅぐぐぐぐぐっっ……くひゅっっ!! うぷぷぷぷぷ……くぷっっふっ!!」  顔も肩も震え、唇からは笑いの圧に負けヒューヒューと空気が漏れる音が鳴ってしまっている。  もはや一刻の猶予もない……    牡丹はその様に覚悟を決め、最後に目の前に居る夏姫の顔に意識を戻す。  自分の目の前に顔を近づけていた夏姫の顔……その顔が、牡丹の限界を察すると口元にだけ少しの変化を加えて来た。 「残念、牡丹さんの……負けですね♪ ン、ベッ♥」  口の中央からはにかむような可愛らしい仕草で舌先がチラッと顔を見せた。  その舌先が勢い余って小さな雫を散らして牡丹の頬に当たるや否や…… 「ぷっっはっっ!!!!! んびゃ~~~~~っはははははははははははははははははははははははははははははははははは、ちょあぁあぁぁぁははははははははははははははははははははははははははははは、や、や、やめて! やめてぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! いひゃ~~~~ッはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!! ンヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」  恥ずかしがるように見せた舌先と飛んだ雫の感触が牡丹の最後に残されていた可笑しさの琴線に触れ、彼女はとうとう笑いを吐き出し始めてしまった。  それは、清楚で大人しい色気を纏った大人のお姉さんという普段の彼女の立ち振る舞いからは想像も出来ない、豪快ではしたなく子供っぽい……激しく悶えるような笑い方だった。 「……んなっ!? あ。あの牡丹さんが……笑った?? しかも……あんなに激しくっ!?」  その激しい大爆笑に、普段から彼女を見ていた紅葉は激しく動揺してしまった。  普段の自分を慈しむように見る笑顔は、まるでギャグマンガを見ている様に口を大きくかっ開き、目尻には涙を溜めながらその穂先を垂れさせ……そして、彼女らしからぬ声量で激しい笑いを吐き出している。  このような姿……彼女と出会って一度も見た事が無かった。  こんな乱れた笑い方をする牡丹を……今までこのかた見た事など無かった。  その光景は異常以外のなにものでもなく……紅葉に強烈な違和感と不安を同時に植え付けてしまう。 「あぁ~~~~あ、笑っちゃった♥ たかがにらめっこだっていうのに……あんなに馬鹿みたいに笑っちゃうなんて……あんたんトコのお姉さん、案外根性無いのね?」  SM嬢の様な格好をした鈴音が牡丹の様子を可笑しそうに見ながらその様に呟く。それを聞いた紅葉は鈴音の顔を出来得る限りの強気な目で睨み返し……そして反論の言葉を紡ぐ。 「あんた達っ! 卑怯よ! これ……ただのにらめっこじゃないじゃないっ!!」 「あら? 何でそう思うの?」 「たかがにらめっこで……あんな笑い方する訳ない!! 椅子の下で……何かしてるに決まってる!!」 「……何かって? あの見えない椅子の下で……あんたは……何をしていると想像しているのかしら?」 「うっ……! そ、それは……」 「ほら、お姉さんに教えてみなさい? あの女は……何で、にらめっこごときで……あんなに爆笑しちゃってるのかしらぁ?」  紅葉は未だ爆笑の収まらない牡丹の暴れさせようとしている脚を見てゴクリと生唾を呑み込む。そして、鉄板に囲まれた椅子の下で何が行われているのかを……想像してしまう。 「く、く……くすぐって……いるわよね? 足の裏……を……」  そして、答えを紡ぎ出してしまう……その口で…… 「……あは♥ それはどうかしらねぇ? ここからじゃ……中の様子が見れないから……分からないわ♥」 「くすぐられてなきゃ……牡丹さんはあんなに……取り乱して笑ったりなんか……しない!」 「フフフ……♥ だとしたら……余程くすぐったがりなのね? 足裏程度であんな爆笑を強いられちゃうなんて……」 「ふ、ふざけないでっ! 何がにらめっこよっ!! 隠れたところでそんなズルなんてして!! 恥ずかしくないの?」 「あら……じゃあその言葉……そっくりそのまま返すわね? あんたこそ恥ずかしくないの? 隠れてイカサマなんかに手を染めちゃって♥」 「う、ぐっ! くっっ!!」 「これは罰なんだから……あんたに文句を言われる筋合いは無いわ。あいつが笑う事もシナリオ通りの展開なんだし……笑わなきゃ笑うまでくすぐり続けるだけよ♥」 「くっっ!! なんて横暴な……」 「そして、シナリオ通りに進めるなら、次はあんたが笑う番よ?」 「……ッっ!?」 「この……セクシーでお姉さんなお仕置きレディーが……存分にあんたの事笑わせてあげる♥」 「……ぐっ! くっ!!」  鈴音は紅葉の睨みが険しくなる様子を楽しみながら、近くのテーブルに置いてあった“付け爪”に手を伸ばす。  手の指の形を模す様に5本並べて置かれていたその付け爪は、これが親指用……これが人差し指用……と、それぞれどの指に装着するものかを分かり易く並べて置かれていた。紅葉は必死に顔を上げて用意された爪を装着しようとする鈴音を見ようとするが、その爪があまりに独特な形状をしていた為紅葉はそれを見るなり顔を青ざめさせて弱々しい声を発してしまう。 「な、何よ? それ……」  5本の付け爪の内……人差し指・中指・薬指に装着する為の爪は、まるで鴉のくちばしを模しているかのように細く鋭く……かつ、その先端は極端に内側に曲がっていて、まるで鉤爪の様な形状になっているのが確認できた。一見するだけではそれは、爪の先で強く引っ掻いて肌に傷を負わせるための道具ではないか? という不安も浮かんでしまうものだが…… 「フフフ♥ これはくすぐり拷問用に特注した特別な付け爪よ♪ 見て分かる通り……この3本の爪は“樹脂”で作られているから肌を傷つける目的では使用できないわ。その代わり、樹脂特有のしっかりした頑丈さと圧に対しての“しなり”を兼ね備えているから、足裏をくすぐるっていう用途で使うならこれ以上ないこそばゆさを生む道具となってくれる♥」 「あ、足裏を……くすぐる??」  鴉のくちばしの如く真っ黒に塗られたその爪の用途が肌に傷を負わせるものではないと分かると紅葉はその一瞬だけは安堵の息を零せたが、その爪が足裏のくすぐりに用いられると説明を受けると再びその日焼けした凛々しい顔には不安の色が差し込まれてしまう。 「身近なもので言えば……そうねぇ……ホテルとかに置いてある簡易的なヘアブラシを想像すれば分かり易いかしら?」 「……? ヘアブラシ?」 「ほら、安いホテルとかってさ……アメニティによくプラスチック製のちゃっちいヘアブラシが置かれてあるでしょ? あのブラシを想像してみなさい?」 「い、いや! それは分かるけど……」 「あのヘアブラシってさ……足裏に当ててシャカシャカ動かしたら、実はとってもくすぐったいって知ってた?」 「え?? 足の裏に? シャカシャカ?」 「そう……。アレも毛先がプラスチックで出来ているから毛先に強度があって肌に当てればかなりしっかりとした刺激を肌に伝える事が出来る。しかも毛先はしなるから適度な反発力が生まれてまるで柔らかい爪楊枝の先で引っ掻かれているような刺激を味わう事が出来る……」 「ちょ、な、何の説明をしているの? 爪の話じゃないの??」 「ブラシに擦られるだけでも随分くすぐったいと思える刺激を味わえるのだけど……でも残念ながら、あれはあくまで髪を整える用途で作られたブラシに過ぎない。毛先がブラシに固定されてあるから動きが単調になりがちで、刺激が一定化してしまってすぐに“慣れ”が生じる事になってしまうの」 「し、刺激が一定化?? な、慣れ?? あ、あんた……何を言ってるの?」 「でも、あの毛先で撫でられる刺激は強烈♥ 慣れさえ生じさせなければ……多分最強のくすぐり道具になり得るって確信が持てるわ。だから……どうにかあの刺激を持続的に与えられる方法はないかしら? ってずっと思っていたの♥」 「持続的に……与える? ずっと……思っていた??」 「そしたら……この付け爪を思いついたって訳♪ 樹脂で作った……鉤爪のような形のこの付け爪♥ コレを人差し指・中指・薬指にそれぞれ装着すれば……ブラシの様に同時に複数の箇所を引っ掻く事が出来るようになるでしょ?」 「っひ!? 複数の箇所を……引っ掻くっ??」 「しかも、指に装着するから、引っ掻く位置を指の動きで調整する事が出来る。だからブラシには出来なかった“変則的”な責め方が可能になって、刺激に“慣れ”を生じさせにくくさせられるのよ♥」 「慣れを……生じにくく?」 「ほら……想像してみなさい? 自由に動き回る3本のブラシの先端が足裏の皮膚の上を撫で回してくるのよ♥ それがどれだけこそばいか……すぐに理解出来るでしょう?」  鈴音の言葉に刺激を想像させられた紅葉は心の中で悲鳴を上げさせられた。  彼女の言う通り……ブラシの感触を足裏に想像してみた結果、それがおぞましいこそばゆさを与えてくると想像出来、まだ触られてもいないのに体中が震えるほどの寒気を覚えたのだ。 「勿論、おんなじ刺激を与え続けるだけじゃ……いくら最強のくすぐり道具と言えど足裏は刺激に慣れてしまうものだから、そこに親指と小指に付ける付け爪でアクセントを加えてあげるの♥」  想像だけで震えを催していた紅葉を見てクスリと笑みを零し、鈴音はテーブルの上に置きっぱなしになっていた残りの二つの付け爪を手に取って……それを今度は手の端に位置する指である親指と小指にそれぞれ装着を始めた。 「……っ!? そ、それは……羽根? 黒い……羽根??」  紅葉はその付け爪を見て思わずそのように零してしまった。  親指と小指用に残されていた二つの付け爪……それは、彼女が見て理解した通り……黒く塗られた鳥の羽根が固定して付けられていたのだ。  長さは他の付け爪同様……指の爪を3cmほど延長して伸ばした程度の小さなものではあったが、毛先はいかにも毟り立てであるかのように乱雑に毛羽立っていて毛先の方向もランダムにあちらこちらを向いていて統一感が無い。人工的に作られた毛先が整った美しい羽根だとするなら、これはソレとは比べ物にならない程粗野でより自然に近い造りが施されていると判断できてしまう。 「この羽根も専門の業者に作らせた特別製の羽根よ。ゴワゴワして見えるから適当な鳥の羽根を毟ったんじゃないかって思うかもしれないけど……この無作為に生えさせた毛先は綺麗に整った羽根よりも触られた時の刺激の想像がしにくくなっていて、不意に触られれば激しい掻痒感を与えられるよう工夫が成されているわ♥」 「激しい……掻痒感?」 「羽根の柔らかな毛先が肌を撫でるだけで……ムズムズするようなピリピリ痺れるような感触を味合うでしょ? アレが掻痒感っていう……一般的には“こそばい”って言われる感覚を小難しく言い換えた言葉よ♥」 「こ、こそばい??」 「そのこそばさをより多く生む秘密として、この羽根の毛の根元1本1本には“蝋”が塗られていて“ある程度”の反発力を生み出すよう工夫が為されいるってのがあるの♪」 「……ろ、蝋?」 「根元をしっかりと蝋で固められているから、羽根先は肌を撫でると完全には毛先を寝かせず……押し付ける力に反発しようと軽い抵抗力を羽根に持たせるようになる。羽根を動かすとその抵抗力(反発の力)が肌を力強く“撫でる”動作に変化するから……羽先のこそばゆさは普通の羽根よりも段違いの刺激を生むことになるわ」 「だ、段違いの……こそばゆさ?」 「まぁ……撫でると言うよりも引っ掻く刺激に近くなるかもね? でも樹脂の付け爪とはまた違ったじれったすぎる刺激になるから……コレと刺激を交互に繰り返されれば、足裏は刺激に慣れるまでに相当な時間がかかってしまう事になるでしょうね?」 「……ッっ!?」 「とは言っても……そんなに長い時間足裏だけを責めるつもりもないんだけどね? この爪は……何も足裏だけを責める為に作られた道具って訳ではないのだし……♥」  そのように言いながら鈴音は残りの付け爪全てを右の指に装着し終え、爪が不安定にならないようしっかりと固定具を各指に巻き付けて固定を施し、改めてその責め具が装着された右手を紅葉の顔の前に見せつけるように近づけていった。 「ひっ!? ヒィッ!」  カチャリ……カチャリ……と樹脂製の黒く鋭い爪がお互いに触れあい、樹脂特有の湿った淀みを有した音が目の前で鳴らされる。  親指と小指に装着された黒い羽根が、指を広げた事によって鴉が翼を広げたかのような格好を想像させられる。  黒い爪が全て中指に合流し爪先を尖らせて見せると……羽根の黒さや指に固定しているベルトの黒さも相まって、まさに獲物を啄もうとする鴉の姿を連想させられる。  鈴音の右手は……今まさに紅葉の目を啄んでやろうかとする勢いで、くちばしを尖らせ威嚇している。  その威嚇を見て紅葉は顔を真っ青に染めて再び「ヒィィ」と情けない声を上げてしまう。  それを見た鈴音は、クスクスと楽しむように笑いを零し……その右手を足の方へと向け直させた。  そして、彼女は紅葉に告げるのだった…… 「これから、あんたのあの足裏を……コレで啄んであげる♥ この……鴉のくちばしで……ね♪」  ……と。


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