ショーダウンⅡ 『22:毒には毒を……』
Added 2025-04-16 13:43:14 +0000 UTC22:毒には毒を…… 『山札の1番上のカードだけが裏面を向けていて、他のカードは表を向けていた……って事は、つまり……綾香は何処かのタイミングで山札を“引っ繰り返した”って事になる……?』 テーブルを叩いた衝撃で山札の上に重なっていたカードが零れ落ち、そのカードの下に置かれていた札が全て表(数字が印字されいる側)になっていた事が露わとなった。その不可思議なトランプ束の状況を見た紅葉は、綾香のイカサマをその様に考察していく。 『山の上下を引っ繰り返したとなれば、半分より下側のカードを引く事になるから……下側のカード束を混ぜた綾香の札を引く事になる。っという事は、彼女がもしカードを混ぜる時に仕込みを行っていたらなら……自由にイカサマが出来る状態になっていた訳で……』 っと、そこまで紅葉は思案を巡らせるが……それだけでは肝心のロイヤルストレートフラッシュを仕込んだという事実に辿り着けない。なにせ、混ぜながら仕込むとなると……目的のカードを裏側に引っ繰り返しながら混ぜる事になる為、動きにどうしても不自然さが出る事になる。さすがの紅葉もトランプを裏返して仕込んでいるという動作を5枚とも全部見逃すはずもないし、綾香のカットはイカサマが入り込む余地がないよう神経を尖らせて目視していたのだからその様な大掛かりな仕掛けを見逃すはずがない。 それならば……一体いつ……あのカード達は仕込まれたのか? 『混ぜながら裏返しにする事は不可能。っであるなら……まさかっ!!』 紅葉は綾香がトランプを混ぜる場面から遡って、そのトランプを“どこで手に入れたのか”を思い出していた。そして思い出したのは、彼女が横で四つ這いの格好にされている“バニー”からトランプを奪ったという場面だった。 「そ、そう言えばあんた!! そこのバニーから“2箱”もトランプを取ったわよね? 最初の勝負の時と、シューターを使わないよう指示したあとの2回!」 紅葉の言葉に綾香は「そうだったかしら」と、とぼけてみせるが紅葉ははっきり覚えていた……綾香が、シューターの中のカードは使わないと宣言してバニーから2箱目を奪って見せていたことを……。 「通常通りの営業なら、バニーが予備のトランプを携帯するのは1箱だけの筈よ! それなのに何でそいつはかさばるトランプの箱を小さなポケットにワザワザ2箱も……」 っと紅葉が追及の言葉を赤い髪のバニーにぶつけて顔を直視すると、そこでようやく紅葉はそのバニーに違和感を感じ取る事となる。 「……っ!? あ、あんた……誰? そう言えば……うちにあんたみたいな子……居た??」 改めて顔を見ると、口枷が嵌められているがその端正な顔立ちを彼女は見た覚えが無い事に気付かされる。社員として雇用されるディーラーとは違い、殆どの者がアルバイトや派遣社員として入って来る為入れ替わりが頻繁に起きるバニーの事など紅葉は気にも留めた事はない。しかしそれでも、自分の傍に立ってサポートしてくれるバニーの顔くらいは見慣れている筈だが……目の前で犬の様な姿勢を強いられているバニーに紅葉は覚えがなかった。 特徴的な泣きホクロ、キリっとした目鼻立ち、小さく控えめな口……。知人で言えば牡丹と同系統の、美人なお姉さんという印象がしっくりくる端正な顔立ち…… その様な、一度見れば忘れないであろう特徴的な見た目の美女を……紅葉が見逃すなどあり得ない話だった。 「私の専属バニーは……確かに赤い髪だったけど、あんたみたいに目の横にホクロなんてなかった筈っ! あんたは……誰? 何者? 一体いつ……私のバニーと入れ替わったの?」 紅葉の問い掛けに、バレてしまったか……とばかりに綾香がフゥと残念そうな息を吐く。 そして、バニーの手を後ろ手に縛っていた縄を簡単に解いて見せ……彼女に“もう演技は良いわよ”と告げ、四つ這いの格好から解放してあげる。すると、そのバニーはゆっくりと立つ姿勢になって自分の手で口に巻かれていたタオルを取って見せる。 自分のヨダレで若干湿った感じになっているタオルをポイッと投げ捨て、息苦しくされていた事を恨みがましい溜息に乗せて零しつつ綾香に睨みの目を向ける。 「綾香さん? 別に口枷は必要なかったんじゃありませんか? アレ……有り得ない位苦しかったんですけど?」 バニーはその様に不満を口にしながら、自身の頭を覆っていた“疑似髪”を持ち上げてそれもタオルの方へポイっと投げ捨てた。 赤い長髪を模していたそのウィッグが外されると、彼女の本来の髪である“青い短髪”が露わになる。 首元までしか長さのないその髪はショートの部類に入る髪型であり、前髪も襟元も爽やかな青に染められた毛先がストレートに生え揃っている。その髪と端正な顔立ちとが合わさって、先に感じた“お姉さん”のような印象は“活発そうなお姉さん”という印象に変わり、それと同時に紅葉に気付かせてしまう…… 「あ、あんた! 確か……麗華ちゃんトコの……藤咲……智恵理とかいう……」 特徴的なホクロと顔立ちと髪色……それらの特徴は紛れもなく事前に写真で見せられた藤咲智恵理その人だった。 麗華との最初のルーレット対決の後……伊角百合子からもたらされた保険屋の情報の一つで、麗華の仲間が二人いる事は知らされていた。 水城鈴音の方は、麗華と共に姿を見せていたのでどんな人物か把握は出来ていたが……その時、藤咲智恵理は麗華の傍には姿を現していなかった。だからてっきり……今日も同席しなかっただけだろうと、意識から除外していた存在だったのだが…… 「このカジノに……潜り込んでいたっていうの? いつから??」 紅葉は知りもしなかった事だが、彼女は麗華との戦い以前からこのカジノに潜入していた。特徴的な青い短髪をウィッグで隠し、入れ替わりの多いバニーという役を演じ……そして関係者を装ってカジノの内部情報を得て麗華に伝えていた。 そういう諜報活動的動きを行うのが智恵理は得意であった。奇術や手品の知識も豊富であり、その知識を持って2年前の綾香の事件を解決に導いた裏方の立役者でもある。 そんな彼女であるから、今回も麗華たちのサポートに徹する事が出来るよう潜り込んでいた。自身の姿を変え……あの伊角百合子すらも騙して、カジノの従順なサポート役のバニーとして潜伏し内部から情報を集めていたのである。 「ふぅ……初めまして紅葉さん♥ っと言いましても……私は数週間前からここで従事していたのですが……お気づきにならなかったのですね?」 「い、いちいちバニーの顔なんて覚えてないわよ! それよりも……私の専属のバニーは何処? あんたが変装した赤い長髪だった筈だけど……」 「あぁ……文乃さんですか? 彼女なら、私と入れ替わる時に眠って頂きました♪ この睡眠剤入りの香水を吹きかけられて……♥ 今はロッカールームの椅子で休んでらっしゃると思いますよ?」 「……文乃? そんな名前だったの? 私の……バニー……」 「専属なのに名前を覚えて貰えていないというのは……少し寂しいですねぇ。顔くらいは覚えてあげてください? でないと……今回のような事態がまた起きる事もあるかもしれませんし♥」 「くっっ!!」 智恵理はポケットから睡眠剤入りの香水瓶を取り出してそれを紅葉に見せつける。中には真っ赤な色の液体が半分ほど残っており、花瓶を小さくしたような形のその小瓶の噴射口には……先程それを使ったであろう噴霧跡の湿りがスポットライトの光で煌めいて見える。 「あんたそれ……牡丹さんにも使ったわね? だから彼女は椅子の上でまだ意識を失ってる……」 紅葉の指摘に智恵理は軽く頭を縦に振ってみせる。しかし紅葉の方はそれでも納得がいっていない様子で智恵理の目を睨み続けている。 「でも、牡丹さんはずっとこの女(綾香)をくすぐり続けていた筈よ! そんなもの吹き掛ける隙なんてなかった! それを……いつヤったっていうの?」 紅葉がその様に聞くと、智恵理はフフフと上品な笑いを零し綾香が拘束されていた椅子を指差す。その椅子には今は眠らされた牡丹が拘束されているが、智恵理の指はその牡丹自体を指さず明らかにその下の椅子脚の鉄板部分を指し示していた。 「椅子の脚は鉄板で四方を覆われていますよね? 私その中に先に入って綾香さんの足裏をくすぐったっていたんです♪ その後、牡丹さんと責め場所を交代する流れになりましたので……彼女が交代するために体を屈めた瞬間を狙って吹き付けて眠って頂きました♪」 「い、椅子の下は外から見えないから……そこで牡丹さんを眠らせた……と?」 「眠らせた後は、申し訳ないですが……そのまま放置して♥ 枷を外すカギを拝借して綾香さんの足枷を外しておきました♪」 「……足の枷はあんたが外したのかっ! どおりで綾香ちゃんが簡単に脱出できた訳だ……。って事は手の枷も!?」 「手の枷の方はネジを回す道具を拝借して堂々と外しましたよ♪ 貴女方は勝負に夢中になっていたし、綾香さんの笑いも途切らせないよう私が激しく腋をくすぐって笑わていたので……気付かなかったのも無理はないですね♥」 智恵理はそう言って手をワキワキさせて“この手でくすぐっていたんだゾ”と言わんばかりの動きを見せつける。綾香はそれを見て呆れるような溜息を吐いてその言葉に少しの反論を紡いだ。 「別に……くすぐったくて笑ったんじゃないし……。アレは紅葉を騙す為にワザと笑う演技をして見せたの! あんたのくすぐりなんて効かないし!」 子供の様に強がる綾香の言葉を聞いて不服そうに頬を膨らませた智恵理は、綾香がこちらを向いていない事を良い事に右手を背後から忍ばせ、手を腰に当ててがら空きになっていた綾香の右わき腹に不意打ちのくすぐりを見舞いした。 「ちょほっっ!? な、何すんのよ智恵理ぃひひひひひひひひひひひひ!! いきなりくすぐるなぁ!!」 攻撃してきた智恵理の手から脇腹を庇うように手で払い除け、綾香は警戒心する様に数歩後退ってその魔の手から逃れる。智恵理は、綾香の素の反応を楽しめたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべ紅葉への説明を続ける。 「こうやって……私が綾香さんを笑わせながら、手の枷を外して彼女を椅子から解放し……そして、その椅子には入れ替わる様に牡丹さんを座らせて拘束を施した……っというのが彼女があそこに座らされている顛末ですね。あ、ちなみに……ここからは見えていませんがちゃんと足の方も裸足にしてますし、足首にはあの手錠型の枷も抜かりなく嵌めていますよ♥」 紅葉は牡丹のあられもない姿を見て背中に冷や汗をかく。 着物は脱がされ豊満な胸と股間を隠すための白い下着のペアが付けられているだけの格好……。そんな彼女が両手を高く万歳の格好にさせられて手首の部分を拘束されている。もうそれだけで、くすぐりに弱いワキを隠せないと悟らされてはいるが、智恵理が言うには足の方も裸足にされて椅子の下で拘束されているという。それでは……もう、この後何をするか無言で伝えている様なものだ。 わざわざ衣服を剥いであの姿を強制させあの格好を強いているという事は……つまり…… 「私の事……散々弄んでくれたんだから、彼女にもその一端を味わって貰わないと気が済まないわ♥ 勿論、賭けに負けたあんたも……これから降りて来るあの“鬼畜拷問官”に責め立てられる予定だから……楽しみに待ってなさい?」 綾香の言葉にスッと血の気が引いて寒気を覚えてしまう紅葉。その寒気に口が震え喋る言葉がたどたどしくなってしまう。 「き、鬼畜……拷問官??」 「そう。見た目は子供の癖に……あいつのくすぐりは鞭で叩かれるよりしんどい苦しみを生むの♥ 機械の様に正確に身体の弱いトコをくすぐって確実に笑わせて来るから……下手な拷問官よりもよっぽど苦しいくすぐり拷問をあんたに強いると思うわよ♪」 「ひっ!? ちょ……ま、待ってよ!! まだ……私……負けた訳じゃ……」 「あぁ、そうだったわね? まだあんたの手役を見た訳じゃなかった……。ごめんごめん、気が早かったわ♥」 「うぅ……くぅぅ!」 「じゃあ、ソレ……見せて貰っても良いかしら? そこまで言うんなら……勝てる手を持っているんでしょ? この最強の手に……」 綾香は自分の手役であるロイヤルストレートフラッシュを挿し込んでいるカードホルダーの端を指でトントンと叩いて紅葉に手役の公開を迫る。 しかし、紅葉の手役はフォーカード止まりであり……どう転んでも綾香の手に勝つ事は出来ない。それが分かっているから、今ココで役を公開して完全な負けを認める訳にはいかない。情けなく映るかもしれないが、ここは全力でこの試合をなかった事にしないと……カジノにも自分にも壊滅的な被害を負わせてしまう事になる。 その様に追い込まれた紅葉は、綾香に縋るような目を向けて頭を下げる。 「わ、分かった! あんたの言う通り……イカサマ無しの健全な勝負に応じる! だ、だから……やり直しましょう? 今度は……まっさらな環境で……勝負するとしましょう? ね?」 何度も頭を下げてその様に言う紅葉に、綾香は冷めた目を向けてハァと溜息をつく。 「だから言ったでしょ? イカサマをしたままで勝負したらあんたは負けるって……」 その言葉を聞いて紅葉はウンウンと同意する態度を大袈裟にして見せる。綾香はその一転して素直になった彼女の姿を見て緩い笑みを口端に浮かべる。 「反省した? もうこれに懲りて……今後一切イカサマなんてしないって……私に誓える?」 紅葉は必死に頭を何度も縦に振って綾香の言葉に従う旨を態度で表現する。 「ち、誓う! 誓うから……せめて、今の勝負をなかった事に――」 紅葉の必死な懇願に綾香はニコリと優しい笑みを浮かべ、無様に懇願する彼女に聖母が慈しむような表情を向けてあげた。しかし、その口からは顔の慈悲深さとは真逆の辛辣な言葉が放たれ、紅葉を絶望の淵へと叩き込んでしまう。 「そう? だったら……ちゃんと罰を受けて、ちゃんと反省なさいね? あぁ、勿論……勝負はなかったことにはしないわよ? だって……私はちゃんとあんたに“最後のチャンス”を与えてあげたんだから……それに聞く耳を持たなかったあんたが悪いのよ? せいぜい後悔しながら身体中を襲うくすぐったさに笑わされて悶え苦しんでちょうだいね♥」 綾香のその辛辣な返しに、紅葉の安堵しかけた顔がピキリと凍り付いてしまう。 そして、顔を下に向け口をワナワナと震わせたかと思うと、素直に懇願した事を忘れ去る様な強い態度で綾香に言葉を返し始める。 「ふ、ふざけんじゃないわよ! そもそも……あんただってイカサマしてたじゃないの! それを棚に上げて私にだけ反省しろですって? あんまり調子に乗らないで貰いたいわね!」 綾香は慈母のような笑顔からスッと表情を睨み顔へと変え、紅葉の俯いた顔を睨み返す。紅葉はその顔をゆっくりと持ち上げ今度は虚勢を張るかの様に余裕ぶった表情を顔に作り綾香の睨み目に嘲笑を浮かべる。 「イカサマである事が分かったのだったらこの勝負は無効よ! 不正があったのに私が理不尽に負けるなんて許される筈がないもの!」 「その事だったら……勝負の前に宣言したでしょ? イカサマが有ろうが無かろうが、勝負はポーカーの役の強さで決めるって! あんたもそれに同意したじゃない!」 「私が同意? さぁ……何の事かしら? 貴女が勝手に言って勝手に始めたんじゃない?」 「くっ! 今度はとぼけるつもり? あの時の会話は店のカメラに録画されているのよ! 証拠が残っているのによくもそんな暴論を私に吐けたものね! 呆れてモノが言えないわ!!」 「フン! 店のカメラの映像なんてどうにでもなるわ! テープを消去してしまえば今回の戦いをなかった事にも出来るし、編集すればいくらでもあんたに罪をなすりつけることも出来るっ!」 「ふざけた事……言ってくれるじゃない! あんたの不正も店の不正も全部“見届け役”の結城社長が見ているのよ? それでもまだ言い逃れをしようって言うの?」 「フフフ……証拠は?」 「……っ!?」 「あんた言ったわよね? 証拠は警察が踏み込めばすぐ見つけられるって……」 「……言ったわよ? 事実じゃない!」 「でも、ここに警察は“まだ”踏み込んでいない……それはつまり、現段階ではあんた達だけでは物理的な証拠を叩きつける事が出来ないって事よね?」 「……っ!」 「私のイカサマの証拠を今証明する事は出来ない……私があんたの“ポーカー役で勝敗を決める”っていう意見に賛同したという証拠も“今”出す事は出来ない……だったら、この勝負をなかった事にするのも……私の自由よね? だって……証拠が無いんだもの♥」 「だ、だから! あんたが私の意見を認めたっていう証拠は……カメラに録画してあるから、それを見れば……」 「私がそれを許すと思う?」 「……ッっ!?」 「無理やりにコントロールルームに入ってカメラの映像を押さえようとしても無駄よ? その時は警備員にとっつかまえて貰うから♥ んで、不法侵入で逆に私があんたを警察に突き出してやるわ!」 「くっ……」 「カメラの映像がウチのカジノにある限り……あんた達は証拠を提出できない! だから私の好き勝手に勝負の内容を変更する事が出来る……」 「……成程? こうなる事も見越して……あんたは客が入る“前”の時間に私達をココに誘い入れたのか。あんたの暴論に対して客という公平な立場の人間を関与させないために……」 「フフフ……まぁ、そうね。あんたも2年前の事を経験しているから分かるでしょ? お客様ってのは怖い存在なのよ……。少しでも理不尽な事が起きればすぐにSNSに店の悪評を書き込むし、集団を組んで訴えて来ることもするし……自分達がいかにも“正義の使者だ”と言わんばかりの顔して断罪を求めて来たりもするのよ? その場限りの他人同士だって言うのに……その時だけは馬鹿みたいに連携する奴らなのよ!」 「……客は怖い……。まぁ、それは……その通りね……」 「あいつらが居たら邪魔なだけ……。そう思ったから開店前の時間に呼び出したのよ!」 「まぁ……あんたのイカサマが、人が沢山いると効果を発揮できないって言うのもあったんでしょうけどね……」 「……っ!? あ、あら……それにも気付いていたんだ?」 「状況を見れば簡単に分かるわよ。あんたのイカサマは床に光を映し出す事で情報を読み取れるっていう仕掛けだった。そんな仕掛けだから、他の客が居て不意にあの白丸の上を歩かれたらその人にライトが当たってしまって正確な情報が読み取れなくなる……そう思ったから、入れなかったんでしょ? イカサマの邪魔にしかならない客を……」 「フフフ♥ その通り。証人を作らない事と、仕掛けの邪魔になるようなものを極力避ける為……それがマッチしたから客が来る前を選んだ……そういう事よ……」 「成程ね? ちなみに……今の会話にも“自分がイカサマしている”っていう内容が含まれていたけど……それも防犯カメラに収められているのよね?」 「当然♥ でも、その証拠は百合子さんが消してくれる筈よ? あんた達が客の見世物になっている間にね?」 「……見世物? まだそんな事言っているの? あんたは勝負に負けたのよ! 自分の言った言葉くらい守って見せなさい!」 「だからぁ~! まだ負けてないんだってば! 私はコレを見せてないでしょ?」 「今すぐ見せなさい! もうこんな茶番は必要ない! さっさと勝負を決めて罪を認めなさい!」 「嫌よ! 私は認めない! 私が同意したという証拠がない以上……この勝負は無効よ! やり直す事を要求するわ!」 「くっ! あ、あんた……まさか、自分が負けそうになったら……それを繰り返すつもりじゃないでしょうね?」 「アハ♥ さぁ……どうかしら? そんな酷い事……私がすると……思う?」 「えぇ、今も実際にしようとしてる……。だから、間違いなくするわね!」 「あっそ? まぁ……どうでも良いわ。店のオープンまで残り20分……それまでに綾香ちゃんが負けなければ可能性は有るかもしれないわよ?」 「くっ……」 紅葉の傍若無人な物言いと態度に、流石の綾香も疲れ果てる様に肩の力を抜いた。そして、彼女にも聞こえるよう大きめな溜息を吐いてジロリと目だけで彼女を睨む。 「はぁ……。あんた……証拠がどうとか言ったわね?」 「そうよ! 私があんたの言葉に賛同したという証拠! それが無きゃ……私は負けを認めない!」 「そう……証拠ね? 分かった。そこまで意地を張るんだったらしょうがない……」 綾香はその様に零して裸の格好を強いられている麗華を呼び寄せた。そして、何事かも言葉を交わさずアレを出せと言わんばかりに親指でテーブルの上に置かれた彼女のドレスを指差す。 「……? な、なに? まだ……服は返さないわよ! 勝負はついてないから……」 麗華は綾香が何を言いたげなのか察し、頭をコクリと頷かせ自分の服の方へと歩み出していく。それを見た紅葉は服を渡すまいとそれを手で押さえて麗華に睨みを利かせる。 「大丈夫。ちょっと服のポケットにしまってたコレを取るだけですわ♥」 麗華はその様に笑みを浮かべるとドレスの端にあるポケットに手を入れ何かを探すようにまさぐると、中から自身の携帯電話を取り出してなにかしらの操作を始めた。 「な、なに? まさか今から警察に電話して駆けつけて貰おうなんて考えてないでしょうね? そんな真似したら、逆にあんたの格好を見せてわいせつ物なんたらで捕まえて貰うわよ!」 紅葉の慌てる姿を見てクスリと笑みを浮かべた麗華は、操作し終えた携帯電話の画面が彼女に見えるよう引っ繰り返して見せつけてあげた。 「……ッっ!? こ、これは……」 見せられた画面には……紅葉の姿が映っていた。 紅葉が少し横を向いて麗華の掲げた携帯電話の画面を見て驚いている姿……それが映し出されていた。 「こんな事もあろうかと……私達も記録させて貰っていたわ。この勝負の一部始終を……ね……」 綾香のその言葉にハッとなり彼女の方を向くと、画面の中の自分も遅れて綾香の方を向く仕草を取り……しかも画面は自分が“正面”を向いている姿を映すものとなり、撮影している機械が綾香の側にあるのだとすぐに気付かされ事となる。 紅葉がそれに気づくと綾香もすぐに種明かしをするように自分の右手を胸元へと寄せた。 「仕掛けはコレ♥ コレは……ただのボタンじゃないの♪ 実はちっちゃなカメラになっているのよ。気付かなかったでしょ?」 綾香はチャイナドレスの第二ボタンを指差しその様に紅葉に説明した。 チャイナドレスのボタンはそれぞれがガラスのような素材を使っているのかキラキラと光沢を反射して見えているが、よく見るとその第二ボタンだけはガラスの中に小さなカメラレンズの様な物がキュルキュルと動いているのが見て取れた。 よく注視しないとそのような小さいカメラが仕込まれている事など見極める事など出来ないが、促され覗いてみるとそこには確かに機械の目が動いている様子が確認できてしまう。 「ま、まさか……そのカメラ……この携帯に……ずっと録画したのを送り込んで……いた?」 紅葉が狼狽えながら再び携帯の画面に視線を移すと、自分を映し出している画面の右上に赤丸とRECという文字が並んで点滅している様子が伺え、それを見ると今現在も録画を続けているという事を嫌でも悟らされる事となる。 「私達だって……ただ敵地に身一つで乗り込むなんて無謀な事はしないわよ。2億っていう途方もない大金の勝負であんたが負けて駄々をこねる事なんて容易に想像できてた……だから、こっちも“証拠”を準備してたのよ。あんたの大好きな……証拠……をね♪」 麗華は録画を一時中断して、シークバーを辿り勝負前の綾香と紅葉のやり取りの所まで録画した時間を巻き戻していく。そしてその場面を音量最大にして再生を始め紅葉にグゥの音も出せない精神的なダメージを負わせていく。 「『それって……イカサマが途中で発覚しても、ゲームはそのまま続けるって意味よね?』」 「『そう。イカサマは見抜けなかった奴が悪いって私は思っているわ。だから、それを使う事を許したのであればそれはイカサマをされた側の罪……』」 「『は……はは……あんた……馬鹿じゃない? その言葉……後で撤回するなんて言わせないわよ? そこの監視カメラは音声も録音しているのだから……言った以上……守って貰うわ!』」 そのシーンを見せ終えると、麗華はすぐにシークバーを操作しまた別の場面を探し始める。その間に紅葉は自分が完全には綾香の話に了承をしていなかった旨を思い出し、自分を立て直す言葉を綾香に返していく。 「ほ、ほら! 私は一言もそれで良いとは言ってないわ! あんたがだた独り言のように提案して来ただけじゃない! 私はそれに乗るとも反るとも言ってない!」 「呆れた……。まだそんな見苦しい言い訳をするつもり? このやり取りを録画されている時点で察しなさいよ……」 綾香は紅葉の縋る様な言い訳に呆れの息をつき麗華の次のシーンの再生を待つ。麗華はすぐさま目的のシーンを探し出し、そこにシークバーを止めて再生のボタンを押し画面を再び紅葉に見せつける。 「『最後の確認よ……“本当に”この手で勝負をして……良いのね?』」 「『勝負するって言ってんでしょ! もうこの決断は変わらないわ!!』」 それは最後の勝負を決する場面……綾香が手札を見せる直前のシーンだった。 ここで紅葉はハッキリと告げている……勝負を“する”と。 「うぐっっ!? ぐっ!!」 この画面を見せられ、紅葉は流石に返す言葉が思いつかない。 どんな言い訳をしようと……この“勝負する”という言葉を押さえられていては、認めるしかない…… 「ちなみに……この録画はワンボタンで色々なSNSに公開させる機能を持っているわ。あんたがこの証拠を見てもまだ駄々をこねるっていうなら……この勝負の顛末を全世界に垂れながしてやるつもりよ。あんたの顔もモザイク無しでね」 カジノの名前、紅葉の容姿、イカサマの全容……そして、これまで綾香達に行ってきた仕打ち……それら全てを納められた動画を公開されでもしたら、損失は2億や10億の比ではなくなる。 下手をしたら自分の身の安全も従業員全員の命の保証も出来かねるほどに被害は多岐にわたる事になる。 幸い……この映像は録画であり生放送とかの類ではない。だから、撮影した端末を押さえれば動画の拡散は防げるだろうが…… 「待って! それ……こっちに渡して!」 紅葉は必死になって麗華の方へ手を伸ばしそれを奪おうと試みるが、その手を綾香が遮るようにガードしすぐに言葉を詰める。 「渡してほしければ! 分かるわよね?」 「うっ! ぐっ!!」 「私だって……あんたが素直に負けを受け入れてくれていれば、こんな画像で脅しをかけずに済んだのよ。出来ればこんなもの使いたくはないって思ってる! 私だって……」 綾香の顔が真剣さを帯び紅葉の顔を睨みつける。その視線に、勢いを殺された紅葉はぐぬぬと呻き声を上げて肩を落とし諦めるように手を引っ込めていく。 「私もあんたとは真剣勝負で決着をつけてあげたかった……。でも、あんたはイカサマ以外の部分でも駄々をこね始めてしまった……。そういう駄々をこねる奴には……もはや、やり過ぎだと罵られてもこういう切り札を出すしかないの……」 綾香の言葉に紅葉は唇を噛むように口を震わせ力を込めていく。そして、蚊が鳴くような細い声を振り絞って綾香に言葉を紡ぐ。 「負けを……認めれば……その動画は……消してくれるの?」 その言葉に綾香はコクリと頷いて彼女の意見を了承して見せる。 「えぇ……。然るべき罰を受けたら……最後に目の前で消してあげるわ……」 「罰……? 罰って……何?」 「フフフ……そんなに怯えなくて大丈夫♥ ちょっと……お客さんの前で恥ずかしい思いをして貰うだけだから♪」 「恥ずかしい……思い??」 「ほら……あんたの相方も既にスタンバイが完了してるじゃない? 次はあんたの番よ。麗華の為に用意してくれたあの拘束ベッドに……あんたを拘束してあげるわ♪」 「うっっ!? こ、こ、拘……束っ!? 拘束して……どうするつもりっ!?」 「どうするって……それはさっきも言ったじゃない?」 「うっっ!? うぅぅぅっ!!」 「私や夏姫にやったみたいに……全身を抵抗できないよう拘束して~~無防備になった腋とか足の裏とかを~~~こう、こちょこちょ~って♥」 「ひっ!? ひぃぃぃっっ!! い、嫌よ!! そ、そんな……気色悪い事されたら……私……た、耐えられない!」 「あら? さっきは随分とくすぐりの事を馬鹿にしていたみたいだけど? いざ自分がヤられるって体になったら態度が真逆に豹変しちゃうのね?」 「や……だ……いやっ!! 私は……人に……身体を……触られたく……ない!!」 「大丈夫♥ 鈴音だって鬼じゃないわ。あんたが素直に罰を受け入れるなら……きっと優しくイジメてくれる筈♥」 「イジ……ひっ!?」 綾香の意地悪な笑みを見て、自分が身動き取れないよう拘束され身体中を多数の人間からくすぐるられる姿を想像してしまい思わず素の身震いをしてしまう紅葉。彼女は手を胸の前で交差させ、自分の腋を守る様な姿勢になって頭を横に振っている。 「あいつのくすぐりは辛いわよぉ~? 今ココだけは触られたくないっって思ってる箇所を的確にまさぐってきて、無理やり笑わせてくるんだもの♥」 「ひっ! ひぃぃ!! い、嫌ッっ!!」 「これはアドバイスになるかどうかは分かんないけど……アイツのくすぐりには無理に抵抗しない方が身の為よ。我慢しようとすればする程、あいつのくすぐりは苛烈さを増すから……。あいつってば見た目通り……根は子供なのよ♪ 抵抗する奴にはもっと激しく責めて無理やり笑わせてやろうって意地になるの♥ そのくすぐりは可愛げが無いから気を付けなさい?」 「ひぃぃぃ!!」 綾香は紅葉の素直に嫌がる反応を楽しそうに眺めながら、彼女のカードホルダーに手を伸ばす。そして、彼女の負けを確定させてやろうと……そのホルダーを引っ繰り返そうとする。 「ひっ!? 待って! お願い、ちょっと待って!!」 紅葉はその綾香の手を慌てて握って、縋る様に懇願する。それを見て綾香は麗華に目配せをして彼女を紅葉の背後に立たせる。 「ほら……往生際が悪いわよ? 手を離しなさい。そして負けを認めなさい!」 綾香がホルダーを返そうと手に力を込める。しかし、その動きを紅葉が両手を彼女の手に被せて阻害する。 「嫌っ!! 待って! 考えさせて!! もう少し……どうするか……自分で……」 紅葉が顔を青ざめさせて必死に綾香の行動を阻止しようとする。 そんな彼女の背後に忍び寄った裸の格好の麗華は、紅葉が前に手を伸ばした事でがら空きになった彼女の“ワキ”に両手を密着させて巧みな動きでそのワキをくすぐり始める。 「にゃっっはっっ!? ちょほっっっ!! やだぁはははははははははははははははははははははははははは、や、やめてッっへへへへへへへへへへ!!」 不意を突く様に突然送り込まれたくすぐりの刺激に驚いてしまった紅葉は、自分を襲うおぞましい刺激から自身を守るために手を戻してワキを隠す仕草を取るが……そうする事でくすぐりからは逃れる事は出来たが自分の負けが確定してしまう“手役の公開”は無抵抗にされてしまった。 「あ、ちょ! ま、ま、待って!!!」 紅葉の最後の懇願も空しく、綾香は彼女の手役を確認すべくホルダーを一気に反転させた。 「……Aのフォーカード。って事は、この勝負……あんたの負けね……」 ゴネて……懇願して、最後まで足搔いて負けを認めようとしなかった紅葉だったが、手役が確認されてしまえばどんな言い訳も紡げない。もはや何の言い逃れも出来ない“敗北”を喫する事となったと悟らされ、その場でヘナヘナと膝を折って座り込んでしまう。 「私の役はロイヤルストレートフラッシュ、あんたの役はフォーカード……。よって、この勝負……私の勝ちね♪」 綾香はそのように言って賭け金である2億のアタッシュケースを紅葉の方へと見せつけた。 そして、勝った時の権利を行使するように無慈悲な報奨金を彼女に要求した。 「これと同じアタッシュケースを後8個……用意なさい? 計……10億……耳を揃えて払って貰うわよ!」 「む、む、無理!! そんなお金……私……持ってない……」 「別に……あんたが払わなくて良いわよ? カジノの金庫から用意したらいいだけの話……。なにせ、このカジノの金庫には今までイカサマで蓄えた潤沢な資金が蓄えてあるはずだもの♥ そのくらいのお金……用意出来るわよね?」 「こ、こ、これは……正式な賭けじゃないから……その……払う権利はカジノ側には……」 「あら、まだそれ言う? だったら……この動画は今すぐにでも……」 「ま、待って!! わ、わ、分かった……私が……百合子さんに……話を通すから……それだけは……待って!」 「フン! 最初からそう言えばいいのよ! 無駄に足搔かないでくれる? みっともないわよ?」 「うっ……ぐっ……くっっ……」 頭を項垂れさせ悔しさを顔に滲ませる紅葉に……未だ背後に立っていた麗華が不意にその小刻みに震える彼女の身体を包み込むように背後から抱きついてきた。 「……ちょ!? な、なに??」 突然彼女の生暖かい肌が背中に触れ、紅葉は驚くと共に警戒心を強く持つが……麗華はそんな彼女の耳元に口を近づけ細い声で彼女に告げる。 『さぁ……紅葉さん? 今度は貴女が肌を露出する番ですわよ? その日焼けした小麦色の素敵な肌を……わたくし達やお客様に存分に見せつけてくださいまし♥ そして、お客様の前で……しっかり反省してくださいませ? 私達がその手伝いをさせて頂きますから♪ 貴女が実は苦手に思っていたあの刺激……くすぐりで、ね?』 ……っと。 それを聞いて紅葉は何かを訴えかけようと麗華の方を振り返るがその言葉が発される前に、麗華の隣で待機していた青い髪のバニーがあの睡眠剤入りの香水を彼女の顔に吹き掛けてしまった為……彼女は言葉を紡ぐ事も許されずすぐにその場で昏倒する事となった。 だらりと力尽きる様に身体を弛緩させた紅葉に、鼻と口を手で覆って香水を吸い込まないよう自衛していた麗華が笑みを浮かべながら見下ろす。 「フフフ♥ 強気な暴言を吐く割には素直で敏感な身体でしたわね♪ きっと楽しいショーになる事でしょうし……すぐに準備に取り掛かって下さいまし? ね? 智恵理さん♥」 麗華の隣に立って同じく床に倒れ込んだ紅葉を見下ろした智恵理は、口元にニヤリと笑みを浮かべさせ一言だけ麗華に言葉を返した。 「えぇ……本当に……楽しみです♥」 ……っと。
Comments
ですね♪ ちなみに次話はまだ準備段階ですので正確にはその次からとなる予定です。
ハルカナ
2025-04-17 16:57:53 +0000 UTCいよいよ紅葉がくすぐられまくるシーンが来るんですね!ずっとイカサマをしてズルをした罰として紅葉にはたっぷりとくすぐりの味を味わってほしいです!
toshi0325monst
2025-04-17 13:46:08 +0000 UTC