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ハルカナ
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ショーダウンⅡ 『21:謀られた勝利』

#21 謀られた勝利 『……普通の……指輪?』  紅葉は綾香の外した指輪を手に取りその様に呟いた。 『何かが飛び出て来る様な仕掛がある訳でもない、小さなボタンやセンサーのような物も見当たらない……ただの指輪??』  指輪は銀色の光沢を纏った何の変哲もないただの指輪だった。そこには特殊な仕掛けが施されている訳でもなく、表面には刻印はおろか何かしらの模様が掘られているわけでもない……本当にまっさらで飾り気のないただの指輪に過ぎなかった。 「もういいかしら? そろそろ返してくれない?」  怪しむように何度も回転させたり実際に指につけたりしてその指輪を調べ尽くそうとする紅葉だが、そこにイカサマらしき痕跡は見つけられず……綾香の呆れ果てたような声を聞いて彼女はその指輪から興味を無くす様にそれをポイっと綾香に投げて返した。 「ちょっ! 高い指輪なのよ! 大事に扱ってくれる?」  小さい割に重さだけはしっかりとあるその指輪に紅葉は多少の違和感を覚えるが、しかし指輪を投げて返された綾香はそれを指につけようともせず傍に置く仕草を見せた為、それが勝負とは関係のないモノだろうと察しフゥと安堵の声を零す。 『やっぱり……あの指輪はブラフだったか……。つけてみても適当に触ってみても普通だったし、アレでどうこうできるとも思えない。って事はどう考えてもアレは私の注意を引いて無駄に怪しませるだけのブラフだったに違いないわ……』  紅葉はそのように考えを改め指輪から意識を綾香の方へと向け直すが……そのブラフを張ったであろう綾香の方に怪しい動きは見られていない。紅葉は指輪を調べるフリをして彼女の方を隙なく見続けたが……手はテーブルの上から動かさなかったし身体も特別怪しい動きをさせてはいなかった。  っであるなら……何のためのブラフだったのか? 意識を自分から逸らす為に利用した訳ではなかったのか? 紅葉は頭を捻りながらもその回答を出しあぐねていた。 『いや、そもそも……私が気付かなかっただけであの指輪……最初から付けていたのかもしれない。あんな細くて目立たない形状だし……注意深く見ない限りは気付かなくても仕方なかったかも……?』  考えても答えが出ないのは分かっていた為、紅葉は自分にそう言い聞かせ指輪の謎から意識を一旦離す事にした。 「いいわ、じゃあ……ゲームの続きを再開しましょう……」  紅葉はそう投げかけ、綾香のテーブルに雑に置かれた5枚のカードを指差した。  綾香の手元には、先程山札から引いてきた5枚のカードがバラバラに置かれている。  指を調査している時は綾香の手はそのカードに触れる事はなかっため、それらに何かを仕掛けたという事はないだろうが……とにかくそのカード達をテーブルの上に放置しておくわけにはいかない。 「ほら、そのカード……ホルダーに差し込みなさい?」  紅葉はその様に指示を出して綾香に札の差し込みを促す。勝つ事がほぼ間違いない紅葉にとっては今更綾香の手札を確認する意味など無いと感じているが、綾香があの指輪の下りで何かを仕掛けていた可能性も拭い切れてはいない。だから、カードを差し込ませ彼女の役を確認しておきたいと思ったのだが…… 「……!?」  しかし、綾香がカードを差し込み始めると、紅葉は驚愕するように目を見開いて動きを止めてしまう。  紅葉の視線の先……それは、綾香の顔を見ているのではなく……先程と同じ、あの床の白丸模様を見ていた訳だが……しかし、その丸にはいつまで経っても映されるべき情報が投射されてこない。 『んなっ!? な、な、何で?? カードはちゃんと差し込んでるのに……何でライトが光らないの??』  綾香が2枚3枚とカードを次々にホルダーに差し込んでいくが、一向にその情報は映し出されない。紅葉はその不可解な現状に目を丸くして驚く事しか出来ない。 『ライト自体は別に壊れているようには見えない……さっきと何一つ変わってない……』  ライトを見て床を見て……またライトを見て……と、忙しなく顔を上下に振って驚く紅葉にの姿を見て綾香は口端に小さな笑みを携えて最後のカードをホルダーに差し込ん見終える。そして……慌てている彼女に向けてワザとらしく心配する様な声色で言葉を零す。 「なぁに? 何をそんなに慌てているのかしら? 何か“不測の事態”でも起きた?」  その言葉を聞き紅葉はハッとなって顔を下げ綾香の目を睨み唸り声を上げる。 「あんた……なんかヤったわね?」  紅葉の言葉に綾香はとぼける様に顔を斜めに傾け「さぁ、何の事やら?」と紅葉に返事を返す。紅葉はそのまま綾香が外した指輪の方に再び意識を向け直し、同じように睨む目を向けた。 「やっぱりあの指輪……何か細工がしてあったのかっ!!」  紅葉がそれに気づく様子を見せると綾香は今度は口にニンマリと大きな笑みを携えて、ようやく気付いたか……と言わんばかりの言葉を彼女に投げかける。 「私が何も怪しまずにこのカードホルダーに札を差し込むと思う? そんな訳ないでしょ? 特に……あんたみたいな“機械に頼り切ったイカサマ師”相手には……♥」  紅葉はその言葉を聞き眉をピクリと反応させる。 「だ、誰が……機械に頼っているですって? じゃあ何? あんたは……こっちにも仕掛けがあるって最初から分かっていたとでも言うの?」  バレてしまっては仕方がないと、紅葉は自ら第二の不正を暴露する言葉を紡ぐ。 「えぇ。さっき使用を禁じた事からも分かったようにこのカードシューターに仕掛けがあった事も、そして“カード自体”にも仕掛けがあった事も既に想像がついていたわ……だから“同じ仕掛け”がこのホルダーにも仕込まれているだろうって簡単に気づくことが出来た……」 「……ッっ!?」 「最初のイカサマである“カードをシューターから引き抜けば数字とマーク分かる”ってイカサマ……それは、シューターの仕掛けとは別に“カードの仕掛け”も利用しないと投影されない仕様になっていた……そうよね?」 「むぐっ! うぅ……」 「カードはただのプラスチック製のトランプじゃなかった。このカードは恐らく磁気を帯びさせられた“磁気カード”として特別に作られたものだったのよ!」 「……うぅぅ!!」 「磁気カードはその名の通り、磁気にデータを記録して専用の端末で読み取るカードの事。これは磁気のS極とN極の方向の違いを0と1で判別して色んな言語や数字を記録しておけるって仕組みなんだけど……あんたの所のカジノはそれをこのトランプに仕込んでイカサマとして使用していたってわけ」 「うっっぐ……」 「見た目は普通のトランプと何ら変わりはない。でもこのカードは札自体が磁気カードになっているから、それを“専用の機械”でスキャンさせさえすれば磁気に記憶させた情報を読み取ることができた。その情報は言うまでもなくトランプの柄と数字で、それを読み取ったあと信号をあのスポットライトに飛ばして情報を基にライトの点灯回数とライトの色を使い分けて床に投影させていた……っていう単純な仕掛けだった……」 「……くっ! な、何よ! その専用の読み取り機ってヤツ? そんな大層なもの……このテーブルの何処に置いてあるって言うのよ!!」 「しらじらしい……。あんただって私が次に何を言うかくらい分かっているでしょうに?」 「うっ……くっ……」 「専用で読み取る機械ってのはコレ! ずっとここにあったコレだったのよ!」  そう言って綾香が指を差した先には……先程使用を禁じたカードシューターがあった。 「こいつのカード取り出し口……そこに磁気を読み取る機械が取り付けられている。そこをカードが通過すると磁器のデータを読み取ってスポットライトが情報を可視化する……そういう仕掛けになっていたのよ」 「むぐぐ……うぅ……」 「そして、このカードホルダーの中にも……同じ仕掛けが施されていた。同じ仕掛けだから当然トランプを差し込めばそのカードの情報を読み取る事が出来たし、相手の手役も知る事が出来た……。これがあんたの第二のイカサマである“相手の役を知る事が出来る”という力の正体よ!」  綾香の指摘は全てを見通していたかのように間違えている箇所が無く、紅葉はそれに口を挟む事はおろか言い返す言葉すらも発する事が出来なくなっていた。 「それが分かったから……私は、その“カードの磁気”を狂わせる仕掛けを施して、読み取りが出来なくなる様仕向けた……」 「磁気を狂わせる? あ、あんた! 私がこういうイカサマをするだろうって予測してそれ用の対策をしてきたとでも言うの? トランプで勝負してくるであろう事も予想して?」 「いいえ。私はあんたがトランプ勝負に挑む事も、ましてやこんな仕掛けを施しているなんて事……ここに来るまでは知りもしなかった……」 「じゃ、じゃあ! 何で対策できたのよ!!」 「うん……まぁ、半分は偶然……って所ね♪ 運が良かったというか……」 「半分……偶然??」 「そう。私は昨日の時点では麗華から“ルーレットでイカサマをされた”って事しか聞かされていなかったの。だから、私も“それ用”の対策しか仕込んでこなかった……」 「……ルーレットの……対策?」 「相手がルーレットでイカサマをするなら、玉を放るタイミングとかそういう技術に長けているかも……って思ったから、そのテクニックを妨害する対策を私はこの“指輪”に仕込んできた……」 「ゆ、指輪……に? って……まさかっ!!」 「そう……この指輪には“ネオジム磁石”が埋め込まれている。普通の磁石の何倍も磁力が強いっていう特性を持ったこの指輪で玉の軌道を変えてやろう……と思って持ってきていたのよ」 「ネオジム……磁石……? それって……確か……磁石の中でも最強の磁力を持つって言われてる……あの磁石??」 「玉が鉄製ならこれで間違いなく相手のテクニックを妨害できるって……そう思って持って来たけど、残念ながらルーレットの勝負にはならずこうしてカードの勝負になった。だから、この指輪も意味なかったかもって思ったんだけど……」 「ま、まさか! あんたその指輪を……カードに近づけたんじゃ……」 「この仕掛けが“磁気カード”を読み取っているって気付いて急遽この指輪を活用する手を思いついた。お察しの通り……このネオジム磁石の仕込まれた指輪を磁気の仕込まれたカードに近づけて……そのカードの磁気情報を狂わせてやったって訳……」 「……だから……機械が読み取れなくなった……って事か。スポットライトが反応しないのも……機械が読み取れないのだから動くはずもない……と?」 「ま、そんなとこよ♥ でもこの指輪を持ち込んだのはホントに偶然だった……。あの時智恵理にルーレットの型番を聞き出せていなければ持って来るのを躊躇ったと思うし」 「ルーレット……型番? 智恵理って誰よ!? ま、まさか……スパイっ!?」 「最近のルーレットはそういうイカサマを防止する為に磁力検知の機械が備えられている事が多いの。もしこのカジノでそれが使われていたなら……この磁石は使えないって思ってた。でも、聞いてみればずいぶん昔の型番を使っているって言うじゃない? それが分かったから私は保険としてコレを持ち込んだってわけ♪ それがまさか……トランプの方で使うことになるとは思いもしなかったけどね♥」 「ぐっ、くぅぅ……」 「どう? 理解した? 私がいかにして貴女のイカサマを見破ったのか、そしてどう防いでやったのか……これで分かったでしょ?」 「うぐぐぅぅぅ……! たまたま持ち込んだものを別の用途で利用するなんて……」 「さて? これであんたのイカサマは全部封じた事になるけど……どうする?」 「どうするって……何がよ?」 「そんなの決まってるでしょ? 降伏するかどうかっては·な·し♥」 「降伏? 何よそれ? 何で私が……そんな事をする必要があると?」 「手の内が全部バレてしまったイカサマ師に勝つ見込みなんて残ってないわ。だったら……もう一度勝負をリセットして最初からやり直すのが筋ってもんでしょ? 私はそれを促してあげてんの♪ 優しいから♥」 「勝負をリセット? 最初から?」 「そっ♥ ここからはイカサマなしの通常通りのポーカーで真っ当な勝負をやり直した方が良いと思うの。その方が純粋に勝負が出来て理不尽がなくて楽しいでしょ?」  真っ当な勝負……? 純粋な勝負? 紅葉はその言葉を吐く綾香が切実そうな表情を浮かべているのを見て、心の中で疑問符を浮かべた。しかしその疑問符は、すぐに紅葉の心の中に浮かべた顔を笑みに変え、頭の中で綾香の言葉を否定させる。 『真っ当? 何を言っているのかしら? 今さらそんな勝負を私が望んでいるとでも思っているのかしら?』  『アイツは全部のイカサマを暴いたとか言っていたけど、それはつまり気付いていなかったってことよね? 私が最後の最後に、機械に頼ってないテクニックを使ってイカサマを行った事を……』  紅葉は自分が先程自分のテクニックの力で手に入れた“ダイヤのA”を見てその様に言葉を浮かべる。そして、それが自分の手役をフォーカードという強い役に押し上げたという事実を再確認し、向けている表情にも笑みを浮かべて見せた。 『成程……読めたわ! 綾香は私に良い役が入っているって悟ったから、このカードホルダーの仕掛けを無効にしたのね! どんな役が入っているか分からなくする事で私が不安に思って“降りる”を選択するとでも想像したのよ……その為にわざわざ磁気カードを無効にした……』  紅葉は綾香の顔を口だけ笑み浮かべながら目で睨み、その様に頭の中で考察を展開する。綾香はその顔を見て首をかしげて不思議そうな表情を浮かべている。 『そうね……私がもしスリーカードとかの手で終わっていたなら……そのプレッシャーに一旦考えを改めたかもしれないけど……でも、今は最強のフォーカードが手に入ってる。この手を捨ててまで勝負を降りるなんてする訳が無いのだから……綾香ちゃんの目論見は残念ながら外れる事になるわ♥』  紅葉はそのように言って綾香に勝ち誇った笑みを浮かべてみせる。  それに対し綾香は、フゥと息を一つついて紅葉へ最終確認の促しをかける。 「んで? どうする? 今なら降参する事も認めるけど……」 「はぁ? それって私に降りれって言ってる?」 「残念だけど……イカサマが使えなくなったあんたにもう勝ち目はないわ。悪い事は言わないから……降りたらどう? もう一度まっさらな状態で対戦するってのも……悪くはないわよ?」 「あぁ……成程ぉ? 綾香ちゃんは降りて欲しいんだ? 私があまりにも良い手だと思ってるから……」 「……別に? あんたがどんな手だって構わない。でも、イカサマで手に入れた役なんて……勝負するに値しないって……思わない?」 「真っ当に勝負した結果の方が神聖だとでも言いたいの? 馬鹿ね……私がそんな口車に乗ると思ってる?」 「いやぁ……やめておいた方が良いわよ? 私ってさ……ほら……アレだし……」 「アレ? あぁ……まさか……役無し? それは残念だったわね……2億も賭けた勝負でそんな絶望的な手だったら、勝負する気にもなれないわよね? うんうん……分かる分かる♥」 「そう? だったら……降りてくれるかしら? それで、今度はまっさらな場で勝負しましょう? それならお互い五分と五分で勝敗が……」 「……い・や・よ!」 「……っ!?」 「だぁ~~め! どんなにセコいと思われようが……私はこの手で勝負するわ!」 「……勝負を……する? 降りずに?」 「えぇ。勝負する! 私がそう言えば……あんたは従うしかないんでしょ? だったらあんたも覚悟を決めなさい?」 「……ホントに……良いのね?」 「良いわ。ほら、さっさと終わらせましょう? 店のオープン時間も迫っている事だし……」 「最後の確認よ……“本当に”この手で勝負をして……良いのね?」  綾香の念を押す確認に紅葉は一切の疑いを向けることなく首を縦に振って見せた。そして、自信たっぷりの笑みを浮かべ…… 「勝負するって言ってんでしょ! もうこの決断は変わらないわ!!」  と、言い切った。 「そう……それは……残念ね……」  綾香はその紅葉の返事に手を左右に曲げて広げ、さも残念だと言わんばかりの溜息を一つ零して見せる。  そして、口元にニヤリと笑みを浮かべて紅葉の顔に鋭い視線を向けなおす。 「ちゃんと最後にチャンスは与えたわ。恨むなら、そのチャンスを生かせなかった自分を恨みなさい?」  綾香はそう言って紅葉の返しの言葉を待つ。紅葉は綾香のその言葉を彼女なりの最後の虚勢であると察し、憐れむような表情を浮かべ至極真っ当な言葉を彼女に返してあげた。 「チャンスを生かせなかったのは綾香ちゃんの方じゃない? 折角私と店の不正を見抜いたというのに……それを最初から暴かずにゲームの途中で証明しちゃうんだもの……ぜぇ~んぶ後手後手になって何一つ私の不正を防げてなかったじゃない♥」  紅葉のその勝ち誇った様な言葉に、綾香は口端をニッと持ち上げ返しの言葉を紡ぐ。 「防げなかったんじゃないわよ? それは“敢えて”防がずに使わせていただけ……」 「またまたぁ~♪ 強がらなくても良いのに♥」  綾香の言葉を信じようともしない紅葉の態度に、綾香は改めて残念だと言わんばかりの息を零す。 「私がなぜ……不正の仕掛けを知っていて……敢えてあんたを泳がせたか……分かる?」 「はぁ? まだそれ言う? んな事……もうどうでも良いんだけどぉ?」 「なぜ、あんたに不正をさせて“良い手”を揃えさせたか……」 「…………っ?」 「それは、あんたを……この最後の勝負から逃がさない為よ!」  そう言い切った綾香の言葉に紅葉はドクンと心音を一つ高鳴らせ、何やら自分の周りが不穏な雰囲気に包まれている様な錯覚を感じ僅かに口元を強張らせてしまう。 「……は、はぁ?? 逃がさない? ど、どういう意味よ……それ……」  紅葉の動揺を見た綾香は頭を一度縦に振り少しの間を開ける。そして、顔を上げた彼女は改めて紅葉の顔を見てニンマリと笑みを作って、腕を腰に当てながら説明を続けた。 「あんたに降りる権利を譲渡したのは……あんたが圧倒的に“有利”になっていると錯覚させるため。それで油断させて、自爆するのを誘ったのよ……」 「錯覚? ふ、ふざけないでっ! 錯覚じゃなく本当に有利な条件じゃない!」 「そうね、イカサマを使っているあんたにとっては有利過ぎる条件だけど……私は最初からあんたのイカサマを利用するつもりで考えていたから、その有利な条件ってのは逆にカモフラージュになると判断していたわ」 「カモフラージュ??」 「ただ……あんたの手に良い役が入るかどうかは運任せだった。あんたに良い役が入らなければ私の計画は破綻する……。そこだけが懸念していた部分だったけど、あんたは私の目論見通り、自分に強い役を揃えてくれた……それこそ、あのシューターのイカサマを使って……ね」 「……な、何を言ってるの?」 「私はこの勝負に全てを賭けていた。だから、あんたに降りられるのだけは困ると思ってた……。でも蓋を開けてみれば、あんたは私の想像通りの行動を取って自分に強い役を“入れてくれた”。それで、あんたは勝負からは降りないだろうと確信が持てたから私も安堵出来たって訳よ……」 「……う、嘘つけ! 本当は私に降りて貰いたかったんでしょ? 今更そんな揺さぶりをかけても……前言撤回なんてしないからね!」 「当然よ。もう前言撤回なんてさせない……勝負をする事は決まった事よ。そして……あんたが負けるという運命も……決してしまった」 「あぁ? 馬鹿も休み休み言いなさい! 私が負ける? この手役で? そんな事……有り得ないわ! あんたは知らないでしょ? 私の手に……今……どんな役が入っているか!」  自分は負けない役を手に持っている……という自信が、紅葉の心を支えている最後の柱だった。  綾香はどうせ知らない……自分が彼女の想定よりもずっと強い役を持っている事を……勘づいてさえいない……  そう思って、綾香に言葉をぶつけたつもりだが…… 「知っているわ。フォーカードでしょ? どうせ……」  その様にあっさりと綾香に言い当てられてしまい、紅葉はその後の言葉を出しあぐねてしまう。 「最初の手札を配る時……あんたは2枚目・3枚目を手札に加えた時に明らかに喜ぶ表情を顔に浮かべていた。そして、4枚目・5枚目は渋い表情しか浮かべなかったから……その時点でスリーカードが濃厚だと私は察したわ」 「……ッっ!?」 「その時は何の数字が3つ揃っているか分かってなかったけど……最後にあんたがカードを混ぜようとした時に、それが“A”である事も察しがついた。ついでに、そのAも自分の手役に入れてフォーカードに仕上げた事も理解出来たわ」 「……なっ! な、な、何で……その事をっ!?」 「……あんた……感情が顔に出過ぎなのよ。そんな分かり易く表情がコロコロ変わってたら、いつどのタイミングで良いカードが入ったかバレバレよ?」 「うぐっ!? うぅ……」 「あんた……フォールスシャッフル(混ぜた様に見せて混ぜていないシャッフル方法)が絶望的に下手よね。よくそんな未熟なテクニックで私を呼んでイカサマしようと企んだよなぁって逆に感心するわ……」 「なっ!? な、なんですって!」 「カードを広げた時もAを探す仕草を隠そうともしなかったし、見つけたら今度はそれを初っ端から束の下に潜らせたでしょ? その動きも不自然だったし……見ていて哀れに思えて来たわ……」 「うぐぐっっ! ぜ、全部知っていて……泳がせておいたって訳? 指摘もせずに……」 「そっ♥ だって……あんたがフォーカードクラスの役を作ってくれなきゃ……困る事になるのは私の方だったんだもの♪」 「むぐっ! そ、そこまで言うんだったら……さぞかしあんたは強い役を揃えられたんでしょうね?」 「そうね……」 「カス手を全部交換して……運任せに札を引いてた癖に……よくそんな事が言えたわね!」 「……運任せ? 貴女には……私の手札の交換がそんな風に見えていたの? それは……おめでたいわね♥」 「なっ!? 何ですって?」 「私が勝算も無しに……そんな馬鹿みたいな捨て方すると思う?」 「っ!?」 「2億を賭けた勝負で……そんな運任せの勝負に……出ると思ったの?」 「だ、だって……あんた……確かに……」 「私は……勝てない勝負はしない。だから、この勝負も必ず勝つ……」 「ふ、不可能よ! だって……あんた……自分で混ぜてさっき私にも見せたでしょ? カードが完全に混ざっていた事を! それに……あんたが引いたその札は私が混ぜた山札なんだから、イカサマの仕込みようがない!!」 「フフフ……果たしてそうかしら?」 「なに? 今度は心理戦でも仕掛けるつもり? 無駄よ! もう勝負する事は確定してる! 私を揺さぶって降ろそうなんて考えない事ね!」   「えぇ……勿論、そのつもりはないわ。それに……お望みだったら……先に、このカードを見せてあげましょうか?」 「なっ!? なっ……」  綾香はそう言って自分のカードホルダーの端に手を掛ける。そして、その手に力を加えて……クルリと紅葉に手役の中身が分かるよう引っ繰り返して見せた。すると、その綾香の手役を見た紅葉は目を限界まで大きく見開いて…… 「はっっ???? はへっ!?!??? な、な、な、なん……で? なんでっ? なんでっっ!!!」  と、激しく動揺する声を零し……全身の力が急に抜けその場にへたり込んでしまう。 「ば、ば、馬鹿な? そんな馬鹿な……有り得ない! こんな事……有り得ない!!」  ワナワナと身体を震わせ、信じられないという表情を顔に作ってしまう紅葉……。彼女はすぐに震える足に力を込めなおしてその場に立ち上がり、再度綾香の手役を見直した。  しかし、何度見てもその役は変わらずにそこに揃っており……紅葉を絶望の底へと突き落してしまう。 「な、な、なんでっ!? 何で……あんたの手に……そんな役が……入っているのよっ!!」  絶望を通り越して怒りの感情を露にした紅葉が両手をテーブルに強く叩きつける。すると、その力で揺れたテーブルが先程綾香が置いた山札の束をも揺らし、上に重なっていた複数枚のトランプがズレて山札から零れ落ちてしまう。 「あぁ~~~あ、そんなに強くテーブル叩くから……折角隠してたタネがバレちゃったじゃない……♥」  綾香はそのズレたトランプを見て悔しがる様子も見せずにその様に零し……そして紅葉の強張った顔を楽しそうに見つめ返してやった。 「あ……あ……あっ……何よコレ……? 何でトランプの束が……表の方を向けて置かれているの??」  紅葉の目には、山札から崩れた裏返しの1枚のカードと……その下に置いてあったカードが全て“表”に向いている様子が映り……更なる驚愕に目を見開いてしまう。  山札の1枚目は確かに裏返しで置かれていた……  しかし、その下……  その下に置かれた残り全ての山札が……数字やマークが印字された表向きに並べられていたのだ…… 「え? は??? これは……どういう……??」  その有り得ない光景を目にして……紅葉は動揺を隠せない。  何故ならこれは普通のトランプの置き方ではないのだから、それを見て動揺するのは当然だ。最初の1枚が裏を向いて……残りが表を向いているこの状況……普通にトランプを混ぜて出来る筈がない。  これは一体どういうことなのか? 綾香のあの不可解な“役”と関係しているとでもいうのか??  と、そこまで紅葉が思考を巡らすと……そこでようやく、自分が綾香によって罠にハメられたことを理解する。  綾香の役は“ロイヤルストレートフラッシュ”……  10・J・Q・K・Aのカードを同じマークで揃えるという……運任せでは決して手に入れる事など出来ない最強の役を作って紅葉に見せてきた。  当然……紅葉のフォーカードよりも強い。  そんな最強の役であるストレートフラッシュを……あの運任せの交換で作れるはずがないのだ。  つまりは……綾香もイカサマを使ってこの手を作ったことになる。  どうやってその手を作ったのかは理解が及ばないが、この不可解な山札が関係していることは明らかだ。  綾香は自分が知らないうちにそれを仕込んで……そして、それを自分の手役として受け取った。一体いつ? 仕込んだのはいつで、どのタイミングだったのか?  紅葉は混乱に熱せられた頭をどうにか冷やし、そして思案した……  綾香が……どうやって、あの役を手に入れたのか……を……


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