我が街の大型ショッピングセンターに、これまた大型のゲームセンターを建てようという企画が立った。
某日、建設や法律に携わる人間たちを中心に街の男たちが集められ、説明会が行われた。現場監督を務める者。国の防衛を行う自衛官。街を守る警察官。そして私のような市役所勤めの男もだ。
我々はその建設に執拗なほど反対した。
声を張り上げ、拳を振り上げ、己の正義が燃えるままに反抗した。
不思議なものだ。
今この光景を眺めると、あのときの怒りの所在がまるで思い出せない。子供たちが楽しそうにしているのだから、なにも惑うことなどないだろう。
そのはず。だ。
なのだが、やはりおかしい。
私は心の内側にあるモヤモヤとした感情を抱えながら、子供向けの施設を一人でうろついていた。
楽しげに鳴る機械、はしゃぐ子供の声、喘ぎながら踊るオヤジや、ヨダレを垂らしながら笑うマッチョ、尻の穴を弄られる職人。
「いったいこれは、どういうことなんだろうか」
『そ、そうじゃあ目を覚ませ陽三ぉ』
【ボタン連打でエネルギー! スーパーヒーローブルブル大作戦!】
そう描かれたゲーム機には、珍しく幸せそうではない男が飾られていた。
「ああ、角山さん、こりゃあどうも」
『わ、わしらは、わしらは必死にここを止めたんじゃろ! 思い出せ、思い出してくれえ!』
繋がり眉毛の警察官、角山保さんが全身に鮮やかな白と金色の全身タイツを身に着けて、両手をガラスにおいて必死に語りかけてきていた。
なるほど、この姿は正義のヒーローということか。オヤジくさい顔にヒーロースーツ、うむなかなかに悪くない組み合わせだ。言っていることはイマイチ不明瞭だが。
しかし、やはりなにかが引っかかるのも事実だ。
「ううむ……」
私は深く思案しながら、大きな大殿筋を子供用に作られた小さな椅子にどっかりと降ろした。
なんとも収まりが悪いが、腰を落ち着けるくらいのことはできた。
「賭け事のようなものをやらせるのは……ううむ、すこし感心しないと言うか……そこがひっかかるのか?」
『ち、違うじゃろう! そんなんじゃあない! わしを見ろ、このわしを!』
太ももで圧迫されたポケットに太い指を滑らして中を探った。そこには、さっき息子からもらった一枚のコインが入っていた。
「やはり――そうだな、自分でもやってみないのに、批判するのはよろしくないな」
『なッ、なにをいうとるんじゃあッ!!』
ガラス越しの角山の声を聞きながら、陽三はコインを投入口に入れた。
チャリーン♪
大きな音がして、角山さんの収まっていたガラスが光り輝いた。
「え、お父さんもやるの!」
「ああ、ちょっと頑張ってみようと思ってな」
父がゲームをやるというのは、子供にとってなかなか珍しく、楽しく、そして嬉しいことのようだ。
どこかで見ていた息子の陽之助がすぐに駆け寄ってきて、小さな体で私の逞しい背中に貼りついた。
『あああ、わしゃぁ、わしゃぁ折角正気が残っとるんに、やめろ、やめてくれ、……て、手加減してくれええ』
レンダダ!!!
画面から派手な音楽とよくわからないメーターが飛び出して、私にシンプルな指示を出した。画面から目を離せば、ウィーンと低い音を立ててヒーロースーツ姿の角山さんの股間に大きなマッサージ機が配置されていた。
「ええっと、これは、……父さんはなにをすればいいんだ?」
「これは簡単だよ! ボタンを連打するだけ!」
「そうそう、おもいっきりダダダダーーってやったらええだけやで」
連打。つまりボタンをとにかく何度も押せということだ。二人の息子たちが陽三に得意げにアドバイスをしてくる。陽三は苦笑しながらボタンに向き合った。
「ようし、やってみるかぁ!」
私は身を乗り出してボタンに手をかけた。
ガラス越しに反射する顔が、ラガーマン時代に鬼だ戦車だと呼ばれていた表情に変わっていた。どうやら父になった今も、闘争というものは血が滾るようだ。
『どうなっとるんじゃ、そがぁなアホなこと、どうしてお前さんまで……』
「ははは、悪いな角山さん、息子たちにいいところ見させてもらうぞ」
私は軽く角山さんに手をふると、そこから一心不乱にボタンを連打した。
「フンーーッ!!!」
ドゥンドゥンドゥンドゥンドゥンドゥン♪♪
筋肉がガッシリついた腕でがむしゃらにボタンを連打する。
いかにもなにかが盛り上がっていく音がして、画面のメーターが溜まっていく。子供向けに作られたノルマが凄まじい勢いで満たされていく。
細かなテクニックを必要としない動きにアドレナリンが分泌されていく。
ビンビンビンビンビンビン♪♪♪
『イカンイカン、そがぁにされてしもぉたらわしゃぁあああッ』
キュピーン♪♪
コウゲキー♪♪
特に甲高い音がして、メーターがマックスにまで溜まりきった。
『あ……あ……あああッ』
ガラスの向こう側、ヒーロースーツのもっこり股間にブルブルと震えるマッサージ機が突き進んでいく。戦艦に突き刺さる魚雷のように、ゆっくりと、しかし確実にそれは標的を捉えた。
『ぬ、あ、あ……―――あひぃぃいぃぃぃ♥きもちよすぎじゃろぉぉぉぉぉおおおおんん♥♥♥』
ぱんぱかぱーーーん♪
見事直撃、一発撃沈。
大袈裟なファンファーレとともに、角山――いや、スーパーヒーローマッスルプラチナは見事私のボタンさばきの前に完全敗北を喫した。
『はひっ、はひぃハヒハヒハイィ♥ ブルブルがブルブルが♥ スーパーヒーローチンポをブルブルゥゥゥ♥ こりゃたまらんたまらん♥ あひぃぃぃぃぃ♥』
ヒーロースーツ姿の角山は繋がり眉の顔をぐちゃぐちゃに歪めて、見事なまでのヘロヘロ顔を晒して痙攣した。
穂村さんのゲームによく似ているが、あれが相手を倒すことに特化しているのに対して、こちらはどうやら少し違うようだ。
「あひぃ降参じゃああ♥ わ、わし降参、もう降参ッ降伏するからわしも仲間にいれてくれえええ♥ わしも、わしもここの建設手伝うから仲間に入れてくれええ♥♥♥」
角山さんはかつて我々がしたように、降参降伏宣言をして見事に正義を手放した。
股間にダイレクトにくるあの気持ちよさに、家族も挟持もなにもかも手放して、腰に手を当てふんぞり返ってチンポをグリグリ押し付ける。
「すごいなあオトンッ、一発や」
「ね、お父さん凄い!」
「ははは、そうかそうかあ」
『ほひぃぃぃいい♥ むほっぉぉおぉチンポチンポおぉぉヒーローチンポォ♥♥』
陽三は笑いながらも、角山の股間から目が離せずにいた。
こんなにも幸せなのに、違和感は増すばかりだ。
『あひ♥』
ぱんぱかぱーーーん♪
二度目のファンファーレとともに、角山のチンポからはヒーロースーツを貫通するほどの精液が迸っていた。
花火でも打ち上がるかのように、彼は屈強な体からびゅくびゅくと気持ちいい汁と人間性を飛び散らしていった。
私はその光景を見ながらポチポチと名前を入力した。
『イグイグ♥ はひぃぃぃいんンン♥ 射精でありますぅぅう♥♥』
ヒーローを倒した英雄『ようぞう』として、このゲーム機と、仲間にしたヒーローに名前が刻まれる。
ヘロヘロに喘ぐ角山さんのスーツには、子供でも読めるひらがな表記で私の名前が刻印されていた。
「ああ……」
私はその美しい光景を目にして、ため息のような声を出した。
◆◆◆
「ねえお父さん、次はこっちやってよ!」
「オトンにはコッチのほうが得意や思うで!」
ゲームをする父を見るのは、物珍しさもあってやはり楽しいことなのだろう。息子たちが父親を奪い合うように絡みついている。
なんとも微笑ましい光景だ。
まもなく次のゲームを始めることだろう。
私はそれを見つめて、だらしなくヨダレを垂らしながら叫んだ。
『は、は、早く、早く楽しいゲームをしようぅぅ♪ピンポーン♪ってやつ、パンパカパーンってやつをやるんだああぁぁ♪♪』
機械の中、ガラスの中から、私はかつての息子たちに向かって腰を振っていた。
ああ、俺のように、こんなに格好いい父親が……このゲーム機の中に入っていないなんて、どう考えてもおかしかったのだ。
ずっと引っかかっていた。
角山さんも穂村さんも梁さんも遊んでもらっていたのだ。
この俺が、その中に入れないなんて――そんなおかしなことはないだろう。
『パ、パンパカパーン! 新商品、正義のヒーローファイトマン参戦ンンッ♪』
私は大声を上げて、みんなに挑むように仁王立ちになった。
壁紙と同じ水色のヒーロースーツを身に着けて、ガチガチの勃起を浮かび上がらせている。こんな雄々しいヒーロー、さぞやっつけたくなるに違いない。
あのブルブルを連打して、この私をやっつけて勝利に笑う。ああ、待ちきれない。早く、早く、早くコインを入れてくれ。
ラグビーで鍛え上げたこのゴツい肉体、立派なチンポ、鋼の意志。私はきっと――最終ボスにでも任命されて……。
「ねえお父さんやってやって!」
「うーむ、まあ待った待った、お父ちゃんの身体はひとつしかないんだぞお♥」
さっきまで機械の中にいた穂村さんが私の代わりにせがまれていた。
私が機械に入ったことで、街の中に必要な父親の数を割ってしまったようだ。自動調整が働いて、最も長い時間楽しんだ穂村さんが吐き出されたのだろう。
いやあ先輩には悪いことをした。しかし、私は我慢できなかったのだから仕方がない。たっぷり何日もいい思いをしたのだから、今は父親という役割をやってもらわなくてはフェアではない。
「ちゃあんと一緒に遊んでやるからなあ、お父ちゃんに任せとけっへへ♥」
ラグビーユニフォームを着たままの穂村先輩は頭を嬉しそうに撫でているが、下半身はすっかり癖になったガニ股のままだ。
「んひ♥」
ファンファーレが鳴ると、イキすぎて馬鹿になったチンポからはとろっと甘ったれた汁が飛び出た。あれで俺の息子たちの世話がちゃんとできるのか、まったく心配なものだ。
『ハァハァ、ソコのお父さんッ、そこのお子さんっ、はやくぅ、早くやっつけないと、ヒーローがここをぶっ壊しちゃうぞお♥』
俺はそんな家族に向かって腕を組みながらチンポを振りかざして挑発した。この大切な施設を破壊するなんて、我ながらなんて名演技。心にもないことを言えたものだ。これはさぞ効くことだろう。
そう思った。
しかし。
「うーんじゃあこっちがいいなあ」
「おう、やろやろ!」
『えッ――』
息子たちの興味は、もう他にいってしまったようだった。子供の興味なんて移ろいやすいものだ。それはわかっていたが、いざ自分のこととなるとこれほど呆然とするものなのかと私は打ちひしがれた。
『あ、ま、待ってくれえ♥』
息子に遊んでもらうためにこうしたのに、何故だ、ああ、そんな……そんな……。
「――あ、いいじゃん次これやろーぜこれこれ」
そんな私の筐体の前にやってきたのは、つい先程私が叱りつけた少年たちだった。
『あっあっ♥』
「よっしゃ、ヒーローやっつけようぜ!」
二人の少年は私の筐体にコインを入れた。
じゃりン♪
綺麗な音がして、私の目の前にあの兵器。チンポをブルブル気持ちよくするスペシャルなマッサージ機が現れた。
ああ、あんな乱暴な少年に。この俺が。息子じゃないのに。あ、あ、でも、でも、でも待ちきれない。ああああ、最初は息子だと、陽之助だと決めていたのに。それだからここに入ったのに。
――ああ、そうだ、我慢すればいいんだ。気持ちいいだけ味わって、射精は息子が戻ってくるまで我慢すればいい、なんだ、簡単なことじゃないか。さすがこの俺ファイトマンだ♪
ディンディンディンディンディンディン♪
少年がボタンを連打している。
なかなかの連打力だ。だがこれでは最大までメーターは行かないだろう。
ビンビンビンビン♪♪
ああ、いい音がしている。くるぞ、くるぞ。
ラグビーチームの不沈艦、一橋陽三に突撃してくるぞ。しかしまあ、この巨体の穴はあけられまい。
キュピーン♪♪
コウゲキー♪♪
『ぬほ――♥ ほっぉぉぉぉお゛ぉ、あ、あ、あ、無理、これ無理だぁ♥ 気持ちぃ♥ キモチィ♥ ガマンムリィィィイイッ♥』
気持ちよすぎる気持ちよすぎる。
刺激があまりに強すぎるッ。
『――あ、も、もう……もういいかあぁッッ♥ はひぃぃぃ♥♥ 戦艦陽三、一撃撃沈ンンンでありまああっっすう♥♥♥♥』
ヒーロースーツにぶち当てられた電マに、俺は完全に屈して自分から空色水色海色スーツチンポをデンマに押し当てた。
更に強烈になる快感で、脳は一瞬で蒸発していくのを感じた。顔はぐちゃぐちゃ。筋肉パンパン。チンポは最大までビンビンだ。
ああ……もう全部どうでもいい。気持ちいい。最高。お父さんはゲームに負けちゃったから、もうしょうがないのだ♥
「なーんだ、これレベル1だってーラクショーすぎてつまんねー」
『ンヒィィイィチンポコリコリ♥ コリにきくぅぅう♥ パパヒーローにキキすぎるぅぅぅぅうコリコリィィイ♥♥♥』
俺はムキムキボディを見せつけて彼の勝利を讃えているが、少年は俺を適当に嘲っていた。あっけなくイキすぎだと、そう言われてもこんな気持ちいいのだからしょうがないじゃないか。キミも父親になればきっとわかるぞお♥
『はぁぁぁ♥ ふへえええ♥♥ ま、またプレイしてくれええ♥♥ うほ♥』
そんな俺の正義のスーツに、少年の名前が刻まれる。
『あっあっそ、そんなあ♥♥』
その屈辱に、私のチンポはますます固くなった。
この勝利は誇るほどのこともないのか、俺の逞しい胸板には「あああああ」だなんて適当な名前が刻印されてしまったのだった。
『うぅぅ……おぉぉぉぉ♥♥』
俺はその胸板を見ながら、再び精液を噴き上げだ。敗北の証。雄の白旗。完全屈服の証拠が、イカ臭さをプンプン撒き散らしながら迸る。
まとわりつくような男臭さを味わいながら、俺は突然重力を失った感覚に包まれた。踏ん張っていた床が消えて、俺の体が床下へと収納されていくようだ。まるでコントのオチのように適当に。
『あああ♥また是非遊んでくれ私の―――』
言葉も言い終わらないうちに、俺は彼らの視界から消え去った。
どすんと柔らかい感覚をケツに感じた。
気がつけば俺は、階下の収納施設にいた。そこには全てのゲームで使用されるオヤジ達……いや道具達が次の出番をもち詫びてあちこちで先走りの汁をダラダラ垂らしていた。俺を含めて。
次のゲーム。次の敗北。次の射精。
待っているだけでやってくるご褒美に、みんな骨抜きにされている。ああ、あそこに見えるのはさっきまで正気だった角山さんだ。順番待ちの列に並びながら、もう待ちきれないのかセンズリを扱いている。だけど、自分でするセンズリ程度であの快感に叶うわけがないと分かっているのか、遠い目をしてヨダレを垂らしている。なんて浅ましい格好だ。
向こうにいるのは梁さんだ。愛しい息子に洗脳された彼は、その快感の余波が強すぎたのか今も一人でマンキニダンス、コマネチ行為を続けている。
ああ、やはり格別だったんだろう。羨ましい。俺も次はあの機械に並んでみようか。
外に出た穂村さんも、じきに戻ってくることだろう。
なにせココは大人気施設だ。毎週毎週子供はやって来る。その際にはまた交代だ。それまでは、あの癖になってしまったガニ股姿で俺の息子たちの面倒を見てくれることだろう。もしかしたら外で、一人でゲームごっこをするかもしれない。ああ、それもいい。つぎ外に出たらそうやって遊ぼう。ああ、外に出たくなんてないけど、仕方がない、仕方がないことだ。
「ああ、待ちきれない、待ちきれないぃいぃぃぃはやくゲームを遊ぼう、ずーっと遊ぼう、お父さんたちといっぱい遊ぼうぅぅう♥♥♥」
頭上の蓋が開いて、また一人のオヤジが堕ちてくる。
ティロリロリーーン♪
「あふ♥♥」
漏れてきた音が聞こえてくると、ただそれだけで俺を含めたオヤジ達は、エサの臭いを嗅がされた犬のようにチンポから汁を垂らしたのだった。
完