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ゴシック
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電車で口喧嘩になったら、そりゃあ降りてケリつけるでしょ 前

朝の通勤時、私はいつものように満員電車に揺られていた。今日は珍しく座れてラッキーだった。基本的には立って5駅先の会社の最寄り駅まで耐えなきゃいけないけど、座席に座ることさえできればなんてことない。 だって、立っていたら高確率で気持ちの悪いおっさんが身体を必要以上に寄せてくるから。私の大きな乳と可愛い顔に惹かれるのはわかるけど、いい歳したおっさんが近寄ってきても何にも嬉しくない。私はその度に電車が揺れた偶然を装っておっさんの腹に肘を打ち込むんだけど、座ってさえいればそんなこともせずに済む。 今日はラッキーだ。 でもどうやらそういうわけでもないらしい。 次の駅に着き、私の目の前につり革を持って立っていた人が車両を降りていく。そして入れ替わるように乗ってきた人が私の目の前に立った。その時私はスマホをいじっていたので顔は見ていないけど、しばらくして目の前から香水の匂いが香ってくることに気付いた。満員電車では嫌われる、強めの匂いだ。その匂いに釣られるように、私は顔を上げて目の前に立つ人を見上げた。 そこでは、マスクを付けた長い金髪の女が片手でつり革を持ちもう片手でスマホをいじっていた。 その女を始めてみた時、私はただ純粋に気に食わないと思った。白のTシャツの下で私と同じくらいの存在感を放つ大きな乳も、私とは絶対に好みが合わない香水を匂いも、マスクで隠れてはいるけど、おそらくかなりの整った顔立ちをしているであろう顔も、何から何まで気に食わなかった。 そのまましばらく女を見ていると、さすがに金髪女も視線に気付いたのか、スマホから目を外して私の方を見た。その見下ろす視線がさらに気に食わなかった。状況的に仕方が無いのだが、見下ろしいてんじゃねーよと心の中で罵倒した。 「臭いんだけど」 思わず私はそう声に出していた。隣に座っていた女子高生や金髪女の隣に立っていたおっさんが、私をギョッとした顔で見る。 私の悪い癖だ。昔から思ったことを自分でも気づかないうちに声に出してしまっていることが多々あった。そのせいで今までにも沢山面倒ごとを起こしてきた。朝の通勤時という状況も悪かった。これから憂鬱な仕事が待っているからどうしても機嫌が悪くなる。そんな時に臭い香水をした女が目の前に立ったから、つい言ってしまったのだ。 周りの乗客たちが突然の私の罵倒に驚く中、言われた当の金髪女は眉一つ動かさず、冷静に言い返してきた。 「じゃあ、隣の車両行けば?」 「やだよ、せっかく座れたんだから。移動したら立ってなきゃいけないじゃん」 「なら降りればいいじゃん」 「なんで?あんたが降りれば解決じゃない?」 「あんたが後から乗ってきたんだからあんたが降りなよ。周りの人も迷惑してるよ。臭い香水だって」 「いま喋ってるあんたの口の方がよっぽど臭いよ」 突如として始まった私と金髪女の口喧嘩を、周りの乗客たちは固唾をのんで見守っている。金髪女の隣に立っているおっさんはいきなり殴り合いが始まるんじゃないかと身構えているし、私の隣に座っている女子高生は面白い映画を観ているように楽しそうな表情だ。 そんな時に、電車が次の駅へと到着した。周りの何人かの乗客が下車していく。金髪女は私との睨み合いを切り上げて開いたドアを見つめ、次に私を見下ろして言った。 「降りる?」 「いいよ」 ほとんど反射的にそう言い返すと、金髪女はドアの方へと歩き出し、私もその後に続いた。 この駅で降りてしまったら会社への遅刻はほとんど確定なのだが、これから普通に仕事があることなんて、その時の私の頭にはすっかりと抜け落ちていた。 改札を出た時、前を歩いていた金髪女が振り返って聞いてきた。 「どっかいい場所ある?」 「・・・・ある。付いてきて」 今度は私が前を歩き、金髪女は無言でその後ろを付いてきた。 これから何が起ころうとしているのか、私たちは口で言わなくてもわかっていた。多分、今日は仕事を休まなきゃいけなくなることも。 それでも私の足は止まらなかった。


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