ーある女性の日記
「彼が連れて行ってくれたのは、渓谷の側にある老舗旅館でした。
そこまでは彼がレンタカーで連れていってくれたのですが、道中ずっと他愛もない話で盛り上げてくれて、数時間のドライブはあっという間に終わり、本当に楽しかったです。
ついてみれば、旅館というより、昔ながらの日本の民家といった感じという印象を受けました。築何年経っていたのでしょう?100年近くは過ぎていたのかもしれません。
入り口の引き戸を開けると、紫苑色の浴衣を着た女将さんが恭しく出迎えてくれて、私たちの荷物を部屋まで運んでくれました。
その部屋は、まさに日本の民宿!でした。味のある畳、障子で仕切られた広縁、そして渋い光沢の座卓。全てが感動するくらい魅力的!
窓からは渓谷がバッチリ!眼下に流れる川と相まって、紅葉が見事に照り映えています。
・・その後は温泉に浸かり、浴衣に着替え、食堂で日本料理を頂きました。そしてまだ身体がぽかぽかしたまま二人で部屋に戻ってくると・・・。
布団が一つだけ敷かれていました。
全てを察して、私は「ぼっ」という音がしたのではというくらい、一瞬で赤面してしまいました。
『絶対今日は寒いから、布団、暖めといてほしいな』
私の耳元で、彼が囁きました。もう、蕩けそうな気持でした。
断る理由はありません。ほんの少しだけ呼吸を整えて、『はい』と私が言おうとした、まさにその瞬間・・・私は首に強い刺激を受け、そこから先のことは、思い出せません。
・・・気が付くと、私は布団に寝かされていました。そして身体を起こそうとしたとき、すぐ違和感に気付きました。身体に何かが巻き付いており、動けなかったのです。上手く呼吸もできませんでした。何とか掛け布団から這い出て、そして自分の身体をみて驚きました。
銀色のテープで完全に覆われていたのです。
『えっ?』と声をあげたつもりですが、何かで完全に口が塞がれていることも、このとき気付きました。
周りの様子を必死で確認すると、彼が座卓で独り、徳利でお酒を飲んでいました。お猪口に入った熱燗をぐいと飲み干して、彼は私を見つめました。
『ーもう少し暖めておいてほしいかな。今晩はどうも、冷えるらしい』
そういうと彼は、私を再び仰向けに寝かせ、布団をかけました。私は動けませんでした。縛られているからなのか、恐怖からなのか、それとも・・それでも彼を受け入れるつもりがあったからなのか。
・・その後、私たちに何があったのか。それは、ご想像にお任せします。」