市街地のビル群。その裏通りに、あるバーがひっそりと営まれている。 立地からして、そもそもその存在に気付く者はまずいない。 まして、表向きはおしゃれなたたずまいのバー、その"真の姿"を知るものとなれば、ほぼ皆無である。 ―限られた情報網と、ある水準以上の財力を持つ人間のみが、その地下で行われる催し物を楽しめる。 それは・・・『脱出ショー』である。 しかし、ただプロのマジシャンを呼んで、水槽からどうのこうのといった陳腐な話ではない。 彼女らが"本気で"挑まざるを得ないような、そんな趣向が凝らされたショーなのだ。 広間の真ん中にある円状のステージは、ネオンに照らされ妖しく光っている。 その周りを、大量のイスが取り囲んでいる。 そして今日は―ある二人の女性が演者らしい。 金髪の方は白の、黒髪の方は黒のテープで、口からつま先までを完全に拘束されている。 更にお互い、カラビナと頑丈なベルトで括り付けられている。 ―ヴェネチアンマスクを着けた、タキシードの男がステージの横に立った。 『彼女たち二人は、実はそのテープの下に、サウナスーツを着込んでいます。会場の熱気もあり、あまり長時間は持たないかもしれないですね。脱出が先が、バテるが先か?高価なお酒を飲みながら、ぜひそれをお楽しみください!』 会場から歓声が上がる。目に見えてステージ上の二人は困惑している。 いよいよショーが始まった。 いや、ショーというより・・ドキュメンタリーか? まぁ、どっちでもいいか。 俺はシャンパンの入ったグラスをもがく二人に少し傾けてから、それを一気に飲み干した。 ー完