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倍々世界8



8月10日



「……」


 篠田はあっけにとられるしかなかった。軍に入隊して早五年。順調に昇進を重ね今では小隊の長を任ぜられるほどになった。今回の台風被害でも災害派遣で出動していたが、急遽上からの指示。それが――巨人の世話などとは、流石に想像もつかなかった。


「へー……意外にイケんだな……」


 体育館に運動用マットを何枚も敷き詰め、そのうえで胡坐をかきながら、災害配給用の糧食を食っている男が一人。昨日まで台風による土砂崩れでこの学校に閉じ込められていた野球部員の一人、冴島育人だ。昨日道路が開通し、同じく閉じ込められていた他の部員たちは体調に問題ないか確認するためふもとの病院まで運ばれた。――この冴島育人を除いて。なぜならば。


(デカすぎるだろ……)


 レスキューの発見時冴島育人は、周りの部員の二倍ほどもの大きさを誇る巨人になっていたのだ。ありえない事態に当然現場では判断できるわけがなく、上に判断を仰ごうともそもそも信じてもらうのに時間がかかる。篠田だって自分の目で確認するまでは冗談か何かだと思っていた。最終的に注目と混乱を避けるため、冴島育人のみこの学校に留め置かれることとなった。育人本人は不満そうだったが、大人たち総出でしばらくの間だけ、と何とか説得した。


「はー、食った食った」


 

 隊員たちに見守られながら飯をかっ込んでいた育人はようやく腹が膨れたのか、胡坐から座ったまま後ろに手をついて身体をそらす。災害用のアルファ米を何十人分も食べておきながら、その腹筋は凶悪なまでの凸凹を維持していた。腹筋だけではない。胸筋も腕も脚も、軍人が何人束になっても敵わないぐらいに巨大に発達している。そこで育人が身体をひねった。


「よっ、と……」


 腰を上げようとした育人を見て、篠田は慌てて声を張る。


「おい、冴島くん、なに……を……」


 駆け寄った篠田の声がしりすぼみになる。上へ上へと上昇していく育人の身体。育人の身体は、昨日まで常人の二倍ほどあった。篠田が向かい合っても、臍どころか太腿の付け根にも届かない。だが今は恐るべきことに、篠田の胸の位置にあるのは育人の膝なのだ。目の前にあるのは太腿の下の方。育人の身長はたった一夜にして560㎝ほどにまで巨大化していた。信じられないが、ただただ事実だった。篠田が首をもうほぼ真上を向くようにして見上げる。丘陵のように盛り上がり視界をふさぐ大胸筋の向こうに、ニヤニヤとした笑みで育人は篠田を見下ろしていた。


「ちょっとションベン行ってくるっす」

「えっ……あ、いや待て、今……」


 外につながる体育館の出口へ向かおうとする育人を一瞬呆けていた篠田が慌てて引き止める。


「なんすか」


 声に少しだけ不機嫌な色味を乗せて育人が振り返る。すると、勢いに任せて育人のチンコがブルンと跳ねた。身長5メートルを超える育人サイズの超巨根は、萎えていても大人の脚ほどのサイズを誇る。マラビンタなどでもされようものならキックボクシング選手の回し蹴りを食らったかのごとく吹っ飛ばされるだろう。そんなこん棒のような質量で振り回されるチンコを篠田は間一髪でよけ、とっさに育人から距離を取る。育人が軽く振り返っただけでそれだ。周りの隊員はあっという間に警戒態勢に入っている。


「いや……隊員を付き添わせよう」

「やだなー、オレ、ションベンくらいひとりで行けますよ」


 それはそうだが、昨日の時点で育人は用を足すのに相当に苦労をしていた。そもそも両開きの体育館のドアから出るのに膝をつき這って潜らなければならなかった。トイレでは背中どころか腰が天井に着くようなありさまで、しゃがみながら小便器まで移動する始末。常人の二倍以上ある育人のでかい手、それでも手に余るサイズのチンコを持ち上げ、しゃがんでも目線の下にある小便器に照準を合わせ、放水のような勢いで小便。2回目からはもうあきらめて外で用を足すことになった。それでも3.6メートルの時点。5メートル以上になった今では、どのような事態になるか想像もつかない。


「あとついでに抜いてきていいすか?」


 篠田を見下ろした育人が、自分のチンコに手を添えて重々しそうに揺らす。でっぷりとした、萎えていてもこん棒のような重量感があるそれを目の前で振り回され、篠田は首を縦に振るしかない。ようやくといったように出口に向かう育人に隊員二人が駆け足でついていく。体育館の床が今にも抜けそうなほどきしませながら歩く育人の歩幅は、何せ常人の三倍近くだ。隊員が開けた出口の前でしゃがみ込んだ育人だが、それでも肩が扉より上に来ている。


「ちっ……面倒くせー……」


 育人はしゃがんだ状態からさらに四つん這いになり、這いながら外へと出ていく。篠田からはみっしりと筋肉のついた大殿筋とハムストリング、その中央に垂れ下がる人の脚サイズのチンコが丸見えで、無事その姿が外に出た時、ほっとしたように息を吐いてしまった。


(……これがいつまで続くんだ……)


 篠田は眉間に手をやって眼をつぶる。生物の成長どころか物理でさえ説明がつかなそうな身体の巨大化。何度も写真や映像とともに上申しているが、上も手をこまねいているらしい。数日前の台風被害が思ったよりも大きくそれにリソースが割かれているのもあるだろうが、篠田はこの冴島育人という存在に、地震や台風などの自然災害よりも大きな驚異の予感を感じていた。


「篠田隊長」

「おう、どうだった」


 部下の声が聞こえて、篠田がぱちっと頭のスイッチを切り替える。篠田より3つ年下の部下ははきはきとした声で篠田の要求に答える。


「第二大隊の炊事班が一二〇〇までに到着します。200人分の食糧も同時に到着予定です」

「早いな」

「災害支援用の一部をこちらに回したようです。ただ、野外炊事車が少し遅れるらしく……」

「そこは寮の食堂を使ってもらおう。多少手間取るだろうが大量調理のスペックはあるはずだ。一応使えるか確認しておけ」

「はい」


 今篠田たちが難儀しているのは、育人の食事のことだった。育人はその身体の大きさに違わず一度に10人分や20人分の食事をぺろりと平らげ、学校の寮にあった食料を備蓄も含めて食いきってしまったのだ。元々閉じ込められていた部員たちで何日か過ごしていたため食料が減っていたのはあるが、それでも異常な消費ペース。夜中にかき集めた戦闘糧食で朝は何とかしたものの、昼からは炊事班に頑張ってもらうしかない。


「食料だが、どんどん追加で運び込んでもらえ」

「えっ、これ以上ですか?」


 目を剥く部下に篠田はため息をつく。


「一夜で人間の2倍から3倍に成長したんだ。明日4倍とかになっても何らおかしくない。200人分が2日持たんかもしれんぞ」

「りょ、了解です!」


 部下がまた走っていく。育人はまだ帰ってこない。おおかたまたあのとんでもない量の射精をしているんだろうと想像しながら、篠田はまた大きくため息をついた。





倍々世界8

Comments

コメントありがとうございます! もうこのサイズじゃ人間用のものは無理ですね~あと何日持つでしょうか……本人とは裏腹に周りだけ焦ってますw

ichiya

あ~、いよいよ世に知られてしまいましたね~。 身長が2倍になると胃袋の体積は2×2×2の8倍になるらしいので、これからも倍々に大きくなっていくとなると 篠田さんの予想も的中しちゃいそうですね……。 それにしても、ここまで大きくなると食事事情やらトイレ事情やら 色々と不都合も出てきてしまっていますね~。 まぁ育人君本人はそんなに困ってなさそうというか、圧倒的巨大感への興奮の方が勝ってそうですね……!

曹達(ソーダ)


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