XaiJu
佐隈
佐隈

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支部で出してるシリーズの創作BL馴れ初め(進捗)

出会いは会社の飲み会。 周りも盛り上がり喧騒の中、ふらりと1人で席を立ち、外へ出ていった子供がいた。夜も遅く心配になり追いかけると、雪が降っている中公園のベンチでぽつんと座っていて、思わず声をかけた。 「…蒼井海也くんだよね?」 話を聞くと俺の上司である蒼井課長─海也くんのお父さんは、今回は飲み会を断れず参加することになったらしい。お母さんは別のお仕事で、小学3年生である海也くんを家で1人にする訳にも行かずお父さんに連れてこられたようだ。元々騒がしいのは苦手らしく、早々に抜け出したとのこと。俺も飲み物はあまり得意ではないし、寒いから自販機で飲み物を買って、マフラーを貸した。少し空気が気まずくなるくらいには冷めているし、年齢の割に落ち着いているなと思ったが、飲み物はココアと可愛らしい一面もあって。ふわりと香る、吸い込まれそうな甘い匂いに少しだけドキッとした。……匂い? 慌ててバッと立ち上がると、海也くんはきょとんとした顔でこちらを見上げてきた。この子、もしかしてオメガなのか? 「?……あの」 「あーごめんね!ちょっと用事思い出した!戻ろっか!」 「え、でも……。………そうですね」 やはり騒がしいところへ戻りたくはなかったのだろう。しゅんとして俯いた姿に胸を痛めながら、海也くんとお店に戻る。お店に向かっている間も、甘い匂いが漂ってきて、頭がどうにかなりそうだった。 ─── 「伊波、この後予定あるか?」 「いえ、ありませんけれど…何かありました?」 数日後。仕事が終わり、帰り際に蒼井課長に呼び止められた。心当たりは海也くんしかないけれど、何か失礼があっただろうか、とうっすら冷や汗をかく。店に戻った後はこっそりオメガかもしれない、と伝えたくらいだし、何なら面倒を見てくれてありがとうとお礼を言われたけれど。 「飲み会の日、海也にマフラー貸したんだろう?海也が直接返したいらしくて、今駐車場で待ってるらしいんだ。行ってやってくれないか?」 「え、海也くんがですか?」 そう言えば貸したままなのを忘れていた。古いものだったし全然良いのに、とも思ったが、折角返したいと言ってくれてるのだから、素直に従うことにした。 会社の地下駐車場に向かうと、海也くんは端の方に立っていて、俺を見つけるとたたたっと小走りで駆け寄ってきた。 「……あの、これ」 「別に良かったのに。わざわざありがとね。…1人で来たの?」 「…はい」 前と同じく、あまり表情は変わらない。正直何を考えているのか全く読めないけれど、折角直接届けに来てくれたのだ。怖がらせないようにしゃがみこんで目線を合わせ、頭を撫でるとびくりと身体を揺らして目を丸くしていた。 「まだ小学生なのに偉いね。流石蒼井課長の息子さんだなあ」 「………」 褒めたつもりが、むす、と頬を膨らませてしまった。何か気に触ることを言ってしまったかな、と焦りつつどうしたものかと考えていると、またあの甘い香りが鼻腔をくすぐる。 ああ、やっぱりこの子は──。 あまり長い時間2人きりでいるのは良くないだろう、なるべく早く立ち去ろうと立ち上がると、海也くんはスマホを取り出した。 「………連絡先、交換してください」 「……え?」 思わずすっとんきょうな声が出る。マフラーも返して貰ったし、飲み会の日に話して以来だし、別にもう会うこともないだろうと思っていたから驚いた。というより、何故?俺と話していても表情はあまり変わらないし、淡々としているし、どちらかと言えばあまり好かれてはいないような気がするけれど、断るのも何だか申し訳ない。快諾すると、連絡先を交換し、その後はすぐに解散した。 ─── 「いや~、いつもありがとうな伊波。海也と連絡してるんだろ?」 「課長…。こちらこそ、その、何というか…」 蒼井課長は俺の席の隣の来ると、満面の笑みを浮かべてきた。海也くんと連絡先を交換してから1週間。毎日他愛の無いメッセージのやり取りを続けている。おはようございます、とか、お疲れ様です、とか。大体送ってくるのは海也くんからだけど、特に深い内容は無い。 「海也のやつ、かなりお前のこと気に入ってるからなあ。あいつあまり人に興味無いから、ここまで人に自分から歩み寄るなんて初めてなんだよ」 「え、俺のことをですか!?」 「学校でも友達は幼稚園から一緒の男の子1人しかいないんだよ。それでも放課後遊んだりとかはしないな。お前、かなり好かれてるぞ」 俺が海也くんに好かれてる…?いや、むしろ嫌われてるんじゃないかと思ってたんだけど…。正直嬉しいけど、驚きの方が大きい。そんなことを考えていると、ポーン、とメッセージが届いた。送り主は海也くん。何というタイミング。 「『今日、一緒に夕御飯食べに行きませんか』」 思わず課長と顔を合わせる。課長は今まで見たこと無いくらい口角を上げてニヤリとしていた。 「で、どうするんだ?」 「へ?」 「勿論行くよな?」  「え?で、でも、えっと……はい」 課長の圧に断れるもなく、了承の返事を送るとすぐに既読がついて、『じゃあ18時に駅前で待ってます』と返信が来た。時計を見るともうまもなく定時になる。 「……よし、じゃあ行ってこい!海也のこと頼んだぞ~」 「え、ちょっと、課長!?」 「うん?…ああそうだったな。飯代だ、ほら」 「いやいや、そうじゃなくて!」 もしかして家で打ち合わせでもしていたのだろうか。してやられた、と思いながら飯代は断ろうとするも、無理やり押し付けられてしまい、仕方なく受け取る。後で海也くんにこっそり渡して返そう。 終業時間になり、駅に向かうと海也くんが見晴らしの良いところで立っていた。冬の18時ということもあり、暗い時間にオメガ疑いの小学生が1人というのは危ない。急いで駆け寄ると海也くんはぺこり、と頭を下げた。 「…すみません、当日にいきなり」 「ううん、気にしないで?俺も会いたかっ──」 「?」 「ううん、ごめんね。何でもないよ。行こっか」 ここ1週間別にそんなこと考えてないはずなのに、自分でも会いたかった、なんて言葉が口から出てしまい驚いた。海也くんは不思議そうに首を傾げていたけれど、誤魔化すように笑って歩き出す。 着いたのは駅から5分程のお店で、海鮮が美味しい個室のある落ち着いた雰囲気のお店。メッセージのやり取りで、海也くんは海鮮が好きだと聞いたからここに連れてきたのだ。食事を誘って来たくらいだから、何か話したいことでもあると思ったけれど、海也くんは黙々と食事を進めていた。 …気まずい。何を考えているのか分からない。そんなことを考えていると、注文していたものを全て食べ終わった海也くんが口を開いた。 「……あの、伊波さん」 「ん?」 「…俺、最近検査で。オメガって分かったんです」 ああ、やっぱりそうだったんだ。俺は薄々勘づいてはいたものの、海也くんはきっと最近知ってショックだろうし、俺が下手に慰めても逆効果かもしれない。差別は昔に比べてほとんど無くなってはきたものの、発情期も大変だし、差別する人はまだいる。そんなことを考えていると、海也くんは箸を置き、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。 「…だから、番になってください」 「…………へ?」 予想外過ぎる海也くんの言葉に、目が点になる。番?俺と?どうして?何より海也くんは俺がアルファってことを知らないはずなのに。固まっている俺を無視して、海也くんは言葉を続けた。 「気付いてるでしょう?俺達運命の番なんです。好きです、伊波さん。伊波さんしかいないです」 「ちょ、ちょっと待って?いや、俺はだって、…ほら、ベータで…」 「嘘です。伊波さん、アルファでしょう?初めて会ったあの日、アルファの匂いがしました。でも嫌な匂いじゃなかったんです。目が合った時から、あなたが運命の番なんだと確信しました」 確かに、海也くんを初めて見た瞬間、何だか不思議な感覚になった。まさかそれが運命の相手と初めて出会った時のものだったとは。…それでも。 「………ごめんね、番にはなれないよ」 「…………え」 俺と海也くんは歳が離れすぎている。海也くんはまだ小学3年生。それに対して、俺は20代社会人。海也くんはこれからまだ先が長いし、中学校、高校と恋愛をしていくはず。確実に運命の番かどうかは怪しいし、もし本当に運命の番だとしても、海也くんの未来を奪うわけにはいかない。後悔するのは海也くん自身なのだから。 「嫌です。…じゃあ、番は待ちます。だから付き合ってください」 「それも…ダメだよ。俺は海也くんの言う通り、アルファなんだよ。海也くんに何もしないって自信は正直無い。海也くんも大人に憧れてるだけなんだよ」 「ち……、違います!そんなんじゃありません!」 ガタン、と机を揺らす海也くん。ここまで感情的になっている海也くんを見るのは初めてで、ズキリ、と胸が痛んだ。それでもダメだ。ここは大人として正しい選択をしなければならない。 「……とにかく、番にもなれないし、付き合うことも出来ないよ」 「………ら、ですか」 「え?」 「俺が、子供だからですか!?」 海也くんは泣きそうな顔で叫んだ。その表情に、思わず言葉が詰まる。何も言えない俺を見て、海也くんはぽろり、涙を溢すと、走ってお店から出てしまった。1人残された俺は気まずい空気になってしまったお店でお会計を済ませ急いで外に出たが、海也くんの姿はどこにも無かった。 ─── 結局あの晩海也くんからのメッセージは無し。心配になり課長に電話すると、無事家には帰っていたそうだ。事の顛末を話し謝罪をするも課長には、「海也にそこまで感情を出させるなんて流石だな」と笑い飛ばされてしまった。課長としては、是非とも海也くんとの仲を深めて欲しいらしい。本当にここまで海也くんが人に懐いたことがないから、交際も、番になることも歓迎しているとのこと。現在では少子化対策に力を入れたり、性犯罪を前より厳しくしたお陰か、昔とは違い双方の当事者と親の同意、運命の番ということが認められた場合8歳以上であれば婚約も出来るようになっている。法律上は問題無いし、実際周りにも子供と結婚している人はごく少数だがいないこともない。昔はあったらしいけど、今は年齢差があっても偏見だってほとんど無い。それでも、やはり海也くんはこれから沢山出会いがあるはず。夕方、そんなことを考えながら、久しぶりに帰宅した実家でぼんやりテレビを眺めていると後ろから「わっ」と、妹である『歌(うた)』が声をかけてきた。 「…びっくりしたあ。どうしたの?」 「もー絶対びっくりしてない!久しぶりに帰って来たのに、お兄ちゃんぼーっとしてばっかり!どうしたの?カノジョにフラれたの?」 歌は今年小学2年生だが、かなりおませさんだ。そう言えば海也くんの1つ年下だったな。歌を見ていると、なんだか海也くんを思い出してしまう。またぼんやりし始めた俺に、歌は頬を膨らませた。 「聞いてる!?」 「ふふ、ごめんごめん。聞いてる。彼女とかじゃないよ」 「嘘だね。アタシの目は誤魔化せないんだから!ねえねえどんな子?」 う、これは誤魔化せそうにないか。俺は観念し、海也くんのことを話すことにした。会社の飲み会で会ってから、頻繁に連絡をしていること。海也くんがオメガであること。前会った時、運命の番だと、付き合って欲しいと告白されて断ったこと。 「えーお兄ちゃん最低!アタシだったらやだなー、歳のせいでフラれるの」 「でもこれから俺より好きな人にきっと出会うよ。その時後悔するのは海也くんだから…」 「……っもう、番にして欲しいって言った海也くんの気持ち考えなよ!覚悟もあったはずだよ!番になるまで発情期も来るんでしょ!?…絶対、辛いよ」 歌の言葉にハッとする。確かにあの時の海也くんは真剣そのもので、とても冗談で言ってるとは思えない表情をしていた。小学3年生と言えど、昔より進んだ性教育の中で番になる仕組みも、オメガとして生きることの大変さも理解しているだろう。 「お兄ちゃんは?海也くんのこと好きじゃないの?」 「俺は……」 「海也くんが他の人に取られても良いの?運命の番なんでしょ?ずっと一緒に居たいって思わないの?自分に正直になりなよ」 …海也くんが他の人と結ばれる。 望んでいるはずなのに、想像するだけでモヤモヤとした気持ちになる。告白してくれたあの日、海也くんに会えて嬉しいと思った。今だって正直、海也くんからの返信を待っている自分がいる。ぎり、とスマホを握る手に力が入る俺を見て、歌はふっと笑った。 「よし。じゃあ行ってらっしゃい」 「うん……、…………うん?」 「うん?じゃないの。海也くんのところに行ってきなよ。ほら、早く!」 「え、いや、ちょっと待って!?」 「待たない!」 10歳以上歳の離れた妹に、力づくで背中を押され、家を追い出された。鍵も閉められてしまい、どうしようもない。 深呼吸をして、海也くんに発信をする。何回かコール音が鳴った後、繋がった。 「『……はい』」 「あ、……海也くん、その…急にごめんね。今、大丈夫かな?」 「『…、…はい』」 「えーと……、……直接話したいことがあってさ。…いきなりで申し訳無いんだけど、今から会えたり…する?」 数秒の沈黙。やっぱりまずかったよね、と思い謝ろうとすると、海也くんが声を発した。 「『……初めて会った公園…』」 「え?」 「『今、いるので。…人気も無いし、…待ってます』」 俺が返事をする間もなく、通話は切れてしまった。人気の無い1人で?変な汗が吹き出る。気付けば俺は走り出していた。 ─── 息を切らせ、海也くんの待つ公園へと辿り着く。飲み会の日、初めて海也くんと会って話した公園。きょろきょろと見渡すと、自販機の横のベンチに座る海也くんを見つけた。 「…海也くん……!」 慌てて駆け寄る。ぜえ、ぜえと息が苦しくて呼吸がなかなか整わない。全力疾走なんて何年ぶりにしただろう。俯いていた海也くんは、ゆっくりと顔を上げた。目元は赤く腫れていて、顔は何処か暗い様子。理由なんて考えなくても分かる。俺のせいだ。傷付けたという自覚はあったけど、こうして傷心して弱りきった姿を見てしまうと、自分が本当に情けなくて、罪悪感に押し潰されそうになる。ぎゅっと唇を噛み締めると、海也くんは見たことの無い寂しい顔で笑った。初めて見る笑顔だった。 「……来て、くれたんですね」 「それはこっちの……!………、海也くん、本当にごめんね」 「何がですか?伊波さんは何も悪くないじゃないですか。俺が子供なのが、」 「違うよ!」 言葉を遮るように否定すると、海也くんは驚いたように俺を見た。 「海也くんは何も悪くないよ。悪かったのは全部俺。海也くんのこと運命の番って気付いてたのに気付かないフリして。海也くんのこと好きなのに突き放したりして。それで、海也くんのこと悲しませて…」 言葉にする度に涙が出そうになって、声が震える。大人の男が、情けない。泣きたいのは海也くんの方なのに。 「…………海也くんのことが、好きだよ」 ぽつり、呟く。伝えるなら、もっと格好良く伝えたかった。こんな、泣きそうな声で、不安げな表情で言うつもりじゃなかった。情けなくその場にしゃがみこんでしまう。 「……伊波さん」 ふわり、暖かさと甘い匂いに包まれる。 海也くんに、抱き締められていた。 「…俺は、伊波さんのこと、ずっと好きです。この先どんな人と出会ったとしても、絶対それは変わらないですから…。…伊波さんも、同じ気持ちでいてくれますか?」 ぽと、雫の落ちる音がした。勿論、そう言って背中に手を回す。 「………海也くん。俺と、付き合ってくれますか?」 少し間を置いてから、海也くんは小さく、はい、と答えた。


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