戦闘員改造報告書003:土木作業員・袴田泰雅の場合(1)
Added 2023-05-25 15:58:11 +0000 UTCコメント:リクエストの方も始めていきます。いつもと違う属性モリモリでやりたい、と意気込んだ末にまだ誰も射精していない。あとBANが怖い! 〇 敷きたてのアスファルトの熱が、安全靴の底を貫く。ロートルの転圧機が牛の歩みで進む。 「暑ぃ」 ぼそっと声が漏れた。作業着の中、夏用のコンプレッションウェアは汗でずぶ濡れだった。安全上、ヘルメットも作業用の皮手袋も外せない。安全靴も重たく、通気性が悪いので五本指の靴下が汗で滑る。最悪な環境だったが、これが俺の毎日だった。 「だーれがこんな山奥の道使うんだろなぁ」 隣で同じ格好をしたレンが、ヘルメットを脱いで手拭いを代えながらぼやく。そのままサボりに行きそうだったので、俺は目で奴を制した。 「マジメだなぁ、タイガ。お前も昔はもっと……」 昔の話をさせると碌なことがないので、俺はふいと目線を外した。レンとは高校中退した頃からの腐れ縁で、昔はまあ、一緒になってヤンチャをしたものだった。日銭を稼ぐつもりで土木業界に入り、いつの間にか2人ともすっかりアラサーになっている。 レンはガキの頃から変わらずチャラついた明るい髪色がトレードマークで、ヘルメットを取れば、短いながらも赤色に染色された針金みたいな毬栗頭が現れる。太めの眉にくりっとした大きな瞳が特徴で、人好きのする顔立ちだった。昔はすらりとした体型だったが、酒飲みで脂っぽいものばかり食べる癖があり、今はすっかり「ぽっちゃり」という見た目がぴったりの体付きだ。 俺の方は、そろそろ年甲斐もないと思って、最近金髪をやめ、黒髪のハイフェードカットにしたところだった。レンとは対照的に、一重で、三白眼気味の俺はどうにも目つきが悪く、想像よりも輩っぽさが抜けずにおり、ちょっと途方に暮れている。俺も酒は飲む方だったが、身体を虐めてガタイを良くするのが好きで、隙間を見つけてはジムやトレーニングに勤しんでいた。それで、ぱっと見ただけで「ガタイが良い」と思われる程度にはカラダがデカい。若手のプロレスラーに間違われることもあった。そんな時、俺は少しだけ得意な気持ちになる。 この現場はいわゆるヘルプで、1か月近く、近所の安宿から通っていた。他社の現場監督だからか、定時になると「もう上がって」と言われる。お言葉に甘えて俺達は挨拶もそこそこに会社から借りた軽トラに乗り込んだ。レンは先日事故って免取になったので、俺が運転席に入る。2人の汗臭い匂いで車内がいっぱいになってうんざりしたので、俺は無言で窓を全開にした。絶妙に具合の悪いクラッチを踏み込み、軽トラを動かす。山道でエンストしないように祈りながら、市街地へと下っていく。 「なあ、今日フーゾク行かねえ?」 「またかよ」 「疲れたからムラムラしちまった」 レンがからからと笑う。だから貯金もできねえんだと忠告してやりたくなる。しかし、出張先の愉しみなんてほとんどないので、パチスロか風俗といった下世話なものになってしまうのも分からなくはなかった。 「ジム行ってからな」 「うわ出た筋トレ魔。好きだねえ」 「うるせ」 あと少しで山道が終わるというところで、一台のワゴン車が進行方向を遮るように停車していた。道幅が狭いので対向車線にも避けられない。俺は舌打ちをして路肩に軽トラを停車させ、一度クラクションを鳴らしてみた。ワゴン車からは全く反応がない。 「なんだろな」 レンがダッシュボードに身を乗り出して確認する。俺は溜息混じりに言った。 「お前ちょっと見て来いよ」 「ヤだよ」 「助手席に居るんだから、助手らしく動いて来い」 面倒臭え、とぼやきつつ、レンはシートベルトを渋々外した。 「トラブんなよ」 「わあってるよ!……ったく」 ぷりぷりしながらレンがワゴン車へと近付いていく。すると、運転席から男がドアを開けて飛び出してきた。レンと比べてもはっきりと太っていることが分かる。というのも、男は頭から爪先までを黒の全身タイツのようなものでぴっちりと覆っており、身体の輪郭線が遠目でもはっきりと分かったからだった。その異様な出で立ちに、レンは驚いて後ずさりをする。その瞬間、ワゴン車の後部座席が急に開き、同じ全身タイツ姿の男が2人(やはり、でっぷりとした体付きだった)現れ、レンの腕を取り、羽交い絞めにする。 「何だよ!ざっけんなよ!」 レンの怒りの声がガラス越しに聞こえてくる。明らかに異常事態であり、俺も堪らず運転席を下りた。 「レン!!」 その瞬間、ゴンという鈍い音と共に、後頭部に痛みが走った。俺は、背後に潜んでいたあいつらの仲間に気付かなかったのだ。ぐらついた身体に、容赦のない追撃が加えられる。地面に倒れる間際、視界に映ったのは、警棒のような武器を構える黒ずくめの男の姿だった。 〇 乱暴に放り出された衝撃で、俺は目を覚ました。後ろ手に縛られ、身動きが取れない。埃っぽいコンクリの床にうつ伏せにされていると分かった。俺は顎を床に擦り付けながら、慌てて左右を見まわした。すぐ右隣に、まだ寝ぼけ眼のレンが居て、安心する。部屋はさほど大きくなく、せいぜい10畳程度だろう。真正面右手に錆び付いたドアが見える。 俺達の周りには相変わらず全身タイツ男達が数人、取り巻いていた。不気味なのは、一言も声を発さないところ、全身タイツのどこにも継ぎ目やジッパーが見当たらないところ、そして──全員、股間のチンポが堂々と勃起しているところ。俺はその醜悪さに目を背けた。男達はみな恰幅が良く、俺のようながっちりした体格に、たっぷりと脂が乗っている。その画一した感じも、非人間的で居心地が悪かった。 「ん……どこだよ、ここ……」 レンが目を開け、俺と目が合う。俺は目線で合図を送り、レンを落ち着かせた。少なくとも、イカれた奴らであることは分かっている。興奮させない方が良い。 急に男達がぴたりと動くのを止め、俺達の背後に整列した。正面のドアが嫌な音を立てて開くと、やはり全身タイツを身に纏った、筋肉隆々の偉丈夫が現れる。一目でこいつらのボスと理解させるような体躯とオーラだった。それに、この男は頭にマスクを被っておらず、一人だけ個性が丸見えとなっていた。ごま塩の坊主頭にぎろりと睨みつけるようなするどい目つき。分厚い大胸筋に丸く固太りした腹、餃子のように潰れた耳、人間離れした巨根は腹を擦り上げるように勃起している。俺達の目の前まで来ると、男は肩幅より大きく脚を開き、腕組みをして不敵に笑った。全身タイツが筋肉の隆起で張り詰め、ぎゅっと擦れる音がする。 「良い素体じゃねえか。堕とし甲斐があるぜ」 そのポーズで、俺ははたと気付く。目の前にいる男が、過去、柔道日本代表選手であったことを。 「お前、黒田雄彦じゃねえか──」 金メダルを首から下げ、脚を大きく開いて腕組みをし、不敵に笑うその姿が当時は流行したのだ。柔道家としてしばらくはテレビなどにも出ていたが、不倫やらセクハラやらで週刊誌にすっぱ抜かれ、それ以来めっきり姿を見なくなった。 「ん?ああ、人間の頃の俺の話か。くだらねえ。俺は戦闘員7号。『組織』の忠実な下僕。それ以上でもそれ以下でもねえ」 黒田──いや、戦闘員7号を名乗る男は、急に真面目腐った表情になってそう言った。戦闘員、という表現に俺は妙に納得している。こいつらは、戦闘員だったんだ。 「お前らは『組織』に選ばれた。これから、俺達と同じ戦闘員に生まれ変わってもらう」 「っざけんな!!」 レンが吼えた。しかし、7号はびくともしない。 「──おい、入って来い!」 野太い声に誘われて、再び正面のドアが軋んで開く。そこで、俺もレンも大きく目を見開いた。現れたのは、現場の先輩であるケンジさんだったからだ。 同じく元ヤンだったケンジさんの誘いで、俺達はこの会社に入った。現場でよく面倒を見てもらっていただけでなく、飲みや風俗にもよく連れて行ってもらった仲だ。尊敬しているし、慕ってもいる。そんな人が──7号と同じように、首から下をぴっちりと全身タイツで覆っていた。肉体労働で鍛えてビールで肥えさせた肉感的な身体が、卑猥さを際立たせている。首から上は、よく日焼けしたスキンヘッドに顎髭といった見慣れた顔だが、表情は真剣そのもので、自分が勃起していることにも気付いていないかのようだった。 「ケンジ、さん」 俺が絞り出すように言うと、ケンジさんは俺を一瞥した。暗く、冷たく、濁った瞳は7号と全く同じだった。それで、俺は、ああ、もうケンジさんは戦闘員になってしまったんだな、と直感的に理解した。 「戦闘員129号。お前が戦闘員にされた過程を、こいつらに教えてやれ」 「はっ!!」 軍人のようにケンジさんは短く、大きな声で返事をした。それから、流れるように自分が如何にして『組織』に洗脳され、肉体を改造されたのか、滔々と話し始める。 「俺は現場終わりに7号、87号、93号に襲われ、このラボに拉致されました。そこで、戦闘員に洗脳・改造されると告知され、しばらくの間、激しく抵抗しました。しかし、毎日直腸から改造液を注入され、肉体が細胞単位で人間から戦闘員のものへと変化していきました。結果、戦闘員との雄交尾でしか性欲を発散させることができなくなり、性嗜好も『組織』に相応しくなるように何度も調整を受けた末、他の戦闘員と同質のものになりました。肉体が屈すると、次に映像や音声、洗脳波によって『組織』への帰属、服従、隷属を精神が擦り切れるまで流し込まれました。『組織』への忠誠心が完全に定着し、俺の心身は全て『組織』の所有物になりました。そこで、俺のDNAに基づいて作られた、戦闘員の証でもあるこのスウツを着用する許可をいただき、喜んで身を捧げました。忠誠の証として、知己の中から素体として相応しい者をデータで提出しましたが、この2人が『組織』に選ばれたこと、『組織』に役立てたことを誇りに思います」 「ケンジさん、目ぇ覚ましてくれよ!」 「俺には、人間だった頃の鹿屋憲治の記憶があるだけだ。今の俺は戦闘員129号。『組織』の忠実な下僕。それ以上でもそれ以下でもない」 ずるり、と全身タイツが変形して、ケンジさんの頭を覆っていく。程なくして、無個性となった戦闘員129号が、その場所で佇んでいるだけとなった。そこで、ようやく俺は、俺を背後から襲った戦闘員が、129号であったことに思い至った。