リクエスト/谷口君(水泳部)の続き(4)
Added 2023-05-03 18:38:35 +0000 UTCコメント:体育教師(野球部顧問)編始まるよ。 △ 俺の指導する野球部は、あっさり初戦敗退となった。最後のミーティングでは、引退する3年生が気楽な表情で思い思いの言葉を述べる。唯一、真剣に野球に取り組んでいた部長だけが、忸怩たる思いをつらつらと語った。部員達の中に微妙に白けた空気が流れる。俺は居た堪れなくなって、部長の話を引き取る形で2年生や1年生に檄を飛ばした。 水泳部が県大会でも好成績を収め、成果を出したいという気持ちが高まっている部員がいることも分かる。しかし、所詮は公立中学校の部活動に過ぎない。本気で野球をやりたい生徒は、そもそも野球部に入らず地元のシニアやプロの下部チームに所属していることがほとんどだった。 でも何より俺が気にしているのは、自分の指導がなかなか部員達に伝わらないことだ。大学野球でキャッチャーとして活躍したのは過去のことで、自信がないこともあるのだが、子供に厳しく指導することができないのだ。緩んだ空気や、やる気のない部員をきちんと注意できず、それが部活の雰囲気を悪くしているのかもしれない──今日のミーティングを見て、改めてそう思った。 はあ、と一人で溜息をつく。何か良い方法はないだろうか。自分が変われば良いことだとは、分かっているのだが──。 「ああ、ここにいらっしゃいましたか。霜田先生ですよね?野球部の」 体育教官室のドアを開けて、体格の好い若い男が俺を見てはにかんだ。ずんぐりとした巨躯をスーツに身を包んでいるが、明らかに身体を鍛えていることが分かった。 「おれ──間違えました、私、こういう者でございます」 でかい掌の上で、やたらに小さく見える名刺を手渡される。『DN社営業部 伊藤 樹』と簡素な内容に連絡先が記されていた。 新興のスポーツメーカーであることは何となく知っていた。水泳部のチームユニフォーム一式がDN社になったのも記憶に新しい。伊藤がその手配を行ったため、当校との縁ができたというわけだ。 「実は、今回、野球に特化したユニフォームやアンダーシャツ等の製品も取り扱うことになりまして。そのご案内に参りました」 「ああ、それはわざわざご丁寧にありがとうございます」 俺は散らかった体育教官室の机を申し訳程度に片付け、客用のソファに伊藤さんを案内した。人の好さそうに笑っているが、営業として働き慣れてはいない様子だった。一重のせいで眼差しは鋭く、短い髪も盛り上がる筋肉も、スポーツメーカーだから辛うじて受け入れられるものの、普通の営業には向かないだろう。柔道か何かをやっていたのかなと俺は見当を付けた。それにしては、よく日に焼けている気もする。 カタログを見せてもらうと、そこはちゃんと営業マンで、如才なかった。新しい技術に感心するばかりだったが、価格も一流メーカーと比べて安価に抑えられている。DN社でユニフォームの更新を考えても良いだろう、というのが30分のプレゼンを受けた俺の感想だった。社交辞令でなく、ちゃんと検討したい旨を伝えると伊藤さんはほっと安堵したように微笑んだ。試供品として、野球ユニフォームを一式──アンダーシャツやスライディングパンツ、ソックスまで──を何着か置いていくという。さすがに受け取るのはまずいのではないかと思い、一度は断ったが、キャンペーンとか何とか理由をつけて押し付けられてしまう。水泳部もかなり試供品をいただいていたという話は聞いていたから、咎められることはないだろうが──。 その後は何となく伊藤さんと別れ難く、雑談でスポーツの話をした。すると、互いに同じ球団のファンだと知ってから、勢い話が盛り上がってしまった。 「この後、先生が宜しければどうっすか?」 大分砕けた口調になりかけている伊藤さんは、手酌の仕草で俺を飲みに誘った。もうこの後の予定はなかったので、一も二もなく応じる。駅前にある安いチェーンの居酒屋で落ち合う。伊藤さんは、ジャケットを脱いでネクタイを緩め、オフの様相だった。俺も、その方が親しみやすいと思った。薄い青色のワイシャツが、小山のような筋肉の塊でパンパンに押し上げられている。やはり好いガタイだと思った。開け放たれた第一ボタンの下には、身体にぴったりと張り付くように黒いアンダーシャツが見える。社の製品を日常使いしているところを見ると、伊藤さんは本当に会社に入れ込んでいるようだった。 「伊藤さんは何かスポーツをやられているんですか?見た時から好いガタイしてるなぁと思ってたんですよね」 アルコールが回ってきたせいもあり、ふと伊藤さんのことをもっと知りたくなってこんな質問をした。この段になると、俺と伊藤さんは客と商売人という関係でなく、ファン同士の気安い関係になりつつある。伊藤さんは自慢げに右腕を曲げて、二の腕に力瘤を作る。ワイシャツがギュッと危うげな音を立てて軋んだ。 「実は俺、営業部に転属したのは最近で、元々は子会社の鳶職だったんですよ。まあ、今も人手が足りないと現場に呼ばれるんですけどね。その時の名残で、ジムで筋トレしてるんす。身体が資本っすから」 「へえ!珍しい経歴ですね」 「いやいや、DN社っていうのは結構手広く色んなことやってましてね。我が社では珍しくないんすよ。ま、スーツなんかまだ着慣れねえからこそばゆいっすけど」 そう言われてみれば、伊藤さんは鳶装束の方が断然似合うように思えたから不思議だ。自分は脂が乗り始めた身体を気にして、伊藤さんの筋トレ法を教わった──一般人にしては、随分ハードな内容に思えたが、そのガタイの良さには納得がいった。 「あとこれッスね」 軽い口調でバッグから取り出したのは、黒いカプセルが詰まったプラスチック容器だった。やはり、DN社が開発中の肉体増強サプリであると言う。 「これはまだ製品化されてないんでアレなんすけど、効き目がすごくって。身体の芯から改造されていくような感じっすね」 商売上手だと思った。いや、これは製品ではないのだった。それでも俺は伊藤さんのかわいらしい誇大広告に感心した。 時計を見ると、いつの間にか日付が変わりそうになっていた。そろそろお開きにしようと言うと、顔を赤くした伊藤さんも頷いて応じた。「絶対また一緒に飲んで下さいよぉ!」とやや呂律の回らない口調で伊藤さんが言う。俺も馬鹿笑いしてそれに応じた。 「あ、帰る前に小便してきます」 「ああ、じゃあ俺も」 図らずも連れションとなったが、俺は内心穏やかでなかった。小便器の隠しが大きいことを祈ったが、安い居酒屋である。期待は裏切られ、剥き出しで余りに距離が近い小便器が二つ、横並びになっていた。俺は諦めて、ぞんざいにスラックスのベルトを外す伊藤さんの横に並んだ。伊藤さんは真っ黒なロングボクサー──いや、それは明らかにスポーツ用のスパッツだった──から、ずるりと音を立てんばかりに巨大なイチモツを引きずり出す。俺は呆気に取られてソレを凝視してしまっていた。今まで見た誰よりも巨大なそれは、日本人離れしている。掌全体でようやく一周するような太さに、太ももの3分の2の長さはありそうな長さ。ホースから水が出るように、小便がどぼどぼと大きな音を立てて小便器にぶつかる。伊藤さんは気持ち良さそうにぶるっと大きく身体を震わせた。その動作が、あまりに動物的で印象に残った。 「…………デカいっすね」 そんなことを言うつもりはなかったのに、つい、本当につい言葉に出てしまった。 「? ああ、俺デカいんすよね」 慣れているのか、あっさりそう伊藤さんは応えた。俺は、渋々と時間を掛けてジャージを下ろす。くたびれたパンツの中から、金玉から竿まで全てが片手に納まってしまうような、俺のイチモツが現れる。体育会系出身であり、この短小で包茎な自分自身をからかわれたのは、一度や二度ではない。一緒にトイレに行きたくなかったのは、これが理由だった。 「ああ…………」 何かを了解したような伊藤さんの声に、顔から火が出るほど恥ずかしくなる。何も勝負をしていないのに、圧倒的に負けたような気持ちを何度も味わってきた。自分が気にしすぎであることは分かっている。それなのに、この小ささでいつもうじうじと悩んでは、コンプレックスを抱えてきた。 「大きい人は羨ましいですね、ほんと」 何も話さないのはあまりに惨めだったので、上っ調子でそんなことを口走った。ちょろちょろと自分も放尿し始める。隣で伊藤さんは全身を使って上下にイチモツを振るって雫を切った。スパッツに無理矢理、巨根を収めるが、膨らみのシルエットがえげつない大きさになっていた。片手で股間を押さえながら、スラックスのジッパーを引き上げる。巨根は巨根で大変そうだな、と初めてそう思った。 「俺みたいにチンポデカくなりたいっすか?」 振り向くと、伊藤さんはにやりと笑っていた。今までの営業や年の近い共通の趣味を持つ若者ではなく、粗野で、雄々しくて、そして──邪悪な印象を受ける表情だった。しかし、今日一番、伊藤さんを魅力的に感じたのもその瞬間だった。自信に溢れ、若々しく、強靭な肉体を持つ男。それが伊藤さんの本質なのかもしれなかった。 「……なりたい、です」 俺はそう答えていた。そう言わなければならないような気がした。伊藤さんを見ていたので、小便が止まっていることにも気が付かなかった。 「さっきのサプリ、チンポでかくなる効果もあるんスよ。俺もあれ飲んでからデカくなったっす」 また宣伝かと思って、噴き出してしまった。お茶目な人なのかもしれない。俺もパンツにイチモツをしまう。なんとなく気楽な気持ちになってしまった。 「これ内緒っすけど、コレあげますから!でも、飲み始めたらマジで身体変わるんで、覚悟決めてから使ってください!」 レジを出ると伊藤さんは、未開封のボトルを一つ、俺に渡してくれた。用法用量は側面に記載されている。開発中といえども、身体への悪影響はないと説明された。互いに連絡先を交換し、礼を述べて別れる。人懐っこい人だったなと伊藤さんのことを思った。 自宅のアパートに帰り、伊藤さんから貰ったものを整理した。DN社の試供品はサイズを合わせてもらったので、部活や授業で使う運動着のローテーションに組み込む。 パッケージを開けると、アンダーシャツやスライディングパンツの手触りが気になった。手に吸い付くように、いつまでも触っていたくなるような不思議な感覚である。アンダーシャツは光を吸い込むようなマットな黒色が特徴的で、胸の中心にDとNを組み合わせたロゴのみ白色で描かれている。スライディングパンツも同じ色で、臀部から両腿にかけて、やや控えめにパッドが設えてある。運動性を阻害しないためとの説明だった。股間にはファウルカップが入れられるように浅いポケットが付いているほか、ウエストのゴム部分、正面にDN社のロゴが入っているのが特徴だった。 新しい運動着を手に入れれば、一度着てみたくなるのが人情である。俺は一日着ていたジャージを洗濯機に放り込み、全裸になる。曲がっても体育教師、運動は毎日しているので太ってはいない。しかし、加齢によって肉に脂が乗り始めたことも否めず、全身はがっちりからむっちりへと変わりつつあった。胸板や太腿、尻などは太く厚く、ボリュームが出ている。サイズを合わせたとは言われたが、上手くこの体型に馴染むのかは疑問があった。 「ん……やっぱ、キツいな……」 案の定、太腿でスライディングパンツが引っ掛かる。ウエストゴムを引き上げると、存外各所のストレッチが効いていて、するりと履けた。運動を補助するようにゴムが入っているので、意識すればかなりきつく感じる。しかし、立体裁断であり、ヒップ周りも寸法したかのようにぴったりであったため、気にしなければ、まるで何も身に着けていないかのようだった。アンダーシャツも襟口が大きく広がり、きつさや締め付けの割に着衣は容易である。長袖しかないのは、最大限の運動補助を図るためらしい。裾を伸ばすと、スライディングパンツのウエストゴムにぴったりと重なった。ボディのシルエットがはっきり浮き出て、鍛えている部員は喜ぶかもしれない。俺は厚い胸板にぷっくらと浮かび上がった乳首が気になった。思ったより薄手なのかもしれない。 膝下は何も履いていなかったが、いっそ一通り着てみようと思い、ソックスを開けることにした。これも黒色で、綿とも化繊とも言えない生地がのっぺりと膝丈まで続いている。指先は五本指になっており、足の甲にロゴが描かれていた。ストッキングも用意されていたが、これは今度で良いだろうと思い、開けなかった。ソックスは特段他社製品と変わらないだろうと思っていたが、これも爪先から踵、ふくらはぎなどの身体の各所によく馴染んだ。アンダーシャツ、スライディングパンツ、ソックスの三点を身に着けると、ぞくぞくと身震いするような気持ち良さが全身に走った。 「なんか、気持ち良い……な……」 姿見を見ると、両手と頭以外の全身をぴっちりと黒に包んだ体育教師の姿があった。胸元のDN社のロゴだけが控えめに製品の身元を主張している。 「伊藤さんも、スーツの下、こんな感じだったのか……?」 俺は伊藤さんの山のような肉体を、あの巨根をイメージする。俺と同じ、ぴっちりと全身をDN社の製品に包んで──それは、ひどく淫猥な姿に思えた。だから俺も、今、淫猥な姿になっているという自覚が芽生えた。運動着の試着をしていただけの筈なのに。恥ずかしいから脱ごうという気持ちと、気持ち良いからまだ脱ぎたくないという気持ちが拮抗する。ああ、だから伊藤さんもスーツの下にわざわざDN社のアンダーシャツを着込んでいたのか。気持ち良いから、脱ぎたいと思わないのだ。 いつの間にか快感に塗れた頭の奥底で、もらったサプリのことを思い出す。巨根になりたい訳ではない──いや、それは嘘で、人並みの大きさにはなりたいのだが、さほど深く考えずに、手に3錠カプセルを取り出していた。『飲み始めたらマジで身体変わるんで、覚悟決めてから使ってください』。伊藤さんの言葉を思い出して、笑ってしまう。そんなに言うなら、実力の程を見せてもらいたいものだ。そんな挑戦的な気持ちになり、カプセルを口に含んで、水道水で流し込んだ。 「『身体の芯から改造されていくような感じ』……か……」 その結果、俺がどのように変貌してしまうのか。この時の俺は全く知らなかった。