畜生道に堕ちる(2)
Added 2021-10-11 17:01:13 +0000 UTC〇これは言い訳なのですが、熱が出ているときに書きました。 ※ 洞窟は岩肌にぽっかりと空いた穴のようだった。そこが神域である証として、洞窟の上部に粗末な縄が掛けられている。集落の者がしめ縄のつもりで掛けたのかもしれない。洞窟の中は薄暗く、じっとりと湿っていた。奥に進むにつれて徐々に空間が広くなる。視界が完全に闇に閉ざされそうになると、都合良く松明が行く手の先に現れた。松明に近付き、洞窟の壁にぞんざいに括り付けられたそれを見て、2人は薄ら寒くなる。誰かが先行して洞窟に入ったような様子はなく、それに、何の目的があって松明を焚いて彼らを導くのか分からなかったからだ。村の者だとしたら、わざわざ身を隠す必要もない──それに、彼らはみな高齢だったのだ。だから祈祷が困難であった。ここまでの道のりも易しくはなかった。では、誰が。何故。 訝しみながら僧達が足を一歩前に踏み出した瞬間、洞窟には似つかわしくない、生暖かい風が吹き上がった。ぐにゃりと世界が歪む感覚にしばし2人は立ち竦んだ。 そこは相変わらず洞窟の中だったが、目の前には広大な空間が広がっていた。視界が利くのは、天蓋のひび割れから光がうっすらと差し込むためである。そして──広場の最奥にぽつんとあばら家が建っていた。木造で隙間だらけだが中は手入れがされており、虫や獣が居座っている様子はない。玄関とも言えない引き戸を開けると三和土があり、すぐに板間となる。真ん中に囲炉裏があり、どういう訳か火が起こされていた。洞窟の中に曲がりなりにも庵──しかしそれはどう評価しても家だった──があるという異常さに、2人は困惑する。やはりここは神域なのだと先に飲み込んだのは円慈だった。 「本当に奇妙なことだ」 下駄を脱ぎ、足袋も脱いで素足になると円慈は「よっこらせ」などと言いながら板間に上がっていく。慧鶴も渋々といった緩慢さで同じように上がった。板間は綺麗に磨き上げられ、裸足で上がったが砂埃一つ足の裏に付いていなかった。さらに不思議なことに、板間の奥にまた三和土があり、玄関と同じ引き戸がしつらえられている。円慈が三和土に下り、引き戸を動かしたが、壊れている様子もないのにびくとも動かなかった。「飾りだろう」と言う。慧鶴は奥の引き戸に言いようのない不安を覚えたが、円慈が平然としているので口には出さなかった。 「……三日三晩、という話でしたな」 「しかし、具体的に何をするのかは分かりませんね」 2人は顔を見合わせる。 「では……集落の豊穣を祈りつつ、いつも通りに瞑想をしますか」 「そうしましょう」 違和感や戸惑いは山を渡り歩く上ではそう珍しいことではない。神仏を身近に感じる分、警戒心が乏しかったと言えばそうなる。結局、身支度を整え終わる頃には、山伏達は平常心を取り戻していた。囲炉裏を挟んで2人は座禅を組み、手を合わせて瞑目する。乾いた木が炎で爆ぜる音だけが庵の中に響く。波にさらわれるように意識が遠のき、瞑想が始まった。 ※ 『それ』は人智を超えたものだった。おおよそ人間が想像する神や仏とはかけ離れているが、便宜上、山の神としておく。『それ』は確かに、神のように振る舞ってきた面もある。 山の神は自分の身体の中にか弱い生き物が2匹入ってきたことに気付いていた。大体の生き物は表皮をちょろちょろしていることがほとんどであったが、人間は時折、自分の身体の中まで無遠慮に侵入してくるものだ。山の神は鷹揚だった。そんなこともあるだろうと思っている。そうして、そういうときは大抵、人間が困っている時だというのも知っていた。 山の神は自分とは異なる生命に興味がある。それはその存在の性癖のようなもので、知識欲とも蒐集癖とも言える。だから体内に入った人間を生け捕り、調べ、十分に満足できれば手助けをしてやらないこともない。山の神にとって自分以外の生き物は全て愛玩物だった。気に入った生き物は全て自分の眷属としている。 数年前にやってきた、青海という山伏もそうだった。 山の神は2人の恰好を見てそれをようやく思い出した。どうやら2人は以前眷属に堕ちた人間の仲間らしい。体内に居る無数の眷属の中から青海「だった」モノを探した。洞窟のさらに奥、眷属達が蠢く中にそれは居た。逞しい体躯の狐獣人が、だらしのない表情で手淫に耽っている。全身を覆うこげ茶の獣毛に、肘と膝の先からは夜の闇のような色味が特徴だった。既に何度も果てているのだろう、腕から先、黒くなった獣毛は所々、べたつく白濁で覆われている──これが、変わり果てた青海であった。別に山の神が手淫や淫行を強いているわけではない。青海にとって、この姿、この在り方が最も自然であったというだけの話である。他の眷属達もみな同じように、思い思い淫蕩に耽っていた。山の神は、泣きながら自分を獣に堕としてくれと懇願した青海を思い出す。これまで山の神を訪れた全ての男がそうであった。人間であるよりも、獣に堕ちることを選んだ。山の神は乞われればもちろん、そのようにしてやる。眷属が多いことに越したことはない。そうして、山の神の表皮に住む人間にも褒美をやる。獣に身を堕としたい雄を寄越すには、里が存続していなければならない。 青海だった獣は天を仰ぎ、一声鋭く哭いた。尖った獣の魔羅の先端から濃厚な精液がどろどろと溢れ出す。獣達は、幾千、幾万回同じことを繰り返しても同じように快感に酔い痴れ、また勃起が収まらない内から手淫を再開させる。その浅ましさ、愚昧さが山の神はたまらなく愛おしいのであった。 狐の尻の中に、山の神はその末端である触手を無遠慮に挿し入れる。次に、綺麗な三角形の耳からも触手を捻じ込んだ。狐獣人はぼーっとした表情のまま、意に関さない様子で魔羅を扱き続ける。山の神は青海だった頃の記憶を探り、来訪者が円慈と慧鶴という名であり、青海の後進であると知った。しかし、狐獣人の中には最早人間だった頃の記憶はほとんどなく、得られた情報もおぼろげなものであった。触手を抜く。狐獣人は全身をビクビクと痙攣させ、潮を噴いた。 余り情報が得られなかったので、次に山の神は『影』を呼ぶことにと決めた。そう思った瞬間には眼前に『影』が現れている。それは人型の闇の塊であったが、みるみると姿形を変えて一人の逞しい山伏──青海の姿となった。人が一人消える埋め合わせとして、山の神は人が獣に転じる寸前その『影』を作り、世に送り出しているのだ。こうして幾人もの男達が山の神によって『影』とすり替えられている。 「2人を修行場に案内したのは拙僧であります」 青海の『影』が跪いて言う。山の神は何故かと疑問に思った。思念だけを受けて、『影』は応える。 「拙僧ならばそうすると思ったのです」 跪きながら、青海の『影』は自らの股間を衣服の上から揉みしだいていた。 「2人が無様に獣に身を堕とす様を見たい……そう、思ったのです」 おおよそ僧侶とは思えない悪辣な笑みを浮かべ、青海の『影』はそう宣った。その様を想像して果てているのだろう、くちゅくちゅと洞窟の中にいやらしい水音が響く。山の神が青海の『影』を作る瞬間、既に青海はそこまで堕落していたのだった。度し難いことだ、と山の神は他人事にそう思った。用が済んだので『影』はまた闇に溶けていく。山の神はいよいよ、2人に目を向けた。 ※ 慧鶴は瞑想中に自分が寝てしまったのではないか、と思った。ほんの瞬く間であったが、それほど深い意識の断絶が確かにあった。目を開く。しかしそこには何も映らなかった。ただ茫漠とした闇があるだけである。横を向いても、同じように座禅を組んでいた円慈さえ見えなかった。 「ここは……」 声はどこまでも響き、広大な空間に吸い込まれていく。立ち上がろうとした瞬間、ぐいっと右足が何かに引っ張られる感覚があり、よろめいた。じっとりと、それでいてぬめりとした赤い触手が慧鶴の太い足首に巻き付いていた。 「何だこれは」 しゃがみ込み、手で触手を外そうとすると思いもよらぬ頑なさでそれはびくともしなかった。それどころか、ますます力を強め、じんわりと足首が痛み始める。慧鶴は焦り、「ええい!」と声を上げて強か触手を叩いた。すると、どこからともなく新たな触手が伸びさらに追撃を加えようとした右手を絡め捕る。 「なっ?!」 それは思わぬ力強さで右手と右足を持ち、慧鶴を宙に吊り上げた。ぐらりと身体が振り子のように揺れたのも束の間、すぐに左手と左足も触手が掴み、とうとう僧の鍛えた肉体は自由を失った。山の神はいつも通りあっさりと身体を許した人間に微笑ましい気持ちになる。じたばたと抵抗する慧鶴をいなしながら、大きな触手の先端を開き、まずは爪先から膝までを丸呑みにする。 「うおっ、あああああ!!」 生命の危機を感じた慧鶴の悲鳴は一際だった。空間を隔ててはいるものの、これでは「向こう側」の円慈に聞こえてしまうかもしれないと思い、山の神はそちらに目を向ける。 円慈もまた、触手に全身を絡め捕られ、全身をまさぐられている最中だった。しかし既に円慈は修験装束を全て溶かされ、全裸となっている。触手によって股を、尻を大開きにさせられ、羞恥で顔をしかめていた。 「なっ、何をする!」 強がって大きな声を出してみたところで、久方ぶりの観察対象物を目の前にして山の神は動じない。それに、人体をつぶさに観察することは後に『影』を作る際に必須となる。まず触手で形や素材、質量を理解し、見た目も完璧にしなければならないのだ。そうこうしている間に、慧鶴もどろりと修験装束を溶かされ、肉体を露わにしていた。腋の下を舐めるように触手が這う。汗や垢、体臭をも全て知らねばならないとさえ、山の神は思っている。その知識欲は常軌を逸していた。 円慈の方の準備が先に整ったので、今度は身体の中を調べていく。腕や足を拘束しているものよりも細い触手が一本、うねうねと尻に這い寄る。それは所々に瘤があり、前立腺などを内部から刺激することで人間の快を催す機構が備わっていた。それも、山の神がこれまで人間を研究し尽くした成果物であるのだが、円慈はそのようなことは知る由もない。山の神は人を傷付けたいとまでは思っていない。しかし、中身を調査するのにはどのような方法であっても大抵苦痛が伴う。それだから、快刺激を同時に与えることで気を紛らわせることができるだろう、程度の思考である。それに──これに病みつきになり、自ら積極的に股を開いて触手を受け入れようとするようになる男がほとんどであった。 「うがああああああああああああああっ!!」 円慈は目を見開き、圧倒的な質量が腹に入り込む異様な感覚に身悶えした。一方、山の神は最初の瘤さえ受け入れられれば、あとは円滑なものだった。抵抗すると中で擦れるので激しい痛みを伴うため、程なく催淫液が分泌され、直腸から円慈の全身に巡っていく。危機的な状況や円慈の焦燥・羞恥心とは全く関係なしに、むくむくと魔羅が勃起していき、隆々と勃ち上がった。触手による粘液だけでなく、自らも粘度の高いべたべたとした汗をねっとりとかいていることに円慈自身気が付く。 「うう…………あっ…………おおう…………」 最初の勢いもなくなり、頭がぼーっとしてくる。円慈はだらしのない表情を浮かべ、触手のされるがままになりつつあった。意識が混濁してきたことを良いことに、山の神は円慈の中の中──即ち、脳や心に今度は関心を向けていく。今度は巨大な触手がその先端を大きく広げ、円慈の頭に覆い被さろうとしていた。触手の内部には小さな細かい触手がびっしりと生え、蠢いている。円慈はそれを見上げ、動きにくくなってきた頭でぼんやりとその生命の危機を感じていた。 「あ」 ずぼっ、と獲物を捕食するかのように触手が円慈の頭から首まですっぽりと食らいつく。手足が痙攣するかのように緊張と弛緩を繰り返し、壮絶な様相を呈していた。円慈の頭を覆う触手は円慈の耳や鼻、口といったあらゆる進入路から触手を伸ばし、その中を検めていった。円慈の持つ記憶や知識は山の神にとって興味深いもので、人間はこの蓄積量が他の種の生物の比ではない。山の神が人間に固執する理由の一つであった。せっかくなので、円慈の持つ記憶・経験の中で最も心地良く、快楽に結び付いたものを何度も繰り返し再生してやることにする。山の神は知らなかったが、これは人間の受容できる情報量の枠を大きく逸脱するもので、これまでの男達が色狂いになったのもこの無知が原因であった。 円慈の脳内で再生され、追体験したのは稚児として寺で養われていた時の記憶・体験だった。尊敬する師や兄弟子達に囲まれ、そして手籠めにされた日々。円慈は童貞を貫いていたが、その実、処女ではなかった。その記憶が肉体に結び付いた最も心地良い記憶として繰り返し、繰り返し再生される。触手の中でくぐもっていた声に、段々と嬌声じみた、快感を隠そうともしない音が混じり始める。今や円慈の巨躯は弛緩し、全身を触手に預けていた。尻の穴に咥え込んだ触手は勢いを増し、円慈を貪り尽くそうとする。びくん、と大きく全身に緊張が漲り、円慈は激しく射精した。濃く、それでいて大量の精液が魔羅に絡み付きながらだくだくと流れていく。ずるりと頭の触手が外れ、虚ろな瞳となった円慈が現れた。時間にして数分の間であったが、円慈は過剰な快楽によって彩られた夜伽を1万回ほど追体験していた。円慈は僧である自分を最早信じられなくなっていた。己の淫蕩さ──獣性をまざまざと見透かされ、突きつけられ、その上でなお、色に狂った自分を。ずぶっと鈍い音がして尻から触手が抜かれる。山の神は円慈の全てを知ることができ、満足だった。彼が確かに集落の豊穣を祈っていたことも勿論知っている。だから、このままここを去るのであれば、その役目を果たしたとしても良いだろうと思っている。しかし、同時に山の神は知っていた。円慈の全てを知っているのだから、当然ではあるのだが。 ──円慈が、最早ここを離れられないほど、すっかり精神が堕落してしまったことを。 触手から解放された円慈がまず最初に思ったことは、寂しいだった。物足りない。もっと快楽が欲しい。疼く尻にゆっくりと手を伸ばし、人差し指と中指を重ねて差し込んでいく。 「あ…………足りん……これでは…………魔羅が…………己は…………」 それでも自慰がやめられない。山伏どころか、人としての尊厳さえ失い、獣のように這いつくばるその姿を山の神は愛おしげに眺めていた。円慈が身を堕とし、変化する獣の姿を山の神はもう分かっていた。もう焦る必要はない。円慈はゆっくりここで眷属となっていけば良いのだから。今度は慧鶴の方に山の神は意識を向けた。