ダークノア・ボディビル部編(7→8)
Added 2021-02-20 17:30:13 +0000 UTCコメント:次で最後、そう言い続けて幾星霜になりました。 7 昼休み。おれは腕時計に似たデバイスを開き、レポートを送る。電子音。任務完了。 S高はやはり、ダークノアの根城となっていた。次々と戦闘員に改造されていく同級生を、悔しいが、眺めていることしかできない。ワイシャツから覗くアンダーシャツが、いつの間にかダークスウツそのものに変わっていく。過剰なスキンシップ。露骨な猥談。光を失う瞳。特徴をあらかじめ聞かされなければ、男子校──それも、運動部強豪校で全寮制、その閉鎖性によって独特な文化が醸成されているとしか感じないだろう。 これまで先輩方が残した記録を照合し、研究した結果、S高とS大がダークノアの大きな拠点となっていることは明白だった。 ただ、詳細を突き止める前に、調査の途中で誰もがいなくなってしまった。ダークノアに報復されたのだろうと推測されている。おれはそうした危険を承知で、この任務に志願した。それは、おれには数年前、敵の手に堕ちたヒーロー達が有していたという「ある力」が備わっていたからで──。 「吉田~!購買行こうぜ~」 「……おう」 ラグビー部の柴家が気さくに手を振って呼んでいた。おれも片手を控えめに挙げて応える。入学してから彼とは仲良くしていたのだが、柴家もまた、ダークノアの尖兵として洗脳・改造を施されてしまった様子がうかがえる。筋量の急激な発達。これまで身に着けていなかったタイトなシャツやスパッツ。そして一番は、スラックスの上からでもはっきりと分かる、股間の膨らみだ。隠そうともせず、誇示するように股を開いて歩くその姿を、おれは痛々しい思いで見ている。 孤軍奮闘というのはきっとこういうことを言うのだろう。普通の高校生活を送りたかったという寂しさがないわけではない。だがそれはもう、取り返しのつかないことだ。おれは、おれのやれることを一生懸命やる。それが、ダークノアという巨悪を倒すための最善だから。 「なに考えてるんだ?あっ、次の英単テスト?……オレと一緒に諦めようぜ」 「あ、いや……まあ英単語はやったけれど」 「ずりい」 柴家がしかめつらで指さす。おれは笑った。本当は心の底から笑いたいんだと、ふと強く感じた。 「筋トレしてんのか?最近カラダでかくなったよな」 「分かる?オレ実は井上センセイにボディビル部入れって言われて、この前からやってるんだよ。どう?すごくね?」 柴家が力こぶを作ると、腕まくりしたワイシャツがはち切れんばかりに膨らんだ。前腕は黒のアンダーシャツ(に見せかけたダークスウツ)に覆われ、血管までもが浮かび上がる勢いだ。 「吉田もボディビル部入れば?井上センセイ、多分贔屓してくれると思うよお前なら」 じろりと身体を舐め回すような視線に、おれは少し肝が冷える。「考えとくよ」と曖昧な返事をしてお茶を濁した。 8 その時のおれは、簡単に言えば、焦っていた。 ヒーローの素養があるはずなのに、友達が悪に堕とされていくところを俺は黙って見ていることしかできない。それは何度も自分に言い聞かせて、守ってきたことだった。おれは一人で、無力だから。 ──そんなことがあって、良い筈がない。 せめて柴家だけでも助けたい。おれの自分勝手な欲だ。 深夜、寮舎から抜け出してトレーニングルームに向かう。洗脳や改造が行われた証拠があれば、解析に回して柴家を救う手立てが見つかるかもしれない。そんな微かな期待だけを抱いていた。巡回ルートと防犯カメラのアングルは全て頭に入っている。もちろん合鍵も準備していた。がちゃり、と大きな音を立てて錠が開く。 「うっ…………」 鼻を突いたのは、消し切れない男どもの汗の匂いだった。換気をしても追いつかない程なのだろうか。それに、仄かに精液の匂いもする。電気を付ける訳にはいかないので、ペンライトで辺りを照らす。暗闇に佇むジムの備品は、どこか拷問用具のように見えた。 どこにも異常は見当たらない。肩透かしを食らったような気分だったので、器具庫も見て回ろうと思い立つ。木製のドアを横にスライドさせると、むっとまた雄の匂いが一際強くなった。それだけではない。この密室だけ、妙に生温かく、人の気配が濃かった。 「誰かいるのか?」 返事はなかったが、何かが、複数身動ぎしたような、衣擦れの音がした。おれは覚悟を決めて電灯のスイッチを入れる。ぱちん、という軽い音の後に、器具庫である筈の空間が全く異なる用途で使われていることが明らかになった。 6畳程度の空間に、横一列に筋骨逞しいマネキンが6体並んでいる。それぞれがS高の運動部のユニフォームを着ていた。左から順に、野球部、ラグビー部、サッカー部、柔道部、剣道部、水泳部である。真っ黒なマネキンは、みな腰に手を当て、肩幅に脚を開いている。無個性のつるんとした頭部が不気味だった。おれはラグビー部のマネキンに向かって歩を進める。漠然としていた嫌な予感が、確信に変わっていく。呼吸で微かにマネキンの胸板が上下する。見覚えのある身長、体格。隠すことなく膨らんだ股間。 「柴家!!」 このマネキンは、ボディビル部の部員達だ。全身をダークスウツで覆い、毎晩洗脳と改造を延々と繰り返しているのだろう。おれの言葉に反応して、ラグビー部のマネキンがぞくぞくっと身体を揺らす。濃厚な精液の匂いが立ち込める。他の部員達も、脈絡なく、定期的に射精を繰り返していることが分かった。 「吉田、お前がまさか不良だとは思わなかったよ。こんな夜に出歩いて」 背後から、風を切って凄まじい速さの蹴りが飛んできた。おれは反転し、半身になってそれを辛うじて避ける。フローリングにシューズの底が擦れ、甲高い音を立てた。意外そうな顔をして、井上先生が立っていた。就寝前だったのか、大柄で鍛え上げた肉体をグレーのスウェットの上下に包んでいる。問答無用でおれは反撃を仕掛けた。ボクシングの要領でみぞおちと顎を渾身の力で殴る。みぞおちはダークスウツが衝撃を和らげたのか鈍い感覚だったが、顎の方はクリーンヒットしたようで、井上先生の頭と目がぐらついたのが分かった。 「やるな」 戦闘員であることを隠そうともしないで、井上先生はダークスウツ姿に転身した。振り上げた拳を、やはりもの凄いスピードで振り下ろす。握った拳を開いて、手のひらで相手の力を受け流す合気道に切り替えるが、手のひらが先生の拳と触れた瞬間、人間のモノでは考えられない金属の鈍重さで骨ごと殴られるような衝撃があった。 「いってえ!!」 思わず叫ぶ。受けた右手は青く腫れ上がっていた。 「悪い。手加減できるほど手馴れている訳じゃないんでな」 ただのダークスウツではなく、金属的な光沢を帯びた先生の肌に、おれは恐怖を感じる。先生の筋肉をひけらかすようなデザインのそれは、資料で見た怪人のそれだった。 「井上先生は、怪人クラスなんですね」 「ああ。お前は何でも知ってるんだな。勤勉は良いことだ」 こんなこともできる、と言って先生は腕から黒く鋭い刃物を生えさせた。ぶんっ、と無造作に振るだけで、木製の壁に大きな剣筋ができる。 「まあ、教え子を殺傷したいわけではないので使わないが」 「どうして……怪人なんかに……」 「退屈だったんだよ。でも、ダーク様は俺に生き甲斐を与えてくださったんだな。お前が気にしていた柴家を、こんな風にめちゃめちゃに変えちまうことだってできる」 花が開くようにラグビー部のマネキンの頭部が裂け、柴家の紅潮した顔が露わになる。口に咥えていた男根を模した枷が外れ、マネキンから人へと戻った。汗と涙、そして淫蕩な表情がいつもの笑顔をどうしようもなく穢している。 「あ゛ッ♡井上センセイ♡オレもっとできます♡もーっとオレの身体弄ってほしいです♡吉田が見てる前で本当のオレに戻れるの嬉しすぎてッ♡ごめんなあ吉田♡オレほんとは戦闘員にとっくに改造されちまってたんだ♡吉田のことすげえタイプで♡毎日オカズにして黒精ぶっ放してたんだあ♡早くお前もセンセイに洗脳してもらえって♡それでオレと毎日筋肉チンポ扱き合おうぜ♡なっ♡」 猥褻な言葉の羅列に、おれは言葉を失う。井上先生は筋肥大した柴家の胸を揉みつつ、ラグパンを下にずり下ろした。ダークスウツに包まれた下半身が露出され、フル勃起したその先端にピンク色のコンドームが被せてある。今夜、柴家は何度果てたのだろうか、その精液だまりはパンパンに膨らみ、真っ黒なビー玉が付いているかのようだった。 マネキン達が次々とダークスウツの戒めを解かれ、S高の生徒へと戻っていく。ある者は放心し、ある者はダークノアへの感謝と忠誠を口走る。そしてある者は、おれという異分子に好奇の視線を向け始めていた。複数の戦闘員、そして怪人が1人、おれの実力でここから逃れる術はない。 「紹介しよう。新入部員の吉田だ」 柴家がおれの肩に手を回す。筋肉が発達し、じっとりと汗ばんだ腕がおれを優しく絡め捕った。
Comments
相変わらず素晴らしい作品です! 吉田君の意外な立場が明らかになりましたね! 彼がどんな戦闘員になるのか楽しみです!
思兼
2021-02-20 17:47:18 +0000 UTC