淫忍(4)
Added 2020-09-28 17:26:28 +0000 UTCメモ:途中まで 〇藤吉 ここにはもう何も育たない、とお父は言いました。それは村のみんなも分かっていたことでした。 敵国の城に伺いに行くことは、恥ではない。お父のお父が子どもの時、村は別の侍の国でした。主が変わっても、村のある場所は変わらない。だから、新しい主に会いに行くのはとても自然なことでした。幸い、城仕えの者を農民からも召し上げるというお触れが出ていました。お父は無理でも、おれや隣の家の三郎太なら年も若いし、喜んでくださるだろう。そうみんなは考えました。 城に入ったら、もう村には帰れないのかな。おれはそのことばかりを考えて、村のみんなととぼとぼ、からくり城を目指しました。とても遠い道のりです。はあ、と溜息がよく出るようになりました。お父や他の大人はもっと疲れた顔をしています。 「なんじゃ藤吉、疲れた顔をしてるのう」 からから、と一人だけ元気な三郎太が笑い、マメだらけの手でおれの頭をばしばしと叩きました。齢は同じなのに、三郎太はぐんぐん背が伸び、小麦色によく焼けた肌や農作業で引き締まった身体などはもう大人のように立派です。一方おれは、まだ背も小さいし、声も低く変わったばかりで腕力もそこそこしかありません。おれの密かな心配は、三郎太だけが城に召し上げられたら立つ瀬がない、ということでした。もう一つ、城に召し上げられたとしても、何かと三郎太と比べられてしまうのではないか──三郎太は大切な友達だというのに、おれは嫌な奴だと思いました。 「元気なのはお前だけじゃ」 ぷいと横を向き、恥ずかしさと申し訳なさをごまかします。そのまま草原にごろんと寝転がると、疲れてずっしりと重たくなった身体をいやでも意識せざるを得ません。今日も野宿か、という気持ちと、このまま城に着かなければ良いのにという気持ちが、もやもやとおれの頭の中に湧き上がります。 「明日には城に着くらしいのう」 「そうかい」 「楽しみじゃなあ。新しい殿様はどんな人なんじゃろか」 「そんなんどうでもよか。おれが気になるのは年貢だけじゃ」 「はは、違いないわ」 おれのすぐ隣で三郎太が寝転がる気配がしました。暑苦しいから離れんかい、そう言おうとしましたが、くらり、と頭が重たくなり、そのままおれは眠りに付きました。 〇 「兄者」 淫忍の弐は人間の頃の癖が抜けないまま、壱をそう呼び止めた。肉色の忍装束をぴしっと着こなした二人は、魔に蝕まれたからくり城にすっかり馴染んだ存在に変わり果てている。漂う淫気、夥しい血の匂い、背後の魔の気配。二人はそっくりの容姿を互いに向かい合わせた。 「腹が減りました」 「お前な…………」 真顔の弐に対して、壱が呆れた声を出した。 「先程俺のとっておきの若侍を食べたばかりだろう」 「それは美味しゅうございました。でも、足りないのです」 弐が物欲しげに腹を撫で、視線をぴたりと壱の股間に定める。貪欲に育ってしまったな、と壱は苦笑した。 「仕方ないな。お前は大食らいが悪すぎるぞ」 「ありがとうございます、兄者」 破顔した弐は身を屈め、いそいそと兄の腰紐を解いていく。何も腹が減っていたわけではない。愛しい兄貴分の魔羅を味わいたくなっただけなのだが、「弐が腹を空かせているのだ」と簡単に騙されてしまう壱を、彼はますます愛おしく感じていた。既に褌の中で臨戦態勢になっていた魔羅をぬるりと引き出す。鶏卵のようにぱんぱんに膨れ上がった陰嚢と、棍棒のように太くて硬い陰茎が惜しげもなく晒された。変化の術を使っていないので、今日は久しぶりに魔羅は人間の形状をしている。すんすん、と弐は鼻を鳴らして壱の獣じみた匂いを堪能した。口布を剥ぐように引き下ろし、魔羅にむしゃぶりつく。淫忍にとって、精液は甘露のように美味なものである。相手が雄として上等であればあるほど味も良い。壱が短く呻き、全身をぶるりと震わせた。弐は目を静かに閉じ、辺りに響くほどの音を立てて精液を飲み下していく。 「ああ、うまい、です…………兄者の精液を味わうために俺は転生したのかもしれません……」 「ははは、そうか。俺はお前の精液を食らうためにお前を魔に堕としたんだぞ」 弐は壱が同じように自分の劣情を処理してくれることを期待したが、壱は下履きを履き直すと目で先を急がせる。 「お前は今日の任務があるだろう」 「そうでした」 弐は残念に思う気持ちを押し殺すと、冷酷な淫忍としての表情に戻っていく。しかし、口布を戻した後は、呼気に残る壱の精液の匂いを密かに楽しんでいた。 〇 目が覚めると、先程の草むらではなく、室内におれ達は居ました。畳の上、たくさんの襖、障子で区切られた部屋。どうやらどこかの座敷のようです。 「おお、目が覚めたか」 三郎太の声がしました。おれが身体を起こすと、三郎太は息を切らせて汗だくで座っておれを見ていました。 「どうしたんじゃ。汗が……」 「お前もすぐこうなる」 苦しそうに三郎太は目をぎゅっと閉じ、天を仰ぎました。そのときようやく、おれも、三郎太も、それからその部屋にいる全ての男が裸でいることに気が付きました。村のみんなだけでなく、侍や他の国の男達が大勢、その座敷に詰め込まれているのです。 「なっ」 汗だけでなく、その座敷には不思議な香が立ち込めているようでした。それを嗅ぐと、全身が熱くなり、息も絶え絶えになりました。気持ちが良すぎるのです。昔、誤って酒を一杯飲んでしまったときのように、ぐらりぐらりと世界が揺れます。身体を起こし、三郎太の隣に、同じように壁に寄り掛かって座りました。それだけで精一杯でした。周りを見ると、大人の方が酷く苦しんでいるようです。どの男も、魔羅をおっ立たせてはだらだらと汁を垂れ流しています。お父を探しましたが、同じように交尾前の犬のように魔羅を硬くしているのを見て、おれは慌てて目を逸らしました。村のみんなはそのような様子でしたが、先にこの部屋に来ていた男達は普通に──とは言っても、やはり同じように発情はしているようなのですが、行動し、人目を気にせずせんずりに及んでいる者も居ました。 「ここは狂っちょるな」 三郎太がそう呟くのに、おれは頷くことしかできませんでした。 〇 淫忍が餌場に入ると、その中の男達の視線が一斉に向けられた。烏の魔術で時空が歪んだその部屋は、無数の男達が引き延ばされた時間の中で暮らしている。半分は、その名の通り淫忍の餌場として。もう半分は、蟲毒──すなわち、その中で唯一生き残った雄が淫忍として転生する資格を得る、かもしれない。といった試みだ。 餌場から出るには、生き延びるしか方法はない。 餌場の男達は繰り返しそう告げられ、それを信じる内に目的を見失い、淫蕩に耽るようになる。次第に腹にはあの正円が刻まれる。快楽に耐えられなければそれまで。精液となって魔に変換された後、知らず知らずの内に他の男達の栄養となる。食事を摂らず、交尾さえしていれば生き延びられるようになっているのはそのためだ。ただし、長く居れば居るほど魔に肉体と精神を蝕まれ、限界が近付いていく。魔を蓄えながら、快楽の耐え得る上限を上げ、淫忍の器として完成することができるかどうか。 壱と弐はざっと餌場を見渡して、有望な器がいるかどうかを吟味する。腹に二重の正円が刻まれた『獣』が4~5人、出来上がっていた。人としての理性を失い、性交と自慰に耽る獣と化した者は、二つ目の正円を刻まれる。そこで初めて、淫忍からその次に進めるかどうか査定されるのであった。 弐が忍装束を脱ぎ、刃のように固く、鋭い肉体美を曝していく。小手、足袋、頭巾だけの姿となると、『獣』に目を付けて後ろからいきなり犯した。 「さあ耐え抜いてみせよ!」 しかし、最初に犯した偉丈夫はものの数瞬で精液になってしまった。次の侍は愛撫だけで果て、次の漁師は接吻で溶けていく。壱は面白くもなさそうにそれを見て、頭を振った。淫術を掛け直し、餌場の成熟を促すと、二人の魔物は早々に姿を消した。 〇 おれも三郎太も、最初こそこの座敷の異様さに圧倒されましたが、すぐに状況に慣れました。いや、慣れてしまったと言う方が正しいかもしれません。人がどろどろの精液に変わり果てるのも、何度も目の当たりにすれば怖くもなくなります。 おれ達が精液になってしまう条件はただ一つ、快楽の限界を超えないこと。 腹に真っ黒な線で円が一つが浮き出たとき、頭にすうっと染み渡るようにそれが理解できました。あの異様な忍び達が妖しい術を掛けた直後のことです。初めて目の前で男が犯され、そして精液に変わっていった様を見て、おれは混乱していたんだと思います。ただ夢のようにぼうっとそれを眺めていたら、いつの間にかあの忍び達は姿を消していました。大量の人型をした精液も、誰も触れていないのに、まるで壁や畳に吸われるようにして消えて行ったのです。怖さよりも、これは夢だ、と思いました。 「……なあ」 「ん?なんじゃ」 「なんかお前、エラい良い匂いがするのう……」 おれは、三郎太に対して全く同じことを思っていたので、どきりとしました。三郎太は断りもせず、おれの脇に鼻をあてがい、くんくんと匂いを嗅ぎます。「ここが一番イヤらしい匂いがする」。おれは恥ずかしくなってぶっきらぼうに「やめろ」と言いました。でもその後すぐに、自分も同じように三郎太の匂いを嗅いでも良いのではないか、とはたと気付きました。自分も同じくらい、三郎太の匂いは気になっているのです。お互いが満足するならば、それで良いのではないでしょうか。今なら自信を持ってそう言えます。 おれが三郎太のうなじに鼻を近づけると、土と汗と、そして、三郎太の匂いとしか言えない、イヤらしい匂いがしました。ずっと魔羅を立たせているのですから、三郎太が助平であることは間違いありません。ですから、三郎太から淫らな匂いがすることは、ちっともおかしくありませんでした。 「お前もイヤらしい匂いしちょる」 「手前のは臭いとしか感じんのじゃが」 「おれも」 そこからは言葉もなく、飯を食うように自然に、獣のように三郎太はおれの、おれは三郎太の身体の匂いを嗅ぎ回りました。そうしてすぐに、色々なことに気付きました。自分で身体を触るより、人に触ってもらう方が気持ち良いこと。男同士でも接吻をすると興奮すること。おれは三郎太に惚れてること。村にはもう帰れないこと。そんなこと、もうどうだっていいと思っていること。 横並びになり、三郎太はおれの、おれは三郎太の魔羅をごしごしと扱きながら、餌場で最初の射精をしました。どろどろの精液が、水鉄砲のように飛び散り、顔や髪まで汚します。三郎太も同じように胸にたっぷりと白濁を溜めて呆けたように笑っていました。 「ぐっ、ああああああああ!!」 その次に、焼けるように熱く、激しい快感が下腹を襲いました。臍を中心に正円が一つ、入墨のように刻まれていました。三郎太も同じです。急に身体が楽になり、萎えていた魔羅も起き上がりました。急に精液を舐めたくなり、右手に付いた三郎太のものを舐めました。驚くことに、美味しいのです。 「…………うめえ」 「嘘じゃろ……」 ごくり、と唾を呑んで三郎太もおれの精液を舐め取ります。「本当じゃ」と言って三郎太ははにかみました。どちらからともなく、精液を口に含んだまま接吻し、また興奮します。円が身体に刻まれてから、おれ達は根本のところで何かを変えられてしまったようです。もうおれ達は円が刻まれる前には戻れない、その確信がありました。 「おう、お前らも無事だったみたいじゃの」 雄臭い匂いをぷんぷんと漂わせながら、お父が俺たちの前にやって来ました。陰毛に精液が絡みつき、陰茎は腹を擦るように上を向いています。腹には俺たちと同じように、一つの円がくっきりと刻まれていました。飢えによって細かったお父の身体は、いつの間にか農作業で長年培った筋量を取り戻して艶めかしく脂ぎっています。おれのお父がこんなにイヤらしくなってしまうなんて、と思いましたが良く見ると、おれの肉体も筋肉が程良く付き、三郎太に見劣りしないくらい逞しくなっていました。 「他の奴らはダメじゃったが、『3人で』何とか生き延びねばな」 「親父さん……そうじゃのう、俺達が生き残って…………」 くちゅっ、という水音で三郎太の話は中断されました。逆手で親父が三郎太の魔羅を掴み、ねっとりと扱きあげていたのです。 「ああ、生き残って、俺達はもっと他の奴らの分まで淫らにされちまうんじゃ」 おれも三郎太も、自然と「ああ、そうか」と思っただけでした。生き延びたら、より狂うしかないのです。おれ達はそれを望んだからこそ、精液にならず、快楽の限界を引き上げたのですから。 「親父、おれの魔羅も弄ってくれんか」 「応よ」 分厚い、マメだらけの手がおれの魔羅を熱く包み込みます。次におれ達は『獣』に堕ちる。そう決まっているのだとはっきり分かりました。