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葉一
葉一

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(仮)ダークノア・予備素体編2

【注記】ほんのり分岐します。 4  それから七尾の二重生活が始まった。昼は普段通り学生として。バスケ部の活動が終わった後は、予備素体としての活動。カッターシャツの下に、そしてユニフォームの下に常にアンダーシャツを着込んでいるような姿となった七尾はしかし、誰からも注意を払われることが無かった。運動部であったこともあるが、ダークスウツがその時々に合わせて上手く変形し、七尾をより自然な姿に見せるように擬態する。七尾は戦闘員として未成熟なので、任意にダークスウツを操作できなかったが、不便に思うことはなかった。  七尾の性処理や教育は同じクラスの円加が担当した。「いやあ、仲間がクラスに欲しかったんだよ」と円加は笑ったが、既に洗脳がほとんど済まされている七尾は従順で、教育という教育を必要としていない。授業の合間などに互いの性欲を発散させることばかりだが、円加というありふれた友人が毎日変態行為に及んでいる姿を間近で見るのは有り体に言って七尾を興奮させた。円加にとってもそれは同じである。  ──射精したい。  七尾が考えるのはそればかりだった。射精する度に洗脳が進行する。逆に言えば、射精しなければ洗脳が進行しない。七尾は肉体の改造の待ちの期間が長いので、射精はかなり制限されていた。実際、ダークスウツを着てから射精許可が下りたのはその時の1回しかまだない。だから、気ままに円加が果てるのを見て心底羨ましいと思っていた。 「七尾、行こうぜ」  何気ない風を装っているが、円加の淫らな欲望が滲むのを七尾は見逃さない。昼休みになると円加は七尾を誘い、あまり使われていない体育倉庫に連れ立って行く。円加は体育委員なので、特段誰にも怪しまれない。二人はほぼ毎日、この体育倉庫で淫行を重ねていた。重い鉄扉をスライドして開け、つっかえ棒を立てかける。七尾は手慣れた様子だった。円加はおもむろに制服を脱ぎだし、闘士型の体型を露わにする。倉庫に差し込む日の光が、円加の逆三角形の肉体美を照らした。 「あ~~~~、やっっっと解放された」  ぺたんこに潰れ、茶色く汚れた上履きを放り出すと、円加は大きく伸びをした。七尾は何度見ていてもその姿に釘づけにされる。生まれたままでありながら、肌が一分も見えない漆黒。惜し気もなく曝け出された陰茎が、むくむくと大きくなってくる。 「へへ、フル勃起」  円加はクラスに居る時のように笑った。七尾はスラックスを突き上げ始めた股間を意識して、自分も服を脱ぎ始める。綺麗に割れ始めた腹筋が、無造作に露わになる。円加は、ラグビー部の仲間にはいない、しなやかながら強靭な七尾の肉体が好みだった。臍の形まで明らかになるくらいに引き締まり、ダークスウツに浸蝕された肌。股関節のマーメイドラインに走る動脈。円加は触りたいと思った時には既に手が動き、いやらしくそこを撫でている。七尾は抵抗する事無く、熱っぽい視線を注いでいた。「忘れてた」と円加は思い出す。手が止まり、棚に隠しおかれていたビデオカメラの電源を入れる。  ビデオカメラは予備素体の改造記録として貴重な資料になる、というのは建前で、みんな自分や他人の改造や洗脳途中の映像を見ることでオカズにするらしい、ということを七尾は円加から説明を受けていた。録画ランプが光る。 「予備素体番号T1801210、人間名・安藤七尾はこれより13回目の記録を行います」  忠誠のポーズを取ると、胸の内から誇らしい気持ちが溢れてくる。円加は手持ちでカメラを構え、真剣とも軽佻とも取れない絶妙な表情で画面を覗いていた。七尾がバストアップで映っていることを確認し、円加は安心する。彼は機械操作に弱い。 「今日は、おれの性癖を開発して頂きます。おれはこれから匂いフェチにされちまうそうなんですが、正直まだ実感が湧きません。匂いで興奮したことってあんまりないというか……、でも変態になるって考えると興奮してきます。今日も頑張ります」  洗脳が進んでいることから、自由意志が程よく溶け合った口調で淡々と七尾は述べた。七尾の全身の緊張が解ける。リラックスすると余計、全身の昂ぶりを感じる事が出来た。 「今日は」 Aルート→七尾のバスケットシューズでオナニー Bルート→円加の使用済みラグユニを着込んでオナニー 5A 「今日は、いつも使ってるおれのバッシュでオナニーします」 円加がカメラを引きにしようとして、後ずさって棚に頭をぶつけた。七尾は思わず笑ってしまう。「ズーム使うんだよ」「そっか」。円加は舌を出しておどけ、今度は誤らない。七尾の戦闘員としての姿が全身、映し出される。七尾の股間には既に白いバッシュがはめ込まれ、片手で軽く押さえられていた。靴底がそれなりに摩耗しており、爪先の両サイドが擦れて穴が開きそうな部分もある。色は白で間違いないが、使い込まれてくたびれた色合いになっている。また、バッシュに特徴的な足首を保護するためのクッションが高く作られており、それが股座にうまくフィットしていた。 「すげーエロいじゃん」  円加が声を出すと、七尾は照れ臭くなってピースサインを出した。 「朝練で使ったので、ちょっとまだ湿ってます。最近は靴下履かないでダークスウツ直履きが多くって、匂いも結構きついと思います」  七尾はあくまで記録という体裁を守り、丁寧な口調を保つ。だが表情の緩みは止まらない。自分の恥ずかしいことを述べ、説明するごと七尾は自我がぐずぐずに溶け出していくのを感じていた。バッシュでオナニーをするということに洗脳されかけている現在であっても抵抗感はあったが、命令となればその抵抗感は容易に決壊して悦びに変わる。円加がバッシュの片割れを持ち上げ、鼻を中に突っ込んだ。「すげえ、お前こんなん履いてバスケしてんの?」。円加は顔を顰めてバッシュを放り投げた。七尾は片手でそれを受け取ると、当然のように自分も鼻を押し入れ、匂いを嗅ぎ始めた。まあバッシュなんてこんなもんだろ、と七尾は思う。自分のものだから尚更、よく知っている。勿論、良い匂いではないが手入れもしているため、そこまで匂うとも思わない。布地に染み込んだ汗の香が、七尾の鼻をくすぐった。強いて言うならば、蒸れている匂い、というのが一番近い。七尾が自身の匂いに辟易し始めた時、臍の下、ちょうど下腹部がじんわりと熱を帯びた。脈を打つようにその熱は全身に広がっていく。  ──ああ、こういうことなのか。  七尾は熱によって鈍くなり始めた頭の中、唐突に理解した。これは条件付けなのだ、と。犬がベルの音と餌を合わせて提示されることによって、いつしかベルの音を聞くだけで涎を垂らすようになるように、おれは匂いと悦楽を条件付けされるのだ。いつの間にか、バッシュの中で喘いでいる自分がいる。バッシュの中で股間を漲らせ、先走りを泉のように溢れさせる獣になっている。もう一度、深く匂いを嗅ぐ。匂った。七尾の恥ずかしい匂いがバッシュの中いっぱいに詰まっていた。 「…………くっせぇ」  言葉とは裏腹に七尾の顔は満ち足りていた。新しい性癖を受け入れると、それは迅速に七尾のパーソナリティに統合されていく。自分が「書き換えられる」という感覚に七尾は否応も無く興奮していた。『安藤七尾は雄の匂いに興奮する変態である』。幾重にもその言葉が脳内に浮かび、焼きごてを押されるように焼き付けられる。陰茎の裏筋が湿ったソールにごりごりと擦れ、亀頭がちょうど爪先部分にぐりぐりと食い込んだ。右手はオナホを動かすかのように、バッシュを上下に動かすことで陰茎を扱いている。匂いを嗅ぎ、チンポを擦る。その単純な動きの反復で、七尾は無限の快楽を与えられてしまう。それ以外のことは考えられず、それ以外の行動を取ることができない。 円加は七尾が瞬く間に性癖を開発し、順応したこと──彼らしく言えば、「すぐさま変態に堕ちた」ことを驚きと羨望の目で見つめていた。 (あの七尾がみっともねえ表情でセンズリ扱いて……すげーエロい……)  女子から人気がある七尾、男子とつるんでもいつも中心にいる七尾。そうした普段の七尾からはかけ離れた、たった今、不可逆に変質しまった七尾。それを間近で、最初に見る事が出来る幸運に円加は喜びを覚えた。円加も自分の昂ぶりを慰めるために、屹立した股間を揉みしだく。人を堕とす快感については、円加もさほど経験を積んでいない。これは七尾の性癖開発であると同時に、円加の戦闘員としての実績を得る営みでもある。 「あっ、ま、円加っ…………」  七尾が彼を呼ぶ。懇願、切望、期待。その全てが快楽に彩られながら滲んでいる。円加はその表情を知っていた。洗脳末期に鏡の前でよく見ていた。 「おれ、もう、頭、がっ」  バッシュの奥からくぐもった声が聞こえる。それでも七尾は自分の匂いを嗅ぐのをやめない。やめられない。つうっと端正な顔に一筋涙がこぼれた。感情の伴わない、生理的な涙だ。熱と、快楽と、肉体の限界により絞り出されたそれは、汗や涎と変わらない。 「円加、射精許可っ、射精させてくれよっ、射精許可をっ、おれにッ」  七尾の懇願はあまりにも真に迫っている。なりふり構わず必死だった。これ以上は壊れてしまうのではないか、という懸念が円加の中に生じる。 「……いいぜ。派手に射精しろ、変態」 「ああああっ、ありがとうッ!円加、おれがっ、変態になるの見ててくれッ、すげっ、あああっ、おれ変態にっ」  七尾の言葉はほとんど譫言になっていた。何も考えられないのだから仕方がない。自分がまだ変態ではないと思い込んでいるそのあどけなさに、円加は失笑した。股間のバッシュがびくん、びくん、と何度も大きく脈を打つ。陰嚢が収縮し、たっぷりと種汁を吐き出していることが間接的に分かる。七尾の瞳からみるみる光が失われていく。淫欲に濁り切ったそれは、洗脳が完了した証だった。改造よりも先に洗脳が完了するケースは少数派だ。 「あー……すっげ♡全然射精止まんねえ♡」  ほとんど黒に染まった精液が、バッシュから溢れて七尾の内股を伝った。2週間も蓄積された精液は粘度が高く、ねっとりと糸を引きながら体育倉庫のコンクリに塊となっていく。円加はそのイカ臭さに興奮し、意識することなく果てていた。2、3分後、七尾はようやく落ち着きを取り戻し、口元に押し当てていたバッシュを名残惜しそうに引き離す。涎の糸がべっとりと引いたが、七尾は特に表情を変えることなく放った。床に無造作に転がされたバッシュが、七尾を永遠に変質させたことを円加は思う。股間のバッシュは最早手をあてがわれていない。射精しても尚、萎えることの無いチンポがしっかりとバッシュを引っ提げていた。 「おれ……」  ビデオカメラが自己主張するように唸った。偶然だろう。だが、二人はここで再び今の目的を思い出した。七尾は言い直す。 「予備素体番号T1801210、人間名・安藤七尾は本日性癖開発を施され、匂いフェチとして洗脳改造されたことを報告します」  肩で息をする七尾は、汗まみれで、下半身は精液に塗れている。室内の異臭はしかし、七尾を今も興奮させる材料となっている。 「チェック」円加はすかさず発した。 「洗脳率100%、改造率72%、性感帯開発ログ:陰茎、鼻孔。洗脳改造終了までの想定射精回数残り3回です」  電子音と共にビデオカメラの音が止まる。データは定期的にダークノアに送信され、ライブラリとして保管される。円加は今日の映像を何度も見返すだろうと思った。多分、七尾も自分で見返すだろう。精液がたっぷりと詰まったバッシュを、七尾は手で拭っていた。ダークスウツが七尾の汗や精液を吸い取り、乾かしていく。しかしそれは表面上のことだけで、七尾のダークスウツはそれらを全て保持し、邪悪で淫猥なエネルギーへと転換している。 (くっせえ自分の匂い嗅ぎながらバッシュでオナニーする変態)  自覚する度に七尾は高ぶりを抑えることで必死になった。それはダークスウツの次にダークノアから与えられたもので、彼らにとっては感謝や誇らしさが生じるべきものだった。その殊勝な心に呼応するように、バッシュがみるみる黒く染まっていく。ダークパワーに汚染された物は、ダークスウツと同じ性質を帯びたアイテムとして変容する。予備素体としては異例だったが、黒く染まったバッシュは紛れもなく七尾自身が堕落した証であった。 「おっ!やっぱお前才能あんなー」  円加が何事も無かったかのように体育倉庫を整える。ビデオカメラを片付け、ワイシャツを羽織るとバッシュを取り上げた。 「これやばくね?ザーメンの匂いプンプンするんだけど」 「安心しろよ、仲間にしか匂わねえから」  円加は悪戯っぽく笑い、バッシュに舌を這わせた。七尾の味が染み込んでいる。匂いフェチに堕ちるのも悪くねえな、と円加は思った。 5B 「今日は、円加のユニを借りてオナニーします」 円加がビニール袋からラグビーのユニフォームを取り出す。オレンジ色のコンプレッションタイプのシャツに、丈の短い白のラグビーパンツ。膝丈まであるオレンジのストッキングは、足首から下が泥と汗で汚れていた。黒いヘッドギアはぼろぼろに壊れかけている。手渡される度に汗で湿った衣服の重さを感じ、七尾はげんなりした顔になる。 「本当にこれ着るのか?」 「嫌ならやめるぞ。折角人が朝練でたっぷり汗かいてきてやったのに」  円加は憮然とした表情で佇んでいる。自分のユニフォームを人に着させることに抵抗感がないのは、勿論彼が戦闘員として完成しているからだと考えると、七尾は恥ずかしくなった。未成熟な七尾は躊躇いながらシャツに袖を通した。汗がひやりと身体を冷やす。 「汗くせえ」  よく伸びるシャツを引っ張り、七尾は円加の胸板が収まっていたであろう中心部の汗染みに鼻を当てた。仄かに酸っぱい匂いと、洗濯してもこびりついてしまって落ちない生臭い匂いがシャツからぷんと香る。 「それが好きで好きでたまらなくなるんだろ」 「なるかなあ」 「なるぜ。絶対。ダークノアの決定は絶対だ」  円加が冷徹な表情ではっきり言うと、七尾はぞくりとした。自分が変容してしまう恐怖と期待。ダークスウツにラグビーパンツを直穿きする。体格差はあるが、ウエストが緩いくらいでユニフォームは概ね七尾にぴったりだった。ドロドロのソックスを膝まで引き上げ、ヘッドギアの顎紐をキュッと締める。円加が折り畳みの手鏡を手渡す。細身ではあるものの、七尾がラグビー部に転向したのだと誰もが思うだろう。それくらい似合っていた。 「結構似合うじゃねえか」  円加の声はしかし、七尾を素通りした。自分がもしラグビー部だったら、もっと早くダークノアに洗脳・改造して頂けたのに、と考えていたのだ。鏡の向こうにいるのは、イフの七尾だった。筋骨逞しく、ラグビーに勤しみ、そして、白浜や静、円加と同じように洗脳され、戦闘員と生まれ変わった自分。 『今からでも間に合うぞ』  鏡の前の七尾が、七尾自身に呼び掛ける。瞳は濁り、指先までダークスウツで染め上げられた鏡の中の七尾は、それでも優しく七尾に微笑みかけた。円加はその様子からヘッドギアの機能が上手く働き始めたことを悟った。数度実用に至っているが、ラグビー部のヘッドギアにはダークノアが細工をしたものが使われている。洗脳の進行と維持、人格の変容と意志統一。どれもT校ラグビー部には欠かせないものだった。七尾の気が付かない内に、円加のユニフォームはみるみる変化していく。鮮やかなオレンジも、少し汚れた白も、全て真っ黒に染まっていった。確かに七尾が着たユニフォームは、元は円加のT高のユニフォームであった。円加の黒精がたっぷり沁み込み、その在り方が変容してしまうまでは。T高ラグビー部の大半はユニフォームを黒く染め上げ、自らが戦闘員に堕ちたことを仲間内で誇示している。白浜も、静も、練習が終われば同じ姿になって淫行に及んでいた。  七尾はようやく自分が闇色のユニフォームを着ていることに気が付く。むわっと汗だけでなく精液の匂いが香った。それだけで犬のように舌がだらしなく垂れ下がり、涎がつうっと零れる。七尾は頭に靄が掛かったまま、事態を呑み込もうと必死に考えている。しかし。 『何も考えるな、ダークスウツに身を任せろ。お前にはそれが精一杯だろ?』 「……ああ…………それにしても」  くせえな、と七尾は続く言葉を飲んだ。匂いは強くなっていたが、不快さよりももう一度嗅ぎたいという気持ちが高まっていることに気が付いたからだ。考えようとするごとに、七尾は自我がぐずぐずに溶け出していくのを感じている。鏡の中の七尾も闇色のユニフォームを着ている。『これはおれの精液で染めたんだぜ。お前のは円加のだろ?じゃあ円加の精液の匂いがするんじゃないか?』促され、七尾は腋に鼻を押し当てた。ツンと鼻を突く刺激臭に、濃厚な雄の香り。円加の匂いが脳髄に染み渡り、記憶野に焼き付く。七尾自身の意思とは関係なく、肉体が匂いを求めていることが分かった。犬のように執拗に、鼻を鳴らしながら七尾はシャツに顔を埋めていく。七尾が円加の匂いを堪能し、受け入れ始めた時、臍の下、ちょうど下腹部がじんわりと熱を帯びた。脈を打つようにその熱は全身に広がっていく。  ──ああ、こういうことなのか。 『ああ、ようやく分かってくれたか!そういうことなんだよ!』  七尾は熱によって鈍くなり始めた頭の中、唐突に理解した。これは条件付けなのだ、と。犬がベルの音と餌を合わせて提示されることによって、いつしかベルの音を聞くだけで涎を垂らすようになるように、おれは匂いと悦楽を条件付けされるのだ。いつの間にか、円加の匂いの中で喘いでいる自分がいる。ラグビーパンツの中で股間を漲らせ、先走りを泉のように溢れさせる獣になっている。もう一度、深く匂いを嗅ぐ。匂った。円加の腋、胸、股、足……すべての箇所から異なる匂いを弁別できるほど、七尾は円加の匂いに耽溺していた。 「…………くっせぇ」  言葉とは裏腹に七尾の顔は満ち足りていた。新しい性癖を受け入れると、それは迅速に七尾のパーソナリティに統合されていく。自分が「書き換えられる」という感覚に七尾は否応も無く興奮していた。『安藤七尾は雄の匂いに興奮する変態である』。幾重にもその言葉が脳内に浮かび、焼きごてを押されるように焼き付けられる。陰茎が湿ったラグビーパンツにぬるぬると擦れ、亀頭がちょうどゴム紐にぐりぐりと食い込んだ。右手はラグビーパンツが汚れることを厭わずに、陰茎を扱いている。身体のありとあらゆるところの匂いを嗅ぎ、チンポを擦る。その単純な動きの反復で、七尾は無限の快楽を与えられてしまう。それ以外のことは考えられず、それ以外の行動を取ることができない。 円加は七尾が瞬く間に性癖を開発し、順応したこと──彼らしく言えば、「すぐさま変態に堕ちた」ことを驚きと羨望の目で見つめていた。 (あの七尾がみっともねえ表情でセンズリ扱いて……すげーエロい……)  女子から人気がある七尾、男子とつるんでもいつも中心にいる七尾。そうした普段の七尾からはかけ離れた、たった今、不可逆に変質しまった七尾。それを間近で、最初に見る事が出来る幸運に円加は喜びを覚えた。円加も自分の昂ぶりを慰めるために、屹立した股間を揉みしだく。人を堕とす快感については、円加もさほど経験を積んでいない。これは七尾の性癖開発であると同時に、円加の戦闘員としての実績を得る営みでもある。 「あっ、ま、円加っ…………」  七尾が彼を呼ぶ。懇願、切望、期待。その全てが快楽に彩られながら滲んでいる。円加はその表情を知っていた。洗脳末期に鏡の前でよく見ていた。 「おれ、もう、頭、がっ」  シャツの奥からくぐもった声が聞こえる。それでも七尾は匂いを嗅ぐのをやめない。やめられない。つうっと端正な顔に一筋涙がこぼれた。感情の伴わない、生理的な涙だ。熱と、快楽と、肉体の限界により絞り出されたそれは、汗や涎と変わらない。 「円加、射精許可っ、射精させてくれよっ、射精許可をっ、おれにッ」  七尾の懇願はあまりにも真に迫っている。なりふり構わず必死だった。これ以上は壊れてしまうのではないか、という懸念が円加の中に生じる。 「……いいぜ。派手に射精しろ、変態」 「ああああっ、ありがとうッ!円加、おれがっ、変態になるの見ててくれッ、すげっ、あああっ、おれ変態にっ」  七尾の言葉はほとんど譫言になっていた。何も考えられないのだから仕方がない。自分がまだ変態ではないと思い込んでいるそのあどけなさに、円加は失笑した。股間の膨らみががびくん、びくん、と何度も大きく脈を打つ。陰嚢が収縮し、たっぷりと種汁を吐き出していることが間接的に分かる。七尾の瞳からみるみる光が失われていく。淫欲に濁り切ったそれは、洗脳が完了した証だった。改造よりも先に洗脳が完了するケースは少数派だ。 『「あー……すっげ♡全然射精止まんねえ♡」』  鏡の七尾は既に七尾自身と同じ存在になっている。ほとんど黒に染まった精液が、ラグビーパンツから滲み、七尾の内股を伝ってソックスにぐっしょりと沁み込んでいく。2週間も蓄積された精液は粘度が高く、ねっとりと糸を引きながら体育倉庫のコンクリに落ちた。円加はそのイカ臭さに興奮し、意識することなく果てていた。2、3分後、七尾はようやく落ち着きを取り戻し、口元の涎をダークスウツで拭った。七尾は特に表情を変えることなく、堂々と萎えることの無いチンポでラグパンを押し上げたままでいる。汗で身体に貼り付いた自分の穢れたユニフォームが、七尾を永遠に変質させたことを円加は思い、自分が堕としたという快感に恍惚とした。 「おれ……」  ビデオカメラが自己主張するように唸った。偶然だろう。だが、二人はここで再び今の目的を思い出した。七尾は言い直す。 「予備素体番号T1801210、人間名・安藤七尾は本日性癖開発を施され、匂いフェチとして洗脳改造されたことを報告します」  肩で息をする七尾は、汗まみれで、下半身は精液に塗れている。室内の異臭はしかし、七尾を今も興奮させる材料となっている。 「チェック」円加はすかさず発した。 「洗脳率100%、改造率72%、性感帯開発ログ:陰茎、鼻孔。洗脳改造終了までの想定射精回数残り3回です」  電子音と共にビデオカメラの音が止まる。データは定期的にダークノアに送信され、ライブラリとして保管される。円加は今日の映像を何度も見返すだろうと思った。多分、七尾も自分で見返すだろう。精液がたっぷりと染みた納豆臭いソックスを脱ぎ、七尾は弄んでいた。ダークスウツが七尾の汗や精液を吸い取り、乾かしていく。しかしそれは表面上のことだけで、七尾のダークスウツはそれらを全て保持し、邪悪で淫猥なエネルギーへと転換している。身体を匂うと、ダークスウツにしっかり円加の匂いが取り込まれていることが分かった。好きな時に、好きなだけ円加の匂いに溺れる事が出来る。そう考えると七尾はまた興奮してきた。 (野郎のくっせえ淫臭嗅ぎながらオナニーする変態)  自覚する度に七尾は高ぶりを抑えることで必死になった。それはダークスウツの次にダークノアから与えられたもので、彼らにとっては感謝や誇らしさが生じるべきものだった。七尾は改造の結果、肉体がこの短時間で少し筋肥大したことを感じ取っていた。鏡の中に居た七尾には及ぶべくもないが、それでも現実が歪んでいく。七尾はあの理想の七尾にかなり近付いていた。 オレンジ色の擬態に戻ったユニフォームを律儀に畳み、円加に手渡す。 「汚してごめん」 「いいぜ。それより、ユニから七尾の匂いがしたらラグビー部でモテちまうかもな」  円加は悪戯っぽく笑い、ラグビーパンツの七尾が果てた部分に舌を這わせた。七尾の味が濃厚に染み込んでいる。匂いフェチに堕ちるのも悪くねえな、と円加は思った。 6  黒い腕、黒い脚、黒い肌。  黒いバッシュ、黒いバスケットパンツ、黒いタンクトップ。  和道は信じられない思いで幼馴染を見た。全身を黒く染めた彼は確かに、自分の親友であった。 「和ちゃん」  いつもと変わらない口調。いつもと変わらない表情。 「おれ戦闘員になっちゃった。毎日すげー気持ち良いんだ、悪いこととエロいことばっかしてさ。友達とか後輩、先輩もみーんな洗脳してあげたいんだ」 「嘘だろ、なんかの冗談だろ……」  しかし和道はそれが冗談でないことを薄々分かっている。人気の無い武道場に、柔道着のまま七尾と相対しているその先には、正座をしている後輩が一人、無表情で中空を見つめていた。月明かりが天窓から差し込んでいる。虫の声以外聞こえない、穏やかな夜だった。夢であれ、と和道は思う。状況を理解できない時に彼はそれが夢であることを期待するしかできない、それくらい普通の高校生だった。 「七尾…………」  哀願は届かないようだった。七尾は振り向き、手短に言った。 「チェック」 「洗脳率66%、改造率98%、性感帯開発ログ:アナル、陰茎、乳首、味蕾。洗脳改造終了までの想定射精回数残り3回です!!」  練習の時と同じような大きさの声で、篤志は応えた。青々と剃り上げた坊主頭は柔道部の証である。厳つい表情は射精を堪えているのだろう。しかし正座した股の間には失禁したように黒い染みが広がっている。柔道着の中には黒い肌着。和道はそれが常識の範疇の外にあると既に知っている。見せつけられている。指先まで覆ったそれは、まるで生き物のように人を喰らう。 「もうすぐ堕ちちゃうね、篤志君。気分はどう?」 「怖えっす!メチャメチャ怖えっす!!でも自分にはどうすることも出来ません!先輩に顔向けできねえほど淫乱に改造されちまって、ダークスウツの虜にされちまいました!!押忍!!今も戦闘員になりたくねえんすけど、もう身体が、肉体が、戦闘員にされちまいました!!だから自分はもう……」 「改造が終われば洗脳もすぐ済むからね。よく言えたから褒美をあげよう」 「あっ、七尾先輩ッ!そんなっ、自分はまだ、戦闘員にはッ!!」  七尾は聴く耳を持たず、篤志の湿った股を手で拭った。そのまま篤志の目の前に精液で汚れた手を差し出す。篤志は瞬時、躊躇いを見せたが、すぐに舌を出して自らの精液を舐め取り始めた。 「……はっ、うめえ……、我慢できねえっす……自分はもう、改造されちまってるんで、先輩はどうか、でも……あっ♡すげっ♡あっ、あっ、先輩の前なのにまたっ♡がああああああああああああああっ♡あっ♡ひっ♡洗脳が進んじまうっ♡気持ち良いっす♡洗脳されんの気持ち良い♡ダメなのにっ、射精したら戦闘員になっちまうのにッ♡」  だらしなく破顔した篤志はそれでも、抵抗を見せる。股間から生暖かい汁が滲み、畳を黒く汚していた。和道は言葉も無く、目を逸らすことも出来ず、ただ見ていた。後輩と親友の淫行を見ている内に、自分の中にも妙なざわつきがあることに気が付いている。性への本能的な欲求が刺激されている。 「チェック」 「洗脳率74%、改造率99%、性感帯開発ログ:アナル、陰茎、乳首、味蕾。洗脳改造終了までの想定射精回数残り2回です!!」  ──また数が減ってしまった。  和道は焦る。いや、先程から焦っているのだが、自分がどうしたら良いのか分からない。どうしたら七尾がこんなことを止めてくれるのか、どうしたら篤志を助けてやることができるのか、そもそも篤志が困っているのかどうか。判然としない事ばかりで、考えている内に目の前で篤志はもう3回もイカされている。 「どうすればいい」  和道はようやく口を開いた。和道は冷静になればちゃんと力を発揮できるタイプである。洞察力も高い方だ。無骨な見た目がそれを隠しているに過ぎない。 七尾は振り向いて、ぽかんとした表情をしている。 「え?」 「どうすればいいと訊いている」  七尾は明らかに動揺していた。和ちゃんはいきなり何を言い出したのか、とありありと顔に書いてある。 「もしかして、和道に何して欲しいか言い忘れちゃってるんじゃないの?」  助け舟を出したのは武道場の入り口にのんびりと現れた白浜だった。和道は助けが来たと思ったが、白浜の指先や肌を見て再び絶望する。この学校にはどれくらいこんな格好の奴がいるんだろうか、と思い出してみる。少なくともラグビー部は全員アウトなのかもしれないと和道は結論付けた。 「そっか」  七尾が納得を示すと、白浜は深い溜息をついた。 「優秀なのはいいけど、困るよ七尾」 「ほんとにごめん」 「これ、どうせ忘れてるんだろうと思って持ってきてあげたからね」  紙袋からごそごそと黒い布を取り出すと、七尾はテコテコと歩いて行ってそれを受け取った。 「白浜大好き」 「はいはい、ありがとう」  にっこりと笑った七尾の頭を白浜はおざなりに撫でた。「邪魔しちゃ悪いから、じゃあね」と言うと白浜は登場時のようにのんびり帰っていく。微妙な間は空いたが、くるりと振り返った七尾は気持ちを既に切り替えていた。 「じゃあ、和ちゃんにこれ着て貰って戦闘員になって欲しいんだけど」 「嫌だが」  せっかくシリアスに戻そうと思ったのに、と七尾はぶつくさ言った。 「お前らの不思議な力で無理矢理着せることもできるんだろう。やればいいじゃないか」 「それだと色々と不都合がありましてね」  七尾は誤魔化し、ふざけながらもそれを断った。実際、気絶させるなりして和道にダークスウツを着せることはできる。しかしそれでは七尾の思い描く『理想の和道』にはならない公算が高い。 ──自らダークスウツを受け入れた者の方が、そうでない者と比べて洗脳・改造の自由度が上がる。  事例が少なかったから明らかにされていなかったが、ここ最近の少数のケースから仮説として検討されているところだ。実際、七尾の洗脳・改造は例を見ず快調だった。能力値もA+を記録し、ラグビー部から羨望の的になっている。 「おれは和ちゃんに自分から戦闘員になってもらいたいんだよね」 「それはちょっと、無理だろう……」 「じゃあこうしよう。和ちゃんが戦闘員として完成するまで、おれは他の生徒に手を出さない。そうすれば、和ちゃんが洗脳に耐え切ればずっと平和じゃん。どう?」  和道は逡巡した。彼はそこまで正義感が強い訳ではないが、同時に幼馴染を放っておけるほど薄情ではない。結局のところ、和道に残ったのは「これ以上幼馴染が酷いことをしないでほしい」という素朴な気持ちだった。嘘をつくだろう、ということは重々承知している。自分が何とか解決の手段を見つけるまでの時間稼ぎになれば、それでいい。 「…………わかった」 「でもおれ嘘つくよ?」 「無理矢理よりは、良いんだろう?」  和道は柔道着を脱いで裸になった。全身に厚みのあるガタイの良さを余すことなく七尾は堪能する。太々しくぶら下がった陰茎は、高校生のものとは思えない大きさで皮はずるりと剥けている。手渡されたアンダーシャツは、和道のサイズより一回り小さいようで、乳首の陰影や筋肉が、腕や肩には血管さえも浮かび上がっている。下半身は鬱血するのではないかと心配する程きつかったが、両脚を通せば動きは滑らかになる。 (まるで何も着てないみたいだな)  ちらりと七尾と篤志を見遣る。剥き出しになった手足以外は彼らとほとんど同じ姿になったと分かる。  (二度と脱げねえ、か……)  信じ難かったが、和道はそのことをなんとなく既に理解していた。動物的直感が働くことも、和道の長所の一つだった。 「着たぞ」 「やっぱり似合うね。エロい身体してるなあ」 「うるさいぞ」  じゃあ完成させようね、と七尾が言った。和道の全身に生き物が這い回ったかのような艶めかしい触感が走った。シャツとスパッツの境目は消え、縫合の跡もどこにもない。ダークスウツ、という単語が脳内に浮かんだ。悪魔に囁かれるかのように、和道の頭に響くそれはダークノアの盟主たるダークの意志そのものだった。『忠誠を誓うこと』『悪の尖兵に生まれ変わること』。そのためにやらなければいけないことは、もう和道には分かっていた。決定的に自分が変わってしまう。そんな予感が彼を躊躇わせる。それでも、七尾のために今更引き返すことも出来ない。 「定着」  ダークスウツは吐き捨てられたように言ったその呟きを聞き逃さなかった。どろりと液状化したかと思う程、それは姿形を変えて和道に襲い掛かる。全身を貫く性感に、思わず悲鳴を上げてしまう。波が指先に届く。足の裏を覆う。顎の先まで彼を密閉する。 「うあッ!!」  和道は顔を顰めて快感に耐えた。陰茎が臍に当たらんばかりに反り返る。しかし、禁欲的な和道の肉体を完全に改造してしまえるほど彼の精神力は脆弱ではなかった。波が引くように、ダークスウツは彼に定着しただけで絶頂には導かない。予備素体としてのシステムを捻じ込み、和道の最初の改造は終わった。 「予備素体番号T1801225、人間名・柳瀬和道は自ら予備素体として洗脳改造されることを志願し、本日ダークスウツの定着を終了したことを報告します」  忠誠のポーズを取りながら、和道は言った。和道としての人格とは完全に切り離された、プログラムとしての応答だった。 「チェック」 「洗脳率3%、改造率6%、性感帯開発ログ:なし。洗脳改造終了までの想定射精回数算出不能です」  七尾は歯噛みした。想定よりも和道はずっと強い。自ら志願した、というところまでしか目標を達成できなかったことに敗北を感じていた。プログラムが終われば主体は和道に戻る。それでも和道はこの身体の居心地の悪さに辟易していた。ダークスウツは皮膚と一体化し、和道を常に束縛している。七尾を見れば、あまり思い通りにいかなかったことはよくわかった。和道は七尾の幼馴染だからだ。 「……帰るか」  七尾は無言で頷く。篤志を立たせ、タオルを渡す和道の後姿を見て、これから確実に洗脳と改造を施さなければと決意を固めていた。

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