淫忍(3)
Added 2019-02-11 16:22:16 +0000 UTCカテゴリ:全体公開 完成度:40%くらい((鷹助終わりまで):制作120分くらい)) 難産になってきた。 鷹助がからくり城を望む頃には、その国の違和ははっきりと誰にも感じられるようになっていた。見たことのない木々、蠢く虫の塊、濁み淀んだ河など、目に見える異常が魔境を演出する。日が照っていてもどこか薄暗く、そのくせ蒸し暑い。辟易して道端に座り込み、動かなくなる者もちらほらと目に付くようになった。鷹助が尾行する一団も、徐々に進行が遅れてくる。 (疲弊もいよいよ誤魔化しきれなくなってきたか……) 夜になり、死んだように草むらに身を横たえる男達を見て、憐れみのような感情が沸き上がる。本当にこの異郷に仕事があるのだろうか、という疑念はおそらく彼らにもあるのだろう。誰も口を開かない。楽しげな談笑は一度たりとてない。そんな牛馬のような歩みに、鷹助はもう数日付き合っている。考えるのは止めよう、と彼は思考を中断させた。忍として任務中の雑念は禁物である。だが、その一瞬の不注意が鷹助の明暗を分けた。 とぷん。 ほとんど目の前で寝ていた少年が、ゆっくりと影の中に沈み始めた。草むらの中に沼があり、その中に身体が傾いていくかのようだった。その始まりを鷹助は見逃した。気付いた時には既に、少年の半分は闇に消えていた。それだけではない。男達が次々と身体を傾け、地下に沈もうとしている。 「なっ」 その場を離れようと脚に力を入れようにも、鷹助の下半身はびくともしない。既に両方の足首が闇に呑み込まれていた。脛に手の形をした影が巻き付き、さらに下へ下へと引き摺りこもうとしている。 「ふ、不覚ッ…………!」 声に呼応したのか、さらに影の手の力は強くなった。ずるり、ずるり、と億劫そうに影が鷹助を呑み込んでいく。もがいた手が雑草を掴み取る。土塊を握り締めた手を最後に、全てが闇に呑まれ、辺りに静寂が戻った。 座敷牢のような場所に居るな、と鷹助は思った。気絶していたのはほんの半刻ほどだろうと見当を点ける。痛みはないが、手足は動かない。何かに繋がれているという感覚はないが、ただ、直立したまま動けない。 「どうだ、俺の新術は」 聞き覚えのある声に、はっとして顔を上げる。格子の前に忍が立っていた。赤黒い、見慣れぬ忍装束に、見覚えのある立ち振る舞い。鷹助は混乱した。がたん、と物々しい音を立てて格子の一部が開いた。忍は口布と頭巾を外し、無造作に捨て置く。そうしてようやく、鷹助は目の前の忍が確かに義兄の伊蔵であることを認めた。 「兄、者……?」 鷹助はそれでも問いを発さずにはいられなかった。不敵な笑みに、脂ぎって光る鼻先、普段の無精髭は丁寧に剃毛されて顎先から唇にかけて三角形に揃えられている。鼻を突く異臭に、勃起で盛り上がった下履き。好色、というには余りにも淫らな義兄の姿に、鷹助は息を呑んだ。からくり国に漂っていた違和の源の一つが、伊蔵であることを確信したからだった。 「……国を裏切ったのですか」 「俺は『魔』に転生し、烏殿の軍門に下ったのだ……烏殿の前では、どのような抵抗も無意味だ……お前もすぐに分かる……なあ、鷹助」 みしっ、と音がすると、淫忍の脚がひしゃげ、足袋や脚甲、下履きが音も無く消えた。壱の下半身は狗のものに変化していく。鋭い爪、硬く黒光りする獣毛、褌をたっぷりと先走りで湿らせ、鋭い先端に亀頭球まで鮮やかな赤色をした魔羅が、鷹助の目に入る。 「はは、どうだ俺の変化の術は…………真実、淫らであろう……どうした。声も出ぬか、情けない」 言葉とは裏腹に、壱は優しく微笑んでいた。鷹助は怯えを隠し切れず、瞳を動揺で揺らす。その隙を見逃さず、淫忍はさらに術を重ねた。鷹助の鼻孔に濃密な雄香が満ちる。 「…………ぁッ?!」 「淫香の効きが良いな。たっぷり溜め込んでいるんだろ」 無遠慮に壱が鷹助の下履きに手を突っ込み、汗と先走りが染み込んだ褌の上から執拗に魔羅を撫でた。鷹助は歯を食いしばり、果てるのをとどめようと力む。然程乗り気でも無かったのか、壱はすぐに手を放し、鷹助の先走りで糸を引く指先を美味しそうに舐めた。鷹助は肩で息をするほど既に消耗している。 「まあ良い。新術を掛けるのが本題だからな」 目にも止まらぬ速さで印を結ぶと、気合と共に壱は目を見開いた。鷹助の肉体がびくん、と一度大きく揺れると、手足が自由になった。否、拘束が解けたような気はするものの、相変わらず自分の力では動かせない。不意に壱が右手を上げる。鷹助の意思とは無関係に右腕が上がる。上げられる、といった方が正しい様相である。 「『影縛りの術・搦手』」 「身体が勝手に……?!」 「俺とお前はこれで一蓮托生だ。例えば俺が、今ここでセンズリ扱きたくなったらお前も同じようにするのさ」 こんな風に、と壱は右の逆手で狗の魔羅を握る。同じように、鷹助は下履きの上から陰茎を逆手に握らされていた。ゆっくりと両者同時に魔羅を扱き上げていく。片や淫らな笑顔で、片や苦悶の表情で。対面で手淫に及ぶその光景は、傍から見れば全く異様であった。二匹の雄から発されるむっとした熱気が、まるで目に見えるようであった。そこに黒衣の男が音も無く闇から現われ、鷹助の背後から囁きかける。 「どうだ目の前で見る兄貴の自慰は?お前も興奮しているだろう?お前の知る伊蔵は、このからくり城で淫忍の壱となり、淫欲の虜、魔の手先と変わり果てたのだ」 快感と恐怖と困惑で混濁した鷹助は、男の話している内容を吟味できないまま、未だ忙しく手淫に及ぶ右手に神経を集中させていた。 「淫忍……?」 辛うじて問い返した先は闇だった。頃合いと見たのか、壱が手淫の手をさらに早く、強くし始めた。鷹助の意識は専らこちらに引きずられ、この瞬間の会話のことは脳の片隅に追いやられてしまった。無意識に、義兄の自慰に興奮する己、という烙印が沈められる。逞しい筋肉が躍動し、ただ自慰という恥ずべき行為に没頭する義兄は、確かに今までの在り方と違っている。但し、その野性のままの姿に鷹助は興奮し、同じように自らも手淫に耽っている。淫忍の術に掛かっているという点を見失う中、鷹助は自分がみるみるそうした淫らな行為に対する抵抗感を失っていくことに気が付く。そして。 「うお、おおおおおッ!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」 野獣のような雄叫びと共に、鷹助の魔羅は褌の中で爆ぜた。どくん、どくん、どくん、と心臓が脈打つようにダクダクと濃厚な精が着衣の中に放たれる。緑色の忍装束に、たっぷりと染みが広がっていく。股間を中心に、足袋まで汚れていた。口布は汗と唾液と鼻汁をこれ以上ないというほど吸い、ぴったりと顔に貼り付いている。快感はとうに人の享受できる限界を超え、鷹助の腹、臍を中心に堕落の正円が一つ、描かれる。 「はっはっは、先に果ててしまうとは可愛い奴だ。そら、俺の種汁もくれてやるぞ」 グロテスクな魔羅を傾け、壱は鷹助の顔面に真っ直ぐ射精した。勢いは衰えることなく、量も尋常でない。数回浴びせかけただけで、鷹助はどろどろの白濁にまみれた。内も外も精液まみれとなった鷹助は、既に『魔』に抗する手段を全て失っている。精根尽き果てた、と言うべきか。淫忍の発する催淫の気に当てられ、再びむくむくと陰茎を固くしていく。 「『解』──さあ、お前の全てを見せてくれ」 術が解かれると、鷹助は恥じらいながら、汚れ切った忍装束を脱ぎ去っていった。抵抗する気持ちは既に無く、催淫は更に程度を強め、鷹助から伊蔵への魅了に至らしめていた。従うことそのものが快となる。従順であれば褒美として快が与えられる。そうした前提が既に鷹助の中に強固に築き上げられていた。忍装束を脱ぎ去ると、壱よりも細身で、脂のほとんどない、引き締まった肉体が露わになった。口布を剥ぎ取ると、細面に短い黒髪の美丈夫であることが分かる。ただし、眼光は鋭く、その目付きだけで人を萎縮させることも可能かと思われるほどだった。下履きを無造作に脱ぎ、最後にも褌も躊躇わずにぽいと放り捨てた。膝下までの足袋以外、生まれたままの姿を晒し、魔羅を反り返らせている。 (ああ、俺は──) 保たれていた表情が、理性が、呆気なく崩れた。 (俺は、兄者に見られて興奮している──変態だ) 鷹助がだらしなく破顔すると、壱は相手が術中に嵌ったことを察して近付き、舌を絡ませた。鷹助も自ら積極的に舌を絡め、下半身を壱の獣毛に擦りつけていく。 「ああ、兄者、兄者兄者兄者…………もっと、俺にもっとください」 熱っぽい視線に、壱は鷹助が完全に自分に魅了されたと確信した。下準備は要るものの、とうとう、淫術だけで相手の精神を歪めることができるようになったのだと。それは、彼自身を完全に変容させた黒衣の男──烏と同じ御業の域である。壱は鷹助の腹に浮かんだ正円をなぞると、また一つ、正円がするりと描かれていく。理性を失い、獣欲の中に身を堕とした鷹助は、それでも壱への情愛で人としての形を保っていた。 「仕上げだ……鷹助、お前にたっぷり『魔』を注いでやる」 鷹助は壱の言葉に打たれ、床に寝転がると自ら両足を抱えて股を開いた。秘所が丸見えとなるが、鷹助はこれからの交尾のことで夢中であり、期待の眼差しを壱に向けている。壱もいよいよ鷹助のことが愛おしくなり、彼を抱き締めると共に前戯なしで獣根を突き刺した。壱は正しく狗となり、獣欲のままに鷹助を犯し尽くした。鷹助は壱の先端が直腸にごりごり擦れる都度、熱された鉄塊がぶち込まれたような痛みに喘ぎ、絶叫した。びゅっ、と短く、それでいて大量に鷹助の中に何度も壱の精が放たれる。それは『魔』そのものであり、放たれる度に鷹助を人ならざるものへと変容させていく。筋力が、性欲が、呪力が、様々な力が人の限界を超えて鷹助に流れ込んでいく。鷹助はいつの間にか痛みは全く感じず、ただ茫洋とした快感の波に巻き込まれている状態に至った。山岸のように注がれた『魔』が溢れることなく、鷹助に完全に馴染み、適合したのだ。この快感が永遠に続くのだと気付いたとき、初めて鷹助は気が狂うと思った。壱の亀頭球を外し、よろよろと立ち上がると、内股を伝って肛門から精液がどろどろと流れ出した。完全に勃起した魔羅は、半刻前より肥大している。こうした変化の中で、鷹助に新たな刻印が浮かび上がる三重の正円と、背中に文字。鷹助が淫忍として転生した事を表していた。 鷹助の体格に誂えたように、肉色の忍装束が用意されていた。汗も精液も拭うことなく、手早く褌を締め、足袋を履く。敵国の先兵と成り下がったことを、省みることはない。『弐』と記された額当てを締め、片膝を着くと、新たな淫忍が完成した。その隣に、全く同じ姿をした壱が控えている。からくり国、否、烏に心からの忠誠を捧げる淫忍の義兄弟は、萎えることなく魔羅を固く尖らせている。 「淫忍の弐、これより烏殿にお仕えすることと相成りました」 伊蔵が名を捨てさせられたように、鷹助もまた名を捨て、弐となった。鋭い眼光は変わらないが、どこか好色の相がある。 「次の淫忍を、探せ」 「応ッ」 「応ッ」 闇の中の声に応じ、二人の淫忍もまた闇に溶けた。淫らな残り香だけが、暗闇にいつまでも漂っていた。