デパートの中は、きらきらしていて、少しだけざわざわしていた。 「わぁ……」 叶ちゃんは夢ちゃんに抱きかかえられながら、きょろきょろと辺りを見る。 「おもちゃ、いっぱい……!」 「そうだね。でも、今日はパパにプレゼント選ぶんだもんね。おもちゃはまた今度ね」 夢ちゃんは微笑んで、叶ちゃんの耳先をそっと撫でた。 「ままー、かなうちゃんもあるきたーい」 「じゃあ、ママから離れないようにしてね」 「うん!」 ――ほんの一瞬だった。 夢ちゃんが棚の商品を手に取って、値札を確認した、その一瞬の隙。 「……?」 近くにいたぬくもりが、消えた。 「叶ちゃん?」 振り返っても、そこに小さなふわふわの姿はない。 「……か、叶ちゃん?」 胸の奥が、ひゅっと冷たくなる。 「叶ちゃん!」 夢ちゃんは周囲を見渡す。 子どもの声、足音、人の流れ―― でも、あの小さな姿だけが見つからない。 「……いない……」 心臓が早鐘を打つ。 ――一人ぼっち。 ――置いていかれる。 ――呼んでも、誰も来ない。 過去の記憶が、一気に胸を締めつけた。 「叶ちゃん……!」 夢ちゃんは走り出す。 「叶ちゃん!どこ!?叶ちゃん!」 声が震える。 視界が滲む。 「叶ちゃん、ママここだよ!返事して……お願い……!」 近くにいた大人たちが、はっとして振り向いた。 「どうしましたか?」 「迷子ですか?」 夢ちゃんは、涙をこらえきれずに首を縦に何度も振った。 「……娘が……まだ、小さくて……獣人で……!」 その必死さに、周囲の空気が変わる。 「分かりました。一緒に探しましょう」 「向こうのフロアも見てきます!」 「お母さんはまず迷子センターへ!」 夢ちゃんは何度も頭を下げ、また走り出す。 「叶ちゃん……ひとりじゃ、怖いよね……ママが……目、離しちゃったから……」 涙がぽろぽろ落ちる。 そのとき。 「……まま……?」 かすかな、聞き慣れた声。 「……?」 夢ちゃんが振り向いた瞬間―― 柱の影で、しゃがみ込んだ小さな影が、こちらを見ていた。 「……叶ちゃん!!」 夢ちゃんは駆け寄って、迷いなく抱きしめた。 「叶ちゃん!叶ちゃん……!」 「まま……まま……!」 叶ちゃんも、ぎゅっとしがみついて、声を上げて泣く。 「かなう……まま、いなくなったかと……おもった……」 「ごめんね……ごめんね……!」 夢ちゃんは何度も、何度も叶ちゃんの背中を撫でた。 「ごめんね、ママが、よそ見なんかしたから……!でも、もう大丈夫……もう、ひとりにしないからね……!」 二人の様子を、協力してくれた周りの人たちが、ほっとしたように見守っている。 「よかった……」 「見つかって本当によかったですね」 夢ちゃんは涙を拭いながら、深く頭を下げた。 「みなさん、本当にありがとうございました……!」 その後もしばらく、夢ちゃんは叶ちゃんを離せなかった。 優しく、でも強く抱きかかえている。 「……ね、叶ちゃん」 「うん……」 「怖かったよね。ひとりぼっちにさせちゃって、ごめんね。ママのこと、許してくれる……?」 「ううん、かなう、ままとのやくそく、やぶったのがわるいの……そば、はなれないでって、まま、ゆったのに……」 叶ちゃんは小さくしゃくりあげながら、夢ちゃんの胸に顔を埋める。 「まま……かなう、もう、ひとりでどっかいかない……ごめんなさい……」 「叶ちゃん……」 夢ちゃんは、ぎゅっと抱きしめ直して、優しく言った。 「叶ちゃん、パフェ、食べてこっか」 叶ちゃんは、少し泣き止んで、こくんと頷いた。 「……まま……だいすき……」 「ママもだよ。世界で一番、叶ちゃんが大好き」 きらきらしたデパートの中で、たしかなぬくもりが、二人を包んでいた。
「あ、まま!ぱぱにぷれぜんと!かってない!」
「あ!ほんとだ!」
おわり