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【小説】レスリングの試合で歯科衛生士さんに敗北した話③

前回↓↓

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レスリングは前半3分を戦い、30秒のインターバルを挟んだ後、後半3分を戦う。


悔しいが前半はかなり追い込まれてしまった。

それだけにこの30秒のインターバルで如何に気持ちを切り替えるかが大切。


だけど、どうしても頭から離れない...。



『ブザーに助けられましたね。』



くそ...。くそ、くそっ!


認めたくない。

認めたくないのに、ブザーが鳴ったあと両肩に感じたあのマットの感触が、

俺を見下ろす栗宮さんの目が、

脳みそにベッタリとこびりついてしまっている。



ビーーーーーーっ!



インターバル終了を告げるブザーが鳴る。

もう終わったのかよ...。

まだ全然気持ちが整ってない。


俺は心身共に疲弊した体を引きずるようにしてセンターサークルに向かった。




マット上で栗宮さんと向かい合う。

栗宮さんは右手を俺の首元に、左手を右肩に置いて、睨むように俺を見つめる。


前までどんなときも笑顔で接してくれてただけに、たった一つの粗暴なプレーでここまで怒らせてしまったことに悲しみと後悔を感じる。


だけど、あの状況ではああする以外に無かったし、あんな技反則以外の何でもないと思ってる。


「ほら、山上さん手置いてください。それともさっきみたいに私に負けちゃうのが怖いんですか?」


「別に、怖くないですよ...」


それしか言い返せないのが悔しい。


今までも強い男の人とは組んできたことがあるけど、恐怖なんて感じなかった。むしろどう攻略しようか、燃えていたと思う。


これが女に負けるかもしれないと思うと、途端に怖くなる。

またあの胸で呼吸を奪われたら?

さっきみたいに力負けしてしまったら?


勝負するのに絶対にしちゃいけないって分かってても、負けの想像をしてしまう...。



ダメだダメだ!

無理矢理にでも考えろ!どうすれば自分の戦いに持っていけるのか。



そもそも前半であそこまで追い込まれてしまったのは、いきなり飛びつかれて、そこから自分のペースに持っていけなかったことが原因だ。


確かにタックルができないトレーニーズスタイルで女性が男性勝つには、ああして床に引き込む以外に方法がない。


後半はとにかくあの飛びつきが来る前提でいれば問題ないはずだ。

栗宮さんの体重は問題なく支えられる。飛びつかれることが分かってさえいれば、床に引き込まれることはない。


よし...!



俺も右手を栗宮さんの首元に、左手を栗宮さんの右肩に置いた。




後半戦開始。


まず来るのはあの飛びつき

と思ったが、栗宮さんはすぐに俺の背中側に周り背後をとった。


しまった!


飛びつきを警戒しすぎた。


栗宮さんが足を引っ掛け、俺を倒そうとしてくる。


しかし、ここは踏ん張って、逆に栗宮さんの首に腕を回して脇に抱え込む。


「よしっ」


「んんッ...!」


艶めかしい声をあげる栗宮さんに圧力をかけていき、マットに組み伏せるようとするけど、栗宮さんも耐える。


思ったより、足腰が鍛えられてる...。


「くそっ、倒れろ...っ!」


「いっ...やぁっ」


「えっ...」


背後で俺の腰に抱きついていた栗宮さんが右手を離して俺の股ぐらを掴んだ。


嘘だろ?


まさか俺のことを投げようとしてるのか?

そんなこと出来る訳がない!

3ヶ月鍛えた程度の女子には絶対...


...あれ?



右足が浮き上がり、そして左足もマットから離れていく。


やばい!

投げられる?!


ダメだ。ただでさえ前半は一方的に攻め込まれてポイントも取られている。

ここで投げられでもしたら、一気に4ポイント奪われてしまう。


それに、女に投げられるなんて俺のプライドが絶対に許さない!


俺は必死に足をバタバタと動かした。


「えっ...ちょっと、大人しく...きゃあ!」


流石に女の力では、抵抗されてしまえば投げるのは難しかったみたいだ。


俺は栗宮さんのホールドから抜け出すとすぐに距離を取った。



再び試合は仕切り直し。

お互いに膝をついて開始の体勢をとる。



ビーーーーーっ



試合再開のブザー音。


それと同時に栗宮さんを抱き寄せる。

前半も後半も、栗宮さんに先手を許してしまったがばかりに上手く試合を運べていない。

今度はこっちが攻める番だ!


抱き寄せてすぐ、押し倒す体勢にはいる。

テイクダウンで2ポイント、上手く行けばフォールまで持っていって勝てる!


しかし、やっぱり栗宮さんは耐える。


「...っ!抱き合って、さっき負けたのがっ...どっちなのか...覚えてないんですか?!」


くそっ。

男顔負けのこの体幹の強さには目を見張る物がある。

だけど、俺は、女なんかに負けない!!


「うおおおお!うるせぇええ!」



膝立ちで相撲を取るような体勢。

耐えることで精一杯の栗宮さんと、攻める俺。


確かに前半終盤では上を取られてしまったけど、あれは油断と、それから胸で呼吸を奪われたことによる酸欠があった。


でも今は違う。前半で体力をかなり使ってしまったが、前半よりは呼吸も整ってるし、何よりもう油断はない!



「女なんかに...負けるかぁああ!」


「いやぁあああ!」



ドスンっ



肉体とマットのぶつかる音。


俺は栗宮さんを押し倒すことに成功した。


「っし!」


小さくガッツポーズをする俺。

対して栗宮さんは腹ばいで俺の下敷きになっている。

仰向けで倒れれば即座にフォールされかねないから、倒れる時に体を捻ったようだ。


レスリング選手の試合ではあるあるだけど、始めて3ヶ月の初心者が咄嗟にそれをできるのだから、たぶん本当に栗宮さんはけっこうセンスがあるんだろう。


だけどとりあえず、テイクダウンは取れた。

これで2ポイントゲット。


それも嬉しいけど、俺は今、この試合で初めて栗宮さんに対して有利なポジションを取れている。

女相手に全く良いとこなしだっただけに、余計に嬉しい。



すぐさま栗宮さんの背後から腰に腕を回して抱きつく。

このまま栗宮さんの体を回転させることができれば追加のポイントが入る。



俺は栗宮さんとは違う。絶対に反則なんてしない!

正当に戦って、正当に勝つ!


「オラっ、行くぞ!!」


腰を捻って勢いをつけ、四つん這いの栗宮さんの体を回転させにいく!


「いやぁぁああああ!!!」


しかし、栗宮さんも絶対に返されまいと叫び声を上げてマットに貼り付いている。


くそっ、しぶとい!


もう一度勢いをつけて再度力を込める。


「ああああああっ!!」


「うおおあああ!!」


マットに貼り付く栗宮さんの力と、それを剥がそうとする俺の力の力比べ。


こういう力を必要とする場面になれば、やっぱり自分の筋力が落ちているのがよく分かる。

昔の俺ならきっと初心者の女の子の体をマットから剥がすなんて、そう難しい事じゃなかったんだろう。


正直、めちゃくちゃキツい。


だけど、だけど...!


「俺がっ...勝つんだぁぁああ!!」


栗宮さんの左半身が、少しずつマットから浮いていくのが分かる。

もう少し、もう少しだ!


「んぐっ...いあっ...!」


栗宮さんの口から悶えるような声が漏れ出ている。


いける!返せる!!


そしてついに、


グルンっ!


栗宮さんの体を仰向けの状態にすることに成功した!

これで俺は4ポイント!逆転だ。

そこから俺は更にもう一度栗宮さんの体を回転させることに成功し、合計6ポイントとなった。


後半が始まる前は栗宮さんに恐怖すら感じていたけど、今はもう完全に自分のペースに持っていけている。


試合時間はあと1分半。


体力的にもなんとか持ちそうだ。

いける、勝てるぞ!!


そう思った瞬間、仰向けで苦しそうに呼吸をしていた栗宮さんが突然動き出した。


「なっ!?!」


勝利への確信がいつの間にか油断に変わっていたみたいだ。そしてこの女はそれを見逃さなかった。

栗宮さんは俺の首に腕を回すと、瞬く間に袈裟固めの体勢を作った。


やばい!

俺の体勢は栗宮さんの体をひっくり返した直後で仰向け。

袈裟固めなんかやられたら、フォールされてしまう!


急いで腰と左肩をマットから浮かせる。

欲を言えばこの状態から逃れたかったがそんな余裕はなかった。

袈裟固めがガッチリと決まってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ...油断、しましたね。山上さん...。正直、負けたかと思ったけど...。詰めが甘いですよ!」


「クソっ...。」


勝利目前から一転、窮地に陥ってしまった。

プロレスみたいにロープブレイクがあれば良いけど、レスリングにはそれがない。

迂闊に動けば浮かせている左肩がマットにつきかねない。

幸い今俺はポイントを多く取っている。

あと1分半、この状態で耐えきれば俺の勝ちなんだ。


1分半の根気比べ。

絶対に負けない!


栗宮さんは俺の首を捕らえたままグッと体重をかける。


「ぐっおおお...」


想像以上の圧力に、浮かせている俺の腰が少しずつ落ち始める。


やばい。あと1分20秒耐えないといけないのに...。

ああっクソっ!耐えてやるよ、耐えてやる!!


ギリィっ


歯を食いしばり、もう一度腰を浮かせようと力を入れる。

でも、栗宮さんの背中を押し返すことができない。


ここに来て、前半の消耗がかなり厳しい。

スタミナがもうない...。



「ほらっ...ほらっ、ほらっ!」


栗宮さんは、グッ、グッと力を込めては抜きを繰り返す。


ああ、やばい!

腰がもう、落ちるっ!?

くそ...。強い...っ。押し返せない。


そして遂に、マットに腰を落とされてしまった。


「はい、落ちたぁ!...はぁ、はぁ、...その左肩も、屈伏させてあげますから。」


上から栗宮さんの声が聞こえてくる。

だけど、正直それに反応している暇がない。

0.1ミリでいい。少しでも左肩を浮かせようと必死で体を捻る。


あと1分。

耐えれるか?いや、耐えなきゃいけない。

初心者の女に負けるなんて。それもフォール負けなんて絶対にダメだ。

フォール負けはポイントで負けるのとは訳が違う。

完全なる力による敗北だ。


しかし、耐え続ける俺に無情にもそれは再び襲いかかった。


「しつこい!...ですよっ、山上さんッ!」


「...っ!?」



ムニュっ




栗宮さんは袈裟固めの体勢のまま上半身を少し捻って俺の顔面に大きな胸を押し付けてきたのだ。


やばい、来る!


顔面に迫りくる胸を見て、前半の恐怖感が蘇ってくる。

呼吸を完全に奪い去る真っ暗闇。

顔面を塞がれる直前、必死に顔を左右に振って、どうにか呼吸するスペースを確保しようとしたけどもう手遅れだった。


前半も感じたあの感覚。

柔らかい胸が顔面の凹凸に密着してくる。


嫌だ!負けたくない!!


顔面を胸に塞がれただけで変に負けを意識してしまう。

栗宮さんの力がさっきと比べてより強大に感じられてしまう。


「山上さんっ...!はぁ、はぁ、...諦めるんですか?まだ40秒残ってるんですよ?」


左肩はどんどん落ちていき、呼吸もできない。

足に、腰に、全身に力を入れているのに栗宮さんの体をまるで押し返せない。


強い...強すぎる...。

負けるのか、俺。栗宮さんに...。


涙が溢れ、栗宮さんのスポーツブラが湿っていく。


それに気づいた栗宮さんが馬鹿にするような口調で喋りかけてくる。


「え、泣いちゃってるじゃないですか...。はぁ、はぁ...私に負けるのがそんなに怖いんですね。...じゃあこれで、終わらせますっ!」


そう言って、栗宮さんはグーッっと力を長めにかけた。


スタミナを削られ、呼吸を奪われ、心身ともに限界に達していた俺にもう抗う余地は残されていなかった。



ドンっ



そして遂に、俺の両肩がマットに押し付けられた。


そして1秒後。

バンっ、と審判がマットを叩く音がした。



ビーーーーーーっ。



試合終了のブザー音が鳴り響く。


「っはぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」


胸から開放された俺は、激しく呼吸をする。

栗宮さんは立ち上がって俺を見下ろすと、満足げに言った。


「私の勝ちですね。」


くそ...。

反則したくせに勝ち誇りやがって。


そう思うと、負けの悔しさ以上に怒りの感情が湧いてくる。

俺は栗宮さんを睨みつけると、タックル気味に飛びついた。


「この...反則野郎がァァ!」


試合の決着がついて我ながららしくないとは思うが怒りの感情を抑えられなかった。


「え、ちょっと!!」


驚いた様子の栗宮さんの腰に腕を回す。

このまま押し倒して、その先どうするかなんて考えてなかったけど、とにかく本当は俺のほうが強いんだと分からせてやりたかった。


だけど、その結果はあまりにも無情だった。


「え...?」


俺のタックルは栗宮さんに完全に受け止められてしまっていた。


そのまま栗宮さんは俺をマットに押し倒し、体固めの要領で俺を抑え込んだ。


「さっきから反則とか言ってきますけど、私ただホールドしてただけですからっ!自分が弱いのを私のせいにするのはやめてください!」


栗宮さんに怒鳴られ、涙が溢れ出す。


「決着して勝者が決まったのに襲いかかってくるなんて、男としてダサいですよ。言っときますけど、また、これ使ってあげても良いんですからね。」


栗宮さんは自分の大きな胸を強調して言った。


完全に抵抗する気力を削がれ、俺は栗宮さんに押さえ込まれたままただ涙を流すことしかできなかった。


☆☆☆☆☆


「はーい、お口開けてくださ〜い。」


ジムで栗宮さんと戦ってから数日後、もともと予約していたため、クリニックを受診した。


あんな負け方をしたんだから、ジムには行ってない。だから、栗宮さんとはあの日から今日まで会ってなかった。


「山上さん?口開けてくださーい?」


「あ、はい...。」


正直、凄く気まずい。


試合後、俺は悔しさのあまり栗宮さんに襲いかかり、返り討ちにあった。

その時酷いことも言ってしまったから、本当は謝りたいけど、なんだか恥ずかしくて言い出せない。


すると、栗宮さんの方から話を振ってきた。


「山上さん。ジムにはもう来ないんですか?」


正直、あまり行ける気がしない。

初心者の女の子に負けた。レスリングは俺には向いてないのかも知れない。


返答に悩んでいると栗宮さんは微笑んで、俺の頭にその巨乳を押し付けた。


「私はいつでも、相手してあげますから。」




(おわり)




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Comments

うお〜、どっちの意味なんだろう?? いずれにしてもニカはyukku様の息子さんのますますのご成長を祈っております〜。

ニカ

アカン!息子がイライラしているよ

yukku


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