XaiJu
ニカ
ニカ

fanbox


【小説】レスリングの試合で歯科衛生士さんに敗北した話①



「はーい。お口開けてくださぁーい。」


言われるままに俺は口を開ける。

今日は月に一度の歯科クリニックの受診日だ。


歯が痛いとか、噛み合わせに問題があるとか、そういうことは一切無いが、月に一度、俺は歯のメンテナンスで定期検診に行っている。


一般的な歯の定期検診は3ヶ月に1回ぐらいが多いだろう。

でも俺は月に一回行く。それには理由があった。



「うん、山上さん、今日も綺麗ですよ〜。」



そう。今まさに俺の歯を見てくれている歯科衛生士、栗宮さんだ。

歳は俺と同じ25歳ぐらいだろうか?

この栗宮さんが、とにかくかわいい。


かわいい女性に歯科検診中の約30分間、顔を覗き込まれるのだ。通うだろ?


おまけに……



ぽむっ



栗宮さんが奥歯や歯の裏を覗く時に発生するこの確定イベント!

栗宮さんの柔らかくて大きな双丘が俺の頭を包み込む!!


これを味わうと3ヶ月に1回じゃとても足りなくないと感じてしまう。


そして今日も俺は幸せに包まれながら検診を終えた。




「はぁい、じゃあ山上さん。イス起こしますね〜。」


「はい。」



ヴーーン。


イスの背もたれが起き上がると、栗宮さんは俺の紙エプロンを外しながら話しかけてきた。


「山上さんって確か、レスリングジムに通ってるんでしたっけ?」


そんな話、前にしたかな?


「え、あ、はい。よく覚えてらっしゃいますね。」


俺がそう言うと、栗宮さんは「ふふっ」と笑いながら続けた。


「なんていうジムですか?」


「ワークアウトジム・XAGってとこですけど……興味、あるんですか?」


すると栗宮さんは少し恥ずかしそうに答えた。


「はい。実は私、別のジムでずっと筋トレしてて。でも最近、筋トレだけじゃなくてどうせなら格闘技をやりながらトレーニングしてみたいなって思ってるんです。あの、XAGって、女性もいますかね?」


意外だった。栗宮さんにはとにかく「かわいい」という印象をひたすら持っていたから。


でも確かに言われてみれば筋肉質かも。

いや、全然ゴリゴリの筋肉っていう感じではないけど、腕を曲げた時に半袖のユニフォームから見える上腕二頭筋が少し盛り上がっている。


一般的な女性に比べたら筋肉がついた、健康的な肉体という感じ…。



「山上さん?」


「ああ、はい。女性もいますよ。だいたい男性6、女性4ぐらいの割合ですかね。」


「そうなんだ。思ったりより女性も多いんですね。」


XAGに興味を持ち始めている栗宮さん。

これはもしかすると、歯科衛生士と患者という関係値を超えられるかも知れない。


俺は少し勇気を出して口を開いた。


「あの、体験入会しますか?XAG会員の紹介で体験入会が無料になるのと、商品券3,000円分ずつ俺と栗宮さんがもらえるんですけど。」


そうすると、栗宮さんは少し申し訳なさそうに言った。


「え……いいんですか?」


かわいい。


「いやいや、俺としても嬉しいです。こういう会員の紹介制度なんて使う機会今まで無くて。3,000円貰えるんで。」


本当は歯科衛生士じゃない栗宮さんと会えるのが何より嬉しいが、まあ、そんな正直な下心を伝えるわけにもいかない。


「え、じゃあ、お願いします。ありがとうございます!山上さん、次にジム行くのっていつですか?」



そうして俺と栗宮さんは来週の水曜日、レスリングジム・XAGに行くことになった。


☆☆☆☆☆


「ごめんなさぁい!!…待ちました?」


翌週水曜日。俺は仕事を早めに切り上げてジムに向かった。

19時5分。

XAGの入口前で待つ俺に栗宮さんが駆け寄って来た。


「ごめんなさい、いつも18時上がりなんですけど、ちょっと今日長引いちゃって…。」


歯科衛生士のユニフォームではない、私服姿の栗宮さんはまた、いつもと違うかわいさがあった。


「全然全然、俺もさっき着いたとこなんで。じゃあ早速、入りましょうか!」


「はい!お願いします。」


そうして俺たちはジムの中に入った。



栗宮さんにとってジム初日。

俺はいつも通りトレーニングするつもりだったがやっぱり栗宮さんのことが気になってなかなか集中できなかった。


トレーナーさんに筋トレの基礎やレスリングの基礎を教わっている栗宮さんの表情は終止笑顔だった。


「良かった…。」


ジムが彼女に合わなかったらどうしようかと思っていたが、楽しそうで安心した。



21時。

俺と栗宮さんはトレーニングを終えて帰る準備にかかった。


するとそこに、今日栗宮さんを教えていたトレーナーさんが俺のところに喋りかけに来た。


「山上くん、彼女めちゃくちゃ筋が良いよ!なんか前のジムでもちゃんと筋トレしてたみたいで、体の土台も出来てるし、何より飲み込みが早い。」


「そうですか。それなら良かったです。」


「うん。本入会してくれるとすごく強くなれそうな感じがするなぁ!」


そういって嬉しそうな顔で栗宮さんを見つめるトレーナーさんになぜだかムッとしつつも、素直に感謝されて俺も嬉しかった。



そして俺と栗宮さんは着替え、ジムを出た。


「山上さん。」


ジムを出ると栗宮さんが俺に話しかけてきた。


「はい?」


「今日は紹介してくださってありがとうございました。すごく楽しかったです!私、XAGに入会します!」


パっと嬉しそうな笑顔でそう言う栗宮さんに、俺も思わず嬉しくなった。


「本当ですか?良かったです!なんか、それめっちゃトレーニングのモチベ上がります!」


「あははっ、これから色々と教えてくださいね!」


「任せてください!!」


そんな幸せな時間を経て、俺は帰路につく。


これから始まる楽しいジムライフを想像し、自然と足取りは軽く感じた。




しかし、そこから俺は丸三ヶ月、ジムに行くことができなくなってしまった。


☆☆☆☆☆


栗宮さんをジムに紹介した翌日、俺は大きな仕事の責任者を任された。

かねてから関わりたかった仕事でもあったため、断ることは出来なかった。



そこからは残業の日々。



今まで通っていたジムには、まるで行けなくなってしまった。



そんな中、歯科クリニックの受診日を迎えた。


「山上さーん、どうぞ〜。」


栗宮さんに呼ばれ、処置室に入る。

約一ヶ月ぶりの再会だ。


「じゃあ座ってくださーい。」


「はい。」


俺は促されるままに椅子に座る。


「倒しますね〜。」


ヴーーーーン


沈黙の中、椅子が倒れる音が処置室に響く。

…なんか…気まずいような。


そんな俺の気持ちを察したのか、椅子の上で仰向けになる俺の顔を覗き込んで、栗宮さんがいきなりブッ込んできた。


「山上さん、全然、ジム来ないじゃないですか。」


マスク越しでも分かる、笑ってはいるが寂しげな表情。

ジムに紹介した手前申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「あっ……あの、すみません。最近、仕事がかなり忙しくなっちゃって。」


「え〜?言い訳ですかぁ……?」


「あ…いや、そのジムには凄く行きたいんですけど、とにかく仕事が終わらな」



俺が言葉を言い終わる前に栗宮さんは半分無理やり俺の口を開けた。


「はい、お口開けてくださ〜い。歯見ていきますね〜。」



やっぱりちょっと怒ってるんだろうか?

それもそうか。

ジム、それもレスリングジムという少しむさ苦しさすらあるコミュニティーに突然置き去りにされるような物だ。

怒るのも無理ないよな...。


それでも栗宮さんは優しく対応してくれた。


「まあ、仕事してると色々ありますよねぇ~。」


ウィーーーン


機械で俺の歯の掃除をしながら、栗宮さんは呟いた。


「でも…寂しいなぁ〜。私、けっこう強くなってきてるんですよ?」


栗宮さんみたいにかわいい女性に、俺がいなくて寂しいなんて言われるのは素直に嬉しかった。


やりたい仕事を振ってもらっておいて、手を抜くようなことはできないけど、できるだけ早く、プロジェクトの片を付けてしまおう!




固く心に誓った。




それから更に2ヶ月、企画会議にプレゼン、手順説明を終え、後は各部署、下請けから上がって来たものをチェックする段階になった。

仕事としてはある程度片付き、遅くまで残る必要もなくなってきたため、俺は3ヶ月ぶりにジムに行くことにした。



正直、鍛えることよりも栗宮さんに会うことが目的になってる気もするが、もうどっちでも良い。

とにかくジムに行くんだ。


そうしてレスリングジムXAGの中に入った。


まだ栗宮さんの姿は見えない。


俺はトレーニングウェアに着替えると、ストレッチと準備体操を行って、まずは軽めのウェイトトレーニングを行った。

この3ヶ月、一応家トレはしていたが、筋トレ器具も限られるため、やっぱり筋力は落ちている。

前は余裕で上がってた重さがけっこうキツい。


そんな様子の俺に女性トレーナーさんが話しかけてきた。


「山上くん、久しぶり。」


「あ、トレーナーさん、お久しぶりです。」


「最後に来たのが栗宮さんの紹介の時だったと思うから、だいたい3ヶ月ぶり??めっちゃ開いたじゃないですか。」


久しぶりに来た俺にも気さくな笑顔で話してくれるトレーナーさん。すごく良い人だ。


「すみません、仕事がめちゃめちゃ忙しくて。」


「えー、大変だったんですね!でもトレーニングだいぶサボったでしょ!フォームが若干危うくなってますよ。」


「あ、本当ですか?今日は基礎トレもなんですけど、久しぶりにレスリングのスパーリング的なこともしたかったんですけど…やめた方が良いですかね?」


俺の質問にトレーナーさんは顎に手を当てて少し困ったような表情で答えた。


「ん〜…ダメじゃないけど…。今日来てる他の会員さんも強い人達ばかりだし、ちょっとお勧めはしないかもです。あ、いや、もちろん山上さんもすごくレスリング強いとは思うんですけど、今の筋力落ちてる状態でやるとなると怪我にも繋がりかねないですし。」


トレーナーさんは気遣いも交えつつ、今の俺を見た上で提案してくれた。

それは分かるけど、やっぱり少し残念だった。


「そうですか、分かりました…。」


そんな残念な気持ちは隠したかったけど、やっぱり表情に出てしまった。

トレーナーさんには少し申し訳ない気持ちになった。



そんな時、ジムの入口のドアが開いた。


ガチャ



「こんにちは~……あ……」



その声に俺は思わず振り向いた。



「栗宮…さん」


そう、その声の主は栗宮さんだった!

少し落ちていた俺の気持ちも上がり始める。


「山上さん!お久しぶりです。ジム来られたんですね!」


明るい口調で言う栗宮さん。やっぱりかわいい。


それから更衣室に入り、トレーニングウェアの栗宮さんが出てきた。


クリニックで見るユニフォーム姿の栗宮さんも勿論素敵だけど、トレーニングウェアの栗宮さんも最高だった。


そんな栗宮さんは受付の名簿に名前を書くと、驚いた顔でトレーナーさんに聞いた。


「え、今って女の人って私だけですか?」


するとトレーナーさんはにこやかな笑顔で答えた。


「そうなんですよ~。田中さんも清水さんもさっき帰っちゃって。」


「えー、そうなんですか。今日、スパーリングする気まんまんで来たのに…」


残念がる栗宮さんの肩を優しく叩いてトレーナーさんは口を開いた。


「まあ、そういう日もありますよ。ちょうどあそこにも今日スパーリングする気まんまんなのにアタシに止められてショゲちゃってる人がいるんで、励ましあって基礎トレしてください!」


俺を指さしながらトレーナーさんは栗宮さんに言う。



そんな俺の方に顔を向けた、栗宮さんと、目があった。



「え……山上さんもスパーリング相手いないんですか…?」


「あ、はい…だから今日はウェイトと、ちょっと有酸素やったら帰ろうかなって思ってま…」


そう言いかけたところで栗宮さんが口を挟んだ。



「じゃあ、私と戦いませんか?」


「はい。……え!?」




続きはコチラ↓

nikaido.fanbox.cc
https://nikaido.fanbox.cc/posts/6534249



【小説】レスリングの試合で歯科衛生士さんに敗北した話① 【小説】レスリングの試合で歯科衛生士さんに敗北した話①

More Creators