※本小説は池田瑞希という少年の一人称視点で進みます。彼が登場する小説は以下のリンクから読めますので、知らない方はまず先にこちらを読むことをお勧めいたします。↓
【本編】
今日も俺は学校から帰るとスマホでアレを見る。 そう。『アイキャン』だ。 これから人気が出そうなグラビアアイドル達が毎週様々な企画に挑戦するネット番組。 中でも俺が一番楽しみにしているのが、『アイドルガチレスリング』。 グラビアアイドル同士がブック無しで本気のレスリングをする企画だ。 ー所詮はアイドル同士のレスリング。 『アイドルガチレスリング』の初放送前にはそんな声もあったが、放送後からはそんな意見はほとんど見られない。 第1回は宍戸ルイVS密原千波だった。 レスリング歴3か月の密原千波がレスリング歴8年の宍戸ルイに挑むという、余りにも無謀な試合。 誰もが宍戸ルイの勝利で終わると信じて疑わなかったこの試合に勝ったのは、まさかまさかの初心者である密原千波であった。 試合内容もとてもアイドルの物とは思えなかった。ちゃんとしたレスリングの試合になっており、第1回放送後、『アイドルガチレスリング』に対する意見は好意的な物が増えていった。 そして人気になったのは『アイドルガチレスリング』という企画だけではない。 試合を制した密原千波の人気も一気に上がった。 かわいくて、男を魅了する抜群のプロポーションを持ち、レスリング歴8年の相手を打ち負かすその力強さ。人気にならない訳がなかった。 かく言う俺も、すっかり密原千波のファン! いや、まあ、俺が"密原先輩"を追っかけるようになったのは本当はもっと前からなのだが…。 第2回以降も、密原先輩にグラビアアイドル達が挑んでいったが、どの試合も密原先輩の圧勝に終わった。 先輩が勝つほどに先輩の人気は増していく。 しかし、最近になって『アイドルガチレスリング』がワンパターン過ぎて面白くないという意見が増えてきていた。 企画として成り立たせるには密原千波は余りに強すぎたのだ。 アイドルが密原先輩に挑み、先輩が危なげ無く勝つ。 ブックの無いガチ試合だからこそ、毎度この展開に落ち着いてしまうのだ。 それもあってか、番組側が今日の放送からルールを変えるみたいだ。 どうも関節技、絞め技、ギブアップによる勝敗の決定を解禁するみたい。 レスリングというより、かなりグラップリングに近いルール変更。 レスリング部の俺からしたら、技の幅を広げるのは寧ろ格闘技をやっている人間に有利なんじゃないか?とも思ったりもするが、まあ、番組の一視聴者としてはこういう味変もありかなと思う。 そんな感じで、色々とこれまでのことを思い出してたら、番組が始まった。 アイドルガチレスリング 第7回 今日の対戦カードは密原千波VS一華亜莉愛。 これにはちょっと驚いた。 一華亜莉愛は現在、プチ炎上の渦中にいる人物。 ネット上に匿名のカキコミが上がったのだ。 一華亜莉愛に彼氏を取られたというそのカキコミ主は、亜莉愛と戦って破れ、目の前で彼氏と亜莉愛の愛し合う姿を見せつけられたのだという。 正直どこまでが本当でどこまでがウソか定かではないカキコミだが、これによって亜莉愛は炎上。 『アイキャン』メンバーではあるけど、正直、しばらく番組には出ないのかな〜と思っていた。 しかも6戦6勝、無敗の密原先輩に、全くレスリングのイメージの無い一華亜莉愛。 これこそ密原先輩の一方的な勝利になっちゃって、また番組の評価を落としちゃうことになるのでは?という疑問も湧いてくるが。 でも今回はそれで良いのかも知れない。 ある意味一華亜莉愛は暴力沙汰で炎上してるような物。 最強の密原千波による制裁となるならば、一華アンチはそれで喜ぶのかも知れない。 もしかして、その為のルール変更?? 締め技や関節技で一華亜莉愛を痛ぶれるように?? ビーーーーーッ 試合開始の合図。 第5回、第6回と素早いタックルで勝負を早々に決めてた密原先輩だけど、今回は慎重だ。 相手の様子を見てて、なかなか攻めない。 慣れない試合形式だから? それとも相手が余りにも格闘技初心者だから遠慮して攻め方がわからないのか? 密原先輩が攻めないでいると、亜莉愛の方が先に動いた。 慣れないような動作で先輩に組み付いていく。 しかし、一般的な高校女子レスリング部の選手ぐらいには強いであろう先輩を倒すことができるはずもなく…。 先輩は亜莉愛の首を脇に抱え込むとそのまま上から押しつぶすような体勢でグラウンドの展開に持っていった。 普通の総合格闘技やグラップリングなら、後ろに倒れてフロントネックチョークで締め上げる方が賢明なのだろうが、レスリングしかやってない密原先輩は、完全にタックルを切るノリだった。 せっかくチョークに移行しやすい状態だったのに、すごく勿体無い。 勿体無いんだけど、レスリングに忠実な先輩の動きはすごく愛らしい。 先輩はとにかく抑え込みが上手い。正直グラウンドになればただのグラビアアイドルである亜莉愛が勝てる可能性は0だ。 まあ、別にグラウンドじゃなくても先輩に勝てるはずがないんだけど…。 案の定、そこからは先輩が上、亜莉愛が下の体勢で亜莉愛が防戦一方となる展開となった。 いや、でもこれに関しては亜莉愛がすごいと思った。 先輩はめちゃめちゃかわいいグラビアアイドルだけど、かなり強い。恥ずかしいが男の俺が本気になっても勝てなかった。 まあ、俺の体格が先輩より小さかっただけで、体格差が無ければ絶対に俺が勝っていたはずだが。 そんな強い相手に防戦一方とはいえ、フォールを取られずなんとか耐えている事がかなり凄い。 まあでも、それも時間の問題で、亜莉愛の体力が尽きればそれで終わり。 先輩にフォールされて終了。 そう思った矢先だ。 亜莉愛がポイントをずらしてスルッと先輩のサイドのポジションに抜け出した! これはマジで有り得ない。 先輩に押さえ込まれて、完敗した俺だから分かる。 先輩の押さえ込みは本当に抜け出せない。 最近連勝続きな上に相手もド素人で、完全に油断したのかな? 突然の出来事に先輩の対応が遅れる。 その隙に亜莉愛は先輩の首元に両足を巻き付けてまさかのネックシザース!
普段のレスリングでは絶対に食らうことのない絞め技に、先輩の顔にも珍しく焦りが見える。 しかし、グラビアアイドルのネックシザース程度、先輩は簡単に抜け出せてしまう。 結局何が起ころうとグラビアアイドル同士を戦わせる以上結末は変わらない。 それでも俺は今週も先輩のシングレット姿を見れて嬉しかったし。 まあ、番組の画としても面白い物になったんだろうし、これはこれで満足って感じ。 たぶん今日の放送は、『アイドルガチレスリング』以外の企画では密原先輩は出ないだろうし、これ終わったらもう切って明日の課題でもするか。 そんな風に思いながらボーッとスマホを眺めてるが… 眺めてるが…… おいおいおい、嘘だろ!? なんでネックシザースから抜け出さないんだ!? どんどん紅潮していく先輩の顔。 スタジオマイクが先輩の荒い息遣いを拾っている。 まさか、先輩、技を返せないのか?! ていうか…なんか、亜莉愛と先輩喋ってね? …駄目だ。音小さくて全然聞こえない。 俺はイヤホンを耳にさして、BluetoothをONにして音量を最大まで上げる。 『……〜…い。』 『……ぇ…。無敗の女王がこんな私の技で負ける訳ないよね?』 亜莉愛の声だ。完全に先輩の事を煽ってる。 『……んなの…じゃ……ギブアップ…しませんから……!』 『へぇ……じゃあ…全力で締めてあげる!』 亜莉愛が脚に力を込める。 『いやぁあ!』 先輩の喉の奥から無理やり絞り出されるような悲鳴が聞こえてくる。 マジで、嘘って言ってくれよ。 こんな相手に苦戦しないでくれよ。 心の底からそう願った。 だって密原先輩は、俺より強い女だ。 強くてかわいくて、絶対に敵わない、俺の憧れの存在。 そんな先輩がこんなグラビアアイドルに負けて良いはずない。 スマホを持つ手が汗で湿る。 頼む頼む!耐えてくれ! しかし先輩は膝から先ををバタバタさせるが、なかなか抜け出せない。 亜莉愛の肉厚な両脚、というかほぼお尻が先輩の首と顔を押し潰していく。 苦痛に歪む先輩の顔から脂汗が吹き出す。 やばい。先輩、マジでやられる … そう思った瞬間、先輩の脚をホールドしていた亜莉愛の腕が外れ、先輩の右脚が自由になった。 やっぱり腕の力じゃあ脚を完全に封じることは難しい。 先輩は右脚でマットを蹴ると、すぐに上のポジションを取り返した! 良かった。こっからは先輩の番! ポジションを取り返した先輩は無理やり亜莉愛の両脚から首を抜くと、のしかかるようにしてフォールを取った。 完全に本気の目をした先輩の押さえ込み。 完全に強者と戦うレスラーの顔だった。 そこからは呆気なかった。
攻防で疲労を溜めた亜莉愛に先輩のフォールが返せるはずもなく…。 『Winner! 密原千波!!』 先輩の勝利で幕を閉じた。 余裕の勝利と思ってたけど、まさかの展開で一瞬ヒヤっとした。 今後も絞め技、関節技有りの試合になるとこういう場面が出てくるんだろうか? 今後の『アイドルガチレスリング』。 ちょっとどうなっていくんだろう…? とりあえずアーカイブもっかい見たい。 明日の課題は手がつきそうにないな…。
(終)