全ては変わった。 あの日の飛行機事故から。 ここは大海原に囲まれた何処かの小さな島。 いつもの日常、いつもの学校側、いつもの部活、いつもの友達、いつもの私、大切なもの、大切な人達。 全て無くなってしまった。 そして全て変わってしまった。 今にしてみれば、学生という身分と共に纏われていた学生服がとても懐かしい。いつも身近に感じていたあの可愛らしい学生服、勉学の素が詰め込まれた鞄、私の人生でもあり大切な楽器、果ては下着や靴、それら文明社会を想起させる類のモノは今何も無い。 私はいま、生まれたままの姿でここに在る。 いまここで生きている。 それだけが確かな事実。 だが他は全て変わってしまった。 それは私の身体も同じだ。 贔屓目に見ても白かった肌は南国の陽に焼かれた為か常に黒いままとなり、その肌には部族の民である証の刺青が全身に彫られてしまっている。耳をピアスで彩る事ですら以ての外だったあの頃が嘘であるかのように、私の鼻や胸で既婚者の証である大きめのリングが揺れている。 全てはここで生きていくため、仕方がなかったこと。見ず知らずの言葉も通じない異国の人間を、私を快く受け入れてくれた島の部族民の機嫌を損ねる訳にはいかなかった。 ここを放り出されれば、私は死んだも同然だ。 文明社会に浸り切った小娘なぞに、 一人で生きていく事など出来るハズも無い。 とはいえ、憂いや後悔が無いと言えば嘘になる。日本や故郷への郷愁の念は今も尽きない。だが此処が何処かも分からない上に、飛行機事故の生存者として偶然流れ着いた私を除いて、外部の人間を全く知らない村民に何を訪ねても無駄だった。此処は外界と完全に隔絶されたどこかの小さな島。それぐらいしか分からない未成年の小娘に出来る事はもう何もなかった。 全てを割り切って生きていくことを選択してからどれくらいの日々が流れただろうか。 慣れない生活や習慣、未知の言語に翻弄されながらも、部族の一員として生きていくという選択をした私を、人々は温かく迎え入れてくれた。 そんな私も今ではすっかり村の生活に馴染み、部族の一員として皆と日々の生活に汗を流す日々を送っている。 裸同然の生活は、慣れるのにかなり時間が掛った。 だが今となっては快適そのものだ。 最早昔のように服をまとうという事など有り得ない。 あんなものは只の拘束具だ。 よく今まで抵抗なく纏っていたものだと過去の私に感心する。 部族の刺青に関しては私の心の一線であったと言ってもいい。 部族の一員になるため全身に刺青を入れるという事は、万が一に日本へ戻る手段が出来たとしても、それを選択する事が出来なくなるという事を意味していたからだ。 だが私はここで生きていくという事を選んだ。 躊躇いは心を鈍くする。 迷いを振り切るために、私は自ら早々に刺青の儀式を願い出た。 村の人々はそれを大層喜んでくれた。 儀式自体は肉体的にも精神的にも辛い行為だったが、 終わった後の不思議な一体感は形容し難いものがあった。 高揚感にも似た満たされた感覚。 私はやっと一人の村人となる事が出来たのだ。 成り行きいう形ではあるが、私が初めて訪れた時からずっと私に良くしてくれていた部族の男性と結ばれ、今は一児の母として新しい家族と共に幸せに生活している。 (幼少期からの憧れであったあの先生以外の人と生涯を共にすることになるなど、あの頃の自分が知ったらどんな顔をしていただろうか) 私の村での仕事は皆との共同作業。主に畑の世話係だ。 それに加えて、もう一つ大事な務め任されている。 それは村の儀式で奏でられる民族音楽の奏者だ。 元々物心ついた頃からトランペットをやっていたこともあり、 村の新しい楽器に慣れるのにそう時間は掛からなかった。 今では部族の誰よりも上手く角笛を奏でる事が出来る。 私の生涯の目標でもあった「私の音を人々に届ける」という願いは、小さい規模ながらもこうやって叶っている。 今の私はとても幸せだ。 村の時間はゆっくりと、そして平穏に流れ続ける。 私の奏でる音楽と共に。 音楽に乗せて私の想いが脳裏を流れる。 戻ることの叶わない懐かしき日々。 志を同じくする仲間たち。 尊敬と愛情が交錯するあの先生の顏。 生涯の友として、 お互いを高め合った特別な存在でもあるあの子の顏。 全ては過ぎ去った過去。 もう手の届かない遠い世界。 それは哀しい物語。 しかし嘆くのはもう止めた。 零したミルクを嘆いても仕方がない。 零れたミルクは戻らない。 しかしミルクはまた注げばいい。 私は前を向いて進む。 私いま、ここで生きている。 昔のように、自信と笑顔と共にこれからも歩いていく。 思い付きと勢いで、ぼくの昔からの推しである彼女のストーリーを書き綴ってみました。 欲望を吐き出しているだけなので、適当に読み流してやって下さい(笑) また機会があれば、彼女の物語を掘り下げていきたいものです。 2/1追記 どうしても欲しかったので、オマケでボテ追加しときました。