XaiJu
prisoner-no6
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未知なるモノへ

円香の異世界に於ける非日常は、いつしか日常へと変化していた。 多岐にわたる教育と実践。 とりわけ王への接待教育はすっかりと板に付いていた。 それどころか夜伽の稽古も担当者を手玉に取る程になっていた。 「グ・・オオ・・!」 夜伽担当のトロルは円香の締め付けにたまらず声を上げ果てた。 「ん・・モウオワリナンデスカ?案外ダラシガナイデスネ」 トロルの巨根を飲み込んだまま溢れ出る精液を受け止めながら、 円香は悪戯っぽく微笑を浮かべながら彼らの言葉で煽った。 アイドルとしての経験が生きたのか、 元よりこの分野が向いていたのか、 行為中の円香は仰向けの男性に跨り踊るように動くことを得意とした。 「ワタシハマダイケマスケド、マダヤリマスカ?」 休憩がてら近くに置かれた水を飲み干した後、 円香はトロルを見下ろしながら言った。 トロルは肩で息をしながら無言のまま片手を上げた。 「今日はもういい」という事らしい。 円香は半ば呆れたように後始末に取り掛かった。 円香の体力は稽古の御蔭かかなりのものになっていた。 夜伽の稽古でも大の男であるトロルに見劣りしない。 (身体が軽い・・不思議・・) 円香の身体はこの世界に来た頃に比べて遥に鍛え上げられていた。 その事に喜ばしく思う反面、違和感も感じていた。 (夜の稽古だけでこんなにも変わるモノなの?) (体力は分かるにしても、どうして腕力みたいな筋力まで・・) 円香は近頃関節に痛みを感じていた。 そしてその痛みは経験が有った。 成長期に背が伸びる現象、成長痛だ。 (今更成長?・・まさかね) そんな考えを巡らせていると、部屋の扉を開けて一人の男が入ってきた。 フードを被った黒衣の男、 円香をこの世界に召喚した張本人だ。 辺りを見回した後、果てたトロルを見て黒衣の男は満足そうに笑みを浮かべ円香に言った。 「オウヘノ、オメドオリダ。アス、ジュンビヲシロ」 そうとだけ告げると、黒衣の男は立ち去った。 突然の話で円香は黒衣の男が去った後も暫し呆然としていた。 やっと舞い降りてきた元の世界に戻るチャンス、 王とやらを満足させれば戻れる。 どれくらい時を経ただろうか。 あの懐かしい日常が戻ってくる。 気怠くも愛しい日常。 「・・ふ・・ふふ」 円香は無意識に笑みを零した。 (出来る出来ないではなく、やるしかない) (元の世界に戻ってみせる) 期待と不安が入り混じる心を押し隠し、誰へとでもなく口を開く。 「ミスターロード、どうぞお手柔らかに・・」 次の日、円香は謁見準備の為に身支度をさせられていた。 身支度といっても、着させられるのはとても服とは呼べないような淫靡な衣装だ。その出で立ちはまるでどこかの踊り子だ。 そんな円香をよそに、 召使いの女トロルたちがいそいそと部屋を動き回る。 円香はただ座っているだけで、化粧や着付けは全て召使いがやってくれている。自分としてのすることは何もない。 円香は退屈であくびが出そうになる。 そんな退屈を紛らわせる為にぼんやりとながらにあたりを眺めた。 「はあ・・なんて所」 円香が部屋の周囲に視線を移す度に溜息が出る。 「王とやらはキャバレーにでも居るの?」 身支度の部屋は原色のピンクや紫といった、歓楽街が舞台の番組でしかお目にかかれないような色合いに満ちていた。そこをこれまたけばけばしい模様や飾りが悪趣味に花を添えている。 彼らの美意識は自分たちと違うと解っていても、 円香はため息を隠さず垂れ流すのみだった。 (はあ・・溜息ばかりで身体が萎んでしまいそう) 気持ちは萎えてばかりだったが、 その反面身体は不思議なくらいに調子がよかった。 身体の底から力が湧いてくる感覚。 身体が不思議と熱い。 円香は自然と流れ出た汗を拭い、 喉を潤す為に近くに置かれた水の入った金属のコップへ手を伸ばした。 その時理解不能な出来事が起きた。 円香がごく普通に握った筈の金属のコップが、まるで粘土でも握るかのようにぐにゃりと握りつぶされてしまった。 「・・は?」 円香は己の手で握りつぶされた元コップの金属塊と、 水びたしになった自分の手を唖然と見つめた。 「・・ちょっと・・え?」 事態を整理できないまま呆然と手を見つめる円香。 そんな円香に更なる追い打ちがかかる。 呆然と見つめていた手が変色しはじめた。人間味を帯びた色は失われ、およそ人間には似つかわしくない色へと変化していく。 その色には見覚えが有った。 忌まわしくも身近な存在、彼らトロルの皮膚の色だ。 「ひ!・・いや・・いや!」 円香は混乱しながら変色しつつある自分の手をもう片方の手で押さえようとする。しかしそのもう片方の手も同じように変色しつつあった。 すっかり取り乱してしまった円香は、己の手から緑の色を振り払おうと必死に手を辺りお構いなしに振りしきる。 時折机や調度品に腕が当たるが、 円香は全く痛みを感じず代わりに当たり散らされた物が破壞されるだけだった。 (身体が熱い!) (蟲みたいな何かが身体ヲ駆け巡っていル!) (痛い!) (でも気持ちイイ!) (助ケて!) 円香の身体は彼方此方で変色が始まっていた。 人ならざる爪や牙が姿を見せはじめる。 頭痛と共に髪の毛の隙間から頭皮を割って、 粘液と共に角が生え始める。 眼の色が濁りと共に金色へと変色しはじめる。 メキメキと音を立てて身体が創り替わる。 その変化を円香は無力にも受け入れるしかなかった。 出来る事は身悶えしつつ暴れる事だけだ。 周囲の女トロルたちはすっかり怯えきって、 少し離れた場所からその変化を見つめていた。 ざわつく者、悲鳴を上げる者、衛兵を呼びに行く者。 辺りを賑わせるだけで、彼女たちにはどうする事も出来なかった。 「ガアアアアアア!!!!」 同時に押し寄せる激しい痛みと快楽と熱で、 円香はたまらず咆哮を上げた。 その声は最早人間の発するものでは無くなっていた。 周囲を揺らす、只管に長い咆哮が終わった時、 円香は事切れたように床へと倒れ込んだ。 全てを失ったように訪れる静寂が部屋を満たす。 言葉と動きを失った召使いの女トロルたちはその場に立ち尽くしていた。そして一人、また一人と動きを取り戻しざわつき始める。 彼女たちの視線は一点にくぎ付けだった。 そこには新たに誕生した一匹の女トロルが倒れていた。

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