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雲上の夢

「男水着チャレンジ!?」 驚き狼狽える灯織を前にプロデューサーは深く頷いた。 「羞恥心と度胸と演技力を同時に鍛えることのできる全く新しい特訓・・」 プロデューサーの言葉は灯織の頭を上滑りしていく。 (男の水着でビーチに出る?意味が分からない・・それってつまり上半身は・・) 灯織の頭は混乱するばかりだった。いくら撮影が終わった後のプライベートビーチを自由に使える事になったからといって、そんな突拍子もない事をプロデューサーが言い出すとは夢にも思わなかった。 そんな灯織をよそに、真乃とめぐるは大いに乗り気でにはしゃいでいた。 (えええええ!?なんで!?おかしいでしょ!?) 「水着は用意してある!さあ、早速はじめるぞ!」 そういうや否や、プロデューサーは水着を手渡すと一足先にとばかりにビーチへ駆け出した。 「いえーい!」 めぐるは負けじと、手渡された男物の水着をいつの間にか着ていて勢いよく駆け出した。枷を解かれ露になった豊満な乳房が元気よく揺れていた。 「ちょ、めぐる!・・ちょっと!」 展開についていけず灯織は真乃にたすけを求め振り返る。 「真乃!めぐるを止めなきゃ!あのまま外に・・」 そこには既に水着に着替えた真乃が居た。もちろん男物だ。 露になった胸がめぐるに負けじと自己主張している。 「灯織ちゃん、私も先にいってるね!」 そうさらっと言い残し、真乃も外へと駆けて行った。 後に残された灯織は、口を魚のようにぱくぱくさせ立ち尽くすばかりだった。そして考え込んだ末に答えを導き出した。 (これは夢だ。何から何まで突拍子も無さ過ぎる。そうだ、そうに違いない。) 灯織は己の解答に従う事にした。 つまりは流れに乗るしかない。 夢ならばいつかは覚める。 それまでこの非日常を満喫するのみ。 灯織は水着を手に取り行動を開始した。 「お、ちゃんと着たな灯織。」 プロデューサーが満足げに頷く。 灯織は皆の下へおずおずと歩みを進める。 真乃とめぐるは羞恥心など部屋に置いてきたといわんばかりに堂々としていた。めぐるに至ってはいつの間にかキャップとサングラスを着用し男性を演出している。その表情は自信満々だが、その努力も二つのふくらみで台無しになっている。 哀しいかな、体系的にこの特訓には自分が適任である。 (適任?そもそもこれは何の特訓なの?) 「こら!灯織!胸を隠すな!ちゃんと男性を演じろ!」 無意識に胸を覆い隠していた灯織をプロデューサーが一喝する。 それに気付いて反射的に手を除けるも、プロデューサーの視線を間近で感じて改めて色々な感情が押し寄せてきた。灯織は身体を覆い隠ししゃがみこんでしまった。 プロデューサーは心底落胆した表情をし、真乃とめぐるは憐れむような視線を灯織に向けた。 「はあ・・灯織、お前にはがっかりだ」 プロデューサーが辛辣な言葉を灯織に投げかける。 たまらず灯織の眼に涙が浮かぶ。 一体自分が何をしたというのか。 灯織はたまらず声を上げた。 「・・ひどい・・どうして・・」 その声を聞いたプロデューサーははっと思い直した顔をした。 「いや、すまん灯織。最初から飛ばし過ぎた。ちゃんと段階を踏むべきだった。謝るよ。」 そう言ってプロデューサーは深々と頭を下げた。 潤む眼でその姿を認め灯織が声を上げようとした時、 プロデューサーが言葉を続けた。 「というわけでまずは一般の方々の眼に慣れて貰う。」 その言葉で灯織が発しようとした声は凍り付いた。 「・・え」 プロデューサーが大声で誰かに叫ぶ。 「すいませーん!一般の方の入場おねがいしまーす!」 その声と同時に四方からわらわらと大勢の人間が現れ始める。 出で立ちからしてピーチの客らしい。 すぐに灯織たちを認め「オオ!」と歓声を上げながら一斉に近寄ってきた。 視界が歪む。 感覚が遠のく。 絶望と発狂の狭間のような乖離した感覚。 遠くで真乃の声が聞こえる。 「灯織ちゃん!」 その声に眼を開けると真乃が心配そうにのぞき込んでいた。 傍らには灯織にもたれ掛かり、気持ちよさそうに寢るめぐるがいた。 「魘されてたよ?だいじょうぶ?」 寝起きの頭を何とか凝らす。 灯織は己が機上の人である事を思い出した。 (そうだ、海外ロケで移動中だった。いつの間にか寝ちゃってた) そう現状を確認した後、重い頭を押さえる。 「どうする?お水貰う?」 尚も心配そうに気遣う友人に、灯織はカラ元気で微笑みかけた。 「ん、大丈夫。覚えてないんだけど、なんか変な夢をみてたみたい。」 なんの夢かは分からないが、灯織は心から安堵していた。 よくわからないが、自分だけ置いていかれなくてよかったという感情だけ覚えていた。 「なんだかわからないけど、みんな一緒でよかった。」 その言葉に真乃はキョトンとした顔をしたが、ふふっと笑って灯織の手を握った。 「・・うん、みんな一緒だよ・・ふふっ」 灯織は眠るめぐるの手を握った。 「うん・・一緒。」 二人の手を握っていると、とても心地いい。 そう感じながら灯織は再びゆっくりと眠りへ落ちていった。

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