女騎士団無惨処刑録
Added 2022-05-12 22:04:24 +0000 UTCSkebでご依頼を受けた分(https://skeb.jp/requests/774874)の進捗です。 よろしくお願いします。 軍馬が駆け抜け、大地が鳴動する。隊列を組んだ兵士たちの動きは驚くほどに統一されており、さながら巨大な蛇が蠢いているかのようであった。 相手を貪り喰らう暴力の化身。相対する兵士たちも見る見るうちに数を減らしていた。 それを眺める者たちが三人。戦場から少し離れた丘の上から全体を俯瞰している。 「うわ……ちょっとヤバくない?」 その内一人が苦々しげに吐き捨てた。双眼鏡を外し、隣に控える女性へと視線をやる。純白の甲冑に身を包んだその女性は圧倒的なまでの戦力差を前にしてもひるむことなく、むしろ口の端に笑みすら浮かべていた。 「隊長。そろそろお時間です」 「わかった、すぐ行く」 伝令の少女に頷きかけ、導かれるままテントの中へと入る。すでにそこには十数名の女騎士たちがひしめき合っていた。肌を突き刺すようなピリピリとした緊張感がある。 隊長格の女性は彼女たちに一瞥を寄越し、テーブルの上へと身を乗り出した。そこにはこの周囲の地形が描かれた地図と、各軍を示す駒が置かれている。 「では、今回の作戦について私からご説明します。時間がないので手短に」 理知的な面立ちの女性はクイッと眼鏡の位置を直し、地図の上の駒を指で示す。 「こちらが我がロムニア軍、三千。対して敵方――フィドル軍は五千。数で見ればこちらに勝ち目はないでしょう。ですが、そこで我々の出番です」 待ちに待ったと言わんばかりに、鳥を模した駒をカンッと黒の駒――フィドル軍の後ろへと叩きつけた。再びずれ落ちた眼鏡を指でなおし、 「幸い、地の利はこちらにあります。奇襲を仕掛け、彼らを森の中へと誘導します。すでに罠は仕掛けてありますので、各自ポイントをしっかりと覚えておいてください。間違っても自分が罠にかかる、などという真似はなさらぬように」 厳しい口調に一同の顔が一層引き締まる。年若い女ばかりであるが、その顔は歴戦の勇士顔負けであった。 「では隊長。よろしくお願いします」 「あぁ」 凛とした女の声が上がると同時、一同の視線が一斉に同じ方向へと向く。 炎のような赤髪を一つにまとめた女騎士は顎に手をやり、精悍な顔だちをキリリと引き締めてゆっくり、一言一言ハッキリと告げる。 「みんな、わかっていると思うがこれは祖国を守るための戦いだ。正直、戦力差は絶望的だ。全員生きて帰れるかもわからない。いや、間違いなくこの中の何人かは命を落とすだろう。もし、命が惜しい者がいれば遠慮なく言ってくれ。この場から去ろうと咎めはしない」 「隊長。すでに覚悟のうえでございます」 声の主は彼女の右に控える妙齢の女性だった。たおやかな笑みを浮かべた彼女は全員の顔を見回す。怯えを隠せずにいる者もいたが、目には決意を宿らせていた。 それを前にした隊長は微笑を零し、短く息を吐く。 「愚問だったな、すまない。……皆、幼いころから一緒に育ってきた家族だ。できれば、誰一人として欠けることなく終わってほしい」 「当然でしょ。アタシたちを誰だと思ってんのよ」 「隊長直々に扱かれましたからねぇ」 副隊長たちの言にその場がドッと沸いた。彼女たちを覆っていた陰鬱な空気が薄れていく。 ザッと足並みを揃え、各々が武器を胸元へと掲げた。 「“大鷲”のリトナ。必ずや首級を上げてみせますわ!」 誉れ高き少女騎士が高らかに謳うに続き、他の者たちも次々と声を張り上げる。 「“青鷺”のミシェル」 「“白鷺”のテイラー」 「「祖国に勝利を。我らに栄誉を」」 双子の騎士は声を揃え、互いのレイピアを交差させた。 「“燕”のミィヤ。今こそ修練の成果を見せる時」 誰よりも勤勉な騎士は鼻息も荒く眼鏡の奥の瞳をギラつかせる。 「“熊鷹”のゾエ。全員ぶっ潰してやるさぁ!」 訛りの残る少女は大槌を握り締め、今か今かと地団太を踏む。 「“梟”――サエ。背中は任せろ」 忍び装束を纏った少女はクナイを片手に印を結ぶ。 「“雲雀”のクロエ。陣頭指揮は任せてください」 作戦参謀たる少女は自信ありげに胸を反らす。 「む、“椋鳥”のリリー! が、がんばります!」 いい決まり文句が浮かばなかったのか、新米騎士は恥ずかしそうに頬を染めていた。 「“白鳩”のエリア。この身を主に捧げます……」 敬虔な信徒たる騎士はメイスを胸に十字を切った。 「“烏”のエルザ。英雄譚を魅せて御覧に入れよう!」 男装の騎士は高笑いしながら双剣を振るう。 「“斑鳩”のシェリー! 私が一番だってことを思い知らせてやるわ!」 自信過剰な騎士は八重歯を剥き出しにし獰猛な唸りを上げる。 「……“百舌鳥”。ペチカ。勝利を、この手に」 陰気な騎士は拳を打ち合わせ、神経質そうに肩を振るわせた。 続いて、副団長たちが声を上げた。 「“隼”のチェシャ。アタシたちの恐ろしさ、思い知らせてやるわ!」 最年少の副団長はその身に似合う傲慢さと強かさを滲ませる。 「“鳶”のカナ。憎き者どもを地獄へ堕としてやりましょう」 もう一人の副団長は温和な笑みを讃えながら怨嗟を募らせる。 「“鳳”のエレナ。祖国に栄光を。我らに勝利を」 最後に団長が締め、次々とテントを後にしていく。もはや憂いはない。 馬に跨り、眼前の敵へと狙いを定めた。 「さぁ行くぞ! 我らの力を見せつけてやれ!」 「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」」」」」」 雄たけびと共に武器を突き上げ、猛進していく。 誇り高き翼の騎士団はその名に恥じぬ軽やかさで、戦場を駆けていった。 *** ロムニア国において翼の騎士団を知らぬ者はいない。 曰く、世界最強の遊撃部隊。女たちだけで構成されておりながら誰よりも軽やかに、美しく戦場を舞うという。 彼女たちの武勇を語り出せばキリがないと言われるほどであった。 けれど、それも今日で終わってしまう。 「んぐっ! んぅぅぅっ! ンーッ! ンーッ!」 「やめっ、やめてぇええええッ! 降参! 降参しますから殺さないでぇ!」 「だれか、だれかたすけてぇ! パパァ! ママァ!」 まるで悪夢のような光景であった。苦楽を共にした仲間たちが男たちの慰み者にされている。騎士団長たるエレナはその様を茫然と見つめていた。 どこで歯車が狂ったのか、それは誰にもわからない。 突然の豪雨によって地面がぬかるみ、背後からの奇襲に失敗したせいかもしれない。 パニックに陥った味方が逃げ出した時かもしれない。 あるいは敵方に凄腕の傭兵たちが雇われていたのが原因かもしれないが、もはや考えても無駄である。 彼女たちは敗北し、捕まった。甲冑を剥がれ、武器を奪われ、ただの女と成り果てた今もはやできることはない。 「おい、殺すなよ。こいつらにはまだ役目があるんだから」 「……役目?」 「聞いたことがあります。フィドル軍の噂……」 クロエは裸体を抱くようにしながらガタガタと震える。恐ろしさに瞳は見開かれ、全身にはびっしょりと冷や汗を掻いていた。親指の爪を噛み、目尻に涙を溜めながらぽつりと呟きだす。 「か、彼らに捕まった女たちは……処刑されるんです。民衆の前で。し、死後もなお、辱められて……あぁあああああああッ!」 「落ち着け! 大丈夫だ! しっかりしろ、クロエ!」 ガシガシと髪を掻き毟るクロエの肩をエレナが抱きしめる。だが、本当のところは彼女も叫びだしたい気持ちであった。 自分たちに向けられる無遠慮な視線に吐き気を催す。彼らが何を考えているのかはお見通しだ。男が女にすることなど一つしかない。 やがて全員が荷馬車に詰められた時、隊長格の男が手を打ち鳴らした。 「おっし、いいぞ。あっちも片付いたみたいだな」 窓から外を覗き見た瞬間、全身から力が抜けていく。ロムニア軍の姿は今やどこにもない。残されているのは無数の屍と勝鬨を上げるフィドル軍だけであった。 *** 捕らえられてから間もなくしてその時は訪れた。 翼の騎士団に属する女たちはみんな檻に入れられ、裸のまま両手足を縛られている。互いに身を寄せ合って涙を流す者、毅然とした態度を崩さない者、まだ希望を捨てきれない者。様々である。 ただし群衆の興味はそこにない。彼女たちが如何に殺されるか、それだけに関心が集まっていた。 カンカンと鐘の音が鳴り響くに合わせ、一人の男が壇上へと上がる。翼の騎士団を壊滅させた宵闇の蛇の団長である。 「これより、処刑を開始する!」 待っていたとばかりに観客たちから拍手喝采が巻き起こった。牢屋の扉が開け放たれ、複数の男が入ってくる。手元のリストを覗き込み、照合を済ませるとニィッと口の端を歪めた。 「ミィヤ!」 最初に選ばれたのはおかっぱ頭が特徴的な少女であった。髪を無造作に掴まれ抵抗虚しく引きずられていく。痛みに顔を歪め、ぽろぽろと涙を流していた。 男たちはそんな彼女を無理矢理処刑台の上へと座らせる。群衆の視線にさらされたミィヤは身体を隠そうとしたが両腕を後ろで縛られていては身を捻るのが精一杯だ。悔しげに歯噛みし、キッと男たちを睨みつける。 「こ、こんなこと、許されません……ほ、捕虜には丁重な扱いをするモノでしょう?」 ミィヤは怯え、震えながらも気丈な態度を保とうとしていた。対する男はふざけたように肩を竦め、ゲラゲラと声を上げて笑う。 「おいおい、今更何言ってんだよ。自分の立場がわかってねぇのか?」 分厚い刃が首に押し当てられた。背筋に氷柱を差し込まれたような感覚に身が竦む。 男は彼女の首根っこを掴み、片手で持ち上げた。観客たちに彼女の裸体を見せつけ、大きく息を吸って怒鳴るように叫ぶ。 「こいつらは我らフィドルに喧嘩を売った愚か者だ! この処刑は見せしめであり、この女たちへの罰である! 異論はあるか!」 帰ってきたのは怒声にも似た歓声であった。フィドルの民においてこの処刑はショーでしかない。道の両脇では屋台も開かれ、酒を煽りながら眺めている者たちすらもいた。 明らかに狂っている。異常だ。ミィヤの目から大粒の涙が零れだす。 「み、見るな……見るなぁ! この人殺し! 人殺しぃッ!」 「お前もそうだろうが、クソ女。俺の可愛い部下たちを殺しやがって……何様のつもりだ?」 「だってそれが戦争でしょ!? 大体、こんなことして何になるのよ!? アンタら頭おかしいんじゃないの!? 人殺しを見て喜ぶなんてイカれてる! だいたい、人道を無視していいわけが……ッ」 ミィヤの言葉が止むと同時、喉から血の塊が吹き出した。何が起こったのかわからないミィヤは目を白黒させ、喉を抑えて血の泡を吹く。 「あー、ヤッベ。イラついて殺しちまった」 「ミィヤァアアアアアアアアッ!」 彼女の首は半ば千切れかかっていた。かろうじて首の骨で支えられているだけの状態。どう考えても致死量の血が首や口から溢れ、とうとう彼女は力なくその場に膝をついた。 「ぶ、べ……」 「ん? なんだ?」 「ぶぶ、び、べ……ぶぶ、び……べへっ!」 不明瞭な言葉ではあったが、意味はすぐに理解した。男の顔が邪悪な笑みに彩られる。 「ハハハハハ! 許して、だってよ! もう手遅れだってのに馬鹿な野郎だな!」 ギャハハハハ、と至る所から下卑た笑いが沸き上がった。ミィヤは必死の形相になって縋りつこうとするがもはや手を伸ばす力すら残されていないのだろう。前のめりに倒れ込み、血だまりの中でぴくぴくと身体を痙攣させた。 ヒューヒューと掠れた呼気を漏らし、虚ろな目で群衆を見やる。皆、ひとしく自分を嗤っていた。 フィドルにおいて女の地位はないに等しい。ましてそれが敵兵であれば尚更である。 「ぶ、ぽ……」 視界が徐々に暗くなっていき、身体が冷たくなっていく。微睡みに落ちようとしたミィヤの髪を男が掴み、そのまま無理矢理引きちぎった。残された身体は痛みを訴えるかのようにビクビクと激しく痙攣し続け、やがて動かなくなった。 「見よ! これが愚か者の末路である!」 舌をだらりと垂らした虚ろな目のミィヤの生首を掲げ、男は声高に告げた。群衆たちに手を振りながら、生首を傍にいた男の掲げる盆に載せる。残された身体もすぐに清掃班が片付け、荷台の上へと乗せた。 死体の使い道はいくつかある。男たちの性処理道具であったり、あるいは武器の試し切り。位が高ければ磔にして見せしめにした上で敵国へ送り返すこともある。希望者がいればその身体を買い取ることだってできた。 ミィヤの場合は処刑の前にその声がかからなかった時点で性処理道具として扱われることは確定であり、そこまで位が高いわけでもないため使い潰されるのがオチだろう。 「お前らもすぐああなるんだ」 見張りの男の言葉に騎士団の面々は一様に顔を青くした。最年少のリリーに至っては恐怖のあまり失禁している。ただでさえ撒き散らされた吐瀉物の匂いで吐きそうなのに、とエレナは顔をしかめた。 処刑を終えた男は手を拭い、また牢屋の中へと入ってきた。次に選ばれたのはミシェルとテイラーの終いである。 「お、おねえ、ちゃん……」 「だいじょうぶ、だいじょうぶだから……」 ぐすぐすと鼻を啜るテイラーをミシェルが慰める。彼女とて限界なのは見るに明らかだ。足は震え、顔は恐怖で引き攣っている。 処刑台へと昇らされた時、不意にミシェルが叫んだ。 「お、お願いします! 私は殺していいから! 情報だってなんだって喋るから! 妹だけは助けてください!」 明らかな降伏と背信。けれど彼女を咎められる者は誰もいない。ミシェルはその場に跪き、地に頭を擦りつけて懇願する。 そんな彼女を見て、テイラーも続いた。 「ち、ちが、ちがい、ます! お姉ちゃんだけは、お姉ちゃんだけは生かしてください……! 私は、どうなってもいいですから……!」 「何言ってるの! アナタは行きなさい!」 「いや! お姉ちゃんがいないと生きていけないもん!」 美しい姉妹愛を魅せるミシェルたちを前にフィドルの男たちはしばしの沈黙を貫き、やがてパチパチと拍手を送る。紛れもない賛辞である。浴びせられるのは罵声ではなく称賛であった。 処刑人の男もにこやかな笑みを浮かべ、ゆっくりと二人の元へと歩み寄る。 「人間ってのは土壇場でこそ本性が現れるもんだ。これまで色んな奴らを見てきたが兄弟を売る奴は多かった……その点、お前らは立派なモンだ。俺にも弟がいるから気持ちはよくわかる。家族ってのは大事だもんな」 一筋の光明を前に、ミシェルの頬が知らずのうちに緩む。 「そ、それじゃあ……」 「まぁ、その弟はお前らに殺されたんだけどな」 男は目をスゥッと細め、ミシェルの首を掴んで無理矢理立たせる。どこからか運んできた拘束具によって彼女の両手足を鎖で絡め取り、大の字に開かせた。 「え、え? ま、待って! なに、なにこれぇ!?」 「お姉ちゃん!? お姉ちゃん! お姉ちゃんを放して!」 「おっと、そう焦るなよ。お前も直あぁなる」 男が指を刺した先にいたのは小山のような筋骨隆々の男であった。顔は覆面で隠されており、荒い呼気だけが漏れている。しかしそれ以上に目を引くのは彼が携える巨大な斧であった。 戦うためでも木を切り倒すためでもない。人を両断するためだけの重さと鋭さを持った凶器である。 「あ、あぁぁ……」 「やめろ! 何をする気だ!」 たまらず声を張り上げたエレナが檻に手をかけるも見張りの男たちは薄笑いを返すばかりである。後ろを振り返れば、皆目を固く閉じてその場面を見ないようにしていた。 「さぁて、いよいよ処刑の時間だ! 頼むぜ、ブーピー」 ブーピーと呼ばれた男は大きく頷き、グンッと背を反らせて斧を構えた。一度ゆっくり振り下ろし、ミシェルの頭頂部へと狙いを定める。過呼吸に陥っている彼女は目を丸く見開き、苦しげな呼吸を繰り返していた。 テイラーを羽交い絞めにしながら男が叫ぶ。 「3!」 兵士が続き、 「2!」 群衆の興奮が最高潮に達し、 「1!」 「やめてぇええええええええええええええええええッ!」 テイラーの悲鳴を号令に、大斧が振り下ろされミシェルの身体が両断された。正中線から真っ二つにされた彼女は身体が分かれてもしばらく生きていたものの、ぎょろぎょろと目を動かした後でぐったりと項垂れた。 切断面からぼたぼたと中身が零れ、腸がうず高く積み上げられる。 産まれた時からずっと一緒であったテイラーも姉妹の中身を見るのは流石に初めてだろう。感情を失い切った彼女は拘束が解かれるや否やすぐにふらふらと彼女の元へと歩み寄り、腸を掬い上げる。 「お、ねえ、ちゃ……ね、おきて……おきてよぉ……」 腸を仕舞いなおせば生き返るとでも思っているのだろうか、無意味な行動を繰り返すテイラーに嘲笑が浴びせられる。真っ二つにされたミシェルは姉妹の呼びかけに応えることもなく、ただ無様な醜態を晒していた。 血と糞尿に塗れた彼女の肩に、ブーピーの大きな手が置かれる。 もはや、足掻くだけの気力もなかった。テイラーは静かに立ち上がり、一度だけ騎士団の方を見てポツリと呟く。 「……バイバイ」 そう言い残してブーピーへと向き直る。両手を広げ、すべてを受け入れるとばかりの態度の彼女にブーピーは胸に手を当てそっと会釈した。 先ほど以上の勢いをつけて、一気に斧を振り下ろす。きっとテイラーは己が死んだことなど意識が途切れるまで気づけなかっただろう。 パカッと間の抜けた音とともにテイラーの身体が分かれて横に倒れ込んだ。安らかな死に顔であった。 「見事な死にざまだった。おい、こいつらの遺体は丁重に“お送り”しろ」 男の声を受け、ミシェルとテイラーの遺体が担架に乗せられ運ばれていく。ミィヤの時とはまるで違う扱いに難色を示すエレナたちをよそに、男が再び檻の前へとやってきた。 その時、初めてリリーが声を発した。 「ふ、二人は、どうなるんですか……?」 リリーにとって、ミシェルとテイラーは無二の親友であった。その二人の死を前にして目を泣き腫らしながらも彼女らの行く末を案じている。 男は一瞬横に視線をずらし、 「あいつらには“買い手”がついたんでな。加工場に送られた」 「加工、場……?」 「あぁ。どう加工されるかは買い手の依頼によるがな。剥製にされたり、家財道具にされたり……まぁ色々だ。ある意味、幸せな最期かもな」 リリーは怯えて声を出すことすら忘れていた。愕然とした様子で崩れ落ちる彼女の肩をゾエが抱きすくめる。 「さぁ、次は……あぁ、お前だ」 指名を受けたのはサエだ。美しき忍びの末裔は黙って立ち上がり、すれ違いざまエレナに囁く。 「――タダでは死なぬ」 そう言い残した彼女は粛々とした様子で壇上に登り、自らその場に正座する。斬りやすいようにか首を下に向け、白いうなじを晒した。 男はゆっくりと剣を掲げ、首に添える。そのままゆっくりと剣を振り下ろそうとした、まさにその時である。 「シッ!」 「ぐぉおっ!?」 どこからか取り出した針が、男の目に命中した。痛みに悶絶する男から剣を奪い取り、近寄ってきた男たちを切り捨てる。 混乱に乗じて、エレナが見張りの男を後ろから羽交い絞めにした。怪力自慢のペチカとゾエも同様に見張りたちを檻越しに捕まえ、その場に釘付けにする。 「私たちはいい! 逃げなさい、サエ!」 クロエの叫びに応えるかの如く、サエが宙を舞った。軽やかな動きで屋根の上へと上がり、悲しげな目をしながら何処かへと去っていく。 それでいい、と。エレナは胸中で叫んだ。誰か一人でも生きて帰ればいい。どうせ全員逃げきることなどできるはずもないのだから、それならば自分たちの中で最も足が速く、隠密能力に長けたサエが適任だ。 「ちくしょう! 追え! 追え! 死んでも逃がすな! 行け行け行け!」 片目を抑えてうずくまる男が指揮を執り、兵士たちを向かわせる。だが、すでにサエの姿はどこにもない。してやったりと言わんばかりにエレナたちは顔を見合わせた。 結局、この日の処刑ショーはこれでお開きとなった。とはいえ、すべてが終わったわけではない。捕虜となった騎士たちは檻から出され、ギロチン台に拘束され一列に並べられる。こうして奉仕をするのが習わしであった。