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壮年紳士は幼婆に傅く

「社長。本日もお疲れさまでした」 「いや、君もよくやってくれた。ありがとう」  男の声は少ししゃがれていて、けれど不思議と人を落ち着かせる安心感がある。元ラガーマンということもあってか五十を超えてなお筋骨たくましい身体つきだが、浮かべる笑みは布袋のような柔和さだ。  労いの言葉を受けた秘書は口元を緩ませ、伏し目がちに男を見やる。  彫りの深い顔立ちで、ビシッとスーツを着こなす様は洋画スター顔負けだ。髪には白いものが混じり始めているものの、その顔つきは獅子を思わせるほどに凛々しい。顎髭を撫でさする仕草などは王者の貫禄すら感じさせる。  背丈も高く、初めて見た時は威圧感を覚えたものだが本人の気質は極めて温和だ。怒っているところを見たことがないし、部下や運転手に威張り散らすこともない。  正直、魅力的な男性だと思う。年は二回り以上離れているが、そんなことが些細に思えるほど――それこそ、今まで出会った男性の中で一番だと思う。 「……私の顔に、何かついているかな?」 「あ、いえ! 申し訳ありません……そ、それで、明日以降のスケジュールに関してなのですが……」  秘書はカァッと頬を赤らめ、メガネのズレを指で直しながら手帳に目を落とす。  そんな彼女の言葉を聞きながら、社長と呼ばれた男――四谷圭吾は腕時計にそっと視線を移した。  すでに時刻は九時を回っている。本来ならばもう少し早く帰れる予定だったのだが、思った以上に会議が長引いてしまった。正直実りある時間だったとは言えない。こめかみを抑え、短くため息をつく。  喉元までこみ上げてきた不平不満をぐっと飲みこみ、腹の底で醸造させる。家に帰るまでの辛抱だ。そうすれば、後は思う存分発散できる。 「……っ」  家に帰った後のことを考えると思わず笑みが零れた。咳払いで誤魔化し、頬杖をついて窓の外をぼんやり眺める。  煌びやかなネオン街を抜けると閑静な住宅地へとたどり着き、そこからさらに長い坂を上ると場違いなほどの豪邸に行きつく。明治時代に建てられた邸宅はその歴史に恥じない荘厳さだ。  車が完全に停車するや否や、圭吾はすぐさま降車して運転手に目配せする。 「お疲れ様。彼女を家まで送ってやってくれ」 「はい。お疲れ様でした」 「お疲れ様でした、社長」  運転手と秘書に軽く会釈を返し、門をくぐる。  夜の屋敷というのは少しばかり不気味だ。人里離れた場所にあるからかシィンと静まり返っているし、月夜を浴びる裸婦像は常ならぬ美しさと恐ろしさを孕んでいる。精巧な造りと相まって今にも動き出しそうだ。  玄関前に到着した後、軽く身だしなみを整える。ネクタイのゆがみを直し、ピシッと背筋を伸ばして扉を開けた。 「おかえりなさい。随分と遅かったですね」  澄んだソプラノボイスの主は、圭吾の眼前に立っていた。  小さく、あどけない少女だ。桜色の着物に身を包み、ニコニコと人当たりのよさそうな笑みを浮かべている。全体的に線が細めな印象を受けるが適度に肉がついており、特に臀部などは女性的な丸みを帯びていた。  少女はくるくる、と毛先を指先で弄びながら伏し目がちに圭吾を見上げる。童女らしからざる眼光の鋭さだった。 「まったく……今日はわたくしの番だというのに」 「申し訳ありません……少々、仕事が込み入っておりまして」 「あら、そう。つまり、わたくしの優先度はそれ以下だと?」  静かだが怒気の籠った言葉に、ぶわっと鳥肌が立った。  圭吾は顔じゅうびっしょりと脂汗を掻いて、グッと言葉を詰まらせる。彼の部下たちがこの光景を見たら腰を抜かすに違いない。なにせ、世界有数の大企業の社長が年端もいかぬ少女に気圧され完全に怖気づいているのだから。  圭吾は何かを言おうとしては口をパクパクさせ、バツが悪そうに視線を逸らす。まるで親に叱られる子どものように。  少女はなおもそんな彼をジィッと睨みつけていたが――やがて、クスッと微笑をもらす。 「もう、そんな顔をなさらないでくださいな。わたくし、別にあなたを虐めようというわけではないのですよ?」  するっと滑るような動きで圭吾の懐に入り込んできた少女は彼の腕を抱き、脇腹を人差し指でぐりぐりと押す。ぷくっと頬を膨らませる姿は外見通りの愛らしさ。先ほどまで滲ませていた威圧感は微塵もない。  ぶふぅっと息を吐いた圭吾は額に滲んだ汗をハンカチで拭い、 「あまりからかわないでください。八重さん」 「ふふっ、ごめんなさい。ついつい意地悪をしてしましました」 「……ところで、二人はどちらに?」 「もう寝ていますよ。さぁ、お風呂が沸いておりますから一緒に入りましょう」  八重と呼ばれた少女はごく自然な動きで圭吾からかばんを掠め取り、そのままポイッとその場に放った。あわや地面に激突、というところで――奇妙な裂け目が生まれ、かばんがその中へと飲み込まれる。  けれど、八重はおろか圭吾もそれを気にする素振りはない。 「さぁ、脱ぐのを手伝ってあげましょう」  やがて脱衣所に到着すると、八重は手慣れた様子で圭吾の服を脱がせ、スーツやネクタイをまたも宙に放った。シャツや下着などは洗濯籠に叩き入れ、自身の着物も脱ぎ棄てる。下着の類は身に着けていない。小ぶりな乳房と無垢な割れ目が明らかになる。  ぷりんっと張りのある小尻は着物に戒められていた時とはまるで違う魅力がある。桃のように艶やかで、思わずかぶりつきたくなるほどだ。 「さぁ、参りましょうか」  ぷにぷにの手で掴まれ、そのまま二人並んで浴場へ足を踏み入れる。ちょっとした銭湯ほどの規模の大浴場にはマーライオンを模した打たせ湯やサウナなども完備されており、初見であれば間違いなく腰を抜かすほどの絢爛さだ。浴槽だけでも十は超えている。  一応、この屋敷には圭吾と八重のほかにもう二名住んでいるが、だとしてもあまりにも広い。客人を呼ぶ機会もほとんどないので持て余しているのが現状だ。開放感がある、と言えば聞こえはいいが逆に広々としすぎていて気疲れしてしまう。  やれやれ、と言わんばかりの圭吾はシャワーの前に椅子を置き、軽く身体を流す。隣に腰かけた八重も同様に。墨を溶かしたような黒髪は水気を帯びてさらに色香を増す。  すでに彼女とは長い付き合いだが、それでもこの瞬間はいつもドキドキする。湯浴みをする彼女は神話に出てくる女神のように艶やかで、息を呑むほどに美しい。ツンと尖った薄桃色の乳頭も、透き通るような白い肌も、一流の造形師ですら造りえない肉体美だ。 「お背中、流します」  またしてもするりと滑るような動きで、八重が背後に回ってきた。柔肌の感触が直に伝わってくる。彼女はボディソープを身体にまぶし、自らをスポンジに見立てて圭吾の広い背を擦った。  マシュマロじみた柔い肌と、グミのような弾力を持つ乳頭の感触が交互に押し寄せ脳を蕩かす。艶っぽい息遣いも聞こえてきて、否応なく逸物も滾りを増した。五十を超えてなお硬さを失わない剛直――太く、長く、逞しい。  ビクビクと跳ねるグロテスクな肉棒に、白魚じみた指がそっと触れた。赤黒い亀頭を掌全体で揉みこんだかと思えば、今度はカリ首を指先でゆっくり時間をかけてなぞる。包皮もめくりあげ、中に溜まった恥垢を指で掠め取った。 「う、おっ」  人外の法悦に溜まらず腰がビクンッと跳ねる。危うく射精しかけたが、根元をギュッと絞られて強制的に快感を止められた。 「誰が射精していいと言いました?」  やはり完全には許していなかったのだろう。彼女の目には先ほどの冷徹さが戻っている。  慈しみと嗜虐性の交じり合った手つきは的確に圭吾の性感を昂らせ、絶頂へと導いていく。が、至ることはできない。後ほんのわずかというところで責めが弱まり、行き場をなくした快感が下腹のあたりでぐずぐず煮詰まる。  無論、彼我の体格差は歴然だ。自ら腰を動かしてダメ押しをすることもできただろう。  それをしなかった――否、できなかったのはひとえに、二人の間に絶対的な上下関係が敷かれているからだ。 「可愛いお顔……あぁむっ」 「くぁっ!?」 「くすくす……あいかわらず敏感なお身体ですこと」  耳たぶをあまがみされ、女子のような甘い声が漏れた。  それが面白くてたまらなかったのか、八重はコロコロと喉を鳴らしながら耳穴に舌先をねじ込む。  ぐちゅぐちゅ、ぴちゃぴちゃ、と卑猥な音が脳内で反響する。脳みそを直接舐められているような、奇妙な快感。生暖かく滑った舌がどうにも心地よく、それでいて手淫も止まらない。  徐々に、徐々に意識と理性が溶かされていく。大企業の社長という仮面を脱ぎ捨て、本能剥き出しの雄へと変わる。  ビキビキと音を立てんばかりに屹立した逸物からはとろとろと先走り汁が溢れ、八重の掌を汚した。彼女はそれを潤滑液にし、五本の指でシュッシュッと亀頭を撫でさする。掌で擦られている時とは別格、ピンポイントでの刺激に腰が戦慄く。  限界は間近だ。縋るような視線を向けると、八重はスゥッと目を細め、 「言わねばわかりませんよ? さぁ、どうしてほしいのか、その口でちゃぁんと伝えてください」  ぐりぐりと、鈴口に指先をねじ込みながら言う。痛み交じりの快感に意識が飛びかけた。  ――意地悪だ、と。圭吾は幼子のような感想を抱く。  長い付き合いなのだから自分が求めているものくらい把握していることだろう。  全身びっしょりと汗をかいているのにやたら喉が渇く。逸物はビクビクと跳ねて今にも射精しそうだというのに最後の一押しをもらえない。イく直前のもどかしさと歯がゆさがずっと続いている。  射精がしたい。気持ちよくなりたい。楽になりたい――頭の中はずっとその繰り返しだ。  もはや、我慢の限界である。 「は、ぁ――ッ!」  一際大きく息を吸い、 「イ、か、せてください……」  最後の方はほとんど聞こえなかった。  けれど快楽に潤んだ瞳が、愉悦に歪んだ口元が。何よりも雄弁に彼の心情を語っていた。  八重は満足したかのようにくすっと微笑を零すと、掌全体で根元から先端までをそぅっと花でも愛でるがごとく撫で摩る。 「くあっ、はぁ……っ」  平時であれば些細な刺激であっただろうが、散々焦らされ嬲られた逸物にとっては十分すぎるほどの刺激だった。  尿道がぷくっと膨らんだ直後噴水と見紛うばかりの精液が勢いよく溢れ、眼前の鏡を白濁に染めた。その量たるやコップをひっくり返したような有様で、ビュービューという効果音までもが聞こえそうだ。 「ぐっ、うぅ、うっ!」  腹の底に留めていたストレスも一緒に吐き出されるような爽快感と苦痛を伴うほどの開放感に浸りながら、圭吾は歯を食いしばってビクビクと身体を痙攣させる。  散々焦らされたからだろう。頭がおかしくなるほどに気持ちがいい。  全身の感度も射精に伴って向上しており、軽く息を吹きかけられただけでも甘い絶頂に達してしまう。その度逸物が何度も跳ね、無軌道に精液を撒き散らした。  射精が治まったのは五分後だ。だらんと垂れた逸物からは名残惜し気に精液の糸が零れ、圭吾も息も絶え絶えの様子で荒い呼気を漏らしている。意識も微睡み、機を抜けばこのまま寝落ちしてしまいそうだった。  ――が、 「圭吾」  凛とした声が横から聞こえてくると、混濁していた意識が一気に覚醒した。  視線を向けると同時、細やかな足先で顎をクイッと持ち上げられる。八重は風呂椅子に腰かけたままスラリと伸びた足を延ばしており、嗜虐的な笑みを浮かべていた。彼女も興奮しているのだろう。白い肌がわずかに紅潮しているのがたまらなく艶めかしい。  女王の風格すら漂わせる彼女は静かに髪を掻き上げ、 「次はあなたの番ですよ――舐めなさい」  そう、短く告げた。  圭吾はそれに対しこくりと頷き、ガラス細工でも扱うような繊細な手つきで小さな足を掴み、恭しく口づけする。  次に顔を上げた時、彼の目には言い訳のしようがないほど被虐的な欲望が滲んでいた。  ***  男は、夜道を歩いていた。  借金苦の挙句逃げ出したものの行く当てもなく、きづけばどことも知らぬ山中に迷い込んでしまった。まともな食事はおろか、睡眠も取れていない。  山はひどく静かで不気味だ。幽霊を信じるほど初心ではない。だが、あたりには人ではない気配がいくつも散らばっている。野犬か、猿か、はたまた別の生き物か。いずれにせよ気味が悪いことだけは確かだ。  このまま死ぬとしたら餓死か衰弱死か……などとつまらぬ考えが頭をよぎったところで、ふと妙なものが木々の隙間から見えた。  どうせ死ぬならば、とふらふらそちらに歩み寄ってみると場違いなほど豪奢な屋敷が目に入る。異国風の建て構えに思わず身構えたがそれ以上に空腹が勝っていた。深夜だからか明かりはついておらず、忍び込むのも容易に思えた。  案の定、潜入は簡単だった。窓の隙間から身体を潜り込ませて中に入り、人の気配がないかを確認してから台所に入って手当たり次第に食料を喰らう。三日ぶりのまともな食事に思わず涙が出た。 『――ふふっ』  その時、背後から不気味な笑い声が聞こえた。慌てて包丁を振り抜くもそこには誰もいない。 『うふふっ。嗚呼、ここに人が来るなどいつぶりでしょうか』 『誰だ、どこにいやがる!』 『ここに、おりますよ』  次の瞬間、無数の目が天井に、床に、窓に――至る所に現れる。  それと同時天井が口のように大きく裂け、ケタケタと不気味な笑い声を上げた。 『物の怪か』 『おや、逃げないのですか?』 『どっちみち、逃げても行く場所もねえんだ。だったらてめぇを殺してここを乗っ取ってやる』 『威勢のいい人間ですこと。でも――』  男の背後にある壁が粘土のようにぐにゃりと歪み、そこから伸びた手が彼の身体を引きずり込む。男は必死に暴れたがビクともしない。完全に手足を飲み込まれ、芋虫のようにのたうつことしかできなかった。  さらに床がたわんだかと思うと、そこから一人の少女が生えてきた。童女じみた姿でありながら、人ならざる気配を携える存在。瑪瑙の瞳は不気味なまでに深く、澄んでいる。 『あぁ、あぁ。そのような姿になっても、まだ抗おうというのですね……』  少女は男の顎をつぅっと指でなぞるや否やニィッと口元を歪め、 『気に入りました。あなたに私の力を貸してあげましょう。ただし――』  次に彼女が提示した条件は男にとって魅力的なモノだった。  ゆえに、二人は契約を結ぶ。互いの魂を溶かし合って。  この日を境に、四谷家は急激な成長を遂げる。日本有数の財閥となり、今日に至るまで栄華を極めてきた。  そして、戦時下においてもその屋敷は壊れることも劣化することもなく、かつての姿のまま山中に佇み続けている。  *** (嗚呼、懐かしい……本当に、懐かしい)  かつての記憶を反芻しながら、八重は幸福の絶頂にいた。  あの日、男が訪れてくれたのは彼女にとっても僥倖だった。長らく人を喰らっておらずこのまま死に絶えるのかと思っていたところに降って湧いた希望の光。“契約”を結んで以来、彼女は飢えを知らない。  男は八重を「座敷童」と呼んだが、その認識は間違いだ。  正しくは“迷い家”――道に迷った旅人を喰らい、しかし時には富を与えることもある怪異である。 「……それにしても」  八重は緩やかに視線を下へと向ける。そこでは四つん這いになった圭吾が、ぴちゃぴちゃと音を立てて彼女の足を舐めていた。人としての尊厳をかなぐり捨て自らに傅く男を見ていると思わず子宮が疼きだす。  あの日、男と結んだのはあくまでも対等な関係を前提とした“契約”だった。が、彼の子孫たちに限っては違う。その本質は支配と隷属にほかならない。  仮に、八重が機嫌を損ねてこの場から去ったとしよう。そうすればたちまち四谷財閥は崩壊することになる。  人間というのは恐ろしいもので、一度贅沢を味わうと二度とそれを手放したくないと願うモノだ。ゆえに四谷に生まれる人間たちのほとんどは八重に敬意を払い、従者のごとく振舞う。  無論、これも計画の内だ。あの場で男を食えば一時的に飢えをしのげるが、その後どうなるかはわからない。だが富を与えれば勝手に繁殖し、自分に尽くしてくれる。言うなれば働きバチのようなものだ。  ――まぁ、ごく稀に変わり者が生まれることもあったが。 「ぴちゃ、ぴちゅっ、れるるっ、ちゅっ、ちゅっ……」  そんなことを考えている間にも圭吾は舌を這わせ、いよいよ太ももの付け根にまで辿り着く。反応を窺うようにチラリと上目遣いで見上げ、おそるおそる陰核に舌を伸ばした。 「ふふふっ……いい子いい子」  頭を撫でてやると圭吾はますます嬉しそうに舌を動かした。  基本的に四谷の人間は八重に対して従順だが、圭吾の場合は本人の気質によるものも大きいのだろう。卑屈なほどの態度の裏には浅ましい被虐性が見え隠れしている。  それもまた、八重にとっては退屈を紛らわせる最高のスパイスだ。 「圭吾。立ちなさい」 「はい」  スッと立ち上がると、ちょうど股間が八重の眼前に来る。先ほど射精したばかりだというのに逸物はギンギンに滾り、若々しさを滲ませていた。  八重の視線はそれとは対照的に老いを感じさせる白髪交じりの陰毛へと移る。 「動いてはなりませんよ」  壁に出現した裂け目に手を突っ込み、剃刀を取り出す。たっぷりと手に泡をまとわせ、陰毛全体にしっかりと絡ませる。  鋭利な剃刀の刃が下腹部に当てられ、しょり、しょりとリズミカルな音を伴って陰毛を切り落としていく。彼女の手つきは非常にこなれており、ある程度切っては水で刃を洗い流す。  ただ、どれだけ手慣れていようが人体の急所を晒しているのだ。圭吾は緊張の面持ちで彼女を見つめている。  半面、逸物は先ほどよりも硬さと角度を増していた。わずかに身じろぎした拍子に亀頭から先走りが迸り、それを顔で受けた八重は不快感に顔を歪める。 「……いっそ、切り落としてしまいましょうか」  刃が竿の根元に触れた。全身がギュッと強張り、恐怖で胃が縮こまる。  それでもなお硬さを失わぬどころか今にも射精しそうな逸物を前に、八重は呆れたように肩を竦めて亀頭を指で弾く。  おぅっ、と低い呻きを漏らす圭吾をよそに剃刀の刃を滑らせ続け、とうとう全ての陰毛を刈り終えた。 「あぁ、やはりこの方が可愛らしいですね」  逸物は大人サイズであるのに、下腹部はつるつるだ。滑稽さの極みとも呼べる光景を前に八重は嘲笑を零し、圭吾は羞恥で頬を赤らめる。 「さて、と。いよいよ仕上げに参りましょうか」  八重が指を鳴らすと同時、地面から生えた無数の手が圭吾の身体を地中へと引きずり込んだ。手足は完全に埋まり、逸物だけが出ている状態である。  一応呼吸は確保している状態だが、パニックに陥っているらしい。逸物が右へ左へ大暴れするが、八重の小さい足がそれを鎮めた。豆粒のような足指を開き、皮をつまんで引っ張る。軽く蹴ってみると嬉しげにビクンと跳ねた。 「本当に救いようのない子ですね……こんなのが好きだなんて」  今度は全体重をかけてぎゅぅぅぅぅぅっ! と強く押しつけた。足裏で逸物の脈動を感じる。  ぺろりと唇を舐め、さらに逸物を虐め苛む。  蹴り、踏み、叩き。  撫で、擦り、抓む。  敏感な亀頭目掛け、勢いよくシャワーの湯を浴びせた時など傑作だった。壊れたように逸物が震え、被っていた皮が徐々に下へとずり落ちる。  ひとしきり弄んだ頃、逸物の周囲には白濁の海ができていた。流石に出し疲れたのか少しばかり萎えており、痙攣も弱弱しい。 「まだ終わりじゃありませんよ……と言っても、聞こえてはいないでしょうが」  八重は再び壁の裂け目に手を差し込み、ストッキングと合わせてローションを取り出す。同居人の私物だが構うまい。後で美味いものでも作ってやれば機嫌を直すのだから。  鼻歌交じりにローションを風呂桶に貯め、ストッキングを浸す。しっかりと揉みこんで全体に染み渡ったのを確認した後両端をしっかりとつかみ、逸物に被せた。 「ふふふ……そんなに気持ちいいのですか?」  まだ動かしていないにもかかわらず、逸物はぴくぴくと震えて先走りを迸らせていた。ゆっくりと擦りだすとビクビクッ! と危険な動きへと変わり、ちょろちょろと生温かい液体があふれ出す。  風呂だから関係ない、とばかりに手を緩めることなくさらにストッキングで擦り続けるとプシャァッ! と透明な飛沫が噴きあがった。潮である。 「ふふっ、うふふふふっ! 潮を噴いた気持ちはどうです? 気持ちいいですか? いいですよね。だってこんなにうれしそうなんですもの」  亀頭をごしごしと擦られ、高々と潮を噴き上げる。唯一の稼働部位である亀頭は強すぎる快感から逃げようと暴れたが結局は無駄だった。逆に八重の嗜虐心を煽る結果になり、体中の水分が抜けてしまうのではないかというほどに弄ばれる。  ごしごし、ごしごし、ごしごし――。  五感を封じられた状態での責めは、文字通り拷問だった。もし顔が出ていれば今頃泣き喚き、大声で助けを呼んでいたかもしれない。  苦痛を覚え始めているというのに身体は貪欲に快楽を求め、ぷちぷちと脳細胞が壊れていく感覚すら覚えていく。  時間にすれば三分にも満たないだろうが、圭吾からすれば数時間にも及ぶ責め苦のようだった。 「……もう打ち止めのようですね」  逸物はすでに勃起する気力すら失っており、だらしなく垂れて縮こまっている。  嘆息とともに指を鳴らすと、タイル張りの床を破って圭吾の姿が現れた。どうやら完全に気を失っているらしい。白目を剥き、口の端に泡を乗せている。  それでも、逸物だけは快感を主張するかのようにぴゅるっと潮の残滓を吹き出すのだった。

Comments

いいねってなんで一回しか出来ないんだろう。

Fredrika

引き込まれる文章でした…素晴らしい…。

Fredrika


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