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【全体公開版】スケベスキルで世界最強~やっぱ最強はちんぽっしょ!!~9 

 目が覚めると見たことのない景色が広がっていた。

 なんて思うのもこれで二回目だ。でも、別世界に飛ばされたわけではないことを考えれば、まだましな方なんだろう。


 ……現在地が全くわからないということさえ除けば。


「どこなんだろうねここ」


 ヤードに問いかけても答えが返ってくるはずもなく。


 フォグの疑似人格がもつスキルで飛ばされた場所は、流刑に最適などことも知れぬ森。島流しではないと信じたいけど、可能性はゼロじゃないからなぁ。


 辺り一面緑に覆われたここは森という単語で表現できることはわかるが、それ以上の情報がない。なにせ城からでたことがなかった身だ。植生から現在地を割り出せるほどの教養があるはずもない。

 っというかこっちは異世界人だぞ!


 どこを見ても緑が深く、木漏れ日が幻想的で夢なら覚めてくれと思うばかり。獣の鳴き声は想像より狂暴的で、ここがモンスターも存在している異世界だということを嫌でも教えてくれる。隣にいる青色の体躯だけが緑の世界で頼れるものだとばかりに、おれはひたと寄り添った。


 ヤードも一緒だったのは僥倖だった。おれ一人なら確実に野垂れ死んでる。対人関係以外の能力が壊滅的なので。

 おれは不安をごまかすようにヤードの手を握ると、強く握り返された。サメはとがった顔で笑みを作り、おれを不安にさせないようにしてくれていた。


「おまえ、遠距離通信系のスキルとか持ってねえの?」

「ない。洗脳とか暗示とかはあるけど」

「ほんっとに汎用性ねえのな」

「あったらとっくにジェルに暴露してる」

「そりゃそうだ」


 軽口を叩いたら少し気が楽になった。こんなところにいつまでいたって何も事態は好転しないんだ。歩くしかない。


「賛成。なんだが、さすがに何か目印が欲しいよな。川でもあればいいんだが、まあないだろうな」

「なんで?」

「そりゃ、お前を殺すために見繕った場所からそんな簡単に戻られても困るだろうが。できるだけ遠く、帰りづらい場所って考えたらなぁ」

「一理あるぅ……」

「ま、まあ、人の気配がないってことは連中も下見したわけではないってことだし、ひょっとしたらあるかもしれないぞ。火口につっこまれなかっただけまだましって考えよう」

「ヤードぉ」


 おれのとばっちりを喰らってこんなところにいるのに、それでも慰めてくれるのか。

 不安と恐怖もあって、思わず分厚い胸板に抱き着いてしまった。


「ごめん、ありがと……」

「別にいいって、フォグと二人にしたおれの落ち度でもあったしな。あいつがまさかって思って油断した。早いところ帰って、フォグたちを安心させてやらねえとな」

「……うん」


 こういうときのヤードは本当に頼りになる。リブラじゃなくてよかった。


「んじゃあちょっとあたりを見てくるから、お前はここで待ってろよ」

「わかった」


 魔物がいたらおれは足手まといだし、わからなくもない。けど、心細いなぁ。

 ジェルの下でたくさん訓練したのに、結局エロスキルしか使えない。自信なくなってきた。


 それがどう見えたのか、ヤードはおれの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「んな顔するなよ。すぐ戻るって。これでもおれは結構強い方なんだ、へたなモンスターに後れをとることはねえよ」


 武器もないくせの強がりはとても様になっていて、無条件で安心できる包容力があった。それならばと、おれは一人木の下にうずくまって帰りを待つことにしよう。


「最悪、危なくなったら『オナホ召喚』でおれを呼べよ。他の奴らを呼んでも事態が好転するわけじゃねえし」

「わかった」


 そういえばそんなスキルあった。自分でも忘れてた。

 完全隷属させた対象を発情状態で呼び出せるスキル。今のところ呼べるのはヤードとか騎士団の面々だけではあるが、困ったら頼ることにしよう。現在地がわからない手前、呼んだところで道連れを増やすだけなんだけど。


 空色の体躯を見送って、おれはこっそりと隠れて時間が過ぎるのを待つ。


 その間、どうしても思考はぐるぐる回って、考えなくてもいい事ばかりを考えてしまう。


 ヤードが戻らなかったらどうしようとか。無事に帰れるのだろうかとか。

 あと、フォグはたぶん気づくと思う。原因は自分にあるんだって。

 おれという異世界人を失った責任はフォグじゃなくてジェルに全部いきそうだし、なんとか早く帰りたい。政治力がないうえにお人好しなジェルが責任を他に押し付けるってことはしないだろう。

 

 考えれば考えるほど、状況が悪い。困ってしまう。泣きそう。


 いまだ日は高く、生き物の気配が音となっておれを苛む。恐怖を煽るだけの雑音に見つからないよう、身を縮こませた。

 だが、あいにくと恐怖耐性ゼロなおれは、身近で音が鳴るとすぐに喉が引きつってしまうんだ。

 がさりと茂みが揺れれば「ひぃ」と漏れてしまった。


「や、ヤード?」


 それならと名前を呼んでみる。応答はない。


 ただがさがさと生き物の気配がするだけ。


 これが野生動物なら木に登ってやり過ごせばいい。モンスターならどんなものがいるのか知らない以上、速攻でヤードを召喚……しても発情状態だから役に立たないし最悪共倒れか。やめよう。自分で何とかしよう。できたら苦労はしねえ!


 おれのスキルが人以外に効くのかは未知数だけど、やってみないとわからない。いつまでも人の背中に隠れていては、ジェルの前に立てない。


「ジェル……」


 会いたいよぉ。泣きそうになっちゃう自分の頬を叩いて喝をいれ、スキル発動の準備を。

 こちとら洗脳暗示肉体改造その他もろもろスキル所持者だぞ。全部エロスキル関係だけど、応用すればなんとかなる、はず、かな。


 身構えて、相手の全貌を確かめようとにらみつけると、気配は明確な言語となって返ってくるではないか。


「誰かいるのか?」

「……え?」


 人の声だ。自分以外に人がいるという安堵に、一気に力が抜ける。


「います……ここに、います」


 もつれる舌でなんとか返す。想定外すぎて処理が追い付いていないから、舌ったらずになってしまった。


 ここに人がいるということは、生活圏が近いのかもしれない。そうじゃなくても、情報をもらえることはできるはずだ。

 よかったぁ。思ったより早く帰れそうで。これでジェルやフォグを安心させてあげられ……。


 おれの思考は風の切る音で中断された。鋭利なものが眼前をかすめ、髪の毛がはらりと舞う。

 

「へ?」


 身が硬直したのは命の危機を感じたから。茂みから現れた人影は、おれの姿を確認するより早く剣を振るったのだ。


 そいつは大きな犬の、ドーベルマンのような精悍な見た目をした雄で、警戒を露わにした表情でおれに剣を突き付ける。


「お前、何者だ」

「いや、なにと、いわれてもぉ……」


 え、なんでこんなに敵対的なの。おれ何か悪いことした。ここって足を踏み入れたらだめな場所だった? 不可抗力だよ!


 犬は盛り上がった肉体に簡単な衣服を着ただけにもかかわらず、その剣は不釣り合いなほど重厚な輝きを放っていた。

 そして、おれはその剣を見たことがある。まさかこんなところで見ることになるとは思わなかった。

 ジェルが長を務める王家直属部隊『竜の爪』がもつ剣に同じような文様があったはずだ。それが国か部隊のシンボルなのかはわからないけど、ひょっとしてここはジェルのいる国なのでは。コートリル王国だっけ。傭兵街からそんなに遠くに飛ばされていないのでは。


 その可能性に思い至ると、光明も見えてくる。よかったー! 

 だとすれば、この人を逃したら駄目だ。後腐れなく、スキルに頼るより前に交渉から入ったほうがいいかもしれない。違和感を覚えられたら第一印象最悪になるからさ。


「あの」だから、思い切って話しかけてみた。

「コートリル王国の人ですか? 道に迷ってしまって、すぐにでも帰りたいんで――」


 コミュニケーションの手段を紡ぎ終える前に、犬の手が思いっきりおれの頬をぶん殴って、体が飛んだ。

 揺れる脳みそが意識を手放す間、頭の中で疑問符が飛び跳ねまくって意味不明なんだけど。


 あっれー、何か間違えたかな。

 ヤードが帰ってきてもきっとおれはいないだろう。ごめん……。


 地面との衝撃で肺から空気が抜けて、ついでに意識も抜けていった。


****


「……おい、おい!」


 揺さぶられている。意識が浮上して、聞きなれた声がおれを呼ぶ。


「大丈夫か、おい!」

「ん、やーど?」


 視界もぼんやりと戻ってくれば、空色が映る。徐々に輪郭を鮮明にしていくと、やはりヤードが覗き込んでいた。


「あ、あれ、ヤードなんでここに。ってか、ここどこ……?」

「よう寝坊助さん。また会えてうれしい限りだ」


 ほっとした顔のサメから視線を引きはがしてあたりを見渡せば、おれがいるのは簡素な家のようだ。ジェルと共に暮らしている家や、スニーグスの街にある娼館よりずっと粗末で、どうやら物置とかに閉じ込められてるのかなと思った。


「……そうだった、この世界に来てからいい暮らししてきたんだよなお前。これなら普通くらいで、おれの実家とそう変わらんぞ」

「え、そうなんだ」


 ログハウスには簡単な家具があるだけで、言われてみれば生活はできそう。文明レベルも違う世界からきて、ずっと豪勢な暮らしをしてきたから感覚がマヒしてるのか。


「でもなんでこんなところにいるんだ。おれは確か、犬の人に思いっきり殴られて……」

「んで、伸びたお前を人質に取られておれもここまで連れてこられたと」


 どうやらヤードが戻ってきたら伸びたおれと犬の人がいて、言われるがままついてきたようだ。


「お前が倒れてるのを見た時、そいつをぶん殴りたくてたまらなかったぞ。……頬、まだ痛むか」

「まあちょっとじんじんするくらいだから大丈夫」

「せめて氷くらいくれてもいいじゃねえか、くそ」


 改めて触ってみるとめちゃくちゃ腫れてて逆に笑ってしまった。漫画みたいになってる。いや現状がすでに漫画みたいなんだが。


「でもまあこのくらいなら、回復系統のスキルを使えば……あれ?」


 どんな雄も絶倫にでき、死に体の雄すら元気に腰を振るようにできるおれのスキルが発動しない。

 発動しようとすると、何かに蓋をされているもどかしさがある。なんだこれ。


「ちなみにいうとスキルは封じられてるぞ。じゃなきゃ今頃おれが暴れてる」

「そんなのあるの?!」


 つまりこれがあればおれはジェルに触り放題撫で放題!

 是非とも享受してほしい!


 おれの驚愕を別の意味に受け取ったのか、サメは困ったように嘆息する。


「普通はこんな辺ぴなところにねえよ。スキル封じのスキルなんてレアもの、持ってるだけでそれなりの暮らしができると思うんだが……ここ、なんかおかしいんだよな」


 そういえば、おれは気絶しててこの家の外を知らない。


「一見すると普通の村だな。家もあって畑もあって。でも、道がないんだ」

「ん、なんだそれ?」

「だから、道がない。茂みの中にこっそりとある村なんだ。どこにもつながってねえから、交流とかも無いんだろう。そのくせ、人がそこそこいる。嫌な予感しかしねえよな」

「ほんとに……」


 絶対厄介ごとに巻き込まれた、おれらの認識は共通する。


「そもそもただの通りすがりのおれらをスキル封じまでして軟禁すること自体やばいんだよなぁ。いざって時には無理にでも逃げるから、覚悟しとけよ」

「勝算は?」

「あんまねえけど、まあ心配すんな。お前だけは逃がしてやるよ」

「ヤードが一緒じゃなきゃいやだから」

「嬉しい言葉だが、おれは一応ジェル様よりお前のことを頼まれてんだ。おれの顔を立てると思って逃げてくれよ」


 それは困ると思い、おれはヤードの硬い体を抱きしめる。

 雄の臭いが香る屈強な体躯は広い胸板でおれを安心させてくれた。


「おー、本当にいるじゃん。話を聞いたときはまじかよって思ったのに」

「さすが生来のトラブルメーカーだな。予想できないことを平然とやってくれる」


 ものすごーく聞いたことある声にまさかと疑い、首を回す。


「お前ら、なんでここに?」


 ヤードがおれの疑問を代弁して問い、開かれた目が来訪者を映し出す。


 そこにいたのは虎とワシ、『竜の爪』でジェルの配下であるランドとノインがいるではないか。

 太鼓腹で恰幅のいいの虎とがっしりした体つきのワシは、何度瞬きしても消えることなくそこにいた。


 さすがに現状を理解できず、思考が停止する。

 何と言ったらいいものかわからないおれの代わりに、またしてもサメが言葉を続けた。


「ここは『竜の爪』の野営地、ってわけじゃねえよな。お前ら二人そろって抜け出せるなんて、よっぽど近いか、または……」

「『秘密の移動方法がある』そのとおり。やっぱヤードって意外に賢いよね」

「意外は余計だっつうの」


 けらけらと笑うランドは太鼓腹を揺らす。こうして見るとおれが知ってるランドと何一つ変わらないのに、理解できない状況が怖かった。


「ランド、久しぶりの友人と会話に花咲かせるのもいいが、やるべきことはしよう」

「おっとそうだった。それじゃあ二人ともこっちに来てくれ。会わせたい人がいるんだ」

「……スキルまで封印しといて、大層歓迎してくれるじゃないか。こいつに危害を与えたら容赦しねえぞ」

「大丈夫大丈夫。悪いようにはしないって。それにあいつにスキルを使われたらおれらに勝ち目ないし、それは許してくれよな」


 おれのスキルがばれてるなら当然の対処か。対人相手なら強いし。スキルさえ使えたら二人から情報を吐き出させて使役させられる自信がある。


 従わない選択肢があるわけもなく、おれらは二人についていくことになる。

 絶対面倒事がこれから始まる。その予感だけは、ひしひしと感じて。


【続きは来月の支援者限定公開となります】


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