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田原摩耶
田原摩耶

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【↑300】友達になれない二人【5,500文字/平和if√栄都×美甘】

本編の一週間が普通に終わった世界線になります。 if平和軸という名の双子共有、サダとは友人√前提栄都×美甘です。  ――――――――――  今日はさっさと帰ってゴロゴロしながら溜めてたアニメを観るぞ!  そう意気込み、軽やかな足取りのまま学校を出た。そこまではよかった。 「遅かったじゃねえかよ、美甘」  校門入口を抜けた瞬間、飛んできた声にぎくりと凍り付く。  ――何故、あいつがここにいるのだ。  聞こえなかったフリ、気付かなかったフリをしてそのまま通り過ぎようかと試みた瞬間、校門前で座り込んでいたあいつはそのまま立ち上がる。  俺の頭一個分くらい高い上背にニヤついた顔。明るい髪――そんで、あいつと瓜二つの顔面。 「……っ、さ、んと」 「なんだよ、俺で残念だったって顔してんな」  そりゃするに決まってるだろ、なんて正直にいってみろ。何されるか分かったものではない。  ぶるぶると震える手を握り締めたまま俺は首を横に振る。 「し、してない。別に……」 「そうかぁ? ……ま、いいや、帰んぞ」 「え? な、なんで……どこに……」 「いや、つうかその質問のが意味分かんねえよ。美甘、お前また馬鹿になったのか?」  ぐ、とそのまま肩に回される腕。そのまま乱暴に肩を掴まれ、抱き寄せられる。  「お前んち以外、どこがあんだよ」  幼馴染であるこいつからようやく解放された――と思いきや、何故こんなことになってしまったのか。  きっかけは間違いなくこいつらの家にお世話になる羽目になった地獄の一週間だろう。あれ以降また栄都や燕斗に付きまとわれることになってはこうして半ば強引に連れ回されるハメになっていた。  別に本当にただ送ってくれるだけならまだいい。が、こいつがそれだけで済むわけがなかった。  ――帰宅途中。  真っすぐ帰らせるつもりなんて栄都には毛頭なかったようだ。当たり前のように栄都の買い物に付き合わされ、店を出た時にはすっかり夜も深くなっていた。 「お、おい、早く帰るぞ。あんま遅くなったら怒られるだろ」 「なに真面目ちゃんみてーなこと言ってんだよ、別に制服脱ぎゃバレねえだろ」 「俺はやなんだって、そういうの。……てか、親心配するから」 「んじゃ俺からオバサンに連絡入れといてやるよ」  貸せ、とこちらに手を差し出してくる栄都にぎょっとする。  まさかこいつはスマホを差し出せと言ってるのか。正気か。……ああそうだった、こいつの場合はこれが当たり前なのだった。 「だ、駄目に決まって……っ、ケホ……!」  一気に突っ込みすぎたせいで器官が狭まってしまったようだ。咳き込ん拍子に息苦しさが込み上げてきて、そのまま咽る俺に栄都は「あーあー」と面倒臭そうな顔をして俺の持っていた鞄ごと取り上げる。 「っ栄都、返せって……っ!」 「人を泥棒みたいに言うんじゃねえよ、……ほら、こっち来い」  栄都の大きな掌に手首を掴まれてしまえばそれを振りほどくことなんざ不可能に等しい。そのまま栄都に引っ張られ、近くのモールへと再び詰め込まれる。そして、入口横に置かれたベンチに座らせられた。 「さ……んっば、わ」  んと、と言いかけた矢先、いきなり栄都が上着を脱ぎ始めたかと思いきやばさりと視界が暗くなる。 「な、なんだよ、いきなり」 「大体お前、薄着すぎんだろ。……貸してやる」 「……いい」 「あ?」 「だって、栄都の……」  香水臭いし、と言いかけて、やめた。  体の上に引っ掛けられた派手なダウンジャケット、そこには栄都のぬくもりは残っているもののいつもの具合悪くなりそうな程の女物の香水臭さはなかったのだ。驚くべきことに。  が、言いかけた言葉を今更引っ込めることはできなかった。 「俺のがなんだって?」  覗き込んでくる栄都に、俺は「なんでもない」と慌てて逃げるようにそのジャケットに潜る。暗くなった視界の奥、「ふん」と栄都が笑った気配がした。  この笑いはあれだ、最初から大人しくしとけというそういう笑い方だった。 「ちょっとこれ持ってろ」  それから、買い物袋を持たされる。どこに行くんだと不安になりジャケットから顔を出せば、自販機で飲み物を買ってる栄都の姿を見てホッとした。……ホッと?なんでだ?  それから俺の視線に気付いたようだ、あったか〜いお茶を買った栄都はこのまま俺の隣にどさりと腰を下ろす。 「おら、やる」 「……あ、ありがと……」 「薬飲んだのかよ」 「薬は、お昼に飲んだ……」 「ふーん」 「……」  なんでこいつ妙に優しいんだ。さっさと飲めと言わんばかりにこちらをじっと見つめてくる栄都の圧に潰されかけつつ、俺は促されるがままお茶を飲む。身体の芯が温まり、少しだけ緊張が解れていくのが分かった。 「ん……んぐ……」 「お前、相変わらず飲むの下手くそだな」 「……っ、さ、栄都が、ジロジロ見てくるからだろ」 「俺のせいかよ」  やべ、怒らせたかな。と思ったが、今日は栄都の機嫌はすこぶるいいらしい。「ひでーやつ」と笑いながら視線を外し、そのまま足を組む栄都。  そんで、変な沈黙が流れる。俺が落ち着くのを待ってくれてんのか、なんだか変な感じだった。  つか、さっきから女の人たちがちらちらこちらを見てて落ち着かねえんだよな、ここ。主に俺の隣りにいる男のせいだけども。  燕斗や栄都とずっと比べられて育ってきた身だ。今更慣れっこのつもりだったが、今はなんとなく居心地の悪さが勝つ。  お茶を一口二口飲んだときには咳は収まっていた。 「……栄都、もう大丈夫。これ、返す」 「あ? んだよ、着ときゃいいのに」 「お前が風邪引くだろ、それじゃ」  ……まあ、栄都が風邪引いてるところなんか見たことねえけど。  同じこと考えてたのか、「分かってて言ってんのか?それ」と栄都は笑い、それから俺の上からジャケットを取ってそのまま制服の上に羽織る。 「おんぶは必要か?」 「い、いらねえって……」 「そうかよ、んじゃ行くぞ」 「……」  なんか、こういうのも久し振りだ。  栄都に腕を掴まれ、俺達は向けられる視線を掻い潜って建物を出た。  栄都といると大体強引に遊びに付き合わされる事が多い。遊びと言っても、俺達の『遊び』だ。  脱がされたりしゃぶらされたりいじられたり、そういうのを抜きにした時間をともに栄都と過ごすのはなんとなく久し振りな気がした。  そういうときは大体燕斗が隣りにいたりして栄都を宥めたりしてたからだ。  疎遠になる前。中学の頃からいつの間にか栄都は俺よりも遠い存在になっていたと思っていただけに、なんとなく今日は昔栄都と遊んでいたときのことを思い出した。 「久し振りだな、こっちの道通んの」 「……まあ、お前はそうだろうな」  すっかり暗くなった住宅街。  白い息を吐きながら栄都はこちらを見た。 「美甘、お前友達いんのかよ」  突然吹っ掛けられ、つい俺は言葉に詰まる。本当になんなんだ、いきなり。 「……っさ、栄都に関係ないだろ……」 「居ねえんだろ、どうせ。お前が数日休んでも心配してくれるやついなさそ」 「い、いるし! それくらい……っ!」  売り言葉になんとやら。  取り敢えず否定しようとすれば、隣を歩いていた栄都はほんの一瞬動きを止める。そして、 「へえ? 誰?」  向けられる目。前を見て歩けとその視線から逃げつつ、俺は同じクラスで唯一気兼ねなく話せる友人の姿を思い浮かべた。  サダ――あいつは中学同じだったらしいが、こいつらと認識あるのかまでは俺は知らない。 「……っ、……お、お前に言っても分かんないだろ」 「……へー?」 「いひゃ、う、つ、抓るな……っ!」 「お前に友達なぁ? ……実在すんのか怪しいけど」 「い、いるってば! サダはお前らより良いやつで……」  と言いかけて、ハッとする。  名前を出すつもりはなかったのに、俺の馬鹿。 「……ふーん、サダねえ?」 「や、やっぱ……なし」 「サダって、名前何? 俺知ってるやつ?」 「や、やっぱなし……っ!」 「なんだそりゃ、可哀想だろサダが」 「お、お前がサダって呼ぶなって……っ! ぁ……」  またやってしまった、と慌てて口を押さえれば、栄都は「バーカ」と鼻で笑う。思っていたよりもその言葉には棘がない。 「お前に友達なぁ? ま、どうせお前みてえな陰気臭いやつなんだろうな」 「そっ、そんなことないし……というか、お前の方こそ……」 「あ?」 「……いるのかよ、ちゃんと。友達」  口にしてから余計なことを言ってしまった、と後悔する。  こいつがいつも柄の悪い派手な連中とつるんでることは知ってたし、見てきた。そいつらについて敢えて今まで言及は避けてきたというのに、なんで俺はわざわざ突っ込んでしまったのか。  立ち止まる栄都。話を逸らそうと俺は慌てて身振り手振りで誤魔化す。 「お、俺なんかに付きまとうってなんだよ。ひ、暇すぎんだろ……っ?」  別にお前の友人たちを馬鹿にしたわけではない。  そういう意味を込めて返せば、栄都はなんだか変な顔のままこちらをじっと見ていた。そこにいつもの小馬鹿にしたような笑顔はない。 「……栄都?」  不安になり、恐る恐る名前を呼べば、栄都は「は」と息を吐くように笑った。 「そうだよなぁ? なんで俺、わざわざお前の送り迎えしてやってんだろ。……律儀すぎんだろ?」  いつもの嘲笑、けれどそれには自嘲が混ざっているように見えてしまうのだ。  なんだ、その顔は。言い草は。お前が勝手に迎えに来たんだろ。  言ってやりたかったのに、なんだか胸の奥がぞわぞわする。  再び大股で歩き出す栄都に、俺は小走りでついていく。  ……てっきり、怒鳴られると思った。殴られるかもと腹に力も込めていた。なんならそこら辺のトイレで犯されんのかなとも。  けど、 「オラ、さっさと帰れよ。……お前んちだろ」 「お、おう……」  気付けば見慣れた我が家の前まできていた。背中をばしりと叩かれ、蹌踉めきつつ俺は振り返る。てっきり家に上がっていくかと思いきや、そのまま立ち去ろうとする栄都の背中が見えた。  平和に今日を終えれるなんて早々ない。このまますぐ帰宅し、平和なまま一日を終えればいい。  そう分かっていたのに、 「栄都」  つい、その背中に向かって声をかける。  立ち止まった栄都は、「なんだよ、忘れ物か?」と皮肉じみた言葉とともにこちらを振り返る。  張り合いがないわけではない、別に罵倒されたいわけでもない。これでいいはずなのに、こいつが大人しいと不安になるのだ。  ――燕斗と栄都が喧嘩したあと、いつも一人で物陰で不貞腐れてるこいつを見てきたから。そのときの後ろ姿と良く似ていたから。 「俺は、い、言ってくれりゃあ……メッセージくらい入れてやるからな」  そう声をあげれば、思いの外大きな声が出てしまう。ポケットの中、もうとっくにぬるくなりかけていたお茶のボトルを握り締め。  それに、お前に借りは作りたくない。後が怖いからな。  そんな言い訳を頭の中で並べながら言葉を選ぶ。そんな俺を知ってか知らずか、栄都はふは、と白い息を吐いた。そこに浮かぶのはいつもの冷めた笑顔だ。 「美甘のくせに、一丁前に気遣ってんじゃねえよ」 「な、なんだよ……それ」 「そのままだっての」 「んな……」 「それに、お前が俺を心配すんのは当たり前だろ」  当たり前ではないだろ、と言い返そうとして、やめた。多分実際その時になれば、連絡しなかったときのことを考えて嫌嫌連絡入れる羽目になる自分が易易と浮かんだからだ。  そのまま押し黙る俺に、栄都は笑う。  そして、 「……やっぱお前ん部屋上がらせろ」 「は、おい……っ!」 「てか、さみいし。お前責任取って温めろよ、美甘」  お、俺のせいかよ……。確かに引き止めたのは俺だけども。  相変わらず理不尽な栄都に余計なことを言ってしまったと後悔するが、時既に遅し。 「んじゃ、お邪魔〜」と人よりも先に人んちの玄関に上がろうとする栄都に続き、俺も慌てて履いていた靴を脱いだ。  やっぱこいつ、少し不貞腐れてるくらいが丁度いいじゃねえか。  ◆ ◆ ◆  結局栄都のやつは泊まることになった。  相変わらずうちの親は栄都、というか双子たちに甘い。  こいつもこいつでやたら親受けいいのが謎すぎるのだけれども。  なんて思いながら、俺は隣で眠ってる栄都を睨みつけた。 「ぃ……ってて、……栄都のやつ……」  結局平和に一日を終えられると思ったのに、結局栄都に好き勝手抱かれるハメになったし。  ……普段に比べると多少手加減してくれたつもりなのかもしれないが、だとしてもだ。 「……」  眠ってる顔を見ると昔からこいつは変わらない。本当に、憎たらしいまでに。  俺の知らねえやつらに囲まれてるときの栄都はまるで知らないやつみたいなのに、こうしていると昔となんら変わらないのだから変なものだ。  拗ねるくらいならもっと優しくしろよ、そしたら…………そしたら?  あの頃みたいに戻れるって? 「………………水、飲も」  冬の寒さにぶるりと身を震わせながら、俺はそこら辺に脱ぎ散らかされたカーディガンを羽織ってリビングに降りた。  栄都、変な奴らと絡むのやめろよ。なんて、ずっと言いそびれていた言葉は白湯ごと腹の奥へと流し込んだ。  おしまい

【↑300】友達になれない二人【5,500文字/平和if√栄都×美甘】

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