「……ハロウィンねえ」 学生寮一階、ロビーに掲げられた掲示物たちを眺める。 後ろから着いてきていた純は、「え、仙道さん興味あるんすか」と驚いたような顔した。 「前はイベントとか面倒臭〜うぜ〜って言ってたのに、どういう心変わりなんです?」 「え、なにそれ。もしかして俺の真似?」 「似てない?」 「三割似てる」 それほぼ似てないじゃないっすか、と純。うん、まあそう言ってんだけどね。 それにしても、ハロウィンねえ。 前は別に仲間と集まれればどうでもよかったから気にしなかったけど、『生徒会公認の仮装パーティー』なんて書かれると少しは気になる。てかなにこれ、俺生徒会だけど知らねえし。 「って、もしかしてこれ仙道さんも参加するんです? こ、コスプレで……」 「え、ふつーにやだし。どーせ多分これ双子がやるんじゃない? 俺なんも言われてないから」 「なんもって……まさか仙道さん、ハブ――」 純がその先を口にするよりも、俺は即座に純の口を塞いだ。もご、と目を丸くする純。 「純、人には適材適所ってもんがあるんだよ? 知ってた?」 「もご、もごご……っ!」 「ん〜……ま、準備とかだるいから呼ばれてなくて全然ラッキーだけどさぁ……」 見たところ役職持ちは参加みたいな雰囲気があるけど、もしかしてこれ風紀も関わってんのかな。 ……マコちゃんのハロウィンコスプレ、いやいやないない。……ないよね? 「っぷは……! せ、仙道さんが出ねえならいいんですけど……ん? どうしたんですか、仙道さん」 「ちょっと考え事。……純はこういうの好きそうだよねえ〜」 「え、俺? いや、嫌いじゃないっすけど……なんか偏見入ってないです?」 「ん〜? 首輪とか似合いそうとか全然思ってないよー」 「思ってるじゃないですか」 「あと犬耳とか似合いそうだよねえ」 そう純の耳に触れれば、「仙道さん」とふるりと震え出す純が面白くてつい虐めたくなってしまう。反応が良すぎるのも困りものだ。 けど、ハロウィンかぁ。 参加するつもりはないけど、一応帰ったらマコちゃんにも聞いてみるか。念のためね。 そんなことをぼんやりと考えつつ、俺は純と一緒に食堂に向かった。 ◆ ◆ ◆ 飯食って、んで純と別れて自室へと帰ってきたらマコちゃんがいた。何やら難しい顔してソファーに座ってノーパソいじってる。 俺が帰ってきたの見て、「おかえり、京」とノーパソを閉じるマコちゃん。 「ただいま〜。なんか調べ物?」 「ん、ああ……ちょっとな」 「ふーん、えっちなサイトでも観てたの〜?」 「な゛……っ、そんなわけあるか、なんでそうなる」 「変な顔してにらめっこしてたから」 着ていた上着を脱いで、ソファーの背もたれに引っ掛ける。そのままマコちゃんの隣に座れば、「なんだ、見てたのか」とマコちゃんは変な顔をした。怒ってるというか、気まずそうな顔。 「……なんか問題でもあったの?」 「いや、まあ……問題といえば問題なのか」 「え〜? 俺が手伝ってあげようか?」 問題児に言うことを聞かせたい、とかなら俺でも役に立てるかもしれないし。 難しいことなら勘弁だけど。 そうマコちゃんを覗き込めば、マコちゃんは何故だかバツが悪そうに咳払いをする。 「……手伝いか。いやでも、そうだな。こういうセンスは俺よりも京の方があるか」 褒められてるのか?と首を傾げてると、マコちゃんは閉じていたノーパソを開いた。 そこには通販サイトのページが表示されてた。そして、そこに並ぶのは……。 「うわ、馬鹿が着るやつじゃん」 ハロウィン特集の安っぽいコスプレ衣装が並ぶそこに思わず笑った。 ……って、待った。マコちゃんがこれを見てるということは。 「え、マコちゃんが着るのこれ」 「……その顔やめてもらえないか」 「マコちゃんが着るの?!」 「………………ああ、そうだ。俺も馬鹿だからな」 じわじわと真っ赤になっていくマコちゃん。 うわ、可哀想。違う、可愛い。じゃなくて。 「やだ」 そうパソコンを再び閉じれば、マコちゃんは「おい」と困ったような顔をした。 「マコちゃん、もしかしてあのハロウィンパーティー参加するの?」 「……一応警備としてだけどな」 「やだ」 そのままマコちゃんの胸にしがみつけば、「やだってなんだ」と困った顔をしながらも俺を受け止めてくれるマコちゃん。 頭を撫でてくれる手がクソ優しい。好き。 じゃない。あぶねー、また絆されかけた。 「マコちゃんがこんな格好したら、マコちゃんモテるじゃん」 「あのな、モテるわけないだろ」 「マコちゃんは分かってない。ハロウィンで浮かれたアホたちが『え?!あれが委員長?!うそ、いつもと雰囲気違う♡かっこいい♡吸血された〜い♡』とかやるに決まってるもん」 「お、お前……ハロウィンに親でも殺されたのか?」 よしよしと頭を撫でるマコちゃん。大きくて優しい手に撫でられると体が溶けそうになるけど、ここで流されては駄目だ。 マコちゃんは俺が守らなければならない。 「……やだぁー」 「京も参加するんだろ? しないのか?」 「しないよ。……面倒だから」 「生徒会は相変わらずだな。……けど、そうか。なら心配事は減ったな」 「いや俺の心配事は減ってないんだけど〜?」 「わかった、わかったから拗ねるな京。ほら、じゃあお前がどれがいいか選んでくれ」 「…………むー」 パソコンを渡され、仕方ないので座り直した俺は表示された衣装を眺めていく。どれも露出が高い。え、このポリスかっこいい。マコちゃんに補導された〜。……じゃない、ハロウィンの浮かれ空気に流されるところだった。あぶね〜。 「んー……」 「ゆっくり選んでいいぞ」 「ん〜〜…………じゃあこれ」 そう、ぱっと目に入った中でも一番“まし”なものを選んだ。そこにカーソルを当てれば、マコちゃんは笑った。 「おい、京。俺にこれを着て巡回しろって言うのか?」 「……これなら許す」 「逆にこれは目立つだろ」 頭から足元まですっぽりと覆われるサイズの白い布、顔のあたりに描かれたゆるい目や口はかわいい。 ゴースト、って商品欄には書いてある。 「これならよし」 「まあ京がいうならこれにするか」 「……ホントにいいの?」 「元より、自分でも決め倦ねていたところだったからな。……それに、経費が浮く」 マコちゃんのこういうところ、好きだなあと思う。その気持ちを込めてじっとマコちゃんを見つめてたら、レンズ下の目がこちらを向いた。なんとなく熱を感じるむず痒い目だ。 「……お前もなんか買うか?」 「何かって……あ」 伺うようなマコちゃんの言葉に、ふとぴんと閃いた俺はそのまま閲覧履歴を開く。俺の意図に気付いたらしい、「待て、京」と止められるが、ブラウザがページを表示する方が早かった。 画面いっぱいに表示されるのは、ハロウィンというよりもそういうプレイ用みたいな女装ラインナップだ。 ちらちらと露出が多いのも載ってて、「マコちゃん」と俺は隣で固まるマコちゃんの腿に手を置いた。そのまま顔を覗き込めば、マコちゃんは「手が滑って飛んでしまっただけだ」と顔を真っ赤にしたまま呻く。 「ホントに〜? ……あは、ねえ、マコちゃん。俺にこういうの着てほしいって思ってたの?」 「ち、違う……」 「本当のこと言ってくれたら着てやってもいいかな〜って思ったのに」 そう呟けば、手の下のマコちゃんの筋肉がぴくりと反応した。本当、嘘が下手なんだよなあ。 「……本当か?」 「もちろん、マコちゃんにだけだからねえ。……えっちなこともなしだよ」 「そんなことはしない」 「……本当かなぁ? マコちゃん、むっつりだからなぁ」 マコちゃんの顔を覗き込めば、あっという間にキスできそうな位置にある。 こんな時期にあんなAVみたいな格好、痴女か露出狂くらいしかしねーだろ。って馬鹿にしてたけど、あーやば。俺、マコちゃんといる度どんどん馬鹿になって言ってる気がする。 マコちゃんになら、マコちゃんが喜んでくれるなら、ちょっとえっちな格好もしてもいいかな〜って思っちゃってる、俺。……やば。 「……京」 「ん?」 「本当にいいのか?」 「……一着だけだよぉ、それから……ハロウィンの夜だけ」 変に癖になったら困るから、と囁やけば、頬を赤くしたマコちゃんはいそいそと閲覧履歴を遡る。 「じゃあ、これ……」 「どれどれ、マコちゃんはどんな格好を俺にさせたいのかな〜? ……って、これ」 「……探してるときこれ見つけて、お前に絶対似合いそうだと考えては集中できなくなったんだ」 「………………」 向けられた画面を見て固まる。これは……いや、なんだこれは。 「きぐるみじゃん。……猫の」 「可愛くないか?」 「か、かわいーけどさあ……」 フードタイプの上下繋がってるやつ。つかこれ別にその辺買おうと思えば買えるやつだし、なんならこれ、俺が昔調子に乗って私服で着てた時期思い出してふつーに恥ずかしい。無理。 「……えー」 「おい、京」 「え、ええ〜……マコちゃん、こうゆーの好きなの?」 「……引いたか?」 「引いたってか、その……ん〜……いい趣味してんねえ」 なんならミニスカ女装よりも恥ずかしいそこれ。 けど、マコちゃんにだけなら……まあ。 「……いいよぉ。マコちゃんにだけなら」 「! ほ、本当か?」 「ん〜……はずいけど」 「絶対京に似合う、それは保証しよう」 「その保証いらね〜」 ……うれしーけどね。 「経費で落とすの?」 「……いや、これはプライベート用になるから俺が出す」 「あは、マコちゃんのむっつり」 「当たり前だ。……他の奴らにお前のコスプレ見せたくないからな」 なんつーセリフだよ、と思ったが、数分前俺も似たようなこと言ってたわ。 はずいけど、マコちゃんが喜んでくれるならたあ……いいや。 ああ、俺、自分が今まで見下してた連中側の方に落ちかけてる。けど、別にそんなんどうでも良くなってきた。マコちゃんいるし。 ……ああなるほど、こういう感覚だったのかな。ハロウィン楽しいって思ってるやつら。 なんて一人納得しつつ、俺はそのまま購入ページに飛んでるマコちゃんにもたれかかる。 「ん? どうした?」 「……いや、やっぱポリスのマコちゃんも買っとこうと思って。プライベート用に」 「ポ……?」 「んー? 秘密〜」 早くハロウィンにならないかな、なんて思いながら俺はマコちゃんの首筋に鼻先を埋めた。 あー、ハロウィン最高。合法だしマコちゃんに色んな格好させちゃお。 秋の夜長の夜更かしも、マコちゃんと一緒ならあっという間だ。なんて沁み沁みする俺だった。 おしまい