「っ、ん、し、おり……っん、ぅ」 阿佐美の腕に体を抱き締められる。包み込まれるような息苦しさが丁度よかった。 詩織、と耳元で名前を呼べば、阿佐美の肩が僅かに跳ねるのが見える。トクントクンと重なり合った上半身から阿佐美の鼓動が流れ込み、俺の鼓動と混ざり合った。 「……ゆうき君」 顔を真正面から覗き込まれ、名前を呼ばれる。その声は悲しそうだった。 「そんなことないよ」という否定よりも、実際に触れられ、抱かれることが一番俺にとって安堵できた。そして、阿佐美はそれに気づいてるのだろう。それ以上何も言わず、ぎゅう、と俺を抱き締めるのだ。 ぎこちない手で後ろ髪を撫でつけられ、大事に、優しく触れられる。子供あやすような仕草だ。 阿佐美の顔を見上げ、俺は恐る恐る首を伸ばし、唇を寄せる。阿佐美は少しだけ躊躇ったあと、「いいの?」と小さく尋ねてきた。 いいも何も俺が誘ったようなものだ。小さく頷き返せば、頬に触れていた少しだけ硬い指先がそのままゆっくりと唇へと伸びた。薄皮をなぞられ、感触を確かめるように柔らかく撫でられる。 「し、おり……っ、ん、ん……っ」 視界が影になり、唇にぷにゅ、と柔らかい感触が触れた。阿佐美の唇の熱さに驚くのも束の間、遠慮がちに伸ばされた舌に唇を舐められ、俺は自ら口を開いて阿佐美を招き入れる。 ――もっと、乱暴に扱ってくれたっていいのに。 裕斗といい阿佐美といい、二人とも優しい人だと思う。こんな風に扱われることなかっただけに、逆にこそばゆくて、普通にキスをされるよりもずっと照れくささを覚えるほどだ。 「……っ、ん」 角度を変えるように何度も触れ合う唇。舌の先っぽを絡め合わせるよう動かせば、阿佐美の頬がどんどんと赤くなっていくのが分かった。 触れた阿佐美の腕が熱い。舌が深く絡めば絡むほど、気付けば阿佐美に押し倒されるような形となっていく。 「は、……っ、ん、し、おり」 「……っ、ゆうき君……っ」 「ふ、……熱いね、詩織の体」 「……ッ、……それは……」 する、と阿佐美の手の甲へと手を伸ばす。がっしりとした指の一本一本に自分の指を絡めれば、阿佐美の体がびくりと反応した。「ゆうき君」と僅かに声を上擦らせる阿佐美に、今度は俺からキスをした。とはいえ、俺に技巧なんてものはない。ただ阿佐美にキスをしたい、という気持ちだけで唇を押し付けることが精一杯の俺だったが、阿佐美にとっては充分だったようだ。 口を開いた阿佐美はそのまま俺の唇ごと甘く噛み付いてくるのだ。大きな舌に舌の先っぽから根本までじゅっぽりと絡み取られ、吸い付かれる。「ん、ん」と口の中でくぐもった声が漏れるが、それすらも阿佐美に飲み干された。 「……っ、ん、ぅ、んん……っ」 まるで捕食されているようだと思った。 気付けばベッドの上、阿佐美に押し倒されるような形になっていて、指を絡めあったまま俺たちはキスに夢中になっていた。 長い前髪が顔にかかる。その下から覗く視線に籠もった熱に充てられ、体の芯がぼうっと熱に溶かされていくのだ。 「は、……っ、詩織……」 「本当に、いいの?」 この後に及んでまだ不安そうな阿佐美に、俺は返事の代わりに再びキスをした。ふに、と柔らかくその唇を吸えば、ぴくりと反応する阿佐美。そのまま俺の背中へと手を回した阿佐美は、更に深く唇を重ねてくるのだ。 「っ、ん、む……っ、ぅ……」 「は、……っ、ゆ、うき君……」 背中を撫でる大きな掌が心地よい。比べてはいけないと分かっていても、優しい手付きに一瞬裕斗のことが頭を過る。けれど、それもすぐにかき消された。肩甲骨から背筋、そして腰まで降りてくる掌にぶるりと上体が跳ねる。お互いの吐息が混ざり合い、その熱さでどうにかなってしまいそうだった。 俺は阿佐美からのキスを受け入れながら、恐る恐る阿佐美の下腹部に手を伸ばす。ごり、と押し付けられた下半身。テントを張った前をそっと撫でた瞬間、阿佐美の呼吸が微かに乱れた。 「待って、ゆうき君……っ」 「……?」 「ぁ、あの、それは……っ、さ、流石に……」 「でも、詩織……苦しそう」 「……っ、い、いいから、俺は……っ」 だから、と阿佐美に咄嗟に手首を掴まれそうになる。それを無視し、そろりと伸ばした指で山の部分を撫でれば、阿佐美の肩が再び跳ねた。 「っ、ゆ、ゆうき君……っ、ん、ぅ……っ」 「俺がしたいんだ……嫌、かな」 「い、嫌というか、その、ゆうき君にそういうこと、させたくないっていうか……」 「……っ、やっぱり、気持ち悪い?」 「ち、違うよ! 寧ろ、その逆で――」 一瞬不安になったが、阿佐美の口から出てきた言葉に胸が弾んだ。阿佐美が拒否してるわけではない――それだけで俺にとっては十分だった。 すりすりとテントの部分を撫でる度に掌の下で阿佐美のものが大きくなってくるのがわかった。「ゆ、ゆうき君」と声を震わせる阿佐美に唇を寄せ、再びキスをする。少しびっくりしたような顔をした阿佐美だったが、やがて諦めたように眉間を寄せた阿佐美は再び俺の口に甘く噛み付いてきた。 「……っ、ふ、ぅ……っ」 「ん、……っ、む、……っ」 かりかり、すりすり。優しくスウェットの上から性器を撫でる。その度に阿佐美が反応してくれるのが嬉しくて、『もっとしたい』という気持ちが俺の中に芽生えるのだ。 「は……っ、ん、詩織……っ」 スウェットのゴムを掴み、そのままそっとスウェットの中に手を入れる。目を見開いた阿佐美だったが今度は俺を止めらなかった。阿佐美に手を握られたまま、俺は下着越しにそろりと阿佐美のものに触れる。瞬間、湿った感触が指先に触れた。 「っ、わ……」 「ご、めん……ゆうき君……」 「あ、謝らないで。……俺、嬉しいよ。詩織が気持ちよくなってくれてるの」 「……っ、ゆうき君」 「もっと、頑張るから」 ――詩織が気持ちよくなれるように。 そう言葉を続けることはできなかった。再びキスをされ、今度は舌ごと阿佐美に絡め取られる。ぬるぬると舌の表面同士が擦れ合い、唾液が混ざる。阿佐美とのキスに夢中になりながらも、俺はそのまま先走りで濡れた下着の下、窮屈そうにしていた性器を救出してやった。 「……っ、ふー……っ、ぅ……」 ……ぬるぬるだ。 糸を引くほど先走りで濡れた下着の中、腫れ上がった亀頭に触れれば、下着の中でくちゅ、といやらしい音が響く。 ぬち、くちゅ、ぬちゅ、と優しくそっと敏感な部分を指の腹で撫でる度に阿佐美の呼吸が乱れ、広い背中が震える。 痛い、わけではないのだろう。呼吸を抑えようとしてるのか、返ってくぐもった吐息が生々しい。堪えるように眉間に深く皺を寄せ、阿佐美は俺の舌先をしゃぶる。 「っ、ん、ぅ、……っ、う……っ」 熱が籠もった下着の中、溢れるカウパーを指に絡め、そのまま亀頭から竿の部分まで濡らすようにそっと指を絡めていく。都度くぐもった吐息が漏れ、阿佐美が感じてるのが分かる度に俺の胸の奥まで熱くなっていくのがわかった。 口内と手元、どちらからも漏れてくる粘着質な水音が薄暗い病室内に響く。俺の手を握る阿佐美の掌が熱い。ぎゅう、と強く手を握り締められたとき、ドクンと大きく脈打った性器が指の中で跳ね上がった。 咄嗟に掌で亀頭を覆ったとき、どぷ、と勢いよく掌に向かって吐き出される精に息が漏れる。 「……っ、ふ……っ」 「詩織……」 「っ、ご、め、待って……っ」 射精は長かった。数回に分けて吐き出される精液とどっぷりと吐き出される大量の精液に驚き、俺は阿佐美の射精が終わると同時に恐る恐る自分の掌へと目を向ける。ぬちゅ、と音を立て、性器と指先に太い糸が伸びるのを見て、思わず固唾を飲んだ。 「ごめん、ゆうき君……っ」 「……溜まってたの?」 「う、ん……」 「詩織、忙しそうだったもんね」 ここ最近、俺のために動いてくれていた阿佐美のことを知っていた分、一層のことこれだけのことでこんな量出した阿佐美に一種の愛おしさを覚えるほどだった。 ぬとぉ、と精液で汚れた掌を覗き込む。「そんなに見ないで」と頬を赤くする阿佐美の目の前、俺はそのまま掌の上に溜まった精液に舌を這わせた。 「っ?! ゆ、ゆうき君……っ、だ、だめだよ、そんなことしちゃ……」 ぢゅぶ、と掌に舌を這わせ、精液を舐め取り、啜る。今の俺からしたら、阿佐美が出した精液すら愛しかった。 相変わらず美味しいとは思えない味だが、独特の青臭さと苦味に脳の奥が満たされ、目の前が赤く染まっていくのを感じる。どろりと舌の先にまとわりつくそれを唾液ごと喉の奥までごくりと流し込んだ。 「ん、ぅ……っ、濃いね」 「……っ、……」 「そうだよね。……詩織も男の人、だもんね」 「ゆ、うき……くん……」 ごきゅりと、出っ張った阿佐美の喉仏が上下するのを見た。そして手の中のそれはあっという間に芯を取り戻し、再び跳ねっ返る勢いで勃ち上がる。「わ」と慌ててそれを手で握り締めた俺は、そのまま腰を持ち上げた。自分の下着ごと入院着をするりと脱ぎ、そのまま膝の上まで下げる。前髪の下、下腹部に向けられる阿佐美の視線が絡みつき、自然と体は熱くなった。 「今度は、こっちで……してほしい」 そして、そのままゆっくりと反り返った阿佐美の性器の上に跨がれば、阿佐美は言葉を失っていた。性器の先、膝立ちになったまま腰を落とそうとする俺の下半身にただ釘付けになる阿佐美。 恥ずかしくない、といえば嘘になる。しかし、それ以上の性衝動が俺を突き動かした。 「ん、ぅ……」 「っ、ゆうき君……ッ、ぅ……」 ぬるりと濡れた先端部が股の間を滑る。手探りで位置を調整しながら亀頭の先っぽを肛門へと押し当て、そのままゆっくりと腰を沈めた。 「……っ、は、ぁ……っ」 「っ、まっ、……ッ、て……ゆ……き、くん……」 「ふ、ぅ……っ」 肉の壁を掻き分け、粘膜を擦るようにしてゆっくりと体内の奥まで侵入してくる阿佐美の性器。息を吐き、筋肉の動きを意識しながら阿佐美のものを呑み込んでいく。ずる、と太く硬い性器でゆっくりと中を押し上げられる。喉から脳天までジンと痺れるように広がる熱は眼球の裏側へと溜まっていくようだ。 汗ばじんだ阿佐美の手は俺を止めようと腰を掴むが、遅かった亀頭から竿の途中まで飲み込めば、阿佐美の指先に力が籠もる。はっはっと獣のように浅くなる呼吸に合わせ、そのまま一気に根本まで腰を落とした瞬間、ばちゅんと頭の奥で光が弾けた。その光が落ち着いていったあと、眼の前に広がるのは甘く蕩けるような快感だった。 「っ、ゅ、うきく……っ、ぅ……っ!」 「ご、め、詩織……っ、入っちゃった……」 「ふ、ぅ……っ!」 「ごめん、ごめ、しおり……っ! ぅ、きもち……っ、しおりの……っ勝手に使って……ぉ、俺……っ」 「っ、く、ぅ、ゆ、ゆうき君……っ! だ、だめだ、それ以上……は……っ」 柔らかくなった体内、その奥までずっぽりと収まる性器を下半身を使って摩擦する。その都度性器の凹凸が擦れ、腹の中で更に大きくなっていく阿佐美のものに前立腺を圧し潰されれば、それだけで声にならない声が漏れた。 「はっ、し、しおり……っ、ん、ぅ……っ!」 「っ、ふ……っ、ぅ……っ」 欠けたピースが嵌ったような、空いた穴を塞がれたような充足感、多幸感に全身が包まれていく。疲弊感も全て塗り潰すほどの甘い快感に頭の天辺まで浸り、貪る。鼻先に阿佐美の顔が近付き、目があったと思えばどちらともなく唇を重ねた。 腰をがっちりと掴む阿佐美の腕を撫で、そのまま俺は阿佐美の上半身に抱き着いた。 自分が最低な真似をしているという自覚もあった。阿佐美の優しさに付け込んでいるという自覚も。 それでも、ただ甘えて荷物になるよりかはよっぽどましだ。 「っは、ぁ、ゆうき君……っ」 限界まで張り詰めた性器に突き当たりを押し上げられ、ぶるりと腰が震えた。「出そう」と、言いたいのだろう。阿佐美に腰を抱かれ、そのまま抜かれそうになるのを俺は阿佐美にしがみついて阻止する。 「っ?!」 「……っ、このまま、いいから……」 「っ、ゆ、ぅ……っ」 き君、と阿佐美が続けるよりも先に、そのまま下半身に力を入れた。抜けないように、阿佐美の体にしがみつく。みっちりと腹の奥にまで収まった性器を使い、自分のいいところに当たるように刺激する。阿佐美にも気持ちよくなってもらいたかった。精一杯、俺の持ち得る知識で体を使って愛撫しようとすればするほど自分の限界の方が近くなっていることに気づく。 「っ、ご、め、しおり、……っ!」 「え?」と阿佐美が動いたとき、臍の裏側を反り返った部分で思いっきり肉壁ごと削られた。脳天まで貫かれるような快感に耐えきれず、思わず阿佐美に抱きついた瞬間、中のモノを強く締め付けてしまったようだ。小さく呻いた阿佐美は、そのまま俺の肩口に顔を埋めた。 「ふ、ぅ゛……っ!」 吐き出される熱い息とともにどく、どく、と腹の中で痙攣する性器。そこから吐き出される大量の熱に、文字通り腹の中は満たされていく。阿佐美の射精は二回目にも関わらず長かった。射精が終わるまで、俺は阿佐美にしがみついたまま動くことはできなかった。動こうとも、思わなかった。 阿佐美の体温に包まれ、安心しきってしまったようだ。熱の余韻と心地の良い疲労感に包まれ、続いてやってきたのは眠気だった。 ――ああ、これだ。この感覚。 逆らうことのできない、最早気絶に近い強烈な睡魔に襲われる。腹の中、混ざり合う鼓動を全身で感じながら、俺は阿佐美の腕の中で意識を手放した。 ほんの一瞬のことのように思えた。腰に回された腕と懐かしさすらある窮屈さに目を覚ます。 はっと瞼を持ち上げれば、すぐ傍で規則正しい寝息が聞こえた。 ――阿佐美だ。 目を閉じたまますうすうと寝息を立てる阿佐美に俺は昨夜のことを思い出した。 ……そうだ、俺……阿佐美と寝たんだった。 それも、強引な形で。乱れた服も着替えさせられ、汗のべたつきもない。もしかしたら阿佐美が後処理をしてくれたのだろうか。恐る恐る体を起こそうとしたとき、重たげな阿佐美の瞼が持ち上がった。 「ゆうき君……?」 「……ごめん、起こしちゃったかな」 「いや……大丈夫だよ」 「……」 学園にいたとき、阿佐美と相部屋だったときのことを思い出す。けれど、あのときとは状況は違う。 阿佐美も昨夜のことを思い出したのだろう。ばつが悪そうに顔を反らした阿佐美は、「ゆうき君」と小さく俺の名前を呼ぶ。それから、「体は?」と俺の腰から手を離した阿佐美はゆっくりと起き上がり、こちらを覗き込んだ。 体は――調子はよかった。阿佐美なりに気を使ってくれたのかもしれない。少しだけ火照ったような感覚はあれど、だるいということはなかった。寧ろ、よく寝たお陰で意識は冴え渡っているくらいだ。 「いいよ。……よく寝れたから」 「そっか、それならよかった」 「うん」 「……」 「……」 「あの、ゆうき君」 流れる沈黙に、なんと声をかけるべきだろうかと思案していると。言いにくそうに口をもごつかせた阿佐美に見つめられる。 「うん?」と顔をあげれば、すぐ鼻先には真面目な顔の阿佐美がいた。怒られるのだろうか、それとも呆れられたのかもしれない。 どちらでも仕方ないなと思えた。けれど、阿佐美の口から出た言葉は意外なものだった。 「……今度から、ああいうことをするときは俺を頼ってほしい」 「…………え?」 「一応、裕斗君も怪我人だし……多分、裕斗君はのめり込むところあるから」 「その、力加減とか、ゆうき君の負担的にも」と付け足す阿佐美。拒絶されることはあっても、まさか自分にしろなんて言われるとは思ってもなかった。 固まる俺に、みるみるうちに不安そうな顔をした阿佐美は「嫌だったら、無理にとは言わないけど。もちろん」と慌てて付け足す。 阿佐美は優しい。俺だけではなく裕斗のことまで考えてくれるなんて、流石だな。……自分のことばかりでいっぱいいっぱいになっていた俺とは違う 「……ううん、ありがとう詩織」 そろ、と伸ばした手をシーツの上に置かれた阿佐美に重ねる。そのままぎゅっと指を握れば、阿佐美の視線が揺れた。 「じゃあ、また眠れないときはお願いするよ」 「……うん」 長い前髪の下、陰になった奥で阿佐美がじっとこちらを見つめてるのを皮膚で感じる。そのままどちらともなく重なる唇。その柔らかさを感じながら、俺はそのままそっと阿佐美に体を寄せた。 それから、俺と阿佐美の関係は変わった。それがいい変化ではないと頭の片隅で理解できたが、阿佐美への恩返しにもなるのならば許されるのではないだろうか。 快楽に押し流された末、そんな思考を抱くようになっていた。 【続く】