XaiJu
田原摩耶
田原摩耶

fanbox


気になるあの子【↑100/3,800文字/中学時代サダ×美甘/サダ視点/過去〜現在】

 どこにでも、目立つやつというのはいる。  慈光兄弟は中学のときからやたら目立つやつらだった。双子というだけでも物珍しいのもあったし、そして当人たちもアクが強い分余計目を惹いていた。  周りの女子は大体あの二人のどちら派かという議論を交わしては盛り上がっていて、男子も男子でどうにか仲良くなろうとするやつらも多い。大抵が二人と仲良くなることで女子に一目置かれたいというやつらばかりだ。  偏見というよりもこれは実体験に近い。あの二人は自由奔放で、自分たちがまるで王様かのように振る舞う。そんな態度がなんとなく好きになれなかった。  それに、と慈光兄弟に挟まれた、頭一個分低い人影に目を向ける。  二人に比べれば目を惹くような容姿でもなければぱっとしない顔立ち。高身長な二人に挟まれてるお陰で平均身長くらいのはずが、一段と小柄に見えるその男子生徒。あの男子生徒を見てると、なんとなく嫌な気分になった。  その生徒のことが気に入らないわけではない、寧ろ慈光兄弟にいつも荷物を持たされたり、肘置きにされたり、引きずられてる彼を見てると可哀想になってくるのだ。  名前は確か――。 「……みかも」  思わずその名前を口にしていた。二年生の春、初めて同じクラスになったとき、教師に名前を呼ばれた美甘が「は、はい」と消え入りそうな声で返事をしたときのことがやけに印象に残ってた。  いつも双子といるときの美甘はもっと明るく、どちらかというと声が大きいタイプだったからこそ余計。  双子とクラスが離れたら、美甘はもっと元気になるのではないかと勝手に思ってたのだ。  喜ぶどころか、不安そうな顔をした美甘。けれど、時が過ぎてもそれは変わらない。  休み時間になれば、慈光兄の方が美甘を呼び出していた。クラスが変わろうが、あいつはいつも双子といた。  せっかく同じクラスになったんだから、何度か声を掛けようかとも思ったが、その度に友人たちに止められる。 「なんで止めるんだよ」 「知ってんだろ、あいつ、あの双子のお気に入りだって」 「知ってるけど。それがなんだ?」 「俺、あいつらと同じ小学校だったんだけど、あいつらに目付けられるようなことしない方がいいぞ。なにされるか分かんねえし」 「弟の方、やべーやつらとつるんでるって噂もあるしな」 「……噂」  俺もその噂は聞いたことはある。今考えれば分かることだが、それには間違いなく尾ひれがついている。双子がモテることを阻止した誰かが織り交ぜたくだらない嘘も含まれてただろうが、火のないところに煙は立たないという言葉もあった。  当時幼かった俺はとうとう美甘に声をかけられなかった。たまにプリントを渡すとき何度か声をかけるくらいだ。その時も毎回美甘は俯いてた。  腹の奥にもやもやとした後悔を抱えたまま、中学を卒業することになる。  転機が訪れたのは高校に上がってからだった。  高校一年生の春、俺は慈光兄弟が別の高校に進学したことを知った。女子が残念がっていたのを聞いたからだ。それと同時に、同じクラスに美甘がいることも知ることになる。  美甘は相変わらず一人隅っこの席で小さくなっていた。チャンスだ、と考えるよりも先に体が動いていた。 「美甘、俺のこと覚えてる? ……中二のとき、クラス一緒だったんだけど」  始業式が終わった後、一人ぼっちだった美甘の席に立ち話しかけた。まさか自分が話しかけられるとは思ってなかったらしい、何度か瞬きをしたあと、美甘は「さだ」と小さく呟いた。  サダは、友人たちにつけられた俺の愛称だった。 「そう、サダ。……知ってるやつがいてよかった」  少し嘘をついた。他にも同じ中学のときのやつはいた。けれど、同じクラスになったやつや知り合いは美甘しかいなかったので正直に伝えれば、美甘はぱっと目を大きくさせたのだ。そのときの嬉しそうな顔を俺は一生忘れないだろう。 「お、おれも、……知り合い、い、いなかったから……ぅ、うれ、うれしいな……」  たどたどしくも告げられる言葉に、俺はようやく長年胸の奥に抱えていた後悔やもやもやが一気に昇華されていくのを感じた。  俺はずっとこの顔を見たかったのだと思う。双子といたときもずっと困ったような顔や泣きそうな顔、怒ったような顔を見てきたものの、笑顔を見たことなかった。だからだろう、そのままの勢いであんなことを言ってしまったのは。 「よかった。……ずっと、美甘と話したかったんだ」  普段の自分なら言わないような言葉が出てしまう。流石に引かれるだろうかと言ったあとハッとしたが、美甘は引くどころか「うんっ」と声を上擦らせ、頷き返したのだ。そして上げた顔に浮かぶその笑顔を見たとき、胸の奥が熱くなる。  そのことがきっかけで、美甘とはよく話すようになった。元々美甘は寂しがり屋でお喋りらしい、心を開いてくれた途端向こうから話しかけてくることも多くなり、俺の高校生活は一日目から毎日がずっと楽しかった。  俺といるときは、あの一人のときのような寂しそうな表情はなかった。サダ、サダ、と何度も俺の方を見上げてはあのねといろんな話をしてくれたのも嬉しかったし、そんな俺たちを見てからか、他のやつらも美甘に話しかけるようになり、数カ月も経てばあっという間に美甘も周りに馴染むようになっていた。  そんなある日のことだ。  一年の秋、文化祭の当日。美甘が体を崩したのだ。風邪である。  前日も具合悪そうだったので声かけたのだが、「初めて友達と参加するイベントだから準備も手伝いたいんだよ」と美甘が駄々こねたのだ。なんとか宥めて保健室に連れて行ったが、その後先生に帰らされていた。  そして当日休みになった美甘に、クラスの皆同情していた。俺も流石に大丈夫かなと心配になってメッセージ送るついでに動画も送ったが、涙声の美甘から即通話かかってきたことを思い出す。  一生懸命美甘が作ってた飾り付けや、反響してる模擬店の様子などを動画や写真で送った。それでもやはり実際にその場に参加してるかどうかとあうのは違う。美甘はありがとうと言ってたが、スタンプは泣いてた。  それから暫く美甘は寝込んでた。美甘が学校に復帰したとき声をかけたら、美甘が「サダ〜……」って泣きついてきたことを思い出す。  お腹の辺りに暖かな塊がくっつく感覚。胸元に埋まる後頭部、それからそこから香ってくるほんのりとシャンプーの香り。身長差からか上目になった形で見上げられた瞬間、自分でも驚くほど動揺した。美甘は一度距離詰めると距離感が一気になくなるらしい。元々一人っ子だった俺にとってこんなに直球に甘えられることはなかった。 「み、美甘……おい……」 「来年は、サダと参加したい。……するんだ」 「……じゃあ、先生に頼んでクラスも同じにしてもらわないとな」 「……うん」  ずび、と鼻を啜る美甘。おずおずとその頭を撫でれば、美甘はそのまま大人しく自分の席に戻っていった。本当に何事もなかったように。  それからまた心配した友人たちに美甘は囲まれていた。俺はそんな様子を遠巻きに眺めながら、上体に残っていた美甘の体温に未だどぎまぎしていた。  周りにクラスメイトの目がなければ、抱き締め返していたかもしれない。そう思うと、美甘が恐ろしく感じた。  美甘は放っておけない。美甘が笑ってると俺も嬉しい。はずだったのに。他のやつには抱き付かない美甘を見て、腹の奥がずぐりと重くなるのを感じた。これは、多分良くないものだ。人と比べるようなことはしたくない、自分の浅ましい部分を直視することもしたくない。  だから、俺はクラスメイトたちに囲まれる美甘から目を逸した。  俺はあの双子のようにはなりたくない。美甘には素直に幸せになってほしいだけだ。何度も何度も繰り返す。自分に言い聞かせるように。  俺は友人Aでいいんだ。  ……美甘が虐められないで済む関係ならそれでいい。 「……サダ?」 「ん?」 「なんか考え事?」 「……美甘のこと考えていた」 「えっ、な、なんだよそれ」  翌年、教師たちが気を利かせてくれたのか知らないが美甘とまた同じクラスになった。そして、俺達の関係も少し変わった。  具合が悪いという美甘の付添でやってきた保健室。ベッドに横になった美甘の頬にそっと手を伸ばせば、美甘は頬を赤くした。  俺と美甘は付き合うことになった。美甘のことを恋愛として見ているのだと自認することになったのは随分後だったが、それでとこうして俺のことを拒絶せずに受け入れてくれる美甘のことがただ恋しくて、気を緩めるとすぐ抱き締めたくなってしまうのだ。  ――双子と美甘の関係を知ったときはショックだった。けれど引くというよりも腑に落ちた感覚もあった。  あいつらが美甘に固執する理由もわかった。だからこそ、あいつらと同じようにはなりたくないという気持ちは一層強い。 「美甘、ゆっくり休めよ。……また授業終わったら様子見に来るから」 「ん、もう行くのか?」 「ああ、また先生からベッタリしすぎだって怒られるからな」 「……ん、別にいいのに……サダなら」 「美甘、」 「……わ、わかってる……ごめん、ワガママ言って」  もぞ、と逃げるようにシーツを頭まで被る美甘。ああ、と息を飲む。こういうところが美甘は残酷なのだ。俺を常に試そうとしてくる。  目の前の布団の塊を抱き締めたいが、歯止めが効かなくなってしまいそうで怖かった。ただでさえ、美甘はあまり体が丈夫ではないというし。  欲張りになるな、と己に言い聞かせながら、俺は保健室を後にした。  高校を卒業したら、美甘にルームシェアしないか聞いてみようか。一人暮らしがしたいと言ってたし。  そんな未来に思いを馳せながら、俺は教室へと戻るのだ。その足取りは不思議と軽かった。  おしまい

気になるあの子【↑100/3,800文字/中学時代サダ×美甘/サダ視点/過去〜現在】

Comments

あ〜⤴︎良すぎます⤴︎ サダが一般の常識を持っている人物だからこそ、より一層双子の癖の強いキャラが引き立つし、双子と美甘の異質な関係性があるからこそ、サダと美甘の甘酸っぱい関係性が最高に引き立つという…。双子が欠けてもいけないし、サダが欠けてもいけない、対極にある人間関係が対比のように存在しているからこそ物語が深いものになっていると感じます。 本当に面白いシリーズに出会えて最高です。 サントと美甘の踏んだり蹴ったりで振り回される関係も好きだし、エントと美甘の拗らせ恋愛感情も好きだし、サダと美甘も両想いも最高に甘酸っぺぇ〜〜〜✌️

パイ生地製作委員会


More Creators