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田原摩耶
田原摩耶

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体調不良と噂の阿賀松を看病しにいく齋藤withアンチのSSS※【↑100/5,900文字/優しい阿賀松×齋藤/R-15くらい】

「あ、阿賀松先輩が……風邪……っ?!」 「みたいだよ。びっくりするよね、あいつも一応人間だったらしいよ」 「……」  某日。学生寮四階・ラウンジにて。  俺は縁と仁科からそんな話を聞いてただド肝を抜かれた。縁と概ね同じ感想ではあるが、阿賀松が体調崩すことなんてあるのか。 「やっぱ気になる?」 「……え?」 「弱ってる伊織、見たくない?」 「い、いえ……そんな」 「ええ? そうなの? 俺は見たいけどなあ、ベッドの中でぐずってる伊織」 「ま、方人さん……そんなこと言ってるの知られたら、後から阿賀松さんに怒られますよ」 「大丈夫大丈夫、奎吾と齋藤君が黙っておけばバレないんだし」  この人は相変わらず怖いもの知らずというか、なんというか。  確かに縁の言うとおり、気にならないわけではない。けれど想像つくような気もする。  少なくとも絶対に機嫌は最悪だろうなということだけは分かるのだ、経験上。 「それに、いくらなんでも詩織だけに伊織の面倒押し付けるのも可哀想じゃん? ってなわけで、伊織のところ遊びに行こうぜ」  そしてそんなこと俺以上に分かっていそうな縁はというこの調子だ。 「ほ、本気で言ってるんですか? 流石にやめておいた方が……」 「なに、奎吾ビビってんの? 大丈夫、そのための齋藤君もいるし」 「……え?」  ぽん、と両肩に置かれる縁の手にやんわりと肩を揉まれ、息を飲む。  恐る恐る背後の縁を見上げれば、目があって縁は笑った。 「ね、齋藤君」 「ど、どういう……」 「まあまあ! ほら、伊織が弱ってる内に恩着せておこうよ、恩」 「え、縁先輩……っ?」  ――力強いし。  そして俺はそのままずるずると縁に引きずられ、阿賀松の部屋まで強制連行されることになってしまうのだった。  ◆ ◆ ◆  ――阿賀松の自室前。 「え? それであっちゃんの見舞いに来たの?」  扉を開けば現れた阿佐美は、ぞろぞろとやってきていた俺達を見て驚いたような顔をする。 「そうそう。安久ちゃんも誘ったんだけど、『伊織さんに迷惑かけるな!』って逆に怒られちゃってさ」 「今回ばかりは安久の判断は正しいと思うけど……どうせ、仁科先輩とゆうき君は方人さんに巻き込まれたんでしょ」 「ちょっとちょっと、ひっどいなぁ。そんなんじゃないよなあ、奎吾、齋藤君」 「え、あー……まあ」 「奎吾、どこ見てんだよ。壁を見るな壁を!」  ……仁科も大概嘘を吐けない人のようだ。  俺も人のことは言えた義理ではないが、今回ばかりはやはり同情せざるを得ない。  ぷん!とわざとらしく怒ったフリをする縁を前に困ったような顔……をしてるであろう阿佐美は、諦めたように「分かったよ」と玄関口の扉を更に大きく開く。 「けど、なるべく静かにね。……あっちゃん、具合は大分良くなったみたいだけどお陰で気が立ってるから」  動物園の猛獣か、と思わず突っ込みそうになる。なんなら猛獣の方がまだ檻に入ってる分マシかもしれないが。 「わかった?方人さん」と阿佐美に名指しで注意された縁は「了解任せて」といつもの軽い調子で返している。分かってなさそうだな、と思いつつ、俺は阿佐美の注意を守るべく恐る恐る物音を立てないように阿賀松の部屋へと踏み込むのだった。  恐らく、仁科も『なぜここまで細心の注意を払ってまで阿賀松の部屋に入らなければならないのか』と思ってるに違いない。なんなら俺が一番思ってる。早々に帰りたくなってきた。  ――阿賀松の自室。 「あれ? 伊織は?」 「寝室で休んでるよ。大分症状が良くはなったとはいえ、念の為ね」 「ふーん。なんだ。つまんね……」 「方人さん、今なんて言った?」 「いーや、それが良いよ。いくら伊織とはいえ血が流れてる人間だしな」 「……」 「あ、そうだ詩織。キッチン借りていい? 伊織の好きなリンゴの兎さん作ってやるよ、土産持ってきたし」 「……まあいいけど、変なもの入れてないよね」 「何言ってんだ詩織〜、俺がそんなもの入れるわけ無いだろ?」  思わずどの口で、と喉まで出かかったがなんとか堪えることが出来た。  念の為縁を監視してキッチンまでついていく阿佐美。そんな二人を一瞥し、居心地悪そうにしてる仁科にちらりと目を向ける。すると、目があった。もしかしたら同じことを考えていたのかもしれない。 「……齋藤」 「は、はい……っ」 「後は俺達の方でなんとかしておくから、お前は帰っていいぞ。……ほら、今ならまだ間に合いそうだし」 「に、仁科先輩……」  やはり仁科は優しい人だ。自分だって帰りたいと思っているに違いないはずなのに。  しかしこの厄介を仁科一人に押し付けるのだけは流石に申し訳ない。なんてやりとりしていると、「仁科先輩」と阿佐美に呼ばれる仁科。哀れなほどびくっと肩を跳ねさせた仁科は青ざめたまま「なんだよ」とキッチンの方でドタバタしている二人の方へと向かう。何か言いたそうにこちらちらりとだけ見て――。 「……」  言ってしまった。  どうやら仁科は縁クッキングの助手役として駆り出されてしまったらしい。  とうとうやることのなくなり、ぽつんと取り残された俺はどうしたものかと思った矢先だ。  寝室の近くを通りかかったとき、いきなり扉が開いて腕が伸びてきた。 「……えっ?! あ、わ……っ!」  がっしりと手首を掴まれ、その力強さに既視感を覚えるよりも先にそのまま寝室へと引きずり込まれる。  薄暗い間接照明のみの部屋の中、タバコの煙と香水の匂いに噎せ返りそうになったとき。目の前に大きな影がかかる。 「……ったくよお、俺の部屋は遊び場じゃねえんだぞ」  頭上から落ちてきたのは寝起きのような、やや掠れた低い声だった。  声の主が誰かなんて、顔を見ずとも分かる。それでも恐る恐る視線をあげれば、タバコを咥えた阿賀松がそこに立っていた。――おまけに、何故か上裸で。 「せ、せんぱ……す、すみません……っ! あの、服……っ?!」 「ああ? ……言いたいことがあるなら一つずつ言え」 「あ、あの、服……」 「ああ、シャワー浴びてからそのままだったな」 「……」  目に毒とはこのことだろう。無駄に縦がでかいせいでどこを見ても視界に入ってきてどうしたらいいのか分からなくなる。  視線を右往左往させ、目を瞑ったりしていると、俺の反応を面白がった阿賀松はそのままぐいっと俺の手首を掴みあげるのだ。抱き寄せられるような格好になり、そのままやつの胸の中に引っ張りこまれる。 「ひっ」 「……おい、今『ひっ』つったか? 失礼なやつだな、もっと嬉しそうな声出せよ」 「ぁ、ありがとう……ございます……?」  そう答えれば、阿賀松は「よろしい」と笑い、そのまま後頭部のつむじを押してくる。普通に痛い。 「あ、あの、具合は……風邪を引かれたって聞いたんですけど……」  流石にいつまでもこの格好はまずいのではないか。  阿賀松のことを心配してるわけではないが、気になって尋ねれば、阿賀松は「ああ、そのことか」と興味なさそうに視線を外す。そして、そのまま俺を小脇に抱えてベッドの方へと歩き出すのだ。 「あ、あの、阿賀松先輩……っ!」 「別に風邪じゃねえよ、体調不良なんてなるわけねえだろ俺が」 「へ」 「……詩織ちゃんは心配性でな、気を利かせたつもりだろうが方人みたいなのにはあんま意味ねえんだよな」  ぼふりとベッドに転がされたと思えば、そのまま阿賀松はベッドに腰を掛けてくるのだ。慌てて起き上がろうとすれば、乗り上がってきた阿賀松にそのまま押し倒される。 「まあ体調は悪くねえけど、気分が悪かった」 「……い、今は大丈夫なんですか?」 「ユウキ君の顔見たからな」  そうにやりと笑う阿賀松に顎を掴まれ、真正面から覗き込まれる。顎と頬の骨の間にめりめりと食い込む指。絶対に嘘だ、と思ったが、そんな俺を見て笑う阿賀松は楽しそうではあった。 「心配して見舞いに来てくれたんだってな」 「え、縁先輩に……言われて……」 「動機はどうでもいいんだよ。……まあ、少しは俺の恋人の自覚が出てきたか?」 「……」  そんなもな出てきて堪るか、と思ったが、本当に阿賀松が俺のお陰で機嫌が良くなったのだと思うと、自分でも驚くことに嫌な気分はなかったのだ。柔らかく唇を重ねられたと思えば、そのまま伸びてきた舌に舐められ「んむ」と声が漏れる。 「っ、ふ、……っ、ぅ……ッ」 「……口、開けよ」 「……っ、は、い……」  少なからず阿賀松に会いに行くということでこのくらいのことは覚悟していたが、元気な阿賀松が相手となると大分話は変わってくるわけで。  扉と壁を隔てた向こう側で縁たちが賑やかに料理してる物音が遠くに聞こえ、代わりに寝室に濡れた音が響いた。  舌のピアスが粘膜の上を掠める都度、唾液が滲む。掌に重ねられる阿賀松の大きな手。その手、舌から伝わる熱はやはりいつもより幾分熱く感じた。  ぴたりとくっつく上半身も。 「……先輩、やっぱり、熱……」 「ああ? なんだ? お前わざわざ俺の口から言わせるつもりか?」  含んだような阿賀松の物言いに「え?」と顔を上げたとき、そのまま手を重ねられたまま口元へと持っていかれる。軽く手の甲にキスをされ、背筋がびくりと震えた。 「ユウキ君のせいで熱くなってんだよ、身体」 「……っ、……ぇ」 「……なんだぁ? その反応は」 「ぁ、ご、ごめんなさ……っ、ん、ぅ……」  まるで阿賀松らしからぬ言葉だっただけに驚いてしまったが、そのまま腰を抱かれ、再びキスをされる。 「やっぱまだ調子出てねえのかもな」なんて自嘲しながら、人の唇に噛み付く阿賀松。  やっぱり調子悪いんじゃないか。  なんて思いながらも、返事を返す術のない俺はひたすら受け入れることで精一杯だった。 「伊織〜! 方人君特製リゾットだぞ〜! ……ってうわ」 「っ、ぅ、あ゛、待っ、み、見ないで、くださ……ぁ゛……ッ!」 「ああ〜? ……っ、クソ、いい匂いすんじゃねえか。待て、すぐ行く」 「……まあ、すぐ暖めれるしごゆっくり〜……」  ぱたん、と目の前の扉が閉まり、愛らしいエプロンしてお玉を手にした縁はそのままリビングルームへと引っ込んでいく。  ――最悪だ。  流れとはいえ、ちゃんと止めさせられなかった俺も俺だけど、よりによってこんな場面を見られるなんて。  阿賀松に腿を掴まれたまま、深く挿入されたそれを引き抜かれそうになり、「う゛……っ」と声が漏れる。 「運動したら腹減ってきたな。……ユウキ君、お前はどうする?」 「は、……ふ……っ」 「……は、その調子じゃ暫く動けなさそうだな」  異物感のあまり開かれたまま足を閉じることのできない俺を見て阿賀松は笑った。そして、代わりに俺の足を閉じさせ、そのままシーツを掛けてくれるのだ。 「ついでになんか飲みモン取ってきてやる。……そのままゆっくりしてろ」 「は、……い……」  軽く額に落ちる唇にぎくりと緊張しながらも、俺はそのまま阿賀松に前髪を撫でつけられる。  ――本当に、機嫌がよくなった。  ベッドから降り、ベルトを締め直し、適当なシャツを羽織った阿賀松はそのまま寝室を後にする。そんな背中をぼんやりと眺めながら見送ってること暫く、阿賀松はすぐに戻ってきた。その手にはミネラルウォーターの入ったボトルが握られており、どうやら俺に水分を与えるためだけに戻ってきたようだ。 「口移しが必要か?」  笑う阿賀松に尋ねられ、「大丈夫です」と慌てて俺は身体を起こした。そして、差し出されるボトルを受け取る。 「ん……ぅ……」 「美味そうに飲むな、お前」  そんなはずはない。締まりかけた喉を辛うじて通っていく水の冷たさを感じつつ、皮肉だろうかと阿賀松を見る。  皮肉のようだが、阿賀松は苛ついている風でもない。なにが面白いのか、水を必死に飲んでる俺をただ阿賀松は見てるのだ。 「あ……あの……」 「んあ?」 「……ちょ、調子は、もう大丈夫なんですか……?」  このまま見られてばかりなのも気まずくて、咄嗟に話題を変えようと恐る恐る尋ねれば、阿賀松は「それはお前がよく分かってんだろ」と笑った。  どういう意味なのか少し考えたあと、下卑た笑みを浮かべる阿賀松に顔がカッと熱くなる。 「ぁ、いや、そういう意味では……なく……」 「調子悪そうだったか? 俺は」 「……っ、い、いえ……その、少し、いつもと雰囲気が違うような気がして……」  そう恐る恐る告げれば、阿賀松の眉がぴくりと反応した。  些細な表情の変化ではあるが、阿賀松という男はそんな些細なところから一気に反転するような男だ。やばい、と思ったとき。 「ユウキ君は本当にいい性格してるよな」 「……え」 「問題ねえよ、って言ってんだ。それとも、俺が大丈夫じゃねえっつったらずっと付きっきりで看病でもしてくれんのかよ」  怒られはしなかったが、阿賀松にそんな風に言われるとは思ってなかっただけに言葉に詰まってしまう。「誤魔化すのが下手くそだな、お前」と阿賀松は笑い、そしてベッドから離れた。 「あ、ご、ごめんなさ……」 「方人の野郎、勝手に人の部屋で大人数分の飯作ってやがった。――動けそうだったらお前も来いよ、ユウキ君」 「……っ!」 「ま、無理にとは言わねえけどな」 「……は、はい」  恐る恐る頷き返せば、阿賀松はふっと小さく笑った。  なんだろうか、今まで見たことのない笑い方に思わず目を奪われていると、それもすぐに消えた。 「それじゃあ、待ってるぞ」と部屋を出ていく阿賀松を見送る。俺は全身の火照りを誤魔化すように、ミネラルウォーターを喉の奥へと流し込んだ。  阿賀松伊織の二面性に翻弄されてきたのは今に始まったことではないけれど、調子が悪いってそういうことなのだろうか。  ……だとしたら、ずっと調子悪くいてもらってもいいかもしれない。そんな、阿賀松本人に知られてはどんな目に合わされるかわからないような不謹慎なことを考えながら、俺は暫く動けずにいた。  俺がリビングルームへ向かったとき、既に縁が周りに言いふらしていたお陰でかなり居心地が悪かったのは言わずもがなだったが、阿賀松が上機嫌だったので全てよしとすることにした。  ――大概俺も毒されてきてるのかもしれない。  おしまい


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