「スレイヴ」 「なんだ」 「少し頼みたいことがあるんだが、ちょっといいか?」 昼下りの宿屋のロビー。 丁度これから出かけようとしていたイロアスに呼び止められる。 こうしてお使いを頼まれるのはいつものことだ。だから俺はすぐに「ああ、構わないぞ」と返した。 だけど、どうやら今回は少しワケアリのようだ。 イロアスに渡されたのは片手でも抱えられるほどの小箱だった。その小箱と一緒に、届け先のメモも渡されたのだが、そこに書かれた内容を見て思わず俺はイロアスを見た。 「……お前が言いたいことは分かってる。シーフに頼むつもりだったが、あいつは今別件で動いててもらっててな」 ――なるほど。それで暇そうな俺に回ってきたってわけか。 宛先はここからほんの少し離れた場所にある地区だ。そこは確か一帯が風俗街になっている、とシーフのやつが移動中の馬車で話していたのを思い出した。 「スレイヴ、頼めるか?」 「……俺がお前からの頼みを断るわけないだろ」 「む、無理させて悪い……」 「要するにただのお使いだろ。それなら、俺でもできる」 先程からイロアスが申し訳なさそうにする意味も分からなかった。 いつもとやることは違わないし、それに遊びに行くわけではないのだから関係ない。 が、どうやらイロアスの中では違うらしい。 「お前がこういう場所が得意じゃないと分かってるけど……」 「気を遣わなくていい。それに、俺も大人だ。追い出されるなんてことはないはずだ」 「そういうことを心配してるわけじゃないんだが……」 だったらなんだよ、とイロアスを見上げれば、イロアスは小さく咳払いをする。 「でも、スレイヴがそう言ってくれて助かった。……けど、この地区はあまり治安が良くないからな。もし変なやつに絡まれても相手にするなよ」 「大丈夫だ、問題ない」 「あ、ああ……」 なんでそんなに心配そうな顔をするのだ、大丈夫だと言ってるのに。 終始心配そうなイロアスだったが、「ほら、これから出掛けるんだろ」と背中を押せば渋々ながらも出かけていく。 そんなイロアスを見送り、さっさと俺も出掛けるかと小箱を落とさないように革の袋に詰め込み、しっかりと口を閉じた。そしてそれを背に抱え、俺は宿屋を後にした。 ◆ ◆ ◆ 配達先の店のある通りに辿り着いたときは既に日が落ち始めていた。 それぞれの仕事を終えた男たちや、これから仕事のためにやってきた露出の高い女たちがやけに目についた。 やはりこの風俗街特有の空気には慣れそうにない。 猥雑とした通りを足早に抜け、俺はイロアスからのメモを頼りに店の看板を探す。そして、それはすぐに見つけた。 元々一般の宿の改造して作ったようなこじんまりとした建物、控えめの看板にメモに書かれたものと同じ店名が書かれている。表の扉には『CLOSE』と書かれたプレートが掛けられていた。 勇者からは予め裏口からなら入れると聞いていたので、言われたとおり細い路地を通って店の裏へと回る。 扉を叩けば、女店主らしき貫禄のある女が現れる。 「あら、随分と愛らしいお客さんだね」 「俺は客じゃない。イロアスから頼まれていた品を届けに来ただけだ」 背負っていた袋を手に取り、その口を開いた俺はほらよ、と取り出した小箱を差し出す。それを受け取った女店主は「ああ、アンタが勇者様の」と漏らした。 「助かった。これがなきゃ店が開けられないところだったよ」 だからイロアスのやつも急いでたのだろうか。 一体中に何が入ってるのか気になったが、これ以上長居するつもりもなかった。 「……じゃあ、これで俺は失礼する」 「ええ、もう帰っちゃうのかい? せっかくだから遊んで行ったらどう?」 「そういうのは興味ない。他を当たってくれ」 「なんだい、連れないねえ。女の誘いを断る男はモテないよ」 放っておけ、と言い返しそうになったが、脳裏に『また依頼人にそんな口の聞き方をして』と怒るイロアスの顔が浮かび、ぐっと堪える。 「生憎だが、そういうのには興味ないんでな」とだけ返せば、「おこちゃまだねえ」と女店主に笑われて思わずむっとしそうになった。 「そうだ、勇者様のところにいたあの方は一緒じゃないのか?」 おこちゃまで悪かったな。と眉間を寄せた時、小箱の中身を確認しながら女店主は聞いてくる。 「……あの方?」 「ほらあの笑顔が素敵で紳士的な方だよ。また会いに来てって伝えておいてくれ。あの方ならタダでもいいって」 「……」 ――誰のことだ。 俺が知っている中でイロアスを抜いて最も紳士的な男ならばパーティーの中に一人しかいないのだが、娼館の女に“また来てくれ”なんて言われる男となると一人しか思い当たらない。 手グセの悪いニヤケ面の男の顔が思い浮かび、更に俺は眉間を寄せた。 「……覚えてたらな」 そうとだけ応え、俺は娼館を後にした。 ◆ ◆ ◆ 再び宿屋へと戻ってきたときには、辺りはすっかり暗くなっていた。 風俗街ほどではないが、夜の街は労働者たちで賑わっている。 ここへ戻ってくるまでに時間がかかったせいで余計腹が減っていた。きゅる、と鳴る腹部を抑えたとき、通りかかった店からいい匂いがしてきた。焼ける肉の匂いだ。口の中にじわりと唾液が滲み、無意識の内に溜まった唾液を飲み込む。 ――寄り道、いや、でも宿屋に帰れば飯があるしな。 なんて思いながら飯の誘惑を必死に堪え、そのまま踵を返、再び宿屋に向かって足を進めようとしたときだった。 「スレイヴ?」 雑踏に混じって後方から聞き慣れた声が聞こえてくる。振り返れば、そこには頭に思い描いていた男がいた。 「イロアス」 「今帰りだったのか」 「お前もか?」 尋ねてくるイロアスに「ああ、そうだ」と頷き返したときだった。先程鳴ったばかりの腹が再び鳴り出す。それはイロアスの耳にまで届いていたようだ。「お疲れ様」と微笑むのだ。 「ここであったのもなんだ。帰る前にどこかで飯屋にでも寄って行くか? わざわざ遠出してもらったお礼もしたいしな」 「いいのか」 「ああ、なにか食いたいものあるのか?」 「……そこの店、さっきからいい匂いがして腹が減る」 そう先程入ろうか迷った店を指差せば、「なるほどな」とイロアスは笑った。 それから「じゃあそこに寄るか」と快諾してくれたイロアスとともに俺は目の前の飯屋へと入る。 こうして二人で飯屋に入るのは久しぶりな気がする。二人旅の頃は外で飯を食う余裕もなかったし、大世帯になってからはどうしても二人きりの時間を作ることも減った。 なんだか懐かしく思いながらも俺はイロアスとの食事を楽しむことにした。 ――食後。 飯屋で腹を満たしたときには既に夜は深くなっている。 子連れの家族の客の姿は殆どいなくなり、変わって娼館の客引きの姿がちらほら目につくようになっていた。 「大分遅くなったな」 「あの肉、ボリュームがありすぎたからな」 「確かにな。スレイヴの顔より大きかっただろ」 「それは言いすぎだ」 なんて他愛ない会話を交わしながらも、二人で並んで宿屋へと向かう。男二人となるとやはり客引きに目をつけられてしまい、しつこく声をかけられる羽目になる。 「おい、いい加減にしろ。しつこいぞ」 「……って、あれ、そちらの男前さん……もしかして勇者様じゃあございませんか!」 やはりイロアスの顔はどこでも目立つようだ。 思わず舌打ちが漏れてしまう。 しかし客引きの男はそんなこと気にせず、グイグイとイロアスに付き纏うのだ。 「勇者様も普段あまり女っ気がないとお聞きしますし、どうです? なんならパーティーの皆様もぜひ! 可愛い子取り揃えてますよ、勇者様ならサービスしますし……」 「いや、それは……」 「おい、そいつが嫌がってんだろ。しつこいぞ。いい加減にしろ」 そう客引きの腕を引っ張り、イロアスから引き剥がそうとしたときだった。思いっきり振払われた拍子に尻もちをついてしまう。 「スレイヴッ!」 「いっ、つ……大丈夫だ」 寧ろ、そこまで驚くイロアスの声にこっちまで驚きそうになった。 しまった、と青ざめる客引き。そんな客引きを睨むイロアスからなんとなく不穏なものを覚え、「おい」と止めようとしたとき、イロアスは俺の身体をそっと抱きかかえられる。 「……悪いが、そっちは十分間に合ってる。俺も、他のやつらもな」 そう客引きに言い放ったイロアスはその返事を聞くことなく、そのまま俺を捕まえたまま歩き出したのだ。 これ以上は客引きも思ったらしい、それ以上付きまとってくることも、一部始終を見ていたらしい他の客引きにも話しかけられることはなかったお陰でスムーズに宿まで帰ってくることになる。 宿屋まで帰ってくるまでイロアスは一言も発さなかった。けれど、その表情からイロアスがなにを考えているのかは分かった。 ――怒ってるな、こいつ。 誰かに当たり散らかしたり、不満をぶち撒けるようなやつではないからこそ、強い怒りを覚えたときはひたすら耐えるのだ。そして、それが今なのだろう。それが分かった分、俺も何も言わなかった。 宿屋の二階、借りていた部屋へとイロアスに送り届けられる。部屋の中まで入ってこようとするイロアスに、「ここまでで大丈夫だ」と言おうかと思ったがもしかしたら一人になりたくないのかもしれない。 だから俺はなにも言わずにイロアスを部屋に招き入れた。 「……本当に、身体は大丈夫なんだよな」 そして、ようやく口を開いたと思えばそんなことを言い出すイロアス。 ベッドをソファー代わりに腰を降ろせば、俺の目の前に座り込むイロアスが恐る恐る身体に触れてくる。 「大丈夫だって言ってるだろ。それに、あんなの、魔犬に噛まれるよりも痛くない」 「なら良かったけど……」 「それにしても、お前は有名人だな」 何故か自分のことのように落ち込んでるイロアスの気分を変えさせたかった。だから適当に話題を入れ替えたのだが、イロアスの表情は更に曇るのだ。 「……今度から、夜出歩くときは変装した方がいいかもしれないか」 「諦めろ。お前のその華やかさはどうやっても隠せないだろ」 「……っ、華やか……って、」 一応褒めたつもりなのだが、妙な反応するイロアスに「違ったか?」と尋ねれば、あいつはブンブンと首を横に振るのだ。 「……お前も、そういうこと意識するのか」 「なんだ、どういう意味だ」 「人の身なりになんて、興味ないのかと思ったから驚いただけだ」 「……まあ別に、シーフたちみたいに騒ぐほど興味はないけど。だとしても、お前は綺麗だろ」 いや、この場合は色男が正しいのか。 なんて考えてると、益々イロアスの顔が歪む。 「嫌だったか?」 「い、嫌とかじゃなくて……その、不意打ちというかだな」 「何言ってんだ。もっと俺よりも口上手いやつらに褒めまくられてきただろ」 「それところとは全然違うだろ。だって、スレイヴは……全然、俺が髪切っても気付かないくらいだしな」 「気付いてはいたけど、別に言うことなかっただけだ」 「ほら、そういうところだよ」 なにが『ほら』なのかよくわからなかったが、ほんのり赤くなってるイロアスの表情を見るに、先程の落ち込んでるよりかは幾分マシになっているように見えた。それだけでも俺は十分だった。 「それに、イロアスはどんな髪型でも似合うに決まってるからな」 「ぉ、お前さあ……」 「……変な顔だな、イロアス」 「スレイヴ……誂わないでくれ」 「誂ってはない、俺はそんなつまらないこと言わない」 そう応えれば、イロアスは「そうか」と目を伏せる。そしてそのまま人のベッドに座ってくるのだ。 「……スレイヴ」 ぎし、とスプリングが軋む。こちらを覗き込んでくるイロアスに、俺は先程の言葉を思い出した。 「そういえば、間に合ってるって言ってたな」 「は?」 「さっきの客引きに。……ってことは、お前も、……ああいうところは使ったりするのか?」 そういえば、と昼間配達に行った娼館のことを思い出す。俺はあの区域に行ったのは初めてだったし、娼館の女店主はイロアスのことも知ってた。 ということはイロアスたちがクエスト帰りでも寄ったということになる。 ほんの軽い世間話のつもりで言ったつもりだったが、イロアスの顔が赤から青になるのを見て「ん?」となった。 「使った、わけじゃない。あれは……そうだな、シーフが……違う、たまたまあの娼館にはお世話になる機会があって……いやでもその、そういうお世話になったわけじゃない。俺は。シーフは知らないけど」 「なんだお前……急に口数多くなったな」 「す、スレイヴが変なこと聞くからだろ……っ!」 ムキになってるイロアスも久しぶりに見たかもしれない。少し可笑しくて、「ふうん」とそのままイロアスを見つめる。 「随分と気に入られてたぞ、お前も。『また遊びに来てくれ。タダにしてやる』ってな。……楽しかったか?」 「スレイヴ……っ、俺は、確かに誘いを断るのは失礼かと思って金は払ったけどそういうことはしていない。信じてくれ……」 「……くく、ふふ……ッ」 「……スレイヴ?」 「わ、悪い……ッ、すこし、お前の反応が面白くて」 最初からイロアスの言葉を疑うつもりもなければ、例えイロアスが女を買ったとしても俺がどうこういうつもりは毛頭なかった。 ただ、寂しくないと言えば嘘になる。けれど、実際はどうだ。あまりにも必死に弁明しようとしてくるイロアスについ笑みが漏れてしまい、腹を抑える俺にイロアスの眉がぴくりと動いた。 「……スレイヴ、お前、人で遊んだのか?」 「遊んだわけじゃない。……けど、お前の反応は確かに面白かったけどな。――俺がお前を疑うわけ無いだろ」 そう答えたとき、イロアスと目があった。そしてぎょっとする。 こいつ、なんて顔をしてるのだ。 青くなったり赤くなったりしてると思いきや、今度はやけに真剣な目で見てくるイロアスに内心ぎくりとした。 「……お前な」 「イロアス、怒ったのか?」 「怒ってない。……けど、これ以上誂わないでくれ。俺にも、限界ってものがある」 ベッドの上に置いていた手をイロアスに握られ、息を飲む。ここ最近はこういうことをしなかっただけに、思わず「イロアス」と声が上擦った。 「さっきの話、間に合ってるって言ったのは……こういうことだ。スレイヴ」 「っ、お、おい……待て、俺、まだ風呂……入ってない」 だから、と慌てて腰を浮かしてベッドから逃げようとするも、「このままでいい」と伸びてきたイロアスに手首を取られる。そのままやんわりと引っ張られ、ベッドに押し倒されそうになり、心臓が早鐘を打つ。 「……っ、スレイヴ」 あまりにも性急な男だ。相変わらずどこでスイッチが入ったのかもわからない。太股に押し付けられる股間の感触に息を飲む。「スレイヴ」ともう一度、身体を重ねるように覆い被さってくるイロアスに耳元で囁かれれば、疲労の残った身体に甘く染み渡っていくのだ。 久しぶりだったのは俺も同じだ。擦りつけられる膨らんだ性器を受け入れるため、ゆっくりと足を開く。 「……好きに、しろ」 この男の性処理を行うことも、雑用である俺の役目なのだから。 「っ、ん、く……ぅ……ッ」 何度抱かれようが、この感覚に一生慣れることはないだろう。 ベッドの上、覆い被さってくるイロアスの長い指が中に入ってくるのを感じながら、顔を腕で覆い隠す。中でイロアスの指が動く度に、腹の中でぬちぬちと嫌な音が響くようで落ち着かなかった。 前立腺を探るような動きだったその指が、凝り固まり始めていたそこを撫でた瞬間、背筋がぶるりと震える。 咄嗟に俺は口を塞いだ。 「っ、ふ……ッ、ぅ……ッ」 最初はこそばゆいだけだったはずなのに、今では指の腹でくるりと撫でられたり、何度も柔らかく引っ掻かれるだけで全身が一気に熱くなる。むずむずして、強制的に性感を高められるような感覚は怖くすらあった。 「っ、ん、く……ッ、ふ……ッ」 「……っ、スレイヴ」 「待ッ、ゆ、っくり……しろ……っ!」 「努力は、する……っ、けど」 ――けどってなんだ。 そう、目の前の男を見上げようとした瞬間だった。いきなり膝裏を掴まれ、大きく片足を持ち上げられる。 大きく広げられた下半身、必然的に肛門を明かりの下で曝すような形になり、顔がカッと熱くなった。 「っ、おい……ッ!」 今更とはいえどだ、流石にこの格好はあまりにも滑稽だ。 恥ずかしさに耐えられず、咄嗟に足を閉じようとした矢先だった。中に挿入されたままになっていた指に大きく中を広げられる。 そして次の瞬間、柔らかく解された肛門にぴたりとくっつく異物に思わず息を飲んだ。視線を下げ、自分の下半身に目を向ける。 ぴたりと肛門に推し当てられ、どくんどくん、と心音に合わせて脈打つそれはイロアスのものだった。既に硬く、大きく膨らんだその性器の熱、そして質量に堪らず固唾を飲む。 「なんで、もうこんなにデカくなってんだよ……」 「お前が、さっきから可愛いことばかり言うから……」 「……っ言ってねえよ」 「言ってる。……ずっと」 先走りを滲ませたその亀頭でゆっくりと柔らかく膨れあがった肛門を撫でられ、カリの凸部分で引っ掻かれただけで思わず「んっ」と小さなこえが漏れそうになった。 それだけで、また股の間でイロアスのモノが大きくなるのだ。 「……っ、は、スレイヴ……」 「ん、く……ッ、ぅ……」 「スレイヴ、逃げるなよ。……っ、お前だけは……」 「な、に言って……っ、ん、ぅ、それ……やめろ……ッ」 「それって、どれ?」 分かっているくせに、言いながら更に亀頭の更に先っぽだけを埋めようとし、抜かれる。ぐぷ、ぐぽ、と品のない音を立てながら、勇者様はそんな焦らすような戯れに耽るのだ。 自分だってさっさと挿入したいくせに、わざと人で遊んでる。分かったからこそムカついて、絶対に言ってやるものかと顔を逸らそうとすれば、「スレイヴ、言ってくれ」とイロアスはさらに覗き込んでくる。 「い、わねえ……っ」 「……怒ったのか?」 「怒って、ない……っ!」 「本当に?」 「っん、ぅ……っ!」 カリで入り口のところを引っ掛け、焦らすように肛門を緩く犯される。空気が混ざるたびに品のない音が響き、呼吸は浅くなった。 いつ奥まで挿れられるのか、そんな風に考えてしまってる内に下半身に力が入っていたようだ。 「もどかしいか?」 「ん、う、るさい……っ」 「中、ヒクヒクしてるぞ」 その言い方もやめろ、とイロアスを睨んだとき。亀頭が先程よりもず、と奥に進んでくる。 くると分かっていたのに、その感覚に驚いてしまう。咄嗟に口を閉じ、顔を逸らす。ゆっくりと、こちらの様子を見ながら更に腰を進めてくるイロアスに鼓動は加速する。 「っ、ん、ぅ……ッ、く……ッ」 「は、スレイヴ……締め過ぎだ。少し力を抜け……っ!」 「……っ、ぅ、む、ちゃ、いうな」 ず、ず、と粘膜を掻き分け押し入ってくるイロアスの性器。その形に合わせて中が収縮し、より性器の形まで鮮明に伝わってくるようだった。お互いの鼓動が混ざり合う。 「は、……っ、く……ッ」 いつぞやの性急な行為も俺にとっては酷だったが、これもこれでなかなかだ。呼吸する余裕もあるからこそ余計、生々しく、そしてより鮮明にイロアスを意識してしまう。 顔を隠そうとした腕を掴まれ、そのままキスをされた。唇、頬、目尻へと唇を落としながら、そのままゆっくりと腰を推し進めていくイロアス。 そのカリの部分が弱いところを掠めた瞬間、「っ、あぅ」と小さな声が漏れた。目を丸くしたイロアスに気づき、ハッとした俺は慌てて唇を噛む。 「っ、スレイヴ……」 「う、るさい……っ、早く、すませろ……」 「おい、まだなにも言ってないだろ」 「言わなくてもわかるんだよ、お前は……」 「……っ、可愛い」 「っ、だから、言うな……ッ! ぁ、っ、く、ぅ……ッ!」 「可愛いな、スレイヴ」 「い、ッ、や、めろ……ッ、ぉ……っ」 かぷりと耳朶を甘噛みされる。吹き掛かる吐息の熱に、ゆっくりと根本深くまで挿入される性器の感覚に頭の中までもが溶かされていくようだった。 今まで恥ずかしいことはされてきた、そんな今までよりも比にならないほどイロアスの言葉に全身が熱くなる。 「は、ッ、ぁ……ッ、く……ッ」 可愛い、と何度も譫言のように囁かれ、キスをされる。 そんなこと言われても嬉しくない。かっこいいと褒められた方が嬉しいに決まってる――そう思っていたはずなのに、イロアスに囁かれる度に体温は増し、全神経が昂ぶっていくのがわかった。 「っ、声……我慢するなよ、聞かせてくれ」 「い、やだ……っ」 「嫌だじゃないだろ、ほら」 「……ッ、ぅ、あ……ッ!」 太ももを掴まれ、そのまま腰を打ち付けられる。下から内臓ごと柔らかく押し上げられ、目の前が真っ白に染まった。 仰け反りそうになる体を抱き込まれたまま、更に腰を打ち付けられた。軋む寝台の上、抱き締められた体はイロアスから逃れることはできなかった。 「っ、い、ろあす……っ、ん、む……っ」 キスをされ、頬を撫でられる。何度も角度を変え、より深くまでイロアスに貪られるのだ。 「っ、スレイヴ……ッ」 「っふ、ぅ゛……ッ、く、うぅ……ッ!」 堪えたいのに、奥を突かれれば自然と声が漏れ出てしまう。イロアスも昂ぶっているのか、先程よりも激しくなる抽挿に思考ごと乱される。 二人分の鼓動が混ざり合い、体内に響く。腰に食い込むイロアスの指に更に腰を掴まれたまま、激しく腰を打ち付けられた。 「っ、ぁ……ッ! う、まっ、て、イロアス……ッ!」 「……っ、悪い、無理だ」 「ッ、ぉ、まえ――……ッ、ん、ぅ゛……ッ!」 腰を持ち上げられ、更に奥まで突き上げられる。瞬間瞼裏が白く明滅し、全身の毛穴が開いたみたいに汗が吹き出した。 「っ、ぅ゛、あッ、……ッ!」 「……っ、スレイヴ、苦しくないか? っ、は……よかった、勃起してるな」 「っ、や、め、……ッ! んんッ!」 伸びてきた手に勃起した性器を扱かれながら、臍の裏側を亀頭で何度も摩擦される。最奥を亀頭で押し上げられる度に開いた喉から声が溢れそうになり、咄嗟に口を閉じた。 イロアスはそんな俺を見下ろし、意地でも声をあげさせようとするかのようにさらに執拗に奥を責めた。ぐちぐちと亀頭で結腸の入り口をこじ開けられそうになり、やめろと声にならない声を漏らしたとき。 「ッ、う、ぁ゛……――ッ?」 ずん、と脳味噌を貫通して頭の先まで抜けていくような衝撃に、全身貫かれたみたいにぴんと背筋が伸びた。恐る恐る己の下半身に目を向ければ、そこには深々と根本まで突き刺さったイロアスの下半身が見える。 性器を握られたまま、そのままピストンを再開させるイロアス。そのまま奥の窄みに亀頭の凹凸を引っ掛けるように性器を抜き差しするイロアスに、俺は堪らず仰け反った。 「っぅ゛、あッ、ぁ……ッ!」 「……っく、ぅ、スレイヴ……ッ」 せめてゆっくりしろ、という言葉を口にすることもできない。 ひたすらイロアスに体の奥まで嬲られ、俺は呆気なく絶頂を迎えた。 それでもイロアスは止まらなかった。更に興奮したように、熱すらも引いていない体へ追い打ちを掛けるように中を嬲り、性器を弄ぶ。痙攣の収まらない中の感触を味わうように貪られ、そして中に大量の精液を注がれた。 それから何度も、留まるどころか余計焚きつけられたらしいイロアスに朝方まで犯される羽目になる。せめて休憩させろとイロアスに抗議したらなんとか水くらいは飲ませてくれたがそれもつかの間、再び寝台へと引きずり込まれることになる。 ――そして朝。 「っ、は……ぁ゛……ッ」 最早声すらまともに出すことはできなかった。 途中からもう何度達したのかもわからない、舌先も痺れ、喉も乾き、長時間の挿入で腫れ上がった内壁は撫でられるだけでもびくびくと恐ろしいほどに感じてしまうほど過敏な状態になっていた。 そんな状態で、中に出されたまま溜まった精液のお陰で更にスムーズになった抽挿により萎えることをしらない性器で何度も犯された。 流石に憐れんだのか、途中挿入やめて休憩させる代わりに胸を散々弄ばれたが、結局勃起を抑えられなくなったイロアスに中を犯される羽目になる。 これが終わったらやめる、なんていうやり取りすらもなくなった。 一体、いつになったら寝させてくれるのだ。 そんな頭の中、俺はとうとう意識を手放した。 ◆ ◆ ◆ 「スレイヴ、悪かった」 「……それは、なんに対する謝罪だ?」 「昨夜、無理をさせた」 「昨夜というより、今朝だろ」 そう言い返せば、イロアスは言葉に詰まる。 結局あれから一睡もできないまま他のパーティーのメンバーと合流する羽目になり、朝イチで馬車に揺らされることになる。これがもう地獄だった。足場の悪い道を通る度に下半身に直接ダメージは来るし、対するイロアスはというと何食わぬ顔して他の連中と談笑している。 馬車内で俺が一言も発してなかったことからイロアスも察したようだ。目的地に辿り着き、馬車を降りて宿泊予定地の宿の部屋をとったあとすぐさまこいつは俺の部屋にやってきた。 ――そして、現在に至る。 「悪かった。……一応、自制したつもりだったんだ」 あれでか、と言いかけてやめた。 こんな昼間っぱらからこんな生々しい話をしたくない。「分かった、もういい」と、俺は勝手にしょげているイロアスの肩を叩く。 「それより、飯に付き合えよ。……腹減った」 イロアスが集合時間ギリギリまで行為をやめなかったお陰で飯を食いそびれたのはこいつも同じだ。イロアスは「分かった」と何故だか嬉しそうに笑うので、なに嬉しそうにしてるんだと脇腹を小突き、そのまま部屋を出た。 俺も大概こいつに甘いのかもしれない。 とは言えど、嬉しそうなイロアスを見てると悪い気はしないのだから仕方ない。そんなことを考えながら、俺達は二人で宿を出た。 おしまい
パイ生地製作委員会
2023-08-02 01:37:24 +0000 UTC