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田原摩耶
田原摩耶

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灘と十勝とAV鑑賞会をする齋藤SSS【↑300/4,300文字/十勝+灘×齋藤/ほのぼの】

 ――面白いもの見つけた。  そういう十勝に呼ばれてやってきた生徒会室には灘がいた。 「齋藤君、どうも」 「あ……こんにちは、灘君」 「お、和真! 丁度よかった、なあ見た? これ」  そう言いながら生徒会室のデスクの影から持ち出したのは紙袋だ。  もしかしてそれが俺に見せたいと言っていたものなのだろうか。そろりと近づき、中を覗き込んだ俺はそのまま固まった。 「と、十勝君これ……っ!」 「退学処分を受けた生徒の部屋から押収したものですよね。処分したはずではなかったのですか?」 「するよ、するする。けどやっぱ気になんじゃん」  なあ、佑樹!と肩組んでくる十勝。紙袋の中に入っていたのは見るからに未成年が見てはいけないような際どいタイトルとパッケージの映像ソフトだった。  そして十勝は言いながら、その紙袋の中にみっちりと詰まったうちの一枚を取り出す。  こちらへと見せてくる十勝に、俺は慌てて飛び退いた。 「と、十勝君、もしかして見せたいのって……これのこと……っ?!」 「はは! すげーいいリアクションするよな佑樹って! そうそう、三年の先輩の部屋から出てきたコレクション。いくら女っ気ないとはいえこの量エグすぎんだろ」 「だ、駄目だよ、これ俺達が見ちゃ駄目なやつだって……!」 「まあまあ、少しくらいならバレねえって。会長も今いないし、それに即破棄すんのも可哀想じゃん?」 「それは十勝君が見たいだけでは?」 「んだよ和真、お前も少しはこういうの興味ねえの〜?」 「自主的に見ようとは思いません」  バッサリだった。  取り付く島もない十勝は「まじで?」という顔をしていたが、俺は灘が灘で安心した。これなら二対一の図で十勝の凶行を止められるのではないか、そう思った矢先だった。 「ならせっかくだし観ようぜ」  何を言い出すのだ、この男は。 「と、十勝君……?!」 「こんなこともあろうかと、佑樹来る前に用意してたんだよなあプレイヤー。視聴覚室からスクリーン借りる手もあるけど流石に昼間からそれはドギツそうだなって」  どっちもどっちだ、というかそんな配慮ができるのなら俺を巻き込まないでほしい。  早速プレイヤーの準備し出す十勝に、どうにか灘に助けを求めようとする。 「な、灘君……」 「齋藤君も興味があるのですか?」 「な、ないよ。というか“も”って……」 「こういったことも何事も経験だと教わってきましたので」  真面目か。いや、真面目ではない。なんなんだ。 「ほら二人ともこっち座れって、あ、ジュースとお菓子も用意してんだったわ!」  なんでそんな映画感覚でAVを観ようとしてるのだ。味方だと思っていた灘がさっさとソファーに腰を掛けてるのを見て、俺はなんだか既に疲弊しきっていた。  ああ、もう怒られてでもいいから会長来てくれ。そんな気持ちのまま、俺は十勝に引っ張られソファーに座らされることになる。  ◆ ◆ ◆  暗幕カーテンをしっかりと締切、流石に音を大音量で流すのはまずいと思ったのか常識の範囲内のボリュームまで絞り、それをスピーカーで聞かされる。生々しいどころではない、一抹のグロテスクさすらある他人の性行為の映像を直視することなどできなかった。 「うわ、この子かわいい! なあ和真どっちが好み?」 「骨格からしてこちらの方の方が健康的そうで好ましいですね」 「骨格って。なあ佑樹……佑樹全然見てねえじゃん!」 「み、見てるよ……たまたま天井見てただけだって……」 「本当か〜? てか二人とも全然興奮しねえじゃん」  こんな状況でできるわけないだろ、と喉元まで出かかってやめた。何を言ってもボロが出てしまいそうだったし。  昔からこうだ、異性の裸だったりそういう他人の性行為に大してマイナスの感情を抱いてしまうのは。自分がいい思い出がないせいでマイナス補正がかかってるだけかもしれないが、正直見てて気持ちいいものではない。  灘は知らないが。 「和真は画面ガン見なのに勃起すらしてねえのな」 「動物の交尾見てて性的興奮を覚えることはありませんので」 「ど、動物……?! お前、生物の教材ビデオ見に来たつもりで見てんのか?!」 「……? それ以外になんの目的が?」 「ま、待て……俺がおかしいのか?」  さらりと投げられる爆弾に十勝の方が狼狽えていた。正直灘の楽しみ方もよく分からないが、まあ灘なら言いかねないと思っている自分もいた。 「十勝君も興奮しているようには見えませんが」  そんな中、灘の指摘に十勝は少し焦ったような顔をするのだ。 「いやま〜だってそりゃ、そういう気分になれねーじゃんこんな人数だったら」 「一人で見た方が集中できると」 「そりゃそうだろ! ……ま、でもどうなんだろうな〜。こういうのってやっぱどうしても作り物って感覚で見ちゃうからそこまでハマんねえんだよな」 「え……十勝君でも……?」 「いやいや、佑樹さらっと失礼なこと言ったな?! ほら、やっぱ生身の彼女が一番いいってなるっしょ絶対」 「……そうなの?」と灘に目を向ければ、灘は「さあ」と答える。 「あ〜! このメンバーじゃ同意が得られねえ……やっぱ栫井も連れてくるべきだったか……?」 「か、栫井の方がその辺り割り切ってそうな気もするけど……」 「んじゃ五味さんか? やっぱ」 「五味先輩なら確かに参考になりそうですね」 「い、いや二人とも……絶対怒られるよ……」  確かに五味ならば感性がまだまともなので色々話聞けそうだが、というかどんどん被害者が増えていくんだけども。 「会長は絶対無理だろうな、なんならプレイヤーごと叩き壊されそう!」 「それについては同意ですね」  会長がAVを見るなんて想像できない。ましてや画面の中の女性に興奮する会長なんて。  少し想像してしまい、罪悪感で一人で頭を抱える中「せっかくだし普通の映画でも見るか?」なんて言いながら紙袋の奥から取り出したディスクを取り出す十勝。  この映像が止められるのならこの際なんでもいい、「そうだね」と十勝に同意した矢先だった。  十勝ががらりと生徒会室の扉が開いた。 「なんだ、お前らいたのか」  会長が現れた瞬間光の速さでプレイヤーの電源をひっこ抜く十勝だったが、ほんの一瞬スピーカーから漏れ出た女優さんの喘ぎ声を会長は聞き逃さなかった。 「……おい、いま何をしてた?」 「い、いや、その〜……」 「この間退学処分を受けた生徒から押収した物の確認をしていました」 「か、和真君?! 正直者か?!」 「ほう、あのAVか。こんなに部屋を真っ暗にして、人の恋人まで巻き込んでか?」 「か、会長……」  会長が俺のことを恋人扱いしてくれることに密かに照れている場合ではない。見て取れるほどの会長の怒りに思わず震える。それは十勝も同じだった。 「……まあ、色々言いたいことはあるが一先ず部屋を片付けろ。あと換気もしろ。……それと、君は俺と来い」  “君”とこちらを見た会長に「はい」としか答えられなかった。はわわと狼狽える十勝の横、普段通りテキパキと食べカスを片付ける灘たちと別れて俺は芳川会長の側へ行く。そのまま十勝から件のブツを袋ごと押収した会長は生徒会室を後にするのだ。  どこへ行くのだろうか。恐ろしかったが、俺から聞けるような雰囲気でもなかった。 「しかし驚いたな、君でもこういうものに興味があるのか」  ――生徒会室前通路。  歩きながら、そんなことを尋ねられぎょっとする。 「い、いえ……その……」 「じゃあ、やはり十勝のやつに無理矢理付き合わされたのか」 「う、えと……」  ごめん、十勝君。上手い言葉が見つからない。  そのまま言葉に詰まれば、会長は呆れたように息を吐いた。 「まあ君も男だ。興味を持つなとは言わないが、せめて隠れてやれ。……まあ、今回はあの馬鹿に付き合わされただけだろうが」  正直、俺は会長の言葉に驚いた。  そういう物事についてどこか潔癖の気がしていた会長だからだろう、そんな風に許してもらえるとは思わなくて思わずその横顔を盗み見る。そのとき丁度こちらに目を向けた会長と目があった。 「なんだ?」 「あ……あの、もっと怒られるのかと思って……」 「怒ってどうする? 俺も流石に生理的な部分にとやかくいうつもりはない」 「せ、生理的……」 「それとも俺がそこまで制限するようなやつに見えたのか?」 「い、いえ、その……」  会長はきっと下手に誤魔化しても俺の考えてることも全部気付いてるのだろう。なるべく適切な言葉を探すが、見当たらない。 「……会長は、こういうの嫌いなのかなと思ってたので」 「俺が?」 「は、はい……」  そう紙袋に目を向けた会長は小さく笑った。 「少なくとも後輩を前にして『いや、俺は大好きだ』と言うことはないだろうな」 「あ、……ご、ごめんなさい」 「謝らなくていい。それに、君にそんな風に興味をもってもらえること自体は嫌ではない」 「……っ、……」  それはどういう意味なのか。  そう問いかけるよりも先に、会長は倉庫の前に止まる。どうやら押収物を仕舞うためにやってきたようだ。「少し待ってろ」と声を掛け、会長はそのまま倉庫の中へと入っていく。  暫くもせずに会長は俺の元へと戻ってきた。 「待たせて悪かったな」 「そんな、全然」 「あいつらも生徒会室の掃除が終わった頃だろうか。……齋藤君、これからの予定は決まってるのか?」 「いえ、特には」 「口直し、というわけじゃないが……あいつらに付き合わせてしまった埋め合わせをしたい。君の時間をもらってもいいだろうか」  断る理由もなかった俺は「はい」と慌てて頷いた。会長は微笑む。いつも通りのどこかニヒルな笑顔だったが、会長の笑顔を見るとどこか安心した。  それから生徒会室に再び戻ったところ、中に残っていたディスクの再上映会が始まっていたため十勝と灘がしばらく正座させられていたのはまた別の話だ。  おしまい


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