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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(32)『ひげを剃る瑠璃』

「ここ最近ずっと気になってたんだけどさ」  瑠璃に遅れて数日後、春休みに入ってすぐの朝、俺は瑠璃に言った。 「瑠璃、ひげが濃くなってる。家でも剃るようにした方がいいと思う」  言葉だけ見るとかなりのパワーワードだよなと思う。とても中学生の女子に言うことじゃない。  でも今の瑠璃は中学生の男子なんだからしかたない。 「やっぱり?」  当の瑠璃も、俺の指摘を平然と受け入れて口元を撫でた。 「まだ床屋行って一ヶ月なのにね」  小学生の時、そして中学一年の時、『光彦』だった俺は床屋のたびにひげを剃ってもらっていて、それで済んでいた。それは瑠璃が『俺』になってからも変わらなくて、二ヶ月に一度の床屋で今までは問題なかったのだけれど……。 「しょうがないだろ。思春期ってやつなんだから」 「そうだねえ」 「元に戻った時にひげもじゃなんて嫌だから、今のうちに剃っておいて」 「はーい」  会話をしながら思う。  この二年近くの間に、『光彦』の身体は男子の思春期をあらかた経験してしまったような気がする。  背が伸びて、声変わりして、女子に告白されて、ひげも濃くなって。  つまりそれは全部、瑠璃の経験。  俺が経験したものは、入れ替わる前の精通だけ。射精の回数についても、もう瑠璃の方が圧倒的になっている。  本当は瑠璃は誰もが認めるくらいの美少女なのに、典型的なまでの男子中学生としてこの二年間を生きていた。  そして一方の俺は、『光莉』として生理を経験して、男子に告白されて、女子と会話するのが当たり前になって。  すっかり女子中学生として二年間を暮らしていて。  まあ、それも四月一日までのことだけど。元に戻って、瑠璃の記憶を受け継げば、どの経験も俺のものになるのだから。  そんなことを俺が内心で考えている間に、瑠璃は外出の支度を整えていく。 「ひげ剃りとか買いに行くけど、みっくんも来る?」 「え、なんで?」 「わたしが使うのは今日とあと一回くらいで、それからはずっとみっくんが使うんだもの。みっくんが選んだほうが良くない?」 「んー……でも、最初に使うのは瑠璃だし、瑠璃が好きなのを選んでよ」  そう言って送り出した言葉に嘘はなかったけれど。  正直、今ドラッグストアに行って男性のひげ剃り用のあれこれを選べと言われても、ちゃんと選べる自信がなかった。 *  その晩の風呂で、瑠璃は初めてひげを剃った。 「まずは先に顔を洗った方がいいみたい。顔の汚れを落とす必要があるし、ひげが柔らかくなるんだって」 「へえ」  そして瑠璃は、シェービングクリームを顔の下半分あちこちに塗りたくっていく。  すごく、男子だなと思った。  女子なら、顔を洗うにせよ、パックするにせよ、顔の全面を覆う。下半分のところどころだけにクリームを塗るのは、男以外ありえない。  T字型のひげ剃りを手に取って、剃っていく。白い泡と共に黒いひげが削り取られるように消えていく。湯を張った洗面器にひげ剃りを入れると、白と黒が入り乱れて灰色に見えた。 「あ」 「どうしたの?」 「ちょっと、チクッとした」  言いながら唇の少し下を指でさす。  と、少しすると、白いシェービングクリームに赤がにじんでいった。 「大丈夫?」 「大したことはないけど、ごめんね、みっくんの顔に傷つけちゃった」 「瑠璃が大したことないなら、それくらい別にいいよ」  クリームなどを洗い流すと、瑠璃の顔は床屋に行った直後のようにさっぱりしたものになっていた。  二人で湯船に浸かる。  向かい合って瑠璃の顔を見れば、血がにじんだところには、ほんの小さな傷。 「簡単にはいかないね。何度もやってれば慣れると思うけど」 「そんなことにはならないしな」  温まった後、湯船から出て、俺は瑠璃の背後に回ると手を伸ばす。  俺の手がまさぐる中、瑠璃のアレが硬さを増しながら大きくなっていった。  いつものように。  こうなった直後は、触っているのに触られている感触がないことに違和感しか覚えなかったのに。  幼なじみで大好きな瑠璃に射精をさせることに、最初のうちは罪悪感を覚えたこともあったのに。  それと裏腹に、美少女の瑠璃に男の快感を味わわせることに、倒錯した喜びを覚えたこともあったのに。  今はもう、自分が女であることも瑠璃が男であることも、ごく自然なこととして受け入れていた。  少し不安にはなるけれど、そんな風に異性の感覚を身に着けたことは、決して悪いことではないはずで。 「あのさ」 「ん?」 「瑠璃が何を願ってこうなったのかは知らないままだけど」 「その、ごめんね」 「別にいいよ。言いたくなった時に言ってくれれば」 「うん……」 「二年間、瑠璃がお兄ちゃんで俺が妹のこの関係になれて、よかったって思う」  少し気恥ずかしくて、瑠璃の返事を待たずに話し続けた。 「もし瑠璃がただ光莉と入れ替わってたら、俺、何か気まずくて、光莉を相手にする時よりも距離を取ってたと思う。でも、瑠璃は男になって、俺は女になって、身体の記憶は読み取れてもやっぱり戸惑うことや困ることはいくつもあって、だけど家族として瑠璃が隣にいるから、色々聞いたり話したりして、すごく楽になれた」 「わたしも、だよ。みっくんと兄妹になれて、わたし、こうなる前よりもずっとずっとみっくんに近づけた」  瑠璃も同じように思ってくれていることがうれしかった。 「いつまでも兄妹なのは困るけど」 「うん、俺も」  もうすぐ俺たちは元に戻る。  そうなればきっと、瑠璃は男子の感覚をわかる女子になるし、俺は女子の感覚をわかる男子になれる。そして家族でなくなった俺たちは……。  間近に迫った未来を思い描きながら、俺は瑠璃を射精させた。

Comments

最後の一行 いいですね。 この作品でしか! いつもありがとうございます。

丸井主将


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