幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(23)『部誌掲載作品(一部抜粋)』
Added 2024-12-31 07:05:05 +0000 UTC(前略) 明るく人当たりが良く、バカな男子をやり込められるくらい頭も良くて男勝り、それでいて大人相手には行儀良くおしとやかにも振る舞える。あたし、佐藤一美が小学六年になるこの春まで築き上げてきたのは、そんなキャラクターだった。 でも、一夫ちゃんと入れ替わると、何もかもうまくいかなくなった。 テスト用紙の名前欄に、今回も「佐藤一夫」と書く。「夫」は「美」より書きやすいけど、書くたびにあたしは今の自分が男子であることを思い知らされる。 幼稚園卒園まで暮らしたこの町へ五年ぶりに戻ってきて、五年ぶりに再会した幼なじみの男の子。まさかそんな相手と入れ替わって、その子として暮らしていくことになるなんて。 今はまだ半年だけど、このまま元に戻れなかったらどうなるんだろう。あたし、男として大人になるんだろうか。男として結婚して、女の人を妻にして、自分はその人の夫になって。その状態でこどもができたら、あたしは父親に…… 軽く頭を振って、あたしはテストの問題に集中する。 授業が終われば休み時間、あるいは昼休み、あるいは放課後。でもそれらの場面であたしは全然うまく振る舞えなかった。 高いつもりでいたあたしのコミュニケーション能力は、都会の成績のいい女子小学生として磨かれたものなのだと入れ替わってから理解した。田舎のバカな男子小学生相手にはなかなか通用しない。あたしを田舎の男子小学生として扱ってくる大人たちにも、さっぱりだった。 あたしの身体の一夫ちゃんを、目で追ってしまう。『一美』としてはバツだらけの日常生活。元に戻ってからあたしは『あたし』のイメージをどう立て直せばいいのかと、頭を抱えたくなるような言動ばかり。 でも、女になった男の方がまだマシなんじゃないかと、あたしはつい考えてしまう。 女が男っぽくしていても、叱られたり変な目で見られたりすることはもちろんあるけれど、そこには一種のかっこよさもある。男前な女子というやつは、男装女性が活躍する歌劇団などを見てもわかるように、特別な魅力もあるのだ。 そんな「彼女」が、たまに女の子っぽくしようとするのも可愛く映る。ギャップというやつだ。 逆に、男になった女はつらい。きつい。 女っぽい男なんて、オカマとしてバカにされるだけ。そこから男子っぽい仕草を覚えても、「オカマが男の振りしてる」なんてバカにされることもあった。女子が陰湿で男子がからっとしてるなんて大嘘だ。 早く元に戻りたい。 (後略) † 「入れ替わりものって、女の子になった男の子中心の話が目立つように思うの。何年か前のアニメ映画もそうだったし、何十年か前の映画とその原作の児童書もそうだった。だから、男の子になった女の子の視点で話を書いてみたらどうなるかなって思って」 俺に印刷した小説を渡しながら、瑠璃はそう説明した。 文化祭での部誌発行に向けて、読んだ本の感想だけでなく、創作もすることになっていた。 俺は、最近読んだ少女漫画――光莉が以前買っていて部屋にあった――に影響された、女の子と男の子の短くて軽い恋物語。書き終えてからあまりに女らしすぎないかと自分でも疑問に思ってしまったけれど、よく考えればこれは『光莉』の書いた小説として残るわけだし、瑠璃も問題視はしなかったから、これでよしとした。 一方の瑠璃は、三枚で済ませた俺よりかなり分量がありそうな紙の束を取り出した。 ちょっと目を通して、すぐ気づく。 「これ、あの話を基にしてるのか」 俺も昔読んだ記憶がある、小学生男女が入れ替わる児童書の定番。それを、一美になった一夫ではなく、一夫になった一美の視点から描いているようだ。 「うん。ところどころ変えてはいるけどね。二人が幼稚園の時にしたこととかはなかったことにしてるし、元女の子の転校前の知り合いとかも出してない」 そういう要素がなくなると、入れ替わった二人の変化と関係性だけがクローズアップされていきそうだなと思う。 でも、瑠璃にとってはそこが一番切実で、書きたくて、だからある意味余分な別要素は入れたくないんだろうな。 「四十年以上前に書かれた話だから、ちょっと今の感覚だとどうだろうってところもあるよね。同性愛への差別意識とか、大人が簡単にこどもを殴るとか」 「だよな、最初に読んだ時、ちょっとびびった」 「その辺も全部現代風に書き直せたらよかったんだけど、どう調整したらいいかわからないところもあって、時代は変えられなかったんだ。逆にあんまり昔っぽくできてないかなというところもあるし」 当人はあれこれ悩みがあるようだけど。 「俺は面白いと思ったよ」 「なら、よかった」 瑠璃は微笑んだ。 「でも、その……瑠璃も、やっぱりつらいことがあるのか?」 「わたしは大丈夫。みっくんがいつも隣にいてくれるから」 言われて、俺は真っ赤になってしまった。 ☆ 帰宅したわたしは、自分の部屋に行く。 ここは本当はみっくんの部屋なのに、我ながらずいぶん馴染んでしまったなと不意に思った。 スマホを出して、サイトにアクセス。 部室のパソコンからアクセスしているのと同じ小説投稿サイトだ。ネット上でテキスト作成して、パソコンでもスマホでも文章を書ける。わたしの下書き専用なので、みっくんもこのページにはアクセスできない。 いくつか作ってあるファイルの一つを選んだ。 みっくんに見せた、入れ替わり児童書のパロディ作品。でも、今日みっくんに見せてみたのは、このファイルからワープロ用のファイルにコピペして、ある程度削除してから印刷したもの。 わたしが書いているものは、他人に――先生やクラスメートはおろか、みっくんにすら――すべて見せられるほどきれいなものではない。 でも、書かずにはいられない。 女の子から男の子になって、何もかもが嫌というわけもないのだから。 † お風呂に入ると、あたしは少しだけほっとする。一夫ちゃんの家族の目が届かないお風呂は、この家で唯一気が休まる場所だ(トイレも人目は届かないけど、和式の便器には未だに慣れなくて落ち着かない)。 体を洗うよりも先に、あたしはチンポに手を伸ばした。 初めての射精は、先月。夜寝ていたら、おもらししたみたいにパンツの中が濡れていて、でも『母ちゃん』に話したら、男の子はそういうものだと言われて。後は『父ちゃん』に聞きなと言われたけど、あたしは入れ替わった初日にあたしの話をろくに聞かずにぶん殴ったあの人のことが信頼できなくて。 一夫ちゃんに訊いてもわかるわけないだろうし、あたしは図書室で本を読んだりして自分で勉強するしかなかった。 図書室の本よりよほど勉強の役に立ったのは、道端に捨てられていたエロ雑誌や河原に捨てられていたエロ漫画だった。大人向けだから鵜呑みにはできないだろうけど、それでも色々なことを教えてくれた。 チンポが硬くなるのは勃起と呼ぶこと、勃起をなるべく長く維持すると気持ちいいこと、射精までの時間が短いのは早漏と言われてバカにされるらしいこと……あたしが『あたし』のままだったら知るはずのなかった、知らなくても済んだ、そんなことにあたしはずいぶん詳しくなっていた。 「一夫ちゃん……」 あたしはあたしと入れ替わった幼なじみのことを考える。男の子なのに、女の子になっている子。男の子なのに精通を知らないまま、あたしに先を越されてしまった子。 男として今後の一生を生きていくなんて真っ平だ。でも、一夫ちゃんと結婚するとしたら……その想像は、あたしのチンポをさらに硬くした。 あたしは勢い良く射精して、脱力感を伴う疲れに身を委ねた。
Comments
コメントありがとうございます。 昨年もお世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。 入れ替わりも嫌なことだけではなくて、でもそれをストレートに口に出すことも相手に変な影響を与えてしまいそうで。面倒な状況って色々ありますよね。 お悔やみ申し上げます。 認知症が絡むと、他の場合とはまた違うご苦労があったかと思います。 そんな日々の一助になったのでしたら幸いです。
茶
2025-01-01 01:34:47 +0000 UTC素直な気持ち。 決して言えない願望? もしかしたら?のことですね。 こんな気持ちで年越しさせて 罪ですね。 次回の期待 大きいです。 今年は私も9月に父を亡くし ここ数年は認知症やら施設入居から入院 転院と なかなかなものでした。 茶さんもご家族のことでたいへんな思いをされておられるとか そんな茶さんの作品にはけっこう救われました。 さらにそのなかこうして年末の作品ラッシュ。 お疲れ様です。 「男の子になった女の子の視点」 茶さん作品の醍醐味 王道ですね。 ありがとうございます。 2024年もあとわずか。 ありがとうございました。 これからもよろしくお願いします。
丸井主将
2024-12-31 12:26:48 +0000 UTC