幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(1~7)
Added 2024-07-17 02:40:25 +0000 UTC1【転校する瑠璃と、神社での願い事】 「ほら、急がないとお兄ちゃん!」 「そんなあわてるなよ、光莉」 ツインテールを派手に揺らして先を進む妹に言い返しながら、俺は神社の石段を登って行った。四月一日の夕暮れ、辺りは次第に薄暗くなっている。 「だって瑠璃ちゃんもう待ってるんだよ!」 光莉にその名前を出されると、なおさら足は鈍る。 「今夜には出発するって話だし、会ってちゃんと話さなきゃきっと後悔するよ!」 わかってる。 でも気が引けて、会いたくない。 藤浦瑠璃は幼なじみだ。うちの隣にある寂れた神社の、さらに隣に住んでいる。 小さい頃は普通に遊んでいた。俺と瑠璃と一歳下の光莉、三人で神社の境内を駆け回り、鬼ごっこをしたりかくれんぼをしたり。 でも数年前、小学校の四年生くらいから、元から可愛かった瑠璃はさらにどんどん綺麗になっていった。長く伸ばした黒髪がまっすぐな、漫画に出てくる昔のお姫様みたいな美人になった。 男女の違い、みたいなことを嫌でも意識せざるを得ない年頃でもある。俺は同級生の男子とばかり遊ぶようになった。 瑠璃が好きだってはっきり意識したのは、たぶん小学五年の時。だけどそんなこと言えるわけもない。六年生の時も、去年中学に入ってからも、俺は瑠璃に対してぎこちない態度を取り続けていた。 でもそれだけなら、まだよかった。ちょっと距離が遠くなった幼なじみっていうだけなら、瑠璃が春から東京へ引っ越すとわかった去年の二学期明け、俺は普通に瑠璃に話しかけられたと思う。半年間一度も口を利かずにこうして妹にお節介を焼かせるなんてこともなかっただろう。 けど、去年の夏休みから……俺は、オナニーを覚えていた。 毎日毎日射精するようになって、毎日毎日瑠璃の顔を思い浮かべながら抜いていた。 頭の中で、毎日毎日瑠璃にいやらしいことをしたり、させたり、言わせたりした。 そんな変態が、現実の幼なじみとどんな顔をして何を話せばいいんだろう? ぐだぐだ考えているうちに、石段を登り終えてしまった。 薄闇の境内、賽銭箱の手前に、瑠璃がいた。 「みっくん」 瑠璃が俺に声を掛ける。光彦だからみっくん。物心ついた時から瑠璃は俺をそう呼んでいて、今になっても変わっていない。 今日も瑠璃は綺麗だった。 木の隙間から差し込む夕陽が、白い肌と長くまっすぐな黒い髪を引き立て合う。瞳は丸く大きくて、元々は可愛い垂れ目がちなのだけれど、ここ数年はバカな男子を相手にする時なんかは、目を細めるようになっていた。そうなるとちょっとした切れ長の目にも見えて、それはそれですごく美人だ。 体つきは全体がバランスよく成長している。特に胸は、小六ぐらいから大きくなってきている。 ……こんな時なのに、こういうことにばかり注意が向く自分が嫌になる。 「連れて来たよ、瑠璃ちゃん!」 「ありがとう、光莉ちゃん」 そして、俺と向かい合う。 「あの……」 あと数時間で引っ越すというこんな時に、瑠璃は俺に何を言うんだろう。何年も素っ気なくされた恨み言? さよならとか元気でとかの、ただの挨拶? それともまさか告白? ……いや、それだけはないだろう。 「その、お参り、しない?」 「え?」 思いもよらない言葉に、ぽかんと口を開けて間抜けな顔をしてしまった。 「ネットで見たんだけど、実はこの神社って評判らしいの。意外と願いごとが叶うって」 「へ、へえ」 なんだそれ。「意外と」って辺りがさらに微妙感を漂わせている。 「ま、まあ、そういやここにお参りなんてしたこと、ろくになかったな。初詣とか七五三くらいか」 「そうでしょ? 初詣も、最後は四年生の時だったし」 いや、うちは毎年――と言いかけて、俺と瑠璃が一緒に初詣に行ったのは小四の時だと思い出す。 そんなことよくすぐに思い出せるなと思いつつ、俺は肯いた。 「わかった」 「じゃあ、あたしもー」 便乗する光莉もついてきて、三人で賽銭箱の前に並んだ。財布なんて持ってこなかったので、ただ柏手を打って頭を下げる。不揃いな音が響き、瑠璃と光莉に俺も少し遅れて続く。 瑠璃は、何を願うんだろう。 考えながら目を閉じて頭を下げて、自分が何を願えばいいのかがわからない。 なら…… ――瑠璃と光莉の願いが叶いますように。 そう願った瞬間、光に包まれて何が何だかわからなくなった。 * ――おめでとうございます! アニメの美少女みたいな声をした誰かが、すぐ近くで話しかけてくる。 でも俺は、身動き一つできない。目も開けられないしこちらから話すこともできない。 ――あなたはこの神社の百万人目の参拝者です! 祀られている神であるわたくしが、記念にあなたの願いを叶えて差し上げます! いやー、害のない願いでよかったです。もし誰かを×したいだの×したいだのの邪まな願いだったら無視するつもりでしたよ? 美少女声はぺらぺらとしゃべりまくった。 ――で、同行されたお二人の願いを叶えることになるわけですが……光莉さんの願いはわかりやすくて叶えやすいんですけど、瑠璃さんの方はちょっと文脈を読み取る必要がありますね。 俺の困惑はお構いなしに、なおもしゃべり倒す。 ――なので、あなたにも関わっていただきます! 具体的には、あなたには光莉さんになってもらい、光莉さんは瑠璃さんに、瑠璃さんはあなたになるのです! え、と呆気にとられるうちにも話はさらに進む。 ――まあ、若い子の願いというものは気の迷いも多いですし、不具合があって戻りたいという場合は二年後の今日、この神社にまた来てくださいね! 待って、待って、俺が光莉になるって何? 瑠璃が俺になるってどういうこと? ――入れ替わりに際しては、新しい身体の記憶はすんなり読み取れるので大丈夫です。ただし、プライバシーもありますから、あなたになる瑠璃さんに知られたくない事柄がありましたらそれを心に思い描いておいてくださいね。ざっくりしたものでも、こちらでいい具合に調整しますので。 俺の気持ちなど知ったこっちゃないとばかりに話は進む。神様、人の話聞かねえな!? それでもとにかく、その辺は本気で考えるしかなさそうだった。俺になった瑠璃に知られたくないこと……色々あるけど、全部隠したら瑠璃が俺の振りもできなくなるってことだよ、な? だったら、最低限……俺の瑠璃への恋愛感情と、俺の性的なことに関すること、全部!! ――はい、了解です! -------------------- 2【俺になった瑠璃、その『俺』の妹になった俺】 気がつくと、俺は元の神社の境内に立っていた。頭が少しくらくらした。 神社を照らす夕暮れの景色に変化はない。今の変な現象が起きてから、あまり時間は経ってなさそうだ。 「今の……何?」 近くから瑠璃の声がする。 「瑠璃も、見たのか? 今の……夢みたいなもの」 瑠璃に顔を向けて話しかけながら、俺は自分の声がおかしなことになっていると気づく。妙に高い。まるで女子のように。 「瑠璃ってあたしのこと? ……って、あなた誰!?」 瑠璃はおかしなことを言い、いきなり俺を指さした。こんな失敬なことをする瑠璃じゃないのに。いや、それはともかく。 どうして瑠璃が、俺を見下ろしてるんだ? 瑠璃は中二になる女子にしては長身だけど、百六十二センチ。俺は百六十五センチ。なのに今、俺は瑠璃より十センチぐらい低い。 「今見せられたものが、実際に起きたんだと考えるしかないみたい」 男子の落ち着いた声がした。 そちらを振り向くと……『俺』がいた。 洗面台や風呂場の鏡で一日に何度かは見ている顔。でも、いつもの『光彦』よりは賢そうで、少し凛々しくすら見えてしまう。 「わたしは藤浦瑠璃だけどみっくんになっちゃって、みっくんは光莉ちゃんになっていて、光莉ちゃんはわたしになって。さっき教えられたことを信じれば、元に戻るには再来年の今日、またここに来ること」 そんな風に簡潔にまとめられた話を聞くうち、さっきの体験の中で聞かされた話を、俺もはっきり思い出すことができた。夢のような出来事だったけど、夢のように簡単に忘れてはしまわないようだ。 「じゃああたし、ほんとに東京へ行けるんだ! 二年で元に戻れるならちょうどいいって感じ!」 瑠璃の姿ではしゃぐその姿は、すごく光莉っぽかった。こいつもさっき聞かされた話を思い出して、しかもすっかり受け入れたようだ。 「て、お前、そんな願いだったのかよ!?」 そんなしょうもない願いなら、叶うようになんて願うんじゃなかった! 「別にいいじゃない、お兄ちゃん。あ、今は光莉ちゃんだよね」 俺を見下ろして、『瑠璃』の姿の光莉は髪をかき上げる。その仕草は不思議といつもの瑠璃に似通っていた。 「ほら光莉ちゃん、自己紹介してみて」 「な、何を……」 「二年間はこのままなんだから、光莉っぽくしなくちゃ。まずは入学式の後の自己紹介する感じで話してみてよ。あたしの記憶、読めなくしたものはあんまりないから簡単なはずだよ」 言ってることはもっともかもしれない。でもいきなり妹のふりなんてできるもんじゃない。 「俺は――」 「違うでしょ」 ぴしゃりと『瑠璃』の声で叱られると、それ以上逆らう気も失せる。そう言えば、光莉は昔から俺が叱ってもへっちゃらだったけど、瑠璃にたしなめられると弱かったっけ。 すると俺の頭の中から、何かがするすると引き出されてきた。 「あたしは、明良光莉。好きなものは漫画とアニメだけど、最近はファッションにもちょっぴり興味があります。東京に行って流行の最先端を勉強して、オタクだからってバカにされないようになりた――」 「そんなの自己紹介で言うんじゃないわよ」 「はい……」 図星を突かれたか、光莉はすごい顔になる。瑠璃の顔に変な癖がついたらいけないからやめてほしい。 でも……俺、本当に光莉になっちゃってるんだな。『光彦』の記憶や意識が薄れたわけではないけど、『光莉』に簡単に切り替えられる。思い出そうと思えば『光莉』のこれまでのことをたいていは思い出せそう。 「ボクは、明良光彦……なんだね」 続けて『俺』の身体でしゃべり出したのは……瑠璃、なんだよな。いまだに信じたくないけれど。 「瑠璃ちゃんはどんな願い事したの? そのせいでお兄ちゃんになっちゃうなんて災難だけど」 「そ、それは……内緒」 俺にとっても気になることだけど、瑠璃は教えてくれなかった。 「さてと! じゃあ、泣いても笑っても二年後まではこのままということで、みんながんばろうね。お兄ちゃんはあたしの身体で変なことしたり、あたしの立場でおかしなことしたりしないように!」 あっけらかんと言ってのける妹ほど楽観的にはなれないが、神社にこのままいても元に戻してもらえるわけではなさそうだということくらいは見当がつく。 「お前こそ、今は『瑠璃』なんだから変なことするなよ」 「当たり前でしょ」 言いながら、光莉はスマホを取り出した。手慣れた様子で瑠璃のスマホを使いこなしている。 「そろそろ出発の時間だから、行ってくるね。二年後にまた会おうね。『光莉ちゃん』はもっと背を伸ばしていいスタイルになっておくように。瑠璃ちゃんは災難だけど、お兄ちゃんに真面目に勉強する習慣とかつけておいてあげて。あたしも瑠璃ちゃんが困らないようにちゃんとやっておくから」 べらべらとしゃべりながら『瑠璃』の身体の光莉は立ち去ってしまい。 後には、『光莉』になった俺と、『光彦』になった瑠璃の、肉体的には兄妹が残された。 -------------------- 3【慣れない関係と慣れない身体】 「帰ろうか」 しかたなく、俺は瑠璃に言った。 「う、うん……」 肯く、『俺』の身体の瑠璃。けれど、さっき状況を整理してみせた時よりも落ち着きがなくなっているようだ。まだ混乱から立ち直りきれてないという感じ。 そりゃそうだよな。 さっきまで瑠璃は『瑠璃』だったのに、今は『光彦』になってしまった。さっきまで女子だったのに、男子になってしまった。さっきまで東京へ引っ越す寸前だったのに、今はまたここで暮らすことになった。 それは俺も似たようなものだ。さっきまで『光彦』だったのが『光莉』になり、男子から女子になり、中学二年生になるはずが中学一年生としてまた入学式に出ることになる。 でも、瑠璃の方がもっともっと大変に違いないと思うと、俺が動揺している場合じゃないという気持ちにもなっていく。 俺は、瑠璃の手を取った。 「みっくん……」 「はは、男の手って大きいんだな。光莉の手が小さすぎるのかもしれないけど」 スポーツとかは全然大したことない『光彦』の身体だけど、『光莉』の手とはまったく違う。骨ばっていて、たくましい。 「俺、できるだけお前のこと手伝うから。だから二年間、どうにかがんばろう」 言って、手を引く。妹が兄の手を引くように。 「みっくん……ごめんなさい。わたしのせいで」 「気にすんな……ううん、気にしないで、お兄ちゃん」 俺は身体の記憶から光莉っぽい口調を引き出した。 「お兄ちゃんも、外ではちゃんとしてね。あたしは光莉なんだから、『みっくん』は家の中だけにして」 「う、うん。わかったよ、光莉」 瑠璃も、男子っぽい口調で返事する。 あまり『俺』っぽくはなくて、もう少しおとなしめな雰囲気。でもこれはこれで悪くないかも。アニメによく出てくる知的な男子みたい。 * 家に帰ったところで、俺の持ってるスマホが鳴った。つまり『光莉』のスマホだけど、かかってきたのは母さんからで安心する。 身体の自然な反応に任せる感覚で、スマホを操作し会話した。 「みっくん、誰から?」 「母さん。今夜は会社近くで泊まるって。父さんも前から泊まり込みが決まってたから、今夜は二人とも帰ってこない」 うちの両親は共働きだ。四十代前半は働き盛りというやつらしくて、最近は二人とも重要な仕事を任されているみたい。二人とも会社はうちから少し離れた県庁所在地にあり、最近は疲れた状態で家まで運転するよりはと会社近くのビジネスホテルで休むことも増えていた。「光莉も大きくなってしっかりしてきたし」と話していたことがある。 「そうなんだ……」 身体の記憶を読み取ったのか、俺がそれらをもっと詳しく説明するまでもなく理解した様子で、ほっとしたような息を吐く瑠璃。そうだよな。記憶があっても、近所のおじさんおばさんといきなり家族として接するなんて、かなりきつい。 「じゃあ、今日はピザの宅配でも頼むか?」 俺が提案すると、瑠璃は小首を傾げてから、少し恐る恐るという感じで口を開いた。 「わたしが、晩ご飯作ってみていい? あんまり自信はないけれど……」 「もちろんいいけど、瑠璃って料理するんだ?」 初耳だった。『光莉』の記憶でも、聞いたことがない。 「去年くらいから、家の手伝いは始めてたの。でも凝ったものとかは期待しないで」 「瑠璃が作ってくれるならそれだけでうれしいよ」 普段よりもすんなりと、そんな言葉が出てきた。『光莉』の身体だからだろうか。 それを聞いた瑠璃は、顔を赤らめてそっぽを向く。それはまるで『光彦』が照れた時のよう。 もしかしたら兄妹として過ごす二年間で、俺は瑠璃ともっと近い関係になれるのかなと妄想する。そうしたら、元に戻った時にはもう恋人みたいなことになれるかも! ……でも、俺は入れ替わりの時に、『光彦』の身体に瑠璃に関する気持ちの記憶を残さないようにしてたわけで。 それについて瑠璃はどう思うかな。俺が恥ずかしくて残さないようにしたと考えてくれれば早いけど、俺が瑠璃を何とも思ってないと誤解したら。 一抹の不安を抱えながらも、俺は瑠璃を手伝うために台所へ向かった。 「……ごめんね、みっくん」 「しかたないよ」 瑠璃の手際は、かなり悪かった。俺が手伝うことでどうにか完成させられたと言っていい。 でもそれは、むしろ『光彦』のせいとしか思えなかった。俺がごくまれに台所に立つ時によくやらかすミスを、今日の瑠璃は頻繁に繰り返していたんだ。 「たぶん、身体を使うことって、身体に影響受けちゃうんじゃないかな? 俺、今日はいつもより包丁とかもすんなり使えたし」 そんな話をしながら、夕飯を食べ終えた。 最後にジュースを飲み干す。そう言えば俺、今夜は自然とオレンジジュースを選んでたな。光莉は好きだけど、俺はそうでもないのに。 考えていた時、尿意を覚えた。 「あ……トイレ」 口にしてから、その意味に気づく。 思わず瑠璃を見る。瑠璃も『光彦』の顔を赤く染めていた。 「し……しかたないよ。やり方は、わかるよね?」 「う、うん……」 トイレに入る。今の俺は、入れ替わった時から着替えていないラフなトレーナー姿だった。特に女子の知識も必要なく便座に腰を下ろす。 ただその後は、『光莉』の感覚に身を任せる方が具合が良かった。 ちんこがない状態で、俺としては生まれて初めておしっこをする。でも『光莉』にしてみれば毎日何度もしてきたことで、不慣れと慣れが入り混じる感覚にすっかり混乱させられる思いがした。 終わった後、紙で拭く。ちんこがあったところよりも少し奥という感じ。 こんな状態が二年続くのか。 ついついため息をついてしまう。そして、瑠璃も立場は逆だけど似たような境遇になってしまったのだなと思った。 「瑠璃が、俺のチンポでおしっこ……」 想像すると、おかしな気持ちになった。恥ずかしい。でも同時に、瑠璃にちんこの感覚を知ってもらえるのが何か楽しみなようでもあって。 何かふわふわした気分でトイレから出ると、すぐ外に瑠璃が待っていた。 「わ、わたしも、トイレ……」 さっきよりさらに顔を赤くしながら、瑠璃はトイレに飛び込んでいった。 瑠璃が戻ってくるまで、居間で俺は今しがたの想像をさらに膨らませてしまっていた。 -------------------- 4【初めての勃起】 瑠璃がリビングに戻ってくるのは、だいぶ遅かった。 大もしたんだろうかと思うけど、さすがにそんな質問はできない。 「あの……みっくん」 瑠璃は『俺』の顔を相変わらず真っ赤にしながら、心底恥ずかしそうに口を開く。 「ど、どうした?」 「みっくん、その……入れ替わりの時に、記憶を読めなくしたよね? あの、この辺の記憶……」 言いながら、瑠璃は自分の股間に目を落とした。 「あ……」 そうか! 俺、「性的なこと全部」読み取れないようにしてたんだった! てことは、今の瑠璃はちんちんに関することが何もわからないも同然? 俺はさっき『光莉』の記憶のおかげで助かったけど、なら……。 「ごめん! トイレ、全然わかんなかった!?」 「ある程度は……推測したり、パパが普段ママに叱られてるのを思い出したりして、どうにかしたけど……」 「叱られる?」 「立ったまますると、周りが汚れるみたいなの。だから今までと同じように座ってやろうとしたんだけど」 言われて、俺も母さんや光莉にたびたび注意されてた記憶が蘇る。その辺の『光莉』の記憶を引き出すと、俺や父さんのやってたことは実に不快なことだったとわかる。 俺が内心で打ちのめされている中、瑠璃はさらに続けた。 「座って、出したら、その……おしっこが外に飛び出しちゃって。床とズボンを汚しちゃって……紙で拭いてたの」 「あ」 そういうことも時々ある。チンポを手で押さえて便器の中へしっかり向ければ回避できることだけど、何も知らない瑠璃には思いつかなかったんだろう。 「あー……そうだよな、普通に座って普通に出せば普通に中に出るものって思うよな」 瑠璃が気に止まないように、急いで言い足した。 「男子は、そういうことが時々あるから。瑠璃のせいじゃない」 「え、そうなんだ?」 申し訳なさそうな、恥ずかしそうな顔をしていた瑠璃が、きょとんとした顔になる。 「男子ならよくあること。ちんちんを手で押さえれば外へは出ないけどな」 「さ、触るのは、ちょっと……」 「まあそれはともかく、ズボンも汚れたのならいっそ風呂に入っちゃうか?」 ご飯も終わったし、そろそろ風呂の時間だった。 「う、うん」 肯きながらも瑠璃はもじもじしている。 「あの……みっくんも一緒に入って欲しいの」 「えっ?!」 「だって、わたし、その……お、おちんちんのこと、全然わかんないから、教えてもらわないと……」 「そ、そっか……」 確かに、二年間も続く入れ替わりなんだから、早めに教わっておいた方がいいんだろうなとは思う。それができるのは事情を知ってる俺だけだし、俺が変な具合に記憶を読み取れなくしてしまったせいでもあるのだから、あらゆる意味で俺が教えるしかなかった。 それにしても、瑠璃が「おちんちん」なんて言っている。身体は『俺』だけど、恥じらうその口調は紛れもなく瑠璃で、俺は変な興奮をしてしまいつつもそれを表に出さないように努めた。 着替えを準備するため、それぞれの『自室』に入る。俺は『光莉』の記憶に身を任せて、下着やら何やらを選んでいく。ブラジャーやショーツをこんなに見るなんて生まれて初めてだが、『光莉』としては珍しくもない光景だ。動揺したりはしない。 半ば機械的に『いつも』のように手を動かすうち、心に思い浮かぶ思考があった。 (……お兄ちゃんとお風呂入るなんて、いつ以来だろ。小学四年の夏くらいだっけ? そのくらいから、クラスの中でも男子と女子は別れるようになっていって、あたしもそれに釣られて男子とは別行動になったし、お兄ちゃんとも少しだけ距離を置くようになって……でも、少しだけ寂しかったんだよね。まあ、今のお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃなくて瑠璃ちゃんなんだから、変なことになるわけもないし) ……って、何だ今の思考?! 「お、俺は光彦だぞ。今は『光莉』の身体だけど、『光莉』の記憶は読めるけど、本当は男。男」 自分に言い聞かせるように呟く。 光莉の記憶を読めるって、これ、気を抜くと光莉みたいに考えてしまうってことでもあるのか? 気をつけないと……瑠璃にも伝えておこう。もちろん光莉にも。 「そうか……記憶って、ある意味人格みたいなものだものね。今のわたしたちは、二人分の人格を抱えているようなものなんだ」 さっそく瑠璃に話をして、光莉にもメッセージを送った。少し考え込んでいた瑠璃は、俺がそれらを終えると言った。 「一番気をつけなくちゃいけないのはみっくんかもね」 「え? どうして?」 「光莉ちゃんは、何だかんだで同じ女子。わたしは男の子になったけど、みっくんが記憶を色々読めなくしたから簡単にはなりきらないでしょ。でも光莉ちゃんは『読めなくしたものはあんまりない』って言ってたし」 「いや、瑠璃も気をつけた方がいいと思う」 瑠璃が記憶を読めなくなっているのは、『光彦』の恋愛感情と性的なものだけなんだし。瑠璃が寝坊してばかりの冴えない男子になりきるなんて嫌だ……自分で考えてて悲しくなってきた。 「けどまあ、俺が一番やばいのは確かかもな。うん、気をつける」 ともあれ、風呂へ。脱衣所はそんなに広くないので、まず瑠璃が入り次に俺が使う。 洗濯機に脱いだ服を放り込んでいき、俺はブラジャーとショーツだけになった。それらも外していく。 胸はAカップだけど、男子とは明らかに違う膨らみ。そして股間には何もない。昨夜瑠璃を思い浮かべながら硬くして射精したチンポは、今は俺のものではなくて瑠璃のものになってしまった。 喪失感を覚えながら風呂場へ続く引き戸を開けると。 「み、みっくん……これ、どうすればいいの?」 風呂場では、『俺』のチンポを大きく勃起させた瑠璃が待っていた。 -------------------- 5【初めての射精】 勃起したチンポは、角度的には大興奮というわけではなさそうなはずなのに、意外なまでにでかかった。小さい『光莉』の視線から見ているせいだろうか。 「わ、わたし、何も変なこと考えてたわけじゃないの。なのに、急にこんな風になっちゃって……」 泣きそうな声で、釈明するように瑠璃が言う。 「うん、よくあることだから」 男の勃起は、エロいことを考えた時にだけ起こるわけじゃない。 「意味もなくそうなるのも珍しくないんだ。そのままじっとしてれば……」 ふと、思う。 この状況は、いいきっかけかもしれない。 「えい」 俺は手を伸ばして、瑠璃のチンポを握った。熱くて、ゴムのように柔らかくて、でも中身はしっかり詰まっているから硬い。触り慣れてるチンポのはずなのに、『他人』のチンポだと「触られている」というチンポ側からの感触がないから違和感が強かった。 「なっ、ぁっ、何するの……みっくん……」 勃起したのも他人に握られるのも初めてな瑠璃は、微妙に声を裏返らせながら訊いてくる。 「射精してみよう」 「ど、ど、どういうこと?!!」 完全に声が裏返っていた。 「俺、オナニー覚えて毎日やってるんだ」 いったん手を離して、説明した。 口にしながら不思議な気分になる。こんなこと、入れ替わりが起きる前だったら決して瑠璃に知られたくなかったはずなのに。 「二年も我慢するなんて絶対無理だから、やり方を覚えちまった方がいい」 でも今は言えてしまう。 瑠璃が『俺』になっているから、なのに男の性について記憶の引き継ぎもない状態だから、教えておかなくちゃというのが一番大きい。 けど、どうもそれだけじゃない。 「我慢……できないの?」 瑠璃が、困り果てたように訊いてくる。 「我慢してたらきっと夢精する」 俺は瑠璃に教えてやる。男子についてろくに知らない瑠璃に、男子としての暮らし方を教えてやる。 瑠璃に、あの可愛い女の子だったこいつに、男子のやり方を教え込む。 そう考えると、やたらぞくぞくした。 「ムセイ?」 「寝てる間に射精するんだ。夢精すると、目が覚めた時におもらししたみたいで気持ち悪いぞ」 たぶん。俺は夢精をしたことないけど、クラスの男子がそんな話をしているのを聞いたことはあった。 「それって、そんなすぐに起きちゃうの?」 「わざわざ試したことないからわかんないけどさ、身体は一日一回のペースを覚えていると思うんだ。だから……」 「きゃっ!」 俺は、話しているうちに落ち着きつつあった瑠璃のチンポを改めて握る。 「そんなことになっちゃわないように、さ」 瑠璃からどうにか同意を取り付けると、俺はプラスチックの椅子に腰かけた瑠璃の背後に回った。前にいたら、精液を浴びてしまう。それに、いくら中身は瑠璃といっても、快感に染まる『俺の顔』なんて見たくない。 「触るぞ」 「う、うん……」 おっかなびっくりという雰囲気で応じた瑠璃の股間に、手を伸ばす。 「あ、っ……!」 瑠璃の――そして数時間前まで俺のものだった――チンポに触るのはこの短い時間でもう三度目になるけれど、まだまだ瑠璃が慣れるには早すぎるみたいだ。 チンポは少し勃起が収まっていた。でもある程度の硬さは残っていて、俺は手でいつものようにしごいていく。その手は『光莉』のものだし、チンポは瑠璃のものになっているから、少し勝手は違うけれど。 「き、気持ちいいか?」 「気持ちいい、よ。……でも、変な感じ」 瑠璃が答える。もしかしたら泣き出したりしないかと少し不安だったけど、そういう気配はなさそうだった。 「わたし、女の子なのに……おちんちんがこんな風になっちゃうなんて……もうすぐ、射精しちゃうなんて……」 「これから二年間は男子なんだから、しかたないだろ」 俺は瑠璃の背中にしがみつくようにしながら言う。『光莉』は小さめだから、そうしないと手が充分に瑠璃の股間まで届かない。 「それと、気持ちよくなるのはこれからだぞ」 俺はまだ少しふにゃりとしているチンポを、本腰を入れていつものように弄っていく。昨日までの記憶を頼りに、『俺』のチンポが……瑠璃のチンポが気持ちよくなるように指を使う。 その刺激を受け、俺の小さな手の中で、瑠璃はチンポを大きく硬くしていった。 「ほら、大きくなってきた」 「うん……」 恥ずかしそうに瑠璃が肯定した。 俺はチンポの先端に指を滑らせる。ぬるりとした感触。 「先走り液だ。本当は何て言うのか知らないけど、チンポを弄っていて射精したくてたまらなくなってくる頃、これが溢れ出す」 俺は話しながら、精神年齢が幼くなっていってるように感じた。こんなのまるで、好きな女子にちょっかいを出したがる小学生の男子みたいだ。 「瑠璃のチンポ、精液出したくてたまらないって言ってるぞ」 まあ、男子小学生は女子小学生にこんなこと言わないけど。 「意地悪、言わないでぇ……」 こんなことになっちまうなんて、思いもしなかった。瑠璃は引っ越して、俺たち兄妹はそれを寂しく思いつつも家に帰る。神社でどんな話が出ても、それは当然変わらないことだと思っていた。 なのに引っ越したのは光莉で、俺は瑠璃と一緒に風呂に入っていて、しかも瑠璃に初めての射精をさせようとしてる。 「で、出ちゃうよ、みっくん……おしっこみたいな、それとは違うような、何かすごいのが出ちゃう……」 息を荒げながら瑠璃が訴える。 ついさっきまであんな綺麗で可愛い女の子だった瑠璃が、『俺のチンポ』を俺みたいに勃起させて、俺みたいに射精しようとしてる。 「出しちゃっていいんだよ、瑠璃」 俺は不思議と優しい口調になってそう言うと、びくびくと痙攣するようになっている瑠璃のチンポを握りしめつつも指先では柔らかく撫で上げてみた。 「男の子はそうなっちゃうんだから」 その言葉が最後の一押しになったのか。 「っ!!!」 悲鳴を無理矢理押し殺したような息を吐き出すと同時に。 瑠璃のチンポの中を駆け抜けていったものが噴出して、風呂場の壁や鏡に飛び散っていくのが、瑠璃の背中越しにも見えた。 全身をぶるっと震わせた瑠璃は、荒かった呼吸を次第に落ち着けていく。賢者タイムだ。 ただ、それを解説する気にはなれなかった。 「わたし……男の子になっちゃった……」 呆然としたような、途方に暮れたような、そんな瑠璃の呟きは、早めに射精を経験した方がいいはずと思っていた俺の口をも噤ませるほどにしんみりした痛々しさを漂わせていた。 「あ……みっくん、わたしばっかりごめんね。だいたいわかってるとは思うけど、女の子の髪の洗い方とか、もし記憶だけでうまくいかなかったら言ってね」 瑠璃が自分で立ち直ってくれなかったら、俺はいつまでも口を利けずにいたかもしれなかった。 -------------------- 6【添い寝と、初めての朝勃ち】 「みっくん、ほんとにお部屋交換しなくていいの?」 風呂を出た後、俺たちは眠ることにした。 「大丈夫だって。そんなことして、もし母さんや父さんに知られたらごまかすのが面倒すぎるだろ?」 瑠璃が、部屋を交換しようと言ってくれたが俺は断った。 そうすれば、俺はいつも通りの部屋で眠れる。でもそれは、それだけのことに過ぎなくて、やっぱり不自然だ。瑠璃が読める『俺』の記憶、俺が読める『光莉』の記憶のことも考えれば、身体に合わせた部屋で寝るのが結局一番いいだろう。 家全体の戸締まりを確認すると、俺たちはそれぞれの部屋へ向かう。 「……眠れない」 俺は光莉のベッドの中で、何度も寝返りを繰り返した。 寝ようとすると、普段なら気にならないことが今夜はなぜか気にかかってしまう。外からたまに聞こえるバイクの音だったり、部屋の隅から時折聞こえる家鳴りの音だったり、あるいはこれまでと違う自分の身体の妙に柔らかな感触や、光莉のパジャマの男物とは微妙に違う滑らかさや匂いだったり。 つまりはちょっと過敏になっているだけなんだと思おうとしたけど、天井を見上げて小さい常夜灯に照らされたその木目模様が人の顔っぽく見えた時、悲鳴を上げそうになった。いつもの俺ならそんな風に見えても何とも思いはしないのに。 おっかない。もう認めるしかなかった。 そう言えば光莉のやつ、かなり怖がりだったはず。夜中にトイレに行きたくなっても行けなくておねしょして、なんて話も昔はよくしていたし『光莉』の記憶としても思い出せる。なのに、それへの対処法が全然思い浮かばない。 あいつ、記憶を読めないようにしやがったな! いや、当人にしてみれば恥ずかしいことを隠したかっただけなんだろう。俺はその辺鈍感なくらいだし、身体が入れ替わったくらいでいきなり怖がりになってしまうわけがないと考えた。それ自体はおかしくない。 でも身体の影響というものは絶大過ぎて。 俺は、一人きりの部屋で朝まで過ごす自信がすっかりなくなってしまった。 廊下に出る。常夜灯のうっすらした灯りがあちこちに陰影を作っていて、そんなものすら怖い。 恐怖に耐えて、俺は廊下を急ぎ、隣の部屋に飛び込んだ。 本来の『俺』の部屋は真っ暗だ。記憶を頼りにベッドに辿り着くと布団をめくりあげて潜り込む。 「お兄ちゃん……」 瑠璃と呼ぶつもりだったのに、身体の感覚に引っ張られたのか、俺はそんな言葉を口にしてしまった。 「ど、どうした光莉……じゃない、どうしたのみっくん!?」 起き抜けは身体の意識が強いのか、俺の言葉が問題だったのか、瑠璃もまるで『俺』のような受け答えだった。 「こ、こわいから……一緒に寝て」 「あ」 俺の言葉に、瑠璃は納得したように一音だけ口にする。 そしてすぐ、俺の身体を優しく抱きしめてくれた。 「いいよ、おいで」 柔らかくも力強い言葉が、俺を包む。 「ありがと……」 心ゆるむような安堵感にくるまれて、俺は眠りに就くことができた。 * 「え、ええっ、何これ?!」 お兄ちゃんのうろたえた声で目が覚めた。 お兄ちゃんってば何を女の子みたいな悲鳴を上げているんだろう……って、今のお兄ちゃんは瑠璃ちゃんだっけ……って、俺がほんとはそのお兄ちゃんだよ! 俺も目を覚ますが、誰かの胸の中に収まっている。そうか、昨夜は俺になった瑠璃と一緒に寝たんだっけ。 温かくて、すごく落ち着く感触。……と最初は思っていたんだけれど。 股間の方、何かが俺に少し当たってる。硬くて大きくて、パジャマ越しにも熱さすら感じ取れる。 こ、これはいやだ。何が楽しくて寝起きに勃起したチンポを押しつけられねばならんのだ。 と同時に、瑠璃が狼狽している理由も把握した。昨日から、瑠璃って男子的なトラブルに見舞われてばかりだな。大部分は俺のせいだけど。 「昨夜抜いたばかりなのに、またずいぶんでかくなってるなあ」 俺は敢えて、何もかもお見通しとばかりの口調で言ってやった。 「み、みっくん……これ、何?」 「朝勃ちだな」 「アサダチ……?」 「男は朝、目を覚ますとそうなってることが多いんだ。しばらくじっとしてれば萎んでいくから安心しな」 「そ、そうなんだ。よかった……」 「じゃあ俺、顔洗ってくるからな」 少し名残り惜しいが、俺は瑠璃の胸の中から抜け出した。 なのに。 「なんでまだそんなギンギンなんだよ……」 「わ、わかんないよぉ……」 戻ってきても、瑠璃の股間には立派なテントが生えたまま。わかった風に説明した俺の面目丸潰れ。 これって、もうただの朝勃ちとは違うよな? 瑠璃自身がまだ経験の少ない勃起という感覚に興奮して、勃起を持続させている? なら、毎朝のこととしてすっかり慣れるまではしばらくこんな感じ? 考えるのは後回しか。とにかく硬くなったままのチンポをどうにかしないといけないよな。 となると、やることは一つしかなくて。 「じゃあ、抜くぞ」 俺はベッドに上がると瑠璃の背後に回り、パジャマのズボンをずり下ろした。 「え……お風呂行かなくてもいいの?」 「別にどこでやってもいいんだよ。ほらティッシュ何枚か取って、出そうになったら自分で先に当てて」 「は、はあい。……ぁん」 硬くなったチンポを握ると、瑠璃が小さく嬌声を上げた。 「みっくんの精液ってこんな臭いなんだ……」 「まあな」 瑠璃はティッシュに鼻を近づけて、自分が出したばかりの精液の臭いを嗅いでいる。俺も最初の頃はやっていたっけ。 「あの、精液ってたぶん、どいつのもそんなのだからな。別に俺のだけが生臭いわけじゃないはずだぞ」 なぜだか言い訳めいたことを言ってしまう。瑠璃に、俺の精液だけが変な臭いだと思われたくはなかった。 「あ、そっか。イカ臭いって男子が言ってるの学校で小耳に挟んだ気がする」 「……男子ってほんと、猿だな……」 瑠璃にまで聞こえるようにそんな話するんじゃないよ。 「で、やり方はもうわかったよな? これからは、自分で抜いてくれよ」 「えー……?」 瑠璃に不本意そうな顔をされて、俺は自分が何かおかしなことを言ったのか疑いかけてしまった。いや、何もおかしくないよな。 「あの……射精って、思ってたよりずっと気持ちいいの。みっくんがやってくれたからかもしれないけど」 「お、おう?」 「これ、わたし一人でいつでもどこでもやるってことになったら、わたし癖になっちゃいそうで……」 んなバカな、と一笑に付そうとして、少しだけためらってしまう。オナニーを覚えてからいくらか(あるいは下手するとそれ以上に)人が変わったようになってしまった男子は覚えがある。俺自身も、いくらかその気はある。 「だから、いつもみっくんにやってもらうようにすれば、やり過ぎちゃう恐れはなくなるかなって思うんだけど」 「それは、まあ、そうかもだけど……」 こうして押し流されるように、俺は二年後まで瑠璃の射精を担当することになった。 -------------------- 7【習慣化】 「俺、小遣いで問題集なんて買ったことないぞ…… 入れ替わり生活ももう三日目。俺たちは、『兄妹』で外に出た。 「『俺』じゃ駄目だよ、光莉」 「……あたし、お小遣いは問題集なんかに使いたくないなー、お兄ちゃん」 「でも、勉強の習慣はなるべく早く身に着けて欲しいんだ」 瑠璃は俺に諭すように言う。『俺』なのに、知的なお兄ちゃんみたいに見えた。 「け、けど、あたし二度目の一年生だよ? 去年勉強したんだし……」 「『僕』の三学期の通知表、改めて確認したよ? 思った以上に悪かった」 証拠を押さえられていると、ぐうの音も出ない。 「そんな『僕』も問題集は持ってない。『僕』の教科書で教えるだけよりも、やっぱり何問も解いてみる方が効果があると思うんだ。だから光莉の分は光莉に買ってもらいたい。光莉ちゃんに確認したら必要経費だってことで渋々ながら了承してくれたしね」 あいつ、今は東京で瑠璃の小遣いで好き勝手できるからって……! 「それにしても」 少しすると、瑠璃がおかしそうに笑った。 「『僕』視点だと、光莉ちゃんってああいう子に思えるんだね。二人がしょっちゅう仲良く喧嘩してる理由、ようやく理解できた気がするよ」 「そ、そんなの……!」 お兄ちゃんにわかったように言われて、あたしは頭に血が上る。 「お兄ちゃんが無神経で鈍感でがさつだからじゃないの! 知らない!」 俺に言われたお兄ちゃんはなぜか予想外の攻撃を受けたような顔をした。 「ええと、今のは『わたし』になってる光莉ちゃんと少し話した時に思ったことだよ。光莉ちゃんになってるみっくんのことじゃなくて」 「あ……」 勘違いに気づいて、俺は別の意味で顔に血が上った。 この関係、複雑すぎる……。 それにしても、と本屋からの帰り道に思う。 瑠璃は『俺』の記憶から『光莉』についてのイメージを形作れる。俺は光莉について隠そうとしていないから当然だ。 俺は『光莉』の記憶から、『俺』と『瑠璃』、それぞれについてのイメージもできる。 けど…… 俺は『俺と瑠璃』についてのイメージは、うまくできずにいた。 光莉の奴、なんでこれに関しては俺に記憶を伏せているんだろう。 いや、俺だって瑠璃に『瑠璃』の記憶を伏せているし、人のことはあまり言えないけれどさ。 * 帰宅してからの勉強は、思いの外に捗った。 瑠璃が『俺』の記憶から俺の理解度を把握して、適切に教えてくれるからというのもあるだろう。『光莉』の頭がいいというのも大きな理由だと思う。 けどそれら以上に、俺が瑠璃に素直に教わることができたからというのが、一番重要な気がした。 これまでにも、瑠璃が俺に勉強を教えようかと申し出てくれることはあった。でも同い年に教わるなんて恥ずかしいと、変なプライドが邪魔をした。 だけど今、俺は一歳下の妹で、瑠璃はお兄ちゃんだ。 「お兄ちゃん、これどういう意味?」 「それはね、……」 こんな勉強なら、二年間ずっとやり続けられるかもと思った。 瑠璃は瑠璃で自分の学年の勉強もしなければいけない(今日は中二の問題集も買っていた)から、自力でもやれるようにしなければならないけど。 * 勉強が終わり、夕食も終えると、俺たちはお風呂に入った。 今夜、母さんと父さんは家にいない。だから気兼ねなく二人で入れる。 「そ、それじゃ、みっくん、お願いね」 「お、おう……」 瑠璃にねだられて、手コキの態勢になるが……瑠璃はもうチンポをガチガチに硬くしていた。 「お、お兄ちゃん、そんなに溜まってたの?」 こういう会話自体、瑠璃とあまり重ねたくない。すればするほど瑠璃を男子に近づけてしまう気がする。そうは思いつつも、訊かずにいられなかった。呼び方は変えて、訊いている相手は瑠璃ではなくて『お兄ちゃん』だということにした。 「溜まるって何のこと?」 「え、ええと……その、昼間とか、色んな女の人を見たり妄想したりして、何度も勃起してたのかなって。そういう時、すぐに抜きたくなるのか後からでも簡単に勃起するから」 「抜くって、昨日の朝も言ってたけどどういう意味? あの、何となくニュアンスはわかるつもりだけど、わかったつもりじゃなくて確認した方がいいかなと思って――」 「っ……射精のこと!」 妹にそんなことばっかり言わせないでよ! 理不尽かもしれないが、そんな風にも考えてしまう。 「ありがと」 俺に背を向けて座っている瑠璃は、柔らかい声音で礼を言うと続けた。 「自分であんまり興奮してた記憶はないけど、今夜のことはちょっと楽しみにしてたかも」 「なんで?」 「だって、昨夜と今朝はちょっと忙しなかったから」 それは、そうだった。昨夜は両親が帰ってきて家族四人で夕食を取り、今朝もちょっとのんびりしてて……つまり、瑠璃の射精は俺がお兄ちゃんの部屋へ出向いた短時間の間に慌ただしく済まさざるを得なかったのだ。 なお、父さんも母さんも俺たちの変化には気づいた様子がなかった。それは当然だよな。俺たちはただ入れ替わったわけじゃなくて、身体の記憶もかなりの部分読み取れて、身体にふさわしく振る舞ってるんだから。きっと『瑠璃』になった光莉も同様だろう。これについて見抜けない親を責める気にはなれない。 さらに付け足すと、俺一人で眠らざるを得なかった昨夜だが、光莉の部屋にあった大きめのぬいぐるみ何体かを活用することで、どうにか怖くならずに寝ることができた。 「射精って、しちゃったら波が引くように気持ちよさもなくなっちゃうよね?」 「う……うん」 経験者として、初心者の素直な感想には肯くしかない。 「だから今夜は、するまでの時間をもっと長く伸ばすような感じでして欲しいんだけど……ダメかな?」 そんな風に射精初心者に頼まれると。 「……しょうがないな」 つい言ってしまった。 「でもでも、こういう時だけだからな。父さんたちがいる時は簡単に済ませるぞ」 「わかってるよ」 四月からの両親の仕事がどれくらい忙しくなるかなんて、俺には予想もできない。一緒に風呂に入るのがほんのたまにだとしたら、その時くらいはと思って言った。 この先数年間、両親の忙しさが絶頂を迎えてほとんど家に帰れないくらいの勢いになったというのは、後になって振り返ってからわかったことである。 ともあれ、そんな未来など知る由もない俺は、後ろから瑠璃の勃起チンポに手を伸ばす。早く射精しろと強くしごき立てるのではなく、小さな手で柔らかく刺激していく。 「うん……っ、みっくん、気持ちいい!」 瑠璃が雄の快感に身を震わせた。