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とある芸術大学の相談室で(2)

*  よろよろと、二人で相談室近くの休憩所に辿り着いた。わたしたち以外に人はいない。 「……どうすればいいのかしら」  わたしは、男の低い声で女のような口調で言った。 「どうもこうもないだろ。常軌を逸したことが起きた。起こした奴は一週間は戻せないと言った。なら一週間待つしかない」  相手は、『わたし』の顔と声で男のような口調で応じた。 「そもそも、そんな風に相手の言葉を鵜呑みにするのが変じゃない? あなた、少し話しただけでもひねくれてて他人の言ってることを額面通りに受け取ったりしなさそうだって思うんだけど」 「それはあんたも似たようなもんだろ。なんで素直にあの子に部屋を追い出されてたんだ?」 「「…………」」  顔を見合わせて、わたしたちは踵を返して相談室へ戻った。話すうちに、わたしも相手も自分の反応の異常さに気づいたようだ。  だけど、相談室に戻ることはできなかった。 「三階、だったよな?」 「最上階から確認してみましょう」  隅から隅まで建物を行き来して、念のために隣の建物まで調べ、なのに学生相談室は跡形もない。  労力を虚しく費やして、わたしたちは休憩所に戻った。 「まあ、結局、一週間待つしかなさそうだな」 「そうね。オカルトには縁がないし」  わたしたちを入れ替えて、忽然と部屋ごと姿を消した存在である。超常的な能力を持つ人なんて知らないから助けは得られそうにないし、ならば待ちの一手。 「でも、つまりそれって、一週間わたしはあなたの振りをして、あなたはわたしの振りをするってことよね。できる?」 「さっきの学籍番号と名前のことを考えれば、できそうな気がする。明日の講義とか、わかるだろ?」 「ええ」  自分のもののように、『彼』の情報をすらすら言えた。意識すらせず。  そして今も、思い出そうとすると、この身体で行くべき講義についてすんなりと浮かんできた。 「実技に関わる大きなイベントとかがないなら問題なさそうだ。俺の絵に関しては、なし」 「まあ、確かに。こっちもそういう演奏系のことはないわ」  だから一週間後まで、わたしは『阿賀海将広』として誰にも疑われずに暮らせるのかもしれない。  ただ…… 「誰にもばれなくても、わたしは今の『わたし』がわたしでないことを知っている。あなたもそう」 「そりゃそうだ」 「実技について、どれくらいできるかを確認したいと思わない?」 「……否定はできないな」  わたしに応じて『わたし』はバイオリンのケースを持ち上げると、スケッチブックを持つわたしの後に続いた。 *  確認は、『わたし』の部屋ですることにした。演奏する以上、防音でなければならない。絵を描くのはどこでもできるだろうし。  部屋への道を辿りながら、わたしは自分の今の身体をそっと観察していく。  本来のわたしよりも十五センチくらい背が高い。地面が遠くなったことに大きな違和感がある。  指先は繊細そう。けれどこの指は、バイオリンを奏でる指じゃなくて、絵筆を持つための指。わたしの指がバイオリンを弾くための指じゃないことは、ついさっきまで考えられないことだったのに。  髪が短いことも不思議だ。男にしては無精で長い方だろうけど、これまでずっと髪を長くしていたわたしにとってはすごく短い。首を振っても髪の重さをほとんど感じない。  そして……歩いていると、次第に意識してしまう股間の感触。  いつものように内股気味に歩いていると、足の間で挟まりこすれるものがある。こんな物体、わたしの身体の一部になるなんて思ってもいなかった。こすってしまわないよう、少しがに股気味になる。  一方、彼は『わたし』の身体で居心地悪そうに歩いている。急に背が低くなって、急に髪が長くなって、穿いたこともないスカートで、履いたこともない少しかかとの高い靴。無理もない。  ともあれ、部屋には着いた。大学からかなり近いマンションだ。 「じゃ、弾いてみる。あんたはスケッチブックに適当に描いてみてくれ」  言いながら、彼は意外なほどスムーズな手つきでバイオリンを取り出すと構えた。  わたしも、スケッチブックを開くと鉛筆を手にする。

Comments

ありがとうございます。 なかなか十八禁展開にならなくてすみません……。

うん。 続きが気になります。

丸井主将


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