自縛の快楽に魅入られたドM女子の末路
Added 2025-05-30 13:33:38 +0000 UTC革の擦れる音が心地良い。 「んふっ……♡ んっ……♡」 6畳一間の隅に置かれたベッドの上、一糸まとわぬ姿で拘束されている私がいた。 ご丁寧に目隠しと口枷、そして乳首とおまんこはおもちゃに責められている。 強盗に入られたわけではない。 彼氏とのSMプレイの最中なわけでもない。 私は一人で、自分を縛り、拘束し、責め具を装着している。 セルフボンデージ。 もしも誰かに見られたら、どうやっても言い逃れできない、変態的で無様な行為だ。 「んうっ……♡ ん~っ……♡」 入念に準備を重ねて、自らに施した拘束が完成してから、5回目の絶頂を迎えた。 なのに、身体の火照りと震えは収まらない。 絶対に人には言えない趣味だからこそ、大きな快感を得ることができる。 こんなことを毎週毎週している自分が恥ずかしくて、気持ちいい。 欲望に負けて、変態行為を繰り返す自分に興奮する。 溜まりに溜まった快感を逃がそうと身体をよじる。 ギチッ……ギチッ……。 「んおおお……♡ んふーっ……♡」 動けない、見えない、助けを求めることもできない。 おまんこと乳首への刺激は止まらない。 「んんんんんんんんんっ……♡♡」 拘束自体はいつでも抜け出せるので緊張感はないけれど、体力の尽きるまで、拘束されて逃げられない悲劇のヒロインを演じてしまうのが、マゾの性だ。 今日は何度目で気絶するだろうか。 *** 目が覚めた時には、足枷と手首の枷を繋いだ縄が緩んでいた。 目隠しもずれていて、窓の外が暗くなっているのを確認することができた。 失神した瞬間は覚えていないが、何かを叫んでいた気がする。 「助けて!」とか「死ぬ!」とか、そんなセリフだったと思うが、口枷のせいで言葉にはなっていなかっただろう。 「いたたた……」 無理な体制で気絶していたからか、肩を痛めていた。 私は近くに置いてあったナイフで、縄を切り、枷を外した。 「はぁ……」 セルフボンデージの後片付けをしているこの時間が、いつも憂鬱だった。 我に返った後、自分の変態性を認識する。 「マゾすぎるでしょ、いくらなんでも……」 ベッドに敷いていたペットシーツがびしょ濡れになっているのを見て、呟いた。 私以上に変態な人間がこの世に存在するのだろうか? 当然みな性癖は秘匿しているはずなので当たり前のことだが、私と同じようにニッチなオナニーをしている知人はいない。 彼氏のいる友達から聞く夜の話は全て、普通のセックスに帰結する。 ちょっと縛ってみたり、ホテルのSMルームで遊んだりと、そういう話を聞かないこともないが、私にとっては「普通のセックス」の範囲内だった。 「やっぱ、異常だよねぇ……自分で拘束するとか」 カラーボックスに拘束具をしまい、洗面所で挿れていたバイブを手洗いしながら、自分の性癖を鑑みる。 「いやでもぉ……死ぬほど気持ちいいんだからしょうがなくない!?」 洗面台の鏡に映る女に向かって訴えてみた。 女は紅潮した顔をゆがめて、私を見つめ返すだけだった。 「おーい、変態マゾ。いつか人生終わるぞ?」 私がそう続けると、鏡の中の全裸の女は恥ずかしそうに照れているようだった。 「鏡の中の自分を罵倒して、何を悦んでんだ……私は……」 私は洗い終わったバイブをタオルで拭いて、洗面所を後にした。 *** 「ねえ、人に言えない性癖ってさ、みんなあるよね?」 私は半ば無意識に、対面に座ってポテトを頬張っていた友人に問いかけていた。 多少声を大きくして会話しなければいけないほどに、昼下がりのマクドナルドは賑わっている。呟くような質問が友人に届いているか心配になったが、杞憂だった。 彼女はポテトを掴んだまま、呆けたような表情で私を見ていた。 「は? 性癖? どした急に」 「絵美にはないの? 人に言えない性癖」 絵美は顔をしかめながら、ポテトを口に運ぶ作業を再開した。 「すごいこと聞くじゃん。親友にする質問じゃないよ、それ」 「親友以外には聞けないし」 「いや普通は親友にも聞けないから」 「あぁ……まあ、そうか……」 「なに? ていうかさ、純恋はあるってこと?」 「え?」 「あるんだ」 「な、な、ないよ。私は」 「無理だよ、それ。ある人の反応だから」 「ないってば!」 「当ててあげようか?」 「え……何、わかるの?」 「ほら、あるんじゃん」 「あ……絵美、ずるくない?」 「あんたが変なこと聞くからでしょ」 「う……」 「純恋さぁ、縄の跡、気を付けた方がいいよ」 「え……!? えええええ!?」 急に大声を上げて立ち上がった私に周囲の注目が集まった。 身体の温度が急速に上がっていく。 「ちょっと、声を大きいよ」 「いや……ごめん……」 私は座りなおして、自分の服装や身体を確認することにした。 縄の跡は気にしているつもりだった。 今日も完璧に隠しているはずだ……。 「あ~、今日は見えてないよ」 私絵美があきれたような表情で言った。 「なんだ……よかったぁ……」 「でも、今日もあるんだね、縄の跡」 「ぎく」 「ぎくって、普通は自分で言わないよ」 「分かったってば、降参します」 私は両手を上げる。 「いや、あたしは別に詮索したいわけじゃないんだけど」 「うん……」 「まあ、何を悩んでるのか知らないけど。たまーに、手首の縄の跡見えてるときあるから、気を付けてね」 「分かった……」 「パートナーにも言っといた方がいいよ。跡が付かないようにしてもらわなきゃ」 「あー……パートナーね……」 「うん。あたしも彼氏の趣味で、縛られたことあるけど……痛いだけだったし、純恋も嫌ならちゃんと断った方がいいよ」 「う……いや、私のせ、性癖なんだよね~……なんて……」 「あ、そうなの。それなら余計なお世話だね」 「変態だよねぇ……」 「いや、別にいいでしょ。なんだってそんな気にしてるのよ」 「いやあ……ちょっと最近ヤバいなぁって……」 「ハマってるの?」 「うん……」 「そう、まあ、他人がどうとかあんまり気にしないでいいと思うよ」 「そう、だね。うん! 分かった、気にしないことにする」 「はい、じゃあ、この話は終わりね」 「うん、ごめんね」 *** 帰宅してシャワーを浴びながら、今日の絵美との会話を思い出していた。 SM的なプレイにはパートナーがいるのが普通だ。 絵美は、私にもそういうパートナーがいると思い込んでいるようだった。私に彼氏がいないことは知っているはずなのに。 でも、私にはいない。 この身体の縄の跡も、自分で自分を縛った結果だ。 自分でも不思議なことだが、パートナーが欲しいとは考えたことがなかった。 いや、正確には、パートナーがいれば完全な拘束をしてもらえる。自分では抜け出すことのできない、本当の拘束に憧れたことはある。 でも、できれば一人がよかった。 孤独で、誰にも干渉されない空間で、拘束されたい。 それってつまり、完全に自由を手放したいってことだと思う。 誰にも助けてもらえない、最悪の状況。 私はきっと、それを望んでいる。 マゾどころの話じゃない。 ただの自殺志願者だ。 そこまで考えて、私は自分が怖くなった。 いつか、本当にやばい自縛オナニーをしてしまうんじゃないか、って。 それが怖い。 シャワーの温度を上げて、無理やり思考を途切れさせた。 ちょっと冷静になろう。 絵美とは長い付き合いだが、性癖の話なんて振ったことがなかった。 なんであんな話をしたのか、自分でも不思議だった。 『縛られたことあるけど……痛いだけだった』って言ってたし、きっと絵美はノーマルなんだ。 絵美にも、自分と同じような変態的な性癖があればよかったのに。なんて考える自分が嫌になる。 「はぁぁ……。絵美、引いてたな……」 シャワーを止める。 水滴が落ちて床にぶつかる音が、嫌に頭に響いていた。 「止めて欲しかったんだなぁ……きっと」 *** 「ハングマンズノットかぁ……」 シャワーを済ませた私は、より厳しい自縛方法について調べていた。 ハングマンズノットは釣りのルアーを結んだり、昔、絞首刑に使われていたりした結び方で、縄の一方を引くだけで強度の高い結び目を作ることが出来るらしい。 自縛愛好家には、おなじみの結び方だそうだ。 「これ、やばいでしょ……絶対に緩まないって……♡」 ただ単に紐の結び方を調べているだけなのに、私の息遣いは荒くなっていた。 絶対に緩まない自縛を実現できたとしたら、どんな絶頂を迎えられるだろうか。 「ダメダメ……失敗して抜けられなくなったら、死んじゃうもん」 死ぬ……。 口にした言葉を頭の中で反芻させる。 そうだ、度を越えた自縛をすれば、死ぬ。 私は今、死に向かっていた。 あり得ないことだ。 あり得ない……。 命をかけてまで、快楽を求めるなんて……。 でも……。 要は命を失わなければいいってことだよね? ギリギリを攻めても、失敗しなければ……いいんだよね? *** 半ば衝動的に、私は自分の身体に縄を巻き付けていた。 誰が見ても変態だと見分けがつく「亀甲縛り」。 慣れたものだ。 絵美は今度、彼氏と海に行くと言っていた。 そのために、身体を作っているとも言っていた。 夏の海で可愛い水着を大好きな彼に褒めてもらいたい。 そんなところだろうか。 でも、私は海には行けない。 水着も着ることができない。 私のような終わっているマゾには、縄化粧以外のおしゃれは許されない。 可愛い水着なんてどうでもいいから、それよりも不自由になりたい。 全部、自分が望んだこと。 私にとって、不自由は何よりも優先されるものだから。 ギチギチ、と交錯して音を鳴らす縄たちが愛おしく思えた。 いつも私の自由を奪ってくれてありがとう。 締め付けを感じる度に、理性が破壊されていく。 おなか、おっぱい、首筋、おまんこ、雌肉と縄が擦れて、強烈な快楽の海の中に突き落とされる。 足首、ひざ下、ひざ上を縛り上げ、ベッドに寝っ転がり、膝を畳む。 腕の拘束をする前に、バイブとおっぱいを責める器具の電源をオンにした。 「んああっ♡」 絶頂。 一本の棒になった両足をベッドにこすりつけながら、快感に耐える。 しばらく浸った後、目隠しと口枷を付けて、腕の拘束を始めた。 足首から伸びていた縄をハングマンズノットの形にして、後ろ手になるように作った輪っかに両腕を入れる。 後は、このハングマンズノットを引けば、ホッグタイの完成。 腕が入れられるギリギリの長さにしているので、体勢はかなりきつい。 「ふむうううううっ♡」 拘束を完成させる前に絶頂する。 自縛の一番気持ちいい瞬間は、拘束を完成させた時だ。 そこに上り詰めていくまでの過程も、かなりの快感を伴う。 わざわざ時間をかけて、変態的で破滅的なオナニーを行っている卑しい自分に酔いしれる時間。 「ふむうぅっ♡ ふぅっ♡ ふぐぅっ……♡」 また絶頂する。 今の私は世界で一番マゾなんじゃないかって、そう思う。 独りよがりのメスマゾ。 どうしようもない私を縛り付けるのは、他でもない私。 「むうああああああああっ……♡」 叫びながら身体を倒して、ハングマンズノットの結び目を締める。 イク。 手首が締まる。 ホッグタイの完成。 「むぐ……っ♡」 イク。 暗闇。 今までにない拘束感。 「んああああああああああっ♡」 白目を剥いて、長い長い絶頂に抵抗する。 身体を捩るが、期待通りの動きにはならない。 思ったよりも厳しいホッグタイになっているようだ。 絶頂が収まらない。 「む……♡ んううっ……♡」 おまんこや乳首への刺激がノイズになっていた。 私を深い絶頂へと押し上げているのは物理的な性感ではなく、マゾヒズムの覚醒だった。 パートナーからの愛や、性感ではない、純粋な被虐願望の達成感から来る最上の快楽。 自縛をすることでしかたどり着くことのできない、マゾヒズムの境地。 この絶頂を何度も味わえば、自ら破滅を求めるほどに狂ってしまうのも仕方ないだろう。 「むぐあああああああああああっ♡」 また波が来る。 幸せだ。 幸せ。 気持ちいい。 死ぬほど気持ちいい。 この夢心地のまま死に至ることができたら、どんなに幸せだろう。 そんなことを考えるのは間違いなのだろうか。 *** どれくらいの時間が経ったのだろう。 体力はもうゼロに近かった。 逆エビの体勢で絶頂し続ければ当然だ。 拘束も、目隠しも口枷も緩んでいない。 「んふぅ……」 小刻みに震える身体と、快感で乱れた呼吸をなんとか制御して、ハサミを探す。 身体を横に倒し、ベッドの上をまさぐる。 ちょうど手が届く位置に脱出用のハサミを2本置いておいたはずだ。 「んぅ……?」 おかしい、想像していた位置にハサミがない。 暴れることができないぐらいキツい拘束なので、それほど位置は変わっていないはずだ。 まさか、床に落ちてしまった? いや、2本とも床に落ちているなんてことは考えづらい。 「ん! うぐっ!」 落ち着け、焦るな。 まずは目隠しをどうにかしよう。 頭を振ってベッドにこすりつければ、ずれてくれるだろう。 いや……そうだ、今日は頭ごと拘束して固定するタイプの目隠しと口枷をしてしまっている。どう頑張ってもずれることはない。 「う……」 流石にまずいかもしれない。 なんでこんなキツい拘束にしてしまったのだろう。 今日は絶対に緩まない縛り方をしているため、ハサミがなければ脱出するのは不可能だった。だから、わざわざ2本もハサミを用意したのだ。 ハングマンズノットを試すのは初めてなのだから、せめて目隠しぐらいは緩めておけばよかった。 ――このまま、自縛を解く手段がなかったら……? 「うあ……」 ――一時の快楽を得るために命を投げ捨てた間抜けなマゾの出来上がり……? 焦り。 混乱。 恐怖。 それ以上の、幸福感。 「ふうううううううああああああああああああああああっ♡」 始まった。 最も望んでいた状況。 「うぎいいいいいいいいっ♡」 今まで感じたことのないほどの絶頂感。 身体がふわりと浮き上がり。 全身から力が抜け。 寒いのか、暑いのかもわからない。 心臓の鼓動で胸が張り裂けそうになる。 真っ暗な視界が回っているような感覚。 「ぐううううううううっ♡」 私は力の限り叫んで、連続する絶頂から自分を守ろうとしていた。 「ふあっ……♡ むがああっ……♡ ふうっ……♡」 呼吸を一定にしようとあがいていた。 脳からの危険信号に身体が応えようとしているのだろう。 暴力的な絶頂がそれを許さない。 「ぐ……♡ があああああああっ……♡」 もはや獣だった。 破滅を望むマゾであれば、この絶望的な状況でも莫大な快楽を得ることができる。 私は幸せ者だ。 「あ……♡ う……?」 右手に何か、冷たいものが当たった。 鉄の感触だ。 「ん……? んんっ!」 どうやら私は、真っ暗な天国の中から脱出するための手段を見つけてしまったようだった。 *** それから私は、狂いに狂った絶頂地獄を味わっていたのがウソのように冷静になり。ハサミを使って縄を切った。 縄はそれなりに太さがあったので、切るのに10分ほどの時間を要した。 その時間を使ってクールダウンができた。 拘束を解いて目隠しを取ると、見慣れた自分の部屋がそこにあった。 長い間オーガズムの中にいるときは、どこか別の空間に飛ばされたような感覚だったので、今こうして自分のベッドの上にいるのが不思議に思えた。 「はぁ……」 溜息を合図に、疲労を思い出した。 愛液でぐちゃぐちゃになったバイブを膣内から抜いて、電源を切る。 「片付けるの、めんどくさ……」 私はふと、縄を切るのに使ったハサミを見た。 自縛のためにわざわざ買ってきた、切れ味が売りのハサミだった。 もう一本のハサミは遠くの床に落ちていた。 「あ、あんなとこに飛ばしちゃってたんだ……」 用意していたハサミが一本だけだったなら、脱出できていなかったかもしれない。 「危なかったぁ……万が一を考えて2本用意しておいて良かったな……」 ――本当に? 「本当に死ぬところだったし……」 ――あのまま絶頂し続けていたかったんじゃないの? 「いやいや、あり得ないから……」 ――2本目のハサミなんて、買ってこなければ良かったのにね 「もし、ハサミが見つからなかったら……」 ――そうしたらもっと、深く長く、本当に狂うぐらいにイケたのに 「……あれよりも、もっとヤバいのが味わえたかもってこと……?」 ――次はちゃんと”イケる”といいね? 「次は……ちゃんと……」 気づけばまた、呼吸が荒くなっていた。 私は汗と愛液を拭うこともせず、ベッドに身を預け、朦朧とする意識を手放した。 思考をリセットする必要がある。 今はきっと、マゾモードなだけだ。 なにか良い夢でも見て、起きたらちゃんと片付けて、それで日常へと戻ろう。 それができなければ、私はきっと……。 きっと、世界で一番幸せなマゾになってしまうだろう。 *** *** *** 結論から言えば、私は日常に戻ることはできなかった。 私のように真性のマゾが、自縛の失敗、抜け出すことの出来ないセルフボンデージから得られる快楽を一度味わってしまえばこうなるということだろう。 脱出用のハサミが手の届く位置に無いと悟ったあの瞬間の絶頂が、忘れられなかった。 授業中も、アルバイト中も、友達と遊んでいる最中も、自縛のことを考えるようになってしまった。 もっともっと絶望的な自縛がしたい。 歪んだ性感のために、自らのすべてを投げ捨てる快楽。 マゾヒズムを持たない他人からすれば、馬鹿馬鹿しくて、恥ずかしくて、愚かな行為に見えるだろう。 だからこそマゾは、自らを痛めつけ苦しめる快楽に没頭する。 浅ましいと罵られるべき行為にマゾは執着する。 理解されなければされないほど良い。 今日も私は、恥ずべき行為を楽しもうと思う。 「ついに買っちゃったなぁ……」 腕組みをした私の前に、大きめの段ボール箱が置いてある。 中には、セルフボンデージ用の革製拘束具が入っていた。 海外から取り寄せたもので、一人でも完全な拘束を行うことができるという触れ込みのものだった。 販売ページの文章は全て英語で、支払いも現金振り込みのみという、怪しいサイトだったので本当に届くのか心配だったが、問題なく期待通りの商品が届いた。 説明書を読んでいくと、膝を折りたたんでホッグタイ型に拘束するタイプで、特殊なマグネットと金具で完全拘束セルフボンデージができるようだった。付属のリングロックの施錠はタイマーディレイをかけることができるため、設定時間内にうまく拘束を済ませておけば、勝手にロックがかかる仕組みらしい。 想像するだけで、軽くイキそうになる。 「絶対に日本じゃ販売できないやつだよねぇ……」 そう呟きながら、段ボールの奥に手を突っ込んだ。 「うっわぁ……えぐいな、これ……」 拘束具と一緒に注文した、リブレスバッグを取り出す。 ガスマスクのような出で立ちで、口の部分にはしぼんだ風船らしき形状のラバーが取り付けられている。 このマスクを被せられた人間は、限られた量の酸素のみで呼吸することになる。 装着し続けていれば、窒息は免れない。 「来るところまで来ちゃったって感じだね」 自らを苦しめる行為にも限度がある。 限度というのは、死だ。 もし私が不老不死の薬を手に入れたなら、何度でも窒息プレイをするだろう。 これでもかというほどに自分の身体を痛めつけて、苦しみを味わい続けることを選択するはずだ。 でも、私はただの人間だ。 限界を超えれば、そこですべてが終わる。 「ま、限界があるから、気持ちいいのかもしれないけど」 ニヒルな笑みを浮かべながら、着ていた服をすべて脱ぎ捨てた。 おまんことアナル、乳首に責め具を装着する。 「はぁっ♡ 最高♡」 説明書を見ながら、何の躊躇もなく拘束を始めた。 いろいろと吹っ切れていた。 もうどうなってもいいから、この間のような絶望的な快楽をもう一度味わいたかった。 まずは脚から拘束を始める。 太ももまで伸びるロングブーツを履き、ファスナーを締めた。 膝が折りたたんで、ベルトでまとめる。 「で、次は腕か……すごいなぁ……本当に一人で動けなく出来ちゃうんだ……あ、その前にマスクが先か」 不自由になった両足を引きずって、リブレスマスクを手に取った。 説明書には『パートナーと十分に安全確認を行って、お楽しみください』と書かれている。 「安全確認ね……」 安全なプレイを求める人間はリブレスバッグなど買わないだろう。 鼻で笑いながら、説明書を投げ捨てた。 「よし……」 説明書によると、1時間を超えての装着は危険だそうだ。 何の迷いもなく、リングロックの開錠時間を1時間に設定した。 1時間と書かれているということは、恐らく2時間ぐらいは生きられるのだろう。説明書にギリギリの時間を記載するわけがない。 「あはっ……興奮してるんだ、私」 何かひとつでも間違えれば、窒息する。 もしかしたら、30分も持たないかもしれない。 それならそれで……なんて考えている自分が恐ろしかった。 深呼吸を繰り返す。 ここを超えれば、またあそこに行ける。 深い絶頂に落ちていける。 「はぁっ……! はぁっ……はぁっ!」 せっかく整えた呼吸がまた荒くなる。 勢いに任せてリブレスマスクを被った。 ベルトを頭の後ろに回して固定すると、視界が暗くなり、呼吸が苦しくなった。 急いでグローブに腕を通す。 ミトン状になった手先の金具にリングロックを通してうつぶせになり、折りたたんだ足先のリングに指先のリングロックを近づけると、マグネット機構が作動して、背中側で足先のリングと指先のリングが連結された。 この状態でロックが締まれば、完全なホッグタイが完成する。 「むぐ……」 小さなビープ音が聞こえた。 私の自由は、あと数秒で奪われる。 今ならまだ腕を引きはがせる。 もちろん、私に自由は必要ない。 欲しいのは苦痛と不自由と快楽だけ。 「んああっ……♡」 絶頂する準備はできている。 戻って来られなくなる準備もできている。 早く、壊して欲しい。 ガキン、と甲高い金属音がした。 私の与えられていた自由が終わる音。 「う……あ……」 お腹の奥からせり上がってくる痺れ。 高熱を出した時のような倦怠感。 意識が混濁する。 一人の人間を終わらせるほどの絶頂がすぐそこまで来ている。 今更になって怖くなる。 快感が怖いのは初めてだった。 脳が迫りくる性感を拒否しているみたいだった。 この間のアレを経験したからだ。 危険を知れば、その対策を講じるのが動物に備わっている生存本能だ。 でももう、遅い。 私は自ら壊れることを望んだ。 逃げられないように、自分を縛った。 だからもう、壊れる以外の選択肢はない。 「うぎっ……ぐがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」 後悔する。 気持ちいい。 絶頂。 後悔。 苦しい。 気持ちいい。 絶頂。 死。 叫べば酸素が足りなくなる。 それでも、叫ばないと耐えられない。 「むうあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」 快楽に殺される。 助けて。 気持ちいい。 助けて。 このまま殺して。 このまま、お願い……。 *** 「うあ……」 絶頂から降りて来られないままいる。 酸素も少なくなってきた。 1時間も持つ気がしない。 「んんん……いふぅぅっ♡」 この期に及んで、私の身体は感じることをやめない。 遅かれ早かれ、私はこうなる運命だったんだ。 こんなに気持ちいいなら、きっと私にとってはこれが正しい。 酸素がなくなれば、もっと苦しくて気持ちいい絶頂ができる。 それまで、意識を保たなきゃ……。 *** 薄れゆく意識の中、かすかにドアが開く音が聞こえた。 誰だろう? 近づいてくる。 もう、顔、上がんないや。 華奢な足、スカート。 女の子かな。 え? そうだ、私、一人暮らしじゃん。 なんで? 誰? オートロックだし。 鍵、かけてなかったっけ。 ああ、まあ、なんでもいいか。 見つめられている気がする。 ……撫でてくれている? 手の感触が柔らかい、気持ちいい。 頭まで性感帯になっちゃったのかぁ、私。 ……あれ? 真っ暗になっちゃった。 マスクの目の部分、カバーかけられちゃったな。 ふふふ、ありがとう。 ――ガチャン。 あれ、今の音……。 リングロック、外れちゃった? なんだぁ……1時間、経ったんだ。 腕、動かせるようになっちゃったな……。 ん……掴まれてる……。 ねえ、誰なの? お母さん? ううん、お母さんはもう、天国にいるから違うよね。 ああ……拘束しなおしてくれるんだ。 えへへ……ありがと。 あぁ……気持ちいい……。 ――ガチャ。 「ん……♡ ふっ……♡」 脳と全身でイクって、こんな感じなんだぁ♡ 腕、また動かなくなっちゃったぁ♡ タイマー使ってくれているかな♡ 無制限にしていたら、もう助からないなぁ……。 どこだろう、ここ。 イクの、終わんないなぁ……。 眠くなってきちゃった……。 *** *** *** 「純恋さぁ……何やってんの?」 最近、親友の様子がおかしかった。 LINEの返信が無いことを心配して家まで来てみれば、これだ。 「聞こえてない?」 縛られるのが趣味だと言っていたが、なるほど、自分でやっていたとは思わなかった。 これが気持ちいいのだろうか? あたしには理解できない。 ただ単に自殺を図ってしているようにしかみえない。 あたしがここに来なかったら、どうするつもりだったのだろうか。 「う~ん……」 裸に革の拘束具を巻き付け、イカついマスクをしている純恋はぶるぶると震えるだけの置物になっていた。 随分と気持ちよさそうに悶え、唸っている。 あたしは床に散らかっている説明書? のようなものを持ち上げて確認してみることにした。 説明書によると、純恋がつけているのはリブレスマスクという代物で、呼吸制御を楽しむものだそうだ。マスクの横に付いているメモリが酸素の残量を表しているらしい。 「なるほどね……まだ少し残ってるじゃん」 酸素が切れる前に助け出してやろうと思ったが、考え直す。 純恋の趣味を邪魔するのは、あたしとしては不本意だ。 だったら少し、手伝ってあげようか。 酸素が切れる直前に、助け出せばいい。 ここで助けてしまったら、どうせ純恋は、またこの危険なオナニー繰り返すだろう。 だったら今日、純恋には死ぬほど苦しい思いをしてもらって、自分を追い込むようなオナニーは危険だということを知ってもらう方がいい。 「はぁ……」 あたしは純恋に近づいてマスクの上から頭を撫でた。 そして、リブレスマスクの目の部分のジッパーを閉めて、リングロックを掛けなおしてやった。 「しゃあなしね、あたしがもう少しいじめてあげるよ、純恋」