XaiJu
クチバシ
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絶頂バッテリーの実験体になるために家族を捨てたドマゾ人妻の末路

「あなた、これお弁当ね」 「ああ、ありがとう。今日も仕事頑張ってくるわ」 弁当を受け取った彼が玄関から出ていく前に、階段から慌ただしい足音が下りてきた。 「パパ! 待って、優菜も一緒に行く~!」 「優奈、パパはもう行かないとだから。今すぐ出れるの?」 「準備できてる! 大丈夫!」 「奈々ちゃん。優奈、忘れ物とか大丈夫?」 「大丈夫よ。さっきチェックしたから」 「よし、じゃあ優奈、途中までな。寄り道はなしだぞ」 「わかってる~」 「行ってらっしゃい。車に気を付けるのよ」 「「は~い、行ってきま~す!」」 私は、この時間が大好きだ。 早起きをして朝ご飯を作り、大好きな旦那と娘の身支度を手伝い、笑顔で見送るこの時間が。 どうか信じてほしい。 28年間、私は品行方正に生きてきた。 15歳の時に恋をした男の子と、一途に愛を育んだ。 その愛の結晶である、優奈を授かった。 私は家族を本当に愛している。 それなのになぜ、今になって疑うのだろうか。 「絶頂埋葬処刑」を知ったあの日、幼かった私の奥底から湧き出てきた爛れた欲情を隠して生きてきたのが、それほど悪いことだろうか? お願いします。 どうか、見逃してほしい。 どうか、もう出てこないで。 そのまま心の奥底で眠っていてほしい。 家族を、今を、大切に抱きしめて生きていくと決めたのだから。 *** 「はぁっ! はぁ……はぁ……あ……」 どうやら、リビングのソファで眠ってしまっていたようだった。 時計を見る、13時。 主のサボりを咎めにきたかのような佇まいの自立式掃除機が横に立っていたので、自分が家事の途中だったことを思い出した。 旦那と娘を見送ってから、洗い物と洗濯を済ませ、掃除をしていたところだったのだ。 心拍数が上がっていることには気がついていたので、掃除機に手をかける前に、深呼吸をすることにした。 股間も濡れていた。 原因はわかっていた。 淫らな夢を見ていたからだ。 最近になって、こういうことが増え始めた。 ふと、テーブルに目を向けると、眠りに落ちる前に読んでいたA4サイズの冊子が乗っていた。 一枚一枚にびっしりと文字が刻まれている。 「絶頂バッテリー・実験体公募要項および契約書」 一番上にはそう書かれていた。 もう何度も何度も読んだ。 そのたびに、オナニーをした。 内容はもう既に暗記しているほどなのに、タンスの奥底にしまい込んでは、取り出して読むことをもう何日も繰り返している。 「ダメ……絶対ダメ。もう家族がいるんだから」 私はそう呟いて、テーブルの上の冊子を乱暴に掴み、旦那の作業デスクの横に置いてあるシュレッダーへと近づいていく。 「捨てる……こんなの」 いらない。 ――動悸。 絶頂バッテリーにはならない。 ――欲情。 家族と一緒に、生きていく。 ――破滅したい。 「ぅぁ……! ダメ……っ!」 頭の中でドーパミンが溢れだす。 「ふぅっ……ふーっ!」 絶頂寸前になっている自分の身体を両手で抱きしめた。 「もうっ……! なんでなの……! なんで私はこうなの……っ!」 快楽と自らへの怒りで満ちた目を契約書を向けると、『永久に人権を破棄することに同意する』と書かれたチェックボックスが見えた。 「あぐぅぅっ!」 イク。 悲しいぐらいに気持ちが良い。 自分が信じられなかった。 こんな紙切れに、何度何度もイカされる自分がバカみたいだった。 「ふーっ……! ふーっ……!」 無理やり呼吸を整えて、2階にある自分の部屋へと向かう。 タンスの3段目、下着の入っている所を開け、奥底に契約書を滑り込ませた。 結局、今日も契約書を破棄することが出来なかった。 もう何度目の失敗なのか覚えていない。 「私って……最低の人間なんだなぁ……」 タンスを閉めながら、心底悲しい気持ちになった。 「あ……掃除、しなきゃ……あの人と優奈が帰ってくるお家、綺麗にしないと」 私は濡れた下着を履き替えてから、勤勉な主婦へと戻ることにした。 *** 私が、自分の本性に気が付いたのは、中学2年生のころだった。 社会科の授業で『絶頂埋葬処刑』の存在を知ったのが事の始まりだった。 この国の地中には、たくさんの『絶頂エネルギー』が埋まっている。 『絶頂エネルギー』の素材は、殺人や性犯罪を犯した重罪人たち。 死刑級の罪状を言い渡された罪人は、ナノマシンで不老不死にされ、永久に絶頂させられることでエネルギーへと変換される。 そのことを知った当時15歳だった私は、淫魔にでも憑りつかれたかの様に、絶頂エネルギーについて調べつくした。 調べながら何度もオナニーをした。 身体の火照りが治まるまで、10回以上のオナニーが必要だった日もあった。 そんな淫らな少女が『絶頂埋葬処刑』をされたいと思うまで、そこまで時間がかからなかったことは、想像に難くないと思う。 私は重犯罪者になるために調べた。 無関係の誰かを殺してしまおうかと考えたこともあった。 でも、私にはできなかった。 少女は思春期に拗れた性癖を開花させただけで、悪人ではなかったということだ。 私は時間をかけて、『絶頂埋葬処刑』を忘れようとした。 その実、上手くいっていた。 時々、思い出して自慰行為に耽る日もあったものの、概ね普通の女の子として生きていくことが出来ていた。 初恋の彼と7年間付き合ったのち、結婚をした。 つい最近まで、『絶頂埋葬処刑』のことなんて忘れていた。 忘れていた……のに。 近年加速している人口減少と少子高齢化社会の対策として、新たに『絶頂バッテリー』の開発を進めていることが政府から公布されたのが、約半年前。 耳を塞ぐ間もなかった。 ふと気が付くと、厚生労働省のHPにアクセスし、『絶頂バッテリー・実験体公募要項および契約書』のPDFファイルをダウンロードしていた私がそこにいた。 その瞬間、私の奥底で眠っていた黒い欲望が再び鳴動し始めたのだ。 *** 「おかえり、あなた」 「ただいま」 「ごはんの用意できてるわよ」 「いや、ごめん。食べてきちゃった。LINEするの忘れてた」 「そう……最近、忙しいの?」 「死ぬほど忙しいね。まだ仕事残ってたんだけどさ、切り上げてきたんだよ」 「いつもお疲れ様」 「ありがとう。風呂、湧いてる?」 「もちろん」 私は脱ぎ捨てられたスーツとシャツを持ち上げながら、風呂場に直行する彼の背中を見ていた。 決心する。 今まで隠し通していたことを、打ち明けなければならないと思った。 いつだったか、夜の気分を盛り上げるために買った派手なキャミソールに着替えた。 いつでも期待に応えられるように維持し続けていた自慢のプロポーションが、私の勇気になってくれた。 最近は期待されることも減ったが、結婚して5年も経っていれば当たり前のことだろう。 手遅れになる前に『助けてほしい』と伝えなければ……。 「ふぅ……」 水分をタオルで飛ばしながら脱衣所から現れた彼の前に、私は立った。 「え……? 奈々ちゃん、それ、どうしたの?」 「最近してないから……」 「ああ……まあ、そうだね。もう一人欲しいの?」 「違うの……もう無理なの……」 私の声は震えていた。 「奈々ちゃん……?」 「お願い、何も言わずに、私を縛ってほしいの」 私はうつむいて、彼の表情を見ることが出来なかった。 沈黙。 彼の次の言葉が怖かった。 罵倒か、嘲笑か、あるいは肯定か。 「なんだ、そんなことか」 彼はそう言って肩をすくめた後、ビールを取り出すために冷蔵庫を開けていた。 「そ、そんなこと……って」 「奈々ちゃん、そういう趣味だったんだね。言ってくれればよかったのに」 「引かれるのが嫌だったから……!」 「縛られたいなんて、別にそんな変な性癖じゃないと思うよ」 「じゃ、じゃあ……やって、くれるの?」 「もちろん。でも、週末にしない? 俺、明日も仕事だし、優奈が起きて来たらまずいでしょ」 「う、そう……ね」 「久しぶりにほら、近くのホテル行こうか。家には道具もないでしょ」 道具はある。私の部屋に。 正直、今すぐにでも縛って欲しかった。 まるで性処理のための物のような扱いを、彼から受けたかった。 もう、気が狂いそうだったから。 なるべく早く、私を被虐の奥底に堕として、この葛藤から救い出して欲しかった。 しかし、私の勇気もここまでだ。 仕事で疲れ切っている彼を困らせるのは、本意ではない。 「ええ……ごめんなさい。わがままを言って」 「いいんだよ。気が付かなくてごめんね」 彼は私を優しく抱き寄せて、キスをしてくれた。 マゾであると告白してきた女に、どうしてそんな優しい口づけをするのか。 彼はきっとまだ誤解している。 私の中の『縛られたい』は性癖なんて甘いものではない。呪いなのだ。 彼はソファに座り、ビールとテレビを楽しみ始めた。 白い肌とピンク色の性感帯が透けて見えるキャミソールを着た痴女だけが、この空間の異物となっていた。 *** 彼と約束した週末まで、私は例の契約書を見るのを我慢した。 禁欲の平日を過ごし、彼の奴隷になる日を待っていた。 まだ人の形を保っていたい自分の最後の抵抗だ。 そして、待ちにまった約束の日、彼は帰ってこなかった。 息も絶え絶えの発情状態で待っていた私に届いたのは、一通のLINEメッセージだった。 『ごめん……今日ちょっと朝まで仕事になった』 それだけだった。 瞬間、私の中で何かが切れた。 部屋の鍵を閉めて、クローゼットの奥に隠していた鍵の付いたボックスの中から、革製の拘束具と、醜悪で甘美な図体のした責め具を取り出して、自らを苛め抜いた。 火照り切った身体を冷ますために、何度も何度も絶頂した。 朝まで続いたそれは、私の絶望的で破滅的な欲望を満たすには不十分だった。 彼は次の日の昼頃に帰宅して、私に一言詫びた後、すぐに優奈を連れて公園へと遊びに行った。 徹夜で仕事をしてきたとは思えないほどに、彼は元気な様子だった。 その次の週も、そのまた次の週も、私に被虐は与えられなかった。 その一か月後、私はまた彼にお願いをした。 お願いというよりも、懇願に近かった。 頼まれるなら、土下座だってしただろう。 「やっぱりさ、普通にセックスしようよ。俺、無理だよ、縛るのとか怖いし」 これが彼の返答で、それを聞いた私は、自分が嫌になるほどに冷静を保っていた。 確か、その時は『そうね』と一言返しただけだったと思う。 その日、彼と普通にセックスをした。 私はオーガズムに達することはなく、ひたすらに演技をした。 彼が射精を終えて部屋を出ていった後、布団に包まって泣いた。 分かっている、彼は悪くない。 私がもっとしっかり要求をすればいいだけ。 ただひとこと、『壊して欲しい』とそう言うことができれば、私がどうしようもない本当のマゾだと気づいてくれたかもしれない。 でも、もう遅かった。 最初に約束が破られたあの週末の夜から、私は狂い始めていた。 今まで生きてきた自分を、破滅を追い求める自分が殺し始めていた。 めまいがする。 視界も歪んでいた。 封じ込めていた被虐の呪いが、身体に影響を及ぼすほどに、大きなものになっていたのだ。 気づくと、愛する家族のいる自宅を飛び出して、ひたすらに走っていた。 既に崩壊を始めていた自尊心を引きずりながら足を動かした私は、「絶頂バッテリー・実験体公募要項および契約書」の発行元である国家エネルギー研究所の門の前にたどり着いていた。 *** 受付にいた女性に要件を伝えると、彼女は眼を見開いて、驚いた様子だった。 身分証明と申込書の記入を済ませたところで、白衣の青年が慌ただしく駆け寄ってきた。 その彼に改めて「要件は何か」と尋ねられたので、私ははっきりとこたえて見せた。 「絶頂バッテリーの実験体に志願するために参りました」 白衣の青年は絶句していたが、すぐに我に返った様子で、私を応接室へと案内してくれた。 「契約書は読まれましたよね?」 「全て読みました。何度も」 「それならわかっていると思いますが、実験体への志願は時間をかけて考えるべきことです」 「はい……」 「左手の薬指、素敵な指輪をされてますね」 「え?」 「旦那様には、ご相談されましたか?」 「……実験体になることは、誰にも言っていません」 「やはりそうですか……応募自体はいつでも大丈夫ですから、いま一度しっかりと考えられた方が――」 「お願いします。どうしても、実験体になりたいんです」 「なぜそんな……もしかして、誰かに実験貢献金目的で脅されているのですか? もしそうなら、あなたを保護することも可能です」 「違うんです。私はただ、本当に絶頂バッテリーの実験体になりたいだけなんです」 「一度実験体になれば、もう二度と人には戻れません。はっきり言いましょう、あなたは実験体になるべきではありません」 白衣の青年の瞳は正義に満ちていたが、色欲に狂った私の心には何も刺さらなかった。 私が何か言い返そうと言葉を考えていると、青年と同じように白衣を着た中年の男が部屋に入ってきた。 「水島君、いい加減にしなさい」 中年の男はあきれたように言った。 「後藤博士……この方は、衝動的になっているだけです」 青年は立ち上がり、中年の男に歩み寄った。 「君のせいで、実験体の公募が滞っているんだ。絶頂バッテリーになりたいというなら、ありがたく頂戴するのが、未来のエネルギー問題を担う科学者の姿勢というものではないのかね?」 「実験体の公募なんて必要ないでしょう! 死刑囚を使えばいいだけです! 今を生きる人の未来を奪うのは、我々の仕事ではありません!」 「足りないから公募をしているのだ! 絶頂バッテリーの実用化には、その素体となる人間に特別な適性が必要だということぐらい君にも理解できるだろう。死刑囚の中からちまちまと探していては、何年かかるか分からん」 「間違ってる……!」 青年は首を何度も横に振った。 「君、服を脱いでみなさい」 突然、後藤博士と呼ばれていた男は私に向かってそう言った。 なぜそんなことを言うのか、理解はできなかったが、言う通りにしてみることにした。 見ず知らずの男二人の前で全裸になることが、今の私にとってはご褒美に思えたからだ。 「博士……? 一体何を……」 青年は怪訝そうな表情で、後藤博士を睨んでいた。 私は身に着けていたシャツとスカートを躊躇なく脱ぎ捨てた。 「え……?」 青年の口から、驚嘆の息が漏れた。 私を仮の姿へと変貌させていた洋服たちが消えると、そこには倒錯に溺れたマゾヒズムの塊が現れた。 荒縄で亀甲縛りされた上半身。股間にはきつく縄が食い込んでいる。 両の乳首には金色のクリップピアス。 これが本当の私だ。衣類などは偽りの皮に過ぎない。 「それだけじゃ、満足できないんだろう?」 後藤博士は確信めいた口調で、私に問いを投げた。 「そうです……私はもっと、破滅したいんです」 「見たまえ、水島君。夢にまで見た逸材だ。私は3年もの間、この女性のような異常性癖を持った人間が死刑囚になるのを待っていた。しかし、一向に現れなかった。君のような正義に酔ったエセ科学者共の反対を押し切って公募をかけたらどうだ。すぐに現れてくれたじゃないか」 「あり得ない……自ら破滅を望むなんて……何がそこまで……」 青年は失望と諦観の混じったような視線を私に向けてきた。 「水島君、これ以上絶頂バッテリーの研究の邪魔をするなら、この研究所から出ていきなさい。今すぐにだ」 叱責された青年は何かを言い返そうとしていたが、すぐに諦めて、部屋から出ていった。 青年は去り際、私に向かって「あなたは大馬鹿だ」と言ってきた。 少し前の私なら、青年の立派な正義感に絆されていたかもしれないが、もはや何も感じることはなかった。 ただ一刻も早く、私のことを終わらせて欲しかった。 青年には理解しえないことだろうが、そんなことはどうでもよかった。 *** 「さて、邪魔者は消えた。君には早速、絶頂バッテリーになってもらうとしよう。構わないね」 「お願いします」 「私は水島君のように君のことをあれこれ聞くつもりはない。私の目から見れば君はもう人間ではない、ただのバッテリーだからな」 身体の奥底が熱くなるのが分かった。 良かった。 あとはもうこの人に身を任せていれば、終わらせてくれるだろう。 「服を着て、ついてきなさい」 「……このままでもいいですか? 服はもう……私には要らないものなので……」 「好きにしたまえ」 博士についていくと、中央にビデオカメラが置かれている部屋へとたどり着いた。 全裸で廊下を歩く女とすれ違ったら、ほかの研究員の人たちはどんな反応をするのだろう、と少し期待していたが、幸か不幸か誰ともすれ違わなかった。 「いまから君はここで、絶頂バッテリーの実験体になることを宣言してもらう。絶頂バッテリーは国家プロジェクトだからな。透明性を保たなくてはならない。君の家族や、司法などから要求された場合は、今から撮る映像を提出して、我々の正当性を主張しなければならないというわけだ、わかるかね?」 「絶頂バッテリーにしてくれるなら、いくらでも宣言します」 「よし、では部屋のカメラの前に立ちなさい」 「はい」 「これは契約書だ。読まなくていい、今更だからな。サインをしたら、カメラに見えるように手に持つように」 サインをするために持ったペンを見て、手が震えていることに気が付いた。 契約書を一瞥すると、私を興奮させるような言葉がこれでもか、というほどに書いてあった。 人権破棄、常時絶頂状態、人格崩壊の恐れあり、電気ショック、自殺不可、永久稼働。 何度も読んで、何度も私を絶頂に押し上げた言葉たちだ。 「あの……イってからでもいいですか……? 手が震えて……」 「手短に済ませるなら許可しよう」 私は感謝を述べ、亀甲縛りの股間部を引っ張り、性感を刺激した。 自然と体をカメラの前に向け、恥部をさらけ出すようなポーズでオナニーを始めた。 「撮ってぇ……♡ お願い♡」 嬌声混じりに懇願すると、博士は面倒そうに顔をしかめながらビデオカメラのスイッチを押してくれた。 「はぁあ♡ 最高っ……♡ 今から私の人生、終わりま~すっ……♡」 快感に身体をくねらせるたびに、乳首のピアスが音を立てた。 「イク……♡ あ……イクっ♡」 絶頂を迎えて、早くなった呼吸を整えた。 本当はもう少し余韻に浸りたかったが、博士の冷たい目が「さっさと契約書にサインしろ」と言っているような気がしたので、股間から手を放してペンを手に取った。 『斎藤奈々』。今から捨てる、私の名前。 一文字書き進める度に、指先から脳へ快楽信号が送られているようだった。 「う……♡ はぁっ……♡」 やっとの思いで書き上げ、絶頂する。 「うぅぅぁあああああああっ♡」 契約書を持ち上げて、ビデオカメラの前に立つ。 快楽に溶け切った表情をしているだろうし、立ち姿もみっともないことだろう。 私は無意識に、カメラに向かってピースサインを送っていた。 「あなたと、優奈、ごめんなさい……♡ 私、斎藤奈々は、自らの意思で絶頂バッテリーの実験体に志願いたしました♡ これまでずっと我慢して、隠してきたけど、やっぱり駄目だったみたいです♡ 私はただのメス豚でした♡ 本当にごめんなさい……♡」 「どうしようもない私だけど、実験貢献金として、あなたと優奈が一生暮らせるだけのお金が振り込まれるみたいだから……どうか、幸せに暮らしてね……♡」 「そして、研究所のみなさんっ♡ 私の身体を使っていっぱい実験して、いっぱい研究してください♡ 私みたいなクソマゾでも世間の役に立てるように、好きに改造しちゃってください♡ お願いしま~す♡」 完全に狂っていた。 カメラの前でバカみたいにピースしながら人生終了宣言するのが、こんなに楽しいものだとは思わなかった。 「よし、いいだろう。君は正式にモルモットになった。望み通り、改造してやろう」 私は博士に、蕩け切った笑顔を向けて、子供のように大きく頷いてみせた。 *** それから私は、文字通り人ではなくなった。 拘束台に固定されて、ナノマシンを投入された。 食事も排泄も必要がなくなった代わりに、歩くことが出来なくなった。 どうでもいい。もう私はただのバッテリーだから。 全身、撫でられるだけでイケるようになった代わりに、脳の一部の機能が停止するらしい。 どうでもいい。もう私はただ肉欲を感じるだけの物だから。 数日間、身体を完全に拘束されたまま、絶頂漬けさせられた。 博士いわく、私はかなり優秀な電池らしい。 絶頂回数が多く、オーガズム深度が人よりも深いからだと言われた。 やっぱり、私の選択は間違ってなかった。 愛する家族のことは少し心配だけど、人生は一度きりだ。 後悔のない選択をすべきだ。 「君の旦那……いや、人間だったころのパートナーが君を引き取りに来ている。自分の妻を返せ、と暴れているようだ」 「イク……っ♡」 「聞こえているか? まあいい。残念ながら君はもう我々の所有物なのでね。今更元の場所に返してやることはできない。だが、希望するなら最後に一度だけ顔を合わせられるように手配することも可能だが、どうする?」 「んんっ♡ イキますぅ♡ ごめんなさいぃ♡」 「希望しない、ということでよろしいか? 今日この後、君の完全なバッテリー化とアンドロイドのコア適合実験を行う予定だ。つまり、君が本当の意味での人間でいられる最後の時になるということだが……いいのかね?」 「はぁっ♡ 撮ってぇ……♡ お願い、撮って欲しいの……っ♡」 「撮る……?」 「私が、後悔してないって伝えなきゃ……♡ 幸せだって、伝えなきゃ……♡」 「映像を、彼に渡せばよいのか?」 私は頷きたかったが、厳重に拘束された首は動かなかった。 「まあ、いいだろう。君の人生が終了する瞬間を記録しておこう。言いたいことがあれば、作業中に喋るといい」 「ありっ……♡ がとうございますっ♡ イっていいですかっ……♡」 「何度も言ったはずだ、いちいち許可を求めてくるな。君の役割は絶頂しつづけることだけだ。許可を求める暇があれば、一度でも多く絶頂しなさい」 「はいぃ……っ♡ ごめんなさいっっっ♡」 博士と、その他数名の助手たちの手によって、女性型のアンドロイド素体が運ばれてきた。 まだ魂の通っていないそのアンドロイドは精巧な作りで、芸能人のような美しい顔をしており、メイド服を着せられていた。 私はバッテリーになる際の希望用途欄に「家政婦」と書いていた。 どうやらその願いは叶えられるらしい。 拘束台に固定されていた私は、一時的に開放された。 博士と助手たちがなにやら金属のパーツを持って話し合っているのが聞こえる。 助手たちが近づいてきて、私の両足を折りたたみ、金属の輪っかのようなもので拘束を始めた。快楽以外の神経は死んでいるようで、痛覚もなかった。 いや、おそらく痛覚は快感に変換されるように脳が改造されているのだろう。 助手たちに身体を触られる度に、軽い絶頂を繰り返した。 ナノマシンのせいか、私の身体は体操選手のような柔軟性を手に入れていたようだった。 腕は背中側に回されて、合掌するようなポーズにさせられた後、金属の拘束具で固定された。 苦しくはない、ただ気持ちいい感覚がずっと続いていた。 助手数名に抱えられて、私はアンドロイドの背中部分に収納された。サイズはぴったりで、少し背中側が盛り上がるシルエットになるのではないかと考えたが、メイド服がうまくフィットするような構造になっていたので、見栄えの心配はないようだった。 「よし、サイズは問題ないな。仕上げに移ってくれ」 「はい」 アンドロイドの背中から救出された私は、横にあった台に転がされた。 「さようならの時間だ。カメラも回してある。言いたいことがあるなら、これが本当に最後だ」 博士が私に向かって、吐き捨てるように言った。 「あ……はいっ♡ あなた、私が幸せな物になる瞬間、見ててね……っ♡」 息遣い荒く言葉をひり出す私を無視して、私の身体に電極パッドやよくわからない装置が取り付けられていった。 「んふっ……っ♡ 気持ちいいよぉっ……っっっ♡ 私はバッテリーとして幸せになるからぁっ♡ あなたも優奈も、どうか幸せに暮らして欲しいのっっっ♡」 膣内とアナル、そして尿道にも、バイブのような装置が入れられた。 「動作確認をします」 「ふぅっ♡ んひぃいいいいいいいいいいいいっっっ♡」 深い絶頂を迎える。 筋肉の機能が低下していなければ、きっと私は台の上で跳ね回っていたことだろう。 「博士、このピアスは?」 「こいつはSクラスのマゾヒズム個体だ。乳首とクリトリスにピアスを着けてやれ。それでバッテリーとしての価値が上がるはずだ」 「わかりました」 「あ……♡ ちょっと待ってぇ……♡」 当然、要求は無視される。 「ふぉっ♡ んあああああああっ♡」 私の両の乳首に、金色の輪っかがぶら下がった。 「クリトリスにも装着します」 世界が一瞬暗転した。 「ふああああああああああああああああっ♡」 私は白目を向きながら叫んでいた。 こんな大きな声を出したのは初めてかもしれない。 「おい、そろそろ黙らせろ。聞くに堪えん」 博士の無情な言葉に、助手たちが頷く。 その中の一人が、前後左右に分かれたフェイスマスクを持ってきた。 0.5ミリほどだろうか。外装は厚めで、口の部分には口内犯すためのペニスギャグ、鼻と耳の部分にも何か管のようなものが付いている。おそらく、穴という穴から快楽を得るための装置だ。 そして、目の部分は穴が開いていなかった。 「あ……♡ あ……♡」 見ただけで股間から愛液がしたたり落ちる。 終わりだ。 待ちに待った瞬間だった。 なんの予告もなく後頭部分の取り付けが始まった。 「あ、あなたぁ♡ 優奈……私、先に幸せになりますぅ♡ わがままでごめんなさい……♡」 耳に管が突っ込まれた感覚があった後、頭の中で火花が散った。 失神するような勢いで、また絶頂する。 目の焦点が合わなくなった。 不明瞭な視界の先に、黒い物体が映っていた。 私の顔、私の最後の尊厳、私を私だと認識してもらうためのすべてが、その黒い物で覆われる瞬間だった。 「さよ……なら……っ♡」 口に張型が入り込んでくる直前、私は快楽の渦の中で、別れの言葉を口にした。 直後、視界が暗転し、何も聞こえなくなった。 喋ることもできない、ただの絶頂人形。 連続する絶頂に酔いしれながら、私はバッテリーになることができたことに心から感謝した。 *** 【絶頂バッテリー Ver:ProtoType P90S】 戸籍名:斎藤奈々(抹消済) 人権剥奪済 バッテリー適合レベル:優良 平均絶頂速度:13秒(2125年5月12日計測) 不老不死ナノマシン:適合済 推定寿命:無期限 特筆クラス:有(Sクラスマゾヒズム所有個体) バッテリー用途希望:家政婦 実験貢献金:有(夫、娘に分配する) 現況:指定家庭に貸与された家政婦型アンドロイドのコアエネルギーとして使用中。 功績と褒賞:絶頂バッテリーの初志願者として、研究に大きく貢献した個体であるため、希望用途に沿って使用される。 *** 「優奈さん、ケーキをお持ちしました」 「わぁあ! アンナさん、ありがとう!」 「優奈、28歳の誕生日、おめでとう」 「ありがと、パパ」 ケーキの刺さったロウソクの火を吹き消す優奈。 父親と家政婦アンドロイドはそれを見て、拍手をする。 「優奈、今年も元気に過ごしてくれよ。お父さんはもうそれだけで幸せなんだから」 「うん、パパもね!」 家政婦アンドロイドのアンナが用意した豪勢な食事を、父親と優奈は楽しんでいた。 テレビから聞こえるバラエティー番組の笑い声をBGMに、談笑は進んだ。アンナも時折会話に混ざり、アンドロイド特有のユーモアで場を盛り上げている。 「ねえ、パパ」 「んー?」 「ママがいなくなったのって、私が8歳の時だったよね?」 「ああ……」 「28歳って、あの年のママと同じ年齢になったんだなぁ……」 「優奈……その話は――」 「ねえパパ、ママは死んじゃったんでしょ。私、知ってたよ。パパは隠して、今は遠くにいるって言ってたけど。実はね、気づいてたんだ」 「……すまん」 「ううん! 違うの、謝らないで。パパの優しさだったってことぐらい知ってるから。それに、アンナさんがウチに来てくれたし。私、ぜんぜん寂しくなかったから」 「……優奈、いい子に育ったなぁ……これもアンナさんのおかげかな」 「光栄です。ですが、優奈さんが優しいいい子に育ったのは、優奈さん自身の努力と人間性、そして父親の愛によるものです。私はただの家政婦ですから」 「ふふふ、アンナさんからもたっくさん愛情貰ってるよ。アンナさんは自分で気づいてないだけ」 「私も、優奈さんからたくさんの愛をいただいています」 「へへ、じゃあ相思相愛だ。アンナさん、これからもずっと一緒にいてね♡」 「もちろんです。私はずっと、この家の家政婦ですから」 *** (あああああああああああああああああああ♡ またイクうううううううっ♡) (もう無理いいいいいいいいっ♡ もっと、もっとぉ♡ イカせてぇ♡) (終わんないでっ♡ ずっとずっと狂わせ続けてほしいのぉっ♡) メイド服の中で叫び続けるバッテリーは、その活動を終えることはない。 いつの日か愛する家族が天国に行ったとしても、アンドロイドは止まることを許されない。 バッテリーがエネルギーを供給し続ける限り、アンドロイドはお墓の掃除をし、供え物を続けるだろう。 いつか世界が終わるまで、彼女は絶頂を続ける。


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