破滅願望に満ちたドマゾOLの人生終了プラン
Added 2024-12-02 12:36:58 +0000 UTC昼間の間オフィスの至る所で鳴り響いていたキーボードの打鍵音が、気づけば自分のものだけになっていた。 時刻は午後11時。 バツの悪そうな顔をして、退勤のあいさつをしてくれた後輩の子を笑顔で見送ってから、既に3時間が経過している。 いつもならこのあたりでイライラが頂点に達し、作業を切り上げて帰路につくのだが、今日は違う。疲れてはいるが、イライラはしていない。 「よし、今日はここまで! お疲れ様」 誰に言うわけでもない、自分の仕事に区切りをつけるためだけに呟く言葉。 ノートパソコンを畳んで、カバンに入れる。 ひどく疲れているはずなのに、心は踊っていた。 今日は仕事終わりに、以前から気になっていたSMバー寄っていくのだ、と決めていたからだ。 なかなか勇気を振り絞ることができずにいたのだが、すでに限界まで来ている仕事のストレスが、私の背中を押してくれた。 私は、心の安寧を取り戻すためにSMバーに行く。 縛られたい。 嬲られたい。 罵られたい。 性欲とストレスの発散をするために、今日を頑張ったのだ。 今日、私は、欲望を解放する。 *** 新宿繁華街の一角、目当ての店の前に私はいる。 高級そうな佇まいの建物の地下にそのSMバーはあった。 深呼吸。 決めてきたはずだ。 今日は絶対に挑戦すると。 性欲の解放こそが、今の私を救う唯一の手段だと、わかっているはずだ。 「う……」 あと一歩が出ない。 怖い。 これでハマってしまったら、自分がどうなっていくのかわからない。 動画でオナニーをするだけでは、満足できなくなるのではないか。 自宅でささやかに行う自縛では、イケなくなるのではないか。 本物に堕ちていくのが怖かった。 本当の自分がどうしようもない真性のマゾだってことぐらい、わかっているはずなのに。 それを受け入れていくのが怖い。 「お姉さん、ウチのお客さん?」 「ひゃい!」背後からの女性の声に、飛び上がりながら返事をした。 恐る恐る後ろを振り向くと、アイドルのような顔立ちの女の子がそこに立っていた。 「へ……あ、えっと……」 「めっちゃ美人だね、お姉さん。縛ったら映えるよ」 「縛ったら……!?」 「あれ、違うの? そこ、あたしの店なんだけど、SMバーだからね」 「あ、し、知ってます」 「なんだ、じゃあ寄ってってよ。お姉さん可愛いし、サービスするよ」 手を握られる。 「えっ、ちょっ…! まだ迷ってて…!」 「大丈夫、後悔させないから」 そのまま連れ込まれるようにして店へと入ってしまう。 乾いたベルの音が鳴って、店内にいた十数人のうち、2,3人ほどがこちらを振り向いた。 自分の顔が赤くなるのが分かる。 なぜだか恥ずかしい。 ここにいるのはみんな、SMに魅せられた人たちばかりなのに。 「沙織ちゃん、お客さんひっかけて来たよ、かなり美人」 私をこの店へと引き入れた女の子が、カウンターの奥に向かって叫ぶ 「店長! おはようございます。出勤前に客引きとは、流石は店長ですねぇ」 カウンターに立っていた沙織と呼ばれた女性が応えた。 「客引きっていうかさ、店の前で立ち止まってたから。ね?」 「あ、はい……」 私はうつむきながら相槌を打った。 「おお~…当てていいですか? お姉さん、マゾでしょ?」 沙織さんの口から出たマゾ、という言葉に身体が反応して、びくっと跳ねる。 店のどこかで、おおっ、という歓声が沸いた。 うつむいたまま、言い返せない。 いえ、違います、私はただ興味本位で……なんて嘘をつくには、不自然な間ができてしまう。 「図星みたいですね」沙織さんが私の元へと寄ってきて言った。 「沙織ちゃん、この娘初めてみたいだから、あんまり飛ばし過ぎないようにね」 「あ、だからそんな緊張してるんですね~! やだ、顔真っ赤でかわいい……!」沙織さんがおもむろに私の髪を触りながら、ケラケラと笑っている。 何も言わずにうつむいていると、店長に顔を覗き込まれた、大きな瞳が少し怖い。 「お姉さん、名前は?」 「あ、麻衣、です……」 「麻衣ちゃんね。じゃあ、ちょっとこっち来てね。沙織ちゃん、次、麻衣ちゃん立たせるから」 「はーい!」 入ってきた時と同じように、店長に手を握られて、店の奥の部屋へと案内される。 何やらSMグッズが雑多に置かれている部屋の中央で立ちつくす私を無視して、店長は黒い箱の中を漁っていた。 「あのぅ……本当に、私、緊張してて……」 「一回やってみたらすぐ慣れるよ。縄でいい?」 「え?」 「いや、革と縄、どっちが好き?」 「えっと……な、縄……?」 「いいね、縄からやろっか。服はどうする? 脱ぐ?」 「あの! ちょっと待ってください。私、その、縛られるってことですか?」 「そうだよ。うちはそういう店だから。あれ? マゾでしょ?」 「え、う……! はぃ……マ、マゾですけど……」 自分で自分のことを声に出してマゾだということには慣れていないので、声量が小さくなってしまう。 「じゃあ、縛られたいでしょ?」 「……」 でしょ? と言われても、どう答えるのが正解なのかがわからない。ええ、そうですよ、なんてツラっと言える女でありたかったが、土台無理だった。 「あ、ごめんね。アタシも無理にやらせたいわけじゃないから」 もじもじとしている私を見かねて、店長が心配そうな顔になって言った。 それ聞いた私は勢いよく顔を上げて、店長を真っ正面見つめた。 「い、いや! やります! やらせてください!」 「お、おぉ……」 店長の目が見開いるのを見て、自分の声が大きくなっていたことに気づく。 「麻衣ちゃん、いいね。こんなに気合の入ったマゾは久しぶりかも」 「き、気合の入ったマゾ、って……ふふふ」 店長の妙なワードセンスに、思わず笑ってしまう。 「笑顔も可愛いね。じゃあ、服、脱ごっか」 「はい! ……え?」 「あ、服、脱いでね」 言葉の意味を一拍遅れて理解する。流石にそこまでの覚悟はできていない。 「あのぅ……着衣のままじゃダメですか」 「あ~、まあいいけど、下着姿の方がお客さん喜ぶよ。一応、店内撮影は禁止だから、心配しなくても――」 「ちゃ、着衣で!」 「ふ、わかった。じゃあ、手を広げて」 「あ、はい……」 意外と簡単に諦めてくれるんだな、と思いながら、私は言われた通りにした。 店長は慣れた手捌きで、私の身体に縄を滑らせていく。 胸やお腹の周りがひし形になるように縛っていく。確か、亀甲縛りとか、葵縛りとか、そういう風に呼ばれる縛り方だ。 「麻衣ちゃん、自分で縛ってるでしょ」 「う、跡、残ってました?」 「ううん、やってるだろうな、って思っただけ」 「流石、分かるんですね」 「まーねー、そこの見極めも、アタシの仕事だから」 「店長さん、私よりも若そうに見えるんですけど、このお仕事は長いんですか?」 「ふ、上手だね。流石に麻衣ちゃんよりも年上だと思うよ」 「え、嘘! おいくつですか?」 「ズケズケ聞くね」 「あ、ごめんなさい。私は27です!」 「ふふ、そうなの。アタシのは内緒」 「そんなぁ……」 「でも麻衣ちゃんよりは年上だよ」 「えー!? 本当ですか? 全然見えませんけど」 「27より下で、こんなところに店持ってたらすごくない?」 「まあ、確かにそうですけど……ありえなくはないかなって。すごい、その、お若く見えたので」 「ありがと。腕、後ろに回して、重ねてくれる?」 「あ、はい……」 店長と話をしたおかげでほぐれていた緊張が一瞬で戻ってくる。 腕も縛っちゃうんだ……。 もう逃げられなくなっちゃうんだ。 これは自縛じゃない、誰かの助けを借りなければ抜け出せない拘束。 心拍数が高くなるのを感じる。 「興奮してるね? 拘束されるの、好きなんだ」 「はい……好きです……」 「素直になったね。店の前で顔を見た時からアタシは見破ってたけど、麻衣ちゃん、相当なドマゾだよね」 「ドマゾ……そう、かもしれません」 「変態」 「うぅ……いじめないでください」 「ダメ、今日はいじめられて帰ろうね。はい、じゃあ、ステージ行くよ」 「え、ちょっとまだ心の準備が……」 「それ、さっきも聞いたよ。ほら、命令、歩きなさい」 「……はい」 店長に促されて、店内へと戻っていく。 歩く度に股間に縄が食い込んで、むず痒さが快感に変わる。 縄化粧を施した私の姿を見て、カウンターにいた沙織さんがニコッと笑った。 「さあ、次のマゾさんの登場でーす!」 店内のスピーカーから、沙織さんの声が響く。 他のお客さん達が私に気づいて、一斉に振り向く。 「あ……」 ――おお、可愛いじゃん。 ――え、さっき一人で来てた人? 静かな店内なので、お客さんの声が鮮明に聞こえてくる。 緊張と興奮で頭がおかしくなりそうだった。 気を抜いたら、イキそうになる。 「麻衣ちゃん、ほら、こっち」 店長の声で我に返る。店長はもうステージにいた。 「吊り上げるから。もし痛かったら言ってね」 私は頷いて、覚悟を決めた。 先ほどとは倍ぐらいのスピードで、店長が私の足を縛り上げていく。 仰向けに寝かされ、足を折りたたまれ、逆エビのような形にさせられて吊り上げられた。 一人では味わえない拘束感、大勢の人に囲まれて注目されているのに、身動きすらできない。 「どう? 痛くない?」耳元で店長がささやく。 「気持ちいいです……」 「そう、良かったね。変態マゾちゃん」 店長の静かな罵倒で、イキそうになる。 全身に力が入って、快感に震える。 「く……あぁ……ふうぅ……!」 店長は微笑んで、絶頂中の私を見ていた。 「しばらくそのままにしておいてあげる。ドマゾなとこをいっぱい見られて、いっぱいイっていいからね」 店長は私にそう囁いて、カウンターの方へと歩いていった。 店長がいなくなった途端に、周りの視線が気になり始めた。 私のことを見ながら、ロックグラスを傾けている初老の男性。 仕事終わりだと思われる若いサラリーマン二人組は、チラチラと私のことを気にしている様子。 奥のソファ席に座っているカップルは、私のことなどそっちのけで、二人で楽しんでいた。そのほかにも数人のお客さんがいたが、野次を飛ばしてくる人や、近付いてくる人はいなかった。もしかしたら禁止されているのかもしれない。 私はこの空間でただ一人、痴態を晒している。SMバーといういかがわしい空間を共にする仲間でありながら、今この瞬間は私が一番変態で、性に忠実な一匹の動物になっていた。 「えう……うぅ……ごめんなさい、ごめんなさぃ」 気持ち良さと、恥ずかしさで涙が出てきた。 なんとなく、悪いことをしているような気がした。 こんな状態で気持ち良くなってしまってごめんなさい。変態のマゾでごめんなさい。 昼間はしっかり働いて、社会に貢献しているので、今だけは許してください。 それからしばらくして、店長が「叩いても問題ないか」と聞いてきた。 私が頷くと、店長は鞭を取り出して、私のことを嬲った。 叩かれる度に声を出しながら、何度もイッた。 身体が反応しているというよりも、心が犯されているように感じた。 秘匿していた変態的な精神の奥底を犯されているような感覚だった。 街角のSMバーという小さな小さな世界ではあったが、私にとっては性を解放した初めての社交場である。自ら大切な人生を捧げてしまったような感覚に酔っていた。破滅願望の一歩を踏み出してしまった、という後悔と絶望の中にある快楽に呑まれて、絶頂していた。 そしてそれは、私が最も望んでいた被虐である。 *** 「どうだった?」 裏の部屋で、私を縄から解放しながら店長が聞いてきた。 「よかった、です……」 「何回イッた?」 「わかりません、10回以上はイキました」 「ふふ、そう、すごいね」 「え!? お、多いですか?」 「一日に10回以上イッたことのある女の子って、世界にどれぐらいいるだろうね」 「う、まあ、はい……変態でごめんなさい……」 「マゾってさ、謝るの好きだよね」 「う……」 やっぱり面と向かって「マゾ」と言われるのにはまだ慣れない。この言葉は、私を欲望の渦へと突き落とす、魔法の言葉だ。 「はい、解き終わったよ。身体、どう?」 店長から肩をポンと叩かれてやっと、身体が自由になったことを悟る。 「大丈夫です」私は肩を回しながら言った。 「うん、じゃあ、お酒飲んでってよ。今日はサービスだから」 「え、いいんですか?」 「がっつりステージに立ってもらった人にはそうしてるの」 「わ、やったぁ」 「ふふ、良かったら、またお願いね。麻衣ちゃん、なんでもやってくれそうだし」 「え、ぜひ! なんでもやります!」 「なんでもやってくれるの?」 「あ……いや……う~ん、一応、はい、まあNGはなしで……マ、マゾなので」 「いいね、好きな時にまたおいで、死ぬほどいじめてあげる」 「ひぃ……」 ここまでで、私はこの店長の虜になっていた。ずっと一人で自分を慰め続けていたドマゾに初めて調教を施してくれた人だ。つまり、初めてのご主人様なのだ。恋、ではないと思うが、それに近しい感情を抱き始めていた。この人なら、私のすべてを奪ってくれるのではないか、という期待を抱かせてくれる。 この人になら、全てを支配されてもいいと思った。昼の間、自分を偽って、普通の人間として生きている私の人生を終わらせてくれる人を探していたのだ。そう、ただの奴隷として扱ってくれる人を探していた。 いやしかし、さっき会ったばかりの相手に、縄で縛られて、鞭叩かれ、罵られ、それで好きになるというのは、我ながら随分と歪んでいるな、とそこまで考えて笑ってしまった。 「どうしたの?」 店長は突然笑い出した私に、心配げに大きくなった瞳を向けた。 「あ、いえ、好きだなあ、って」 「縛られるのが?」 「どっちもです」 店長は私の返答を聞いて、少しだけ首を傾げて、やがて何かを思いついた様子を見せてから、妖艶に微笑んだ。 この時の店長は、私よりも少し背が低くて童顔なはずなのに、自分よりもずっと大人に見えた。私よりも年上だということを聞いたので、そのせいかもしれない。 「じゃあ、ほら、あっちに戻ろうか。お酒、入れてあげるから」 その後も店長は終始クールな様子で、閉店まで居座った私の話し相手になってくれた。 帰り道、縛られて放置されてイキまくった時のことを思い出していた。 他人に縛られるのが、本当の不自由が、あんなに気持ちいいものだとは思わなかった。 想像以上の体験に、心を躍らせながら帰宅した。 勇気を出して行ってみてよかった。 店長も私のことを気に入ってくれたのではないだろうか。 また行こう。 取り返しのつかないことになるぐらいに通おうと思う。 *** それから私は、週末になると欠かさず店へと通った。 沙織さんとも仲良くなった。 店長は相変わらず私を気にかけてくれているようで、いろいろなプレイを経験させてもらった。四つん這いの拘束で、店内を散歩させられたり、木馬に乗せられて放置されたり、蝋燭を垂らされたり、革の拘束具で動けなくされたり、挙句の果てにはバイブを入れられたまま帰宅させられたりもした。 私にとって店長の命令は絶対で、挿れたまま仕事に行けと言われたら、多分なんの躊躇もなくそうしただろう。そこまでの要求はされなかったが。 私の中の被虐願望はみるみるうちに大きく、黒くなっていった。 自らもっとハードなプレイを要求するようになり、店長もできる限りそれに応えようと努力してくれている感じだった。 そんなことを繰り返していた、ある日のことだった。 「麻衣ちゃん、もう人生に飽きちゃった?」 店の奥の部屋で店長に言われた。 「え?」 「人生、飽きたんでしょ? 最初から、そんな感じだったよね」 「人生にって――」 「麻衣ちゃんは、これからどうされたいの?」 「どうされたい――」 「叶えてあげるよ」 オウムのように言葉を繰り返す私に、店長は被せてくる。 叶えてあげるよ――。だなんて、この人は、私の心を掴むのが本当に上手い。 店長は真っすぐに私を見ていた。いつものように微笑んでいたが、より真剣な眼差しに見えた。 私は少し考える。いや、考える振りをした。 答えは決まっていた。 「人生を終わらせて、欲しいです」 はっきりと言ってみせた。 店長の前でなら、私はもう全てをさらけ出せるようになっていた。 股間が濡れて、服まで染みているような気がしたが、どうでもよかった。 「いいのね?」 「はい、お願いします」 「じゃあほら、いろいろ、整理してきて」 「はい」 私は満面の笑顔で頷いた。 どんな形なのかは分からないが、私の夢を叶えてくれるはずだ。 さようなら、人間だった私。 私は奴隷に堕ちようと思います。 この人の所有物になります。 店から出て電車に乗り、夢うつつのまま帰路についた私はひとり、誰に言うわけでもない、自分の人生に区切りをつけるためだけの言葉を呟いた。 「お疲れ様」 *** それから、私は身の回りのことを全て片付けた。 仕事を退職し、物は全て処分した、人生に必要な全てを捨てた。 最後、この空になった部屋を出れば、私は晴れて真っ新な状態になる。 後のことは気にしていなかった。 他人から見たら狂気的に思われるかもしれないが、私にとっては目標を叶えてもらうための準備でしかなかった。 駅から店へと歩いてる途中で、最初に店長と出会って時のことを思い出していた。 あの時はひどく緊張していた。 でも今思えば、あれはただ高揚していただけなのかもしれない。 今の私と同じように、性的に興奮していただけかもしれない。 店に辿り着く前に、イってしまいそうになる。 息遣いが荒いからか、すれ違う人々が私の姿を見て怪訝な表情を投げかけてくる。 通い慣れた道なのに、いつもよりもずっと長く感じた。 これ以上、私を自由でいさせないで欲しい。 早く、早く……。 *** 「おかえり」 店長が店の前で煙草を吸いながら迎えてくれた。 「あ、ただいまです……」 「息上がってるね」 「あの、もう、我慢できなくて」 「あれ、バイブでも挿れてるの?」 「いえ……」 「ふふ、想像だけで、そんなになる? 麻衣ちゃん、エッチ過ぎない?」 「ごめんなさい」 「いいよ、おいで。今日の入り口はこっち」 踵を返して歩く店長についていくと、店の入ってる建物の裏に辿り着いた。 そこには錆びた鉄製のドアがあり、南京錠で閉じられていた。 「ここは?」 「ん~、VIPルームみたいな?」 店長が南京錠を開けて、ドアを押し開く。 ドアの先は地下へと続く階段だった。意外にも中は明るく、綺麗な通路になっていて、壁には高級そうなランプが設置されていた。 「なんか、怖いです。もしかして私、海外に売られたりしないですよね?」 「それもいいね」 「えぇっ!?」 「ああ、そういうのは嫌なんだ?」 店長が振り返って言った。 「いえ……正直、もうどうにでもなれって感じなので……ただ、店長の元から離れるのは不安というか、なんというか」 「手懐けちゃったか。アタシも罪な女だよね」 「本当に」 「ほら着いたよ」 通路の奥には、豪華な両開きの扉があった。ヨーロッパの宮殿ありそうな、そんなイメージの扉だ。 店長が扉を開けると、顔をしかめたくなるような臭いが通路へと流れ出てきた。私はこの匂いをよく知っている。女性の愛液の匂いだ。 扉の先は、通路と同じように豪華な装飾が施された部屋だった。 どこぞの国の王女様が優雅に暮らしていそうな出で立ちの部屋である。 部屋の中央には、プリンセスベッドとでも言うのだろうか、ドレスのようなカーテンが付いていて、とても大きなベッドがあった。その辺のラブホテルにあるようなベッドが拙くみえるほどの豪華さだ。 「うわ……」 私は感嘆の声を上げ、座り込んでしまった。 それは部屋が想像以上に煌びやかだったからではない。 部屋の至るところに拷問器具やSMグッズが置かれていたからである。 しかも、その拷問器具のほとんどは既に使用中の様だった。 美しい装飾の施された三角木馬には黒い革製の拘束衣に包まれた女性が乗っている。全頭マスクを被っていたので顔は判らない。 アイアイメイデンの扉は閉じられていて、扉の下部の隙間から透明な液体が流れ出ていた。それを見れば、中に誰かが閉じ込められていることはぐらいは判る。 そのほかにもX字の拘束器具や、見たことのない形状のフレームに嵌められている女性も多数いた。 拘束の形状や、責めの種類はそれぞれだったが、その部屋で快楽拷問を受けている人の全てに共通していたのは、みな例外なく穴のない全頭マスクを被せられていたことである。 「麻衣ちゃん、大丈夫? 驚いたよね」 店長の言葉に、上手く答えられない。 ここに来るまで、ただでさえ抑え込んでいた被虐願望が爆発しそうになる。 いや、既に小爆発を起こしていた。 絶頂してしまう。 「あ……ううううう……!!」 店長の服の裾を強く掴みながら、絶頂に耐える。 ダメだ、止まらない。 気持ちいい……。 私も早く―― 「なりたい?」 店長が、座り込んでしまった私を見下ろして、笑っていた。 「なりたいんだね」 心拍数が限界まで上がる。 またイク、でも、その前に答えないと。 「なり……たいぃっ!」 「服脱いで」 震える手を何とかコントロールして、ブラウスのボタンへと伸ばす。 「いいや、服はもう切ってあげる。奴隷に服なんていらないからね」 「あぅ……」 私の持っていた最後の服が、乱雑に切り裂かれていく。 あっという間に、全裸にさせられる。 興奮で倒れそうになってしまった私の身体を、店長が支えてくれた。 「気絶しちゃだめだよ。アタシの物へと堕ちる瞬間が一番気持ちいいんだから」 「イク……イキます……! はぁ、はぁ……! イって、いいですか……」 「いっぱいイっていいよ」 「はぁあああああああああ!! イクぅぅぅぅぅぅっ!」 私の絶叫を聞いて、店長はケラケラと笑っていた。 おかしい、絶頂が収まらない。 この部屋に充満しているのは、媚薬だろうか? いや違う、マスクをしているわけでもない店長は何ともなさそうだ。 きっとただ、私がマゾなだけなんだ。 「麻衣ちゃん、アタシがどうして欲しいかを聞いた時、『人生を終わらせてほしい』って言ったよね」 「は、はぃ……!」 「うん、それでも、麻衣ちゃんはどうしようかなーって考えてたんだ」 私を黙って聞いていることにする。 もうまともに喋れる気がしないから。 「像みたいなオブジェにしちゃう子もいるし、VIPのお客さんを相手にできるようにお尻だけ出して、身体は壁に埋め込んじゃう子もいるけど……ほら、あれみたいに」 店長が指をさした先には、いわゆる壁尻状態になっている女性のお尻が見えた。 「もちろん、殺したりはしないよ。一生、物になってもらうだけ」 一生、物になる。 やはり、この人を信じて正解だった。 私の夢を叶えてくれる人だ。 オブジェでも、なんでもいい。 ただ、完膚なきまで人生を終わらせてほしい。 「麻衣ちゃん、アタシのこと好き?」 「ひぁっ!?」 驚きで声が裏返る。 「す、す、好きですっ……っ!」 「アタシもね、麻衣ちゃんのことすっごい気に入ってるんだよね」 その言葉を聞いた私は、絶頂の余韻で真っ赤になった顔を店長へと向ける。 いつものように微笑んではいなかった。 ただ、照れた様子で笑っていた。 「え……」 あんな店長の笑顔は見たことがなかった。 店長が、私のことを気に入っている。 それはつまり好きだ、ということだろうか。 いつから? 私が店長に向けている感情は、多分、恋愛的なものではなくて、私をマゾの変態として扱ってくれるご主人様に対する愛なのだ。 だけど、もしかしたら、店長は私のことを恋愛対象として見てくれていたのかもしれない。 「だからさ、麻衣ちゃんはオブジェとかにはしたくないんだよね。でも、麻衣ちゃんは人生を終わらせてほしい、と」 「て、店長……」 なんて言えばいいのだろう。 ダメだ、興奮で頭が回らない。 「そこでアタシが思いついたのは、麻衣ちゃんには人を辞めてもらって、犬になってもらおうかなって」 「犬……」 「ここにいる人はさ、みんなアタシのコレクションなんだ。物だから、基本的にはみんな動けないように拘束して、快楽地獄に閉じ込めてる。そういうオブジェみたいな、ね。でもね、麻衣ちゃんだけは、犬にしてあげる。ガッチガチに拘束して、アタシの奴隷に、ペットにしてあげる。もう人としては生きられないけど、いいよね?」 まただ、見たことのない、店長の顔。 いつになく真剣な眼差しで、私のことを見ている。 可愛らしいアイドルのように大きな瞳が私の眉間を貫いていた。 息継ぎ。 息継ぎ 自分の心臓の鼓動のせいで、なかなか言葉が出てこない。 「お、お、お願い……します……っ」 「奴隷らしく」 絶頂寸前だった。 堪えて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「こ、この哀れなドマゾの変態女を、貴女の奴隷にしてください。もうどこにも逃げられないようにしてください。貴女なしでは生きられないように、全てを奪いとってください」 「いい子だね。いいよ、死ぬまでアタシが飼ってあげる」 そう言って私を撫でる店長の笑顔は歪んでいた。 恍惚とした表情で、私の胸を優しく揉んで、愛撫してくれた。 「じゃあ、拘束するよ。もう二度と、2本足では立てないからね」 やっとだ。 やっと終われる。 店長の指示に従って、手足を折りたたんだ状態でラバースーツを着る。顔面以外がラバーに覆われる。サイズを計っていたのか、私の身体にぴったりだった。股間と胸の部分にはファスナーが付いている。 ラバースーツの上から、肘や膝を伸ばせないようにする金具をつけられた。これもサイズはぴったりで、鍵穴等はなく、不可逆の拘束であることが伺えた。 あっさりと人間としての生を奪われたのに対し、私の身体は絶頂するだけで少しの抵抗も示さない。 「しばらく喋れなくなるけど、何か言いたいことは?」 店長の手には口枷が握られていた。蓋がペニスギャグになっているタイプの開口具だった。 「店長、好きです」私は間髪入れずに言った。 店長は目を見開いて、にっこりと笑ってから、顔を寄せてきた。 店長の唇は柔らかかった。 舌を絡めとられるようなディープキスだった。 ああ、こうなってくると、口を拘束されるのが惜しくなってしまう。 でも、私はもう犬だから。 ペニスギャグを入れられて、頭の後ろに回したベルトを締められると、うめき声しか上げられない状態になった。 絶頂。 次は、革紐の付きの鉄製の首輪が私の首に嵌められた。こんなのにも重厚な首輪を締めるのは初めてだった。 絶頂。 耳栓を入れられて、その上からイヤーマフを被せられた。 これで音も聞こえなくなる。 絶頂。 最後は目隠しだった。厚い黒革のアイマスクだった。どうやら私だけは、全頭マスクを被らなくて済むらしい。 これで視界は黒一色になった。 絶頂。 これで終わりかと思っていたら、乳首に鈍い痛みが走って、また絶頂する。 「ふぅぅぅぅっ!!! んん……!」 かすかに店長が何かを言っているような気がしたが、何を言ってるかはわからない。 反対側の乳首も同じく、一瞬鈍く痛む。 「むううううううううっ!」 ああ、これはピアスの穴を開けられてるんだ、と思っていると。 クリトリスに衝撃が走った。 「むぐああああああああああああああああああっ!」 痛みと快感に気が狂いそうになり、失禁する。 恥ずかしさよりも、快感が勝ってしまい、誰にも見られることのないアイマスクの中で白目を剥いて絶頂した。 深い絶頂中のこちらの都合などお構いなしに、膣内とアナルにバイブが勢いよく詰め込まれる。 流石は店長、容赦がない。 すぐに電源が入れられ、私の中をかき回し始めた。 「うぁ……ふうぁぁ……!!」 股間のバイブが抜けないように貞操帯がつけられる。おそらく鉄製のしっかりしたものだ。 乳首とクリトリスに付けられたピアス達も振動を始める。ただのピアスではなく、バイブつきのものだったようだ。 次はどこを責められるんだ、と身構えていると、頭を撫でられた。 「んぅ……ふぁ……」 暖かな人の手のひらの感触から愛を感じた私は、先ほどの絶頂とはまた違う、多幸感に包まれるようなオーガズムを迎えた。 全身動けないようにされて、性感帯の全てを責められている。 どんな抵抗すらも許されない、革と鉄の牢獄。変態マゾにとっての、夢の楽園である。 私は、愛しいご主人様の手によってここに閉じ込められた、世界で一番幸福なマゾだ。 私はおそらく、この世で人間に飼われているどんなペット達よりも幸せな環境で暮らすことになる。 絶頂に打ち震えていると、首輪を引っ張られる。 引っ張られた方向へと肘と膝をうまく使って四つん這いで歩いていく。 視界がないので、少し怖い。 首輪を引っ張られなくなった辺りで止まっていると、じゃらじゃらとかすかに金属音が聞こえた後、半分の長さになった私の四肢が全く動かせなくなった。 それからどのくらい時間が経ったのかはわからないが、全身に取り付けられた責め具に連続でイカされ続ける時間を過ごしていた。 今の私にできるのは、この檻の中で、最高の快楽を享受しながら、ご主人様の愛を待つことだけなのだ。 主人が出かけている間の犬は、ただ、いい子にして待つのが仕事だ あの人が帰ってきたら、また撫でてもらえるように、 いい子だねって言ってもらえるように。 *** 「沙織ちゃん、VIPルームのベッドの横の檻に入ってる子、あれはお客さんには使わせないでね」 「え~? 絶対使いたがりますよぉ、あのオヤジ達。断るの面倒なんですけど」 「一生のお願い」 「もう、しょうがないですねえ……あ、分かった! 麻衣ちゃんだ!」 「ご名答、あれ、アタシのだから」 「うわ~……やっぱりコレクション行きにしたんですね~、結構気に入ってたんじゃないんですか? 勿体ないなあ」 「コレクションじゃないよ、アタシのペット。お世話も私が毎日するから、手伝いさんにも触らないように言っておいてね」 「あ~……はいはい、なるほど。歪んでるなぁ……」 「本当に、ね。歪んでるよ、お互いに」