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【導入部分】『僕が好きだった幼馴染の先輩は実は…』

「先輩!本当なんですか、あんなヤツと結婚するなんて!」

 卒業式の後の中庭で思わず僕は叫んでしまっていた。目の前には幼馴染で尊敬する先輩の藤堂御影さん。剣道部の主将で卒業生の代表として挨拶するほどの有名人だ。そして何より容姿端麗でキリッとしていて格好いい。竹で割ったようなサバサバした性格だけど、その一方でボディラインには筋肉だけでなく女性的な柔らかさもある。校内では男女問わず慕う生徒はかなり多い。

 かくいう僕、藤井シュンもそのうちの一人だ。いや、他の連中と違って僕は先輩のことを小さいときから知っている。同じ町内で、小学校のときに僕をいじめっ子から守ってくれたのが先輩だった。それから僕は先輩に憧れ、先輩の背中を追って先輩と同じ剣道場に入った。八年間、僕は先輩のことだけを見てきた。

「ああ、決めたことなんだ。今まで黙っていてすまない。私はアイツ、天魔豪鬼と結婚する」

「そんな…、先輩は……」

 天魔豪鬼、僕や先輩が通う天魔道場の五歳年上の一人息子。でも評判はすこぶる悪い。昔から『鬼』と恐れられた不良で近所の半グレやヤクザともつるんでいると噂だ。道場にはほとんど顔を見せず、顔を見せると門下生をいじめるため嫌われている。底辺校を卒業し都心の大学に進学して最近はあまり顔を見せていなかった。

「先輩は本当に納得しているんですか」

 そんな男と清廉潔白な先輩が結婚するなんてあまりにも現実味がない。きっと脅されているか深い事情があるはずだ。

「それは……」

 言い淀む先輩。僕は勢いに任せて言葉を続けた。子どものときに僕をいじめっ子から助けてくれた先輩、その先輩を助けたかった。

「先輩、僕は何でもします。先輩の助けになりたいんです!それに僕は…」

 先輩のことが好きだから。そういいかけてやめた。それではまるで僕がエゴのために言っている気がするから。

 ふっと先輩の顔がかすかに微笑んだ。

「そうか、シュン。じゃぁ今晩十時に道場に来てくれないか。お前にだけは本当のことを見てもらいたい。幼馴染で後輩のお前にだけは……」

 その言葉にドキンっと胸が熱くなる。先輩が僕を頼ってくれた。今までずっと追いすがってきた藤堂先輩がやっと振り向いてくれた。今までずっとこの瞬間のために頑張ってきたと言っても過言ではないほど嬉しかった。


 その夜、十時。天魔道場。僕は静かに正座して待っていた。

 ドタドタと足音がする。足音からしてだらしがない。そしてこの家の中でそんな足音を立てるのは一人しかいない。天魔豪鬼。この道場の一人息子にして、汚点。

 ガタガタと引き戸が開く。

「すまない、またせたな」

 いつもの周りを落ち着かせるような静かな声で先輩が言った。シワ一つない袴、高いところでくくった黒髪のポニーテール。僕の日常であり目標だった先輩だ。

 だがその背後からぬっとさらに大きな影が現れる。先輩の身長が百七十センチだから百八十センチ以上あるだろうか。だぼっとしたスウェット越しにも筋骨隆々なのが見て取れる。およそ道場には似合わない金髪に剃り込み、ジャラジャラと下品なアクセサリーを付けている。

 天魔豪鬼、最後に見たときも強烈だったがさらに凶悪さと軽薄さが増しているような気がする。

「こちらへ」

 先輩がそいつを上座へ案内し、座布団を用意する。そいつが座ると、先輩は持っていたコンビニ袋の中身を出す。ストロXグゼロ缶、タバコ。道場には似つかわしくないものばかりだ。

「おい」

 そいつがタバコをあけて一本を取り出す。

「はい」

 先輩が袴からライターを取り出しシュボッと慣れた動作で火を付ける。

 神聖な道場を冒涜するようなタバコの臭いが広がる。

 その筋肉の塊のような男の隣で正座して甲斐甲斐しくサキいかの袋を開け、酒をプラスチックのコップに注ぐ先輩。

 僕にはなにが起こっているか全く理解できなかった。

「ふーー、やっぱ一服しねえとイラツイてしゃーねーな」

 豪鬼がタバコの息を吐き出す。

「っで、テメーか。オレの御影に粉かけてきたガキってのは」

 ギロッと睨みつける。脅すような凶暴な瞳。僕は内心怯えながらも精一杯虚勢を張ってその瞳を睨み返した。藤堂先輩がこんなやつに奪われていいはずがない。

「ふーん、っで御影はどうなんだ?幼馴染って奴なんだろ?」

 ふーっと先輩にタバコの息を吹きかけながら鬼がそういう。

「シュンはただの後輩だ。別にどうとも思っていないな」

「ほおー、ただの後輩ね、なるほど?そいつはおもしれぇ」

 そいつは嘲るように嗤った。

「そんじゃ、御影に選ばしてやろう。御影、その後輩クンと試合しろ。三本勝負で先に二本取ったほうが勝ちってことで。もし後輩クンが勝ったら結婚はなしでいいぜ」

 なにを言っているんだこいつは…。先輩が僕に勝たせてくれれば自由になる勝負なんて…。

 だがそんな僕の期待は立ち上がった先輩と目があった瞬間に裏切られる。

 そうだ、先輩は試合で手を抜くような人じゃない。だからこそ僕は先輩に憧れたのだ。

「へへへ、防具とかつけんじゃねえぞ。そんな甘っちょろい試合じゃつまんねーからな。後輩クンは思いっきり御影の面ぶん殴っていいんだぜ」

 そんなひどい。

 でも先輩はなにも言わなかった。それどころかこっちに向かって

「シュン、言う通りにしろ」

 そういった。そして竹刀を持つと開始線のところで構える。僕は言われるがままに心の準備もなしに向き合ってしまった。

「へっへっへ、御影はオレのオンナだからな。旦那として喝を入れてやんねーとな」

 そう言って鬼が酒を片手に立ち上がり、先輩の背後に立つ。酒を持っていない方の手が先輩の方を掴んだ瞬間、先輩がビクッと震えた気がした。

「おい、面だ。後輩くんの顔面に思いっきりきついのを入れてやれ」

 ニヤニヤと先輩の肩を掴みながらそう言うとプラカップの酒を乾杯とでもいうように先輩の頭にぶつける。すこし酒がこぼれて先輩の髪にかかる。

 相変わらず嘲笑的な笑みを浮かべながら上座にだらしなく座る。

 気にするな。集中集中。とにかく勝たなければ。先輩の顔は狙えない。付きは危ない。小手が理想だけどそれではわかり易すぎる。胴か。どうすればいい。とにかく集中しろ、自分。

「んじゃ、初めろや」

 その言葉とともに先輩が目の前にいた。パンッ、竹刀がぶつかる。次の瞬間先輩が一歩飛び下がる。

「はあああああ!」

 道場で聞き慣れた先輩の掛け声。だが今ほどその掛け声が絶望的に感じたことがなかった。

 次の瞬間、頭部に衝撃が走る。そしてふっと意識が落ちる。


「おい!」

 御影先輩が僕を呼んでいる。

 イテテ、頭が割れるように痛い。

「早く起きろ」

 目を開ける。僕を見下ろす御影先輩。そしてその背後の邪悪な巨体。慌てて起き上がる。頭がガンガンする。

「まだ試合終わってねーぞ、後輩ちゃん。つーかお前口ほどにもねーな」

「っっく、藤堂先輩は…僕の先輩はっ…剣道が強いんだ」

 フラフラと立ち上がる。さっきのは迷いがあった。迷いがあった上に格上の先輩と戦ったんだからこうなってしまうのは残念だけど当然だ。とにかく何としても勝たないと。迷っている場合じゃない。先輩には申し訳ないけど手段は選べない。面でも胴でも突きでも。こんな鬼野郎から先輩を取り戻すためなんだから。

 フラフラと気合で開始線のところに戻って藤堂御影先輩と向き合う。

「すまない……」

 僕の目を見て先輩がそうポツリと言った。

「ふーん、『僕の先輩は剣道が強いね』ぇ。よっし、決めた。次の一本は反則なしにしよーぜ。御影はオレが教えたやり方で勝てよ。御影はお前の先輩じゃねえ。オレのオンナだ」

 ヒヒヒっとバカにしたように鬼が笑ってどっかりと上座に腰を掛け、新しい酒を手に取る。そして、まるで乾杯とでもいうようにそのプルタブを引きながら言った。

「初め」

「いやあああああああ!!」

 かけ声を上げて僕は先輩に向かって突きを繰り出す。逡巡する余地はない。先輩はそんな弱い相手じゃない。全身全霊で光速の一撃を突き出す。

 次の瞬間、

 ぐいっと竹刀が引かれた。なにが起こった?

 引っ張られた竹刀に引きずられて前のめりになった僕の足が引っかかる。

 そこでやっと理解した。突き繰り出した竹刀を先輩が片手で捕まえて引っ張ったのだ。

「おまんこおおおおおおお!」

 先輩の聞き慣れないかけ声。そこで一歩遅れて先輩に足を払われたことに気がついた。そしてそのときには背後からかけ声とともに先輩の竹刀が飛んできていた。

 後頭部にしないがぶつかる。そして僕は道場の床にビタンと倒れてしまった。

 今度は意識をなくすことはなかった。でも目を回してしまった。

 いや、そもそも全てが理解不能でぐるぐる回っている気がする。

「へへへ、情けねーな、後輩くぅぅぅん」

 倒れたままの僕の目の前に立つ先輩をクソ野郎が抱きしめる。

「まぁ御影の体はエロいからな。抱きたかったんだろ?こんなふうにな」

 これみよがしに道着を掴み、胸の形を強調する。

「ひょっとして御影の生チチ見たことなかったりする?」

 腕の中の御影先輩の道着を我が物顔ではだけさせる。先輩はなにも言わずにされるがままだ。

「まっ、見せられねーよな。ピュアな童貞後輩クンにはな」

「ひゃぁぁんっ」

 はだけられた先輩の胸を見て僕は目を疑った。先輩は道着の下にシャツもブラも着ていなかったのだ。それどころか先輩のピンク色の乳首には禍々しい紫色のハート形をしたアクセサリーが付いていたのだ。

「オラ、オラ」

 そういいながら乳首にデコピンを繰り出すクソ野郎。抵抗することもなく、されるたびに甘い息を漏らす先輩。

「御影、勝ったご褒美だ。キスしてやる、こっちを向け」

「ああ…ふぅ♡」

 どこか甘い息を漏らしながら先輩がこっちに背を向ける。

「ケツもいいだろ?」

 見せつけるように太い指が先輩のお尻を袴越しに揉みしだく。嫌悪することもなく抵抗することもなく受け入れる先輩。

「マジでぷにぷにでエロいんだわ。

 口開けろ」

 グニグニとおしりを揉みしだきながら命令する。藤堂先輩はどこか顔を赤らめながら口を開ける。

「へへ、いい子だ」

 先輩の口によだれを垂らす。それもわざと位置をずらして。先輩がこぼさないように口を開けたまま顔を動かして垂れ下がってくる不良のヤニ臭いツバを受け止める。そして下の方からよだれを吸い上げるように悪鬼の口元に顔を寄せ、自ら吸い付いた。

「んちゅっ…っちゅううう、ぢゅっぷんんっ、っぷちゅぅぅぢゅりゅりゅりゅりゅんんんんんんん」

 先輩の口から出ているとは思えないほど下品で汚い音。

「んんっちゅぅぅぅぅっ!ぢゅぷっぢゅっぱちゅるっちゅりゅりゅりゅんんっふぅぅぅ♡」

 見せつけるように舌が絡み合い。神聖な道場の床に二人の唾液が垂れる。

「っはぁ、エロいだろ?オレが仕込んでやったんだぜ」

 そう言って鬼畜は先輩を抱いたまま近づいてきて、僕を蹴りつけた。

「っかはっ、どうしてっ…お前なんかと」

 下腹部の痛みとともに怒りが口をついて出る。

「おい、御影、お前も後輩クンを思いっきり蹴りつけろ」

「えっ…」

 初めて先輩の目に戸惑いが浮かんだ。先輩…、やっぱり先輩はイヤイヤ従わされているだけなんですよね。そんな僕の思いを裏付けるように。



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