(私……捕まっちゃったんだ……) 摩耶は意識を失う前の記憶を思い出す。 そして、自分の置かれた状況を嘆いた。 手錠という簡単には解けない拘束に言葉と呼吸を阻害する革のマスク。 さっきからどんどん上がる車内の温度… このままでは脱水状態になり、命の危険すらも考えられる。 早く車内から出なければ…… なんとか車内の熱を外に逃がすために、足を使って車のドアを開けようとする摩耶。 しかし…… (えっ……開かない……噓……) ロックを解除してドアのコックを引いても全くドアが開く気配はない。 どうやら、チャイルドロックのような機能が作動しているようだ。 エンジンも掛かっていないため、窓も開かず逆のドアも開けようとしたが、こちらも開かずじまいだった。 (何で……このままじゃ……身体が持たないよ……) 塞がれた口で助けも呼べず、傍からみたらただのマスクをした女子高生が車にいるだけとしか見られない状態であることや、蒸し風呂のような車内でどんどん体力が奪われていく。 もしかした、このまま最悪の事態になるかもしれない。 さまざまな不安要素が彼女の中を過ぎる。 だが、迷っている暇はなかった。 今、置かれている状況を打破して助けを呼ばなければならない。 そう、一刻でも早く…… 今までも修羅場をくぐって来た彼女である。 監禁された時に備えて拘束を解く方法もある程度心得ていた。 (これ……痛いからあんまり……やりたくないんだけど……) 後ろ手にされた状態で少しやりづらいが、右手で左手首を掴む摩耶。 そのまま一気に力を入れて、左手首が本来曲がる方向とは別の逆方向に思い切り曲げた。 パキンッ! まるで煎餅を割ったような音が車の中に響く。 「んむううっ!!」 (痛っ!!) 痛みに悶絶する摩耶。 彼女の拘束を脱する方法…… それは手首の関節部の骨をわざとずらして、関節を柔らかくすることで手錠からすり抜けるというものだ。 「んふーっ……んふーっ…んふーっ…」 顔に脂汗を浮かべる摩耶。 体質的に関節を自由自在に外せる彼女ではあるが、戻すのにも激痛が走るためあまり好んでいない。 とはいえ手首の激痛の代償に左手首が柔らかくなったことで手錠からなんとか左手が抜けそうだ。 (こんな痛い思いをすることになるなんて……絶対に許さないんだから……!!) マスクの裏の突起物を噛みしめながら、左手を手錠から外すことに成功した摩耶。 これで両手が自由になった。 あとは外した関節を元に戻すだけ。 正直、早く脱出しないと車内の温度が上がり、それこそ命の危険がありそうだ。 (よし、あとは関節を戻した後にこの口を塞いでいるマスクを外して、窓を割るかなんかして車外に出れば……) ドンッ……!! 突然、車外から鈍い音が響き渡り、同時に視線を感じた摩耶。 (えっ!?) 驚いた摩耶は、音のした後部座席の方を見る。 丁度、自分と同じ目線の所にある後ろの窓ガラス越しに黒ずくめの二人の男が車内をを覗き込んでいた。 「んんむうっ…!?」 心臓の鼓動がバクバクとする摩耶。 なぜならこの二人の男は摩耶に薬を嗅がせて、意識を失わせた男の顔だったからである。 男達の視線は、車内に監禁されているセーラー服姿の少女と彼女が解いた手錠に向けられていた。 男達は後部座席のドアに近付くとそのままドアを開けた。 「おやおや?何手錠を外しているのかな、お嬢さん。」 あと少しで拘束も解けてなんとかなるだろうと思った矢先、最悪のタイミングで気付かれてしまった。 拘束を解くのに夢中で全く気が付かなかったのだ。 「むううっ……んむう……」 彼女の最後の希望が脆くも崩れ去る。 「お前……余計なことをしてくれたじゃねえか……せっかくこのまま熱中症で楽にさせてやったのによ……」 二人の男のうち、小太りの男がそう言い放つと彼らは摩耶が逃げられないよう後部座席の両方に陣取った。 小太り男とは対照的な外見の筋肉質の若い男がドアを開けて後部座席に入ってきた。 摩耶は彼から少しでも離れようと、後部座席の真ん中に移動する。 「俺達の商売の邪魔をしやがったからにはただじゃ置かねえからな!!」 若い男はそう言うと摩耶の腕を思い切り掴む。 摩耶が必死に抵抗しても万力のような強い力で押さえつけられ、身動きがとれない。 「こうなった以上、俺達も容赦はしないからな…!!商売のことも顔も見られた以上、ただじゃあすまないのはわかってんだろ?」 力を込めて摩耶に吐き捨てるような言葉を投げかける小太り男。 「んふううっ!むうぐぐうううっ!!」 絶望との恐怖で自然に溢れ出た大粒の涙。 懸命に首を横に振りながら塞がれた口で許しを請う。 (いやっ……いやあああああああ……!!!) これから待ち受けていることは想像もできないほど悪い事だろう。 地獄の責め苦にあうことを想像して彼女は弱弱しく俯いた……