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王女様救出大作戦(前編)

 東京の人通りの少ない小道を一人の女性が歩いていた。 「ふー、やっと取りに行けた…早く帰らないと。」  色素の薄い銀色の髪のセミロングヘアの髪型に赤紫のコートを羽織って、チェックのミニスカートを履き、ヒザ下まであるヒモ付きのロングブーツを履いた彼女の名前はアイラ・ノルディラン。  日本の東京にある帝都大学2年生である。  名前や容姿からわかるように日本人ではない。  彼女は、北欧にあるノルディラン王国の王女だが、母国で王制を反対する過激派の動きが活発したために日本に避難しているのである。  もちろん秘密裏に。  現在、事情を知っているのは日本と同盟国アメリカの諜報部だけである。 「この季節はやっぱり人が多いわね。クリスマスの文化が東洋にもあるなんて…ん?」  街中を歩くアイラのもとにコートに身を包んだ男がやってくる。  見た感じは日本人ではなく、大柄な白人男性だ。  恰好こそ普通であるが不気味な威圧感を放っている。  「な…何?」  不審に思い、コート男に背を向けて反対方向に走り出そうとするアイラ。  しかし、こちらの方には黒いワゴン車が停まっており、そこから2人の男が降りて来る。 「誰よ!!あなた達!?」  思わず恐怖と焦りから男達に向かって叫ぶアイラ。  気丈に振舞ってはいるものの内心怖くて仕方がない。  するとアイラが叫んだことで少し焦ったのだろう。  ワゴン車から降りた男たちが一気にアイラに近付いて羽交い締めにした。 「きゃっ!!何するの!?」 「くくっ、暫く大人しくしてもらおうか。」  遅れて近付いてきた先ほどのコート男は周りに人がいないことを確認すると、アイラの目の前に立つとポケットから白い布を取り出した。 「ちょっとばかり寝てもらいますよ、王女様」 「むぅっ!?」  そう言って男はアイラの口と鼻に布を当てた。  アイラは必死に抵抗するも、消毒液と香水が混ざったような臭いを嗅いでいるうちに徐々に意識を失いぐったりとしてしまった。  そして、男達はアイラを抱えるとワゴン車に乗り込み、そのまま夜の街に消えてしまった。  とあるアパート。  ミリタリーコートを着た茶髪のアメリカ人青年カイル・エヴァンスとモッズコートに身を包んだ小柄な日本人の高杉恭太が宅配ピザやらチキンといったクリスマスに定番の食事を準備して机に座っていた。 「ったくよ、アイラの奴遅ぇな。」 「俺がケーキ取りに行くって言ってたのに『たまには私に行かせて!!』って言うから行かせたのに…これでなんかあったら俺達切腹もんだぞ。」 「しょうがないだろ。『たまには1人で出かけさせてよ。じゃないとパパに言って対米対日感情悪くしてやる』って脅迫されたんだからな…」  カイルと恭太のこの二人は見た目こそ20代前半の見た目だが、それぞれアメリカと日本の地下組織で訓練を受けた凄腕の諜報員である。  普段はアイラの通う大学の生徒として振舞っているが、日本に滞在中のアイラの身辺を護衛しているのだ。  しかも、住むアパートも同じでルームシェアをしながら生活している。  最初こそ護衛対象と一緒に住むことは抵抗があった。  しかし、年齢が近い3人は共同生活をしているうちに関係も深まり、お互いに国籍や立場を超えた親友となっていた。  そして、今日はクリスマス。  3人でクリスマスパーティーをすることになっており、予約しているケーキを取りに行く予定だったが、いつも2人に守られているアイラがたまには私も一人で羽を伸ばしたいと強く言ってきたため、仕方なく2人はアイラを1人で行かせたのだ。 「おい、カイル。それにしても遅すぎねえか?」 「電話かけても繋がらないからな。これ見ろよ。」  スマートフォンの画面を見せるカイル。  その画面には赤い点が点滅しながら移動している。 「ん?なんだ、その点滅は?」 「もしもの時に備えて、あいつの携帯に発信ビーコン仕込んだんだよ。」 「うえ、ストーカー趣味…まさか俺のにも…」  少し引き気味の恭太の態度もお構いなしにカイルは説明を続ける。 「こんなに早く人間は移動できないからな。おそらく車に乗ってるぜ。」 「でも、アイラは徒歩で出かけたろ?考えたくねえけどさ、これってやっぱり…」 「まあ、誘拐されたってとこか…」 「ったくよ、世話の焼ける奴だぜ。」  頭を掻きながら2人はアパートの部屋の奥に入っていった。 「ん……」  意識が戻ったアイラ。 「ここは…?」  アイラが辺り一面を見渡すと無機質なコンクリートの壁と古びた木の床が張られた廃墟のような建物の中だった。  そして、横になっている体を起こそうとしたアイラは、ある異変に気付いた。 「え、どうして…?体が動かない…」  両手足を無理やり動かそうとするとギシギシというなにか軋んだような鈍い音が聞こえてくる。 「え、嘘でしょ…私…縛られて…」  アイラは自分の身体を確認すると両手足をロープで厳重に縛られ、身動きもできない状態になっていた。 「ううっ…!!くうんっ!」  少しでも状況を打破しようと暫くもがいていると足音が聞こえた。  足音のする方を見ると先ほどのコートを着た白人男性がアイラの前に現れる。 「やあ、王女様。気分はどうだい?」  落ち着いた様子の白人男性。  しかし、日本で伏せられているアイラの素性を知っているあたりやはり一般人ではなさそうだ。 「あなたは誰なの?こんな事をして何が目的!?」  男を睨みつけて叫ぶアイラ。 「気が強い王女様だな。まあいい、教えてやる。俺は自由解放戦線のレイドハムだ。」  レイドハムと名乗ったと同時に聞こえた自由解放戦線という言葉。  それはノルディラン王国の王制転覆を目論む過激派組織の名だ。  状況からして、過激派組織に誘拐されてしまったことを理解するアイラ。 「何よ。私を人質にしてどうするつもり!?」 「決まってるだろ。交渉の切り札として利用させてもらうよ。」 「そんなことさせるもんか!!そんなことされるくらいなら舌噛んでやるわよ!?」 「おっと、そんなことさせないよ!大事な人質なんだからね。」  レイドハムはそう言うとポケットから丸めた黒い革布のような物を取り出す。  それを広げると黒いマスクのような形になった。 「これはマスクギャグと言ってな。口を塞ぐようになってるんだよ。舌を噛もうとしてもそれが出来ないようになってるからな。」  マスクギャグを片手にアイラの顎を思い切り掴むレイドハム。 「うぐぐっ…かはあっ!!」  強い力で顎を掴まれてしまい思わず開いてしまったアイラの口にマスクギャグの裏に付いていた突起物が一気に押し込められる。 「きゃっ!!…こんなことしていいと…むぐぅっ!」  アイラが言葉を言い終わらないうちに鼻から顔の下半分をマスク型の猿轡で覆われ、後頭部でベルトがきつく結ばれた。 「んぅっ!むぅぅ、むぐぅぅっ!!」 (完全に声を封じられた)  口の塞がれてしまったことへの恐怖と息苦しさから苦しそうな呻き声を漏らすアイラ。 「そんなに叫ぼうとしても無駄さ。誰も助けには来ない。」  アイラは首を左右に振るもマスクはズレる気配も見せず、必死に助けを呼ぼうと叫ぶものの、声にならない。 「明日にはあんたを本国に連れて行くよ。そこでゆっくりと国王陛下と交渉するとしようか。」  レイドハムはそう言い残し、その場を去って行く。    1人残されたアイラは必死にもがくが雁字搦めに巻き付いた縄の拘束は全く解ける気配もない。  それどころか逆に体に絡みついてくる。 「むぅっ!むぅぅぅっ!」  どんなに大きく叫んでも言葉にならない呻き声、もがけばもがくほど軋んで締め付けて来る縄。  それの繰り返しに体力も精神も消耗していく。 (あたし…どうなるの…怖いよ…)  さすがの気の強いアイラも絶望感から涙が目に浮かんでいた。


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