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あらすじ:結城リトとの距離を縮めたいと悩む金色の闇。そんな風に悩んでいるある日、ヤミはリトの友人猿山ケンイチの姿を目にする。彼にリトのことを相談してみるヤミだったが、猿山はそんなヤミにとあるお願いをするのだった。                                                                                                                                             伝説の殺し屋と恐れられる、コードネーム金色の闇――親しい間柄の相手からは短くヤミとだけ呼ばれる少女は今、制服姿で学校の屋上に一人佇んでいた。  夕陽が空を赤く染め、彼女の呼び名の由縁となった金色の髪を優しく照らす。普段は冷徹な暗殺者として無感情な顔しか見せない彼女だが、今その瞳には微かな迷いが揺れていた。 「結城……リト」  一人の少年の名を、誰にも聞かれないよう呟く。  その少年――結城リトが、今彼女の心の大部分を占めている存在だった。  初めて出会った時から幾らかの時間が経ったが、その時間の中で彼の優しさや不器用な誠実さに触れ、いつしかその存在がヤミの中で大きく膨らんでいた。 「結城リト……。私は、もっと彼に近づきたい。……もっと彼に好かれたい……と、考えている」  ヤミは小さく呟き、風に髪をなびかせながら目を閉じた。  それは、暗殺者として育てられた彼女が初めて覚えた恋愛感情だった。 「でも、どうすれば……あの人とより親しくなれるのか……分からない」  殺し屋としての生き方しか知らなかった少女には、恋愛など未知の体験。彼が何を喜ぶのか、どうすれば気持ちを伝えられるのか、考えてもまるで分からなかった。  結果的に、本心とは裏腹に彼には攻撃的な態度を取ることが多くなってしまっている。  このままではいけない……。ヤミは一人思い悩み、学校の屋上で黄昏れているのだった。  と、そんな風にヤミが屋上で一人孤独を感じていると。 「あれは……」  眼下に映る校庭に、気になる人物を見つけた。  下校中と思われるその生徒は、今しがたヤミが思いを馳せていた結城リト――ではなく、そのクラスメイトにして彼の友人である、短髪の少年だった。  確か名前は――猿山……ケンイチとか言ったはずだ。  その名の通りどこか猿を思い起こさせる風貌のその生徒を見つけ、ヤミはふとある考えに思い至った。 「彼なら、結城リトのことをよく知っているはず……」  ヤミはリトの妹である結城美柑とも親しいが、リトと同級生であり同性でもある彼ならば、少年の趣向や恋愛観などを聞く相手としては、よりふさわしいのではないかと思えた。  あまり話したことはない――いや、むしろ時折女性にいやらしい視線を向けている、ヤミが忌み嫌うどこかの校長と似たタイプの男性な気はするが、背に腹は代えられない。  ヤミは屋上のフェンスを軽いジャンプで飛び越えると、躊躇なく校庭へ飛び降りた。  そして目的地である少年のすぐ側に、殆ど音もない華麗な着地を決める。 「うおっ! ヤ、ヤミちゃん……!?」  突然近くに降ってきた少女に、猿山が驚きの声を上げる。  対象的にヤミは落ち着き払った態度で少年に話しかけた。 「こんにちは。あなたは猿山――ケンイチで合っていますか?」 「え? あ、うん。そうだけど……え、ヤミちゃんが俺に何か用なの?」  猿山は戸惑った顔でヤミを見つめる。普段結城リト以外との男性とはあまり交流のないヤミが、自分から話し掛けてきたことが意外なようだ。 「はい、少しあなたに聞きたいことがありまして」 「俺に……? いいよいいよ! なんでも聞いてくれよ! ヤミちゃんの頼みなら何でも教えちゃうぜ!」  初めは不思議そうな顔をしていた猿山だが、ヤミに頼られていることを理解すると、すぐに興奮したように鼻息を荒くした。  その妙なテンションの高さに一瞬引きそうになるが、気を取り直してヤミは続ける。 「聞きたいことは……結城リトについてなのですが……。あなたは確か、結城リトと親しかったですよね?」 「リト? あぁ、まぁ確かにリトとは友達だけど、それがどうかしたの?」 「いえ、その……」  いざ聞こうとするとなんだか照れくさくなり、ヤミは柄にもなくもごもごと口を曖昧に動かして言葉を濁した。  が、ここで躊躇うわけにもいかず、ヤミは意を決して口を開く。 「結城リトが、どうすれば喜ぶのかとか……何が好きなのかなどを、教えて欲しいのですが……」 「アイツの好み……? そりゃまたどうして?」 「どうしてって、それは……」  聞き返されると答えに窮してしまう。  自分の気持ちを他人に正直に明かすのは、想像以上に恥ずかしく、軽々に話すことは出来なかった。 「……あー、なるほどねぇ」  そんなヤミの様子を見てか、猿山が納得したように顎に手を当て頷く。 「ホントにリトは罪な男だなぁ。ララちゃん達とも仲良いくせによ」  猿山は妬むように言いながら渋い顔を作る。 「……でもアイツの喜ぶことかぁ。そりゃちょい難しいなぁ。スポーツとかゲームは普通に好きみたいだけど、イマイチこれってのは思い浮かばないんだよなぁ」  うーんと唸りながら、猿山は深く思案し始めた。彼からしてもリトの好みは分かりづらいらしい。  何をしてあげたり贈ってあげたりしても、思いやり深い彼なら喜んでくれそうだからこそ、逆に迷ってしまう。 「思いつかないなら、結城リトが喜ぶことではなくあなたの好みでも良いです」 「ん? 俺のでもいいの?」 「ええ、まぁ。彼と同年代の男子が喜ぶようなことを何か教えて頂ければ」 「ふーん、俺くらいの男子が喜ぶことねぇ……」  猿山は首をひねり呟く。そして、何か思いついたのか、ハッと顔を上げた。  かと思うと、何やら今度は笑いを零すように口端を歪めた。 「へへへ、それなら良いのがあるよヤミちゃん。それも、俺の同年代だけと言わず、男なら誰でも喜ぶようなのがさ!」 「男なら誰でも、ですか……」  急に語気が増した猿山にヤミは訝しげな目を向ける。どうやら、随分良い案が思いついたらしいが。 「あぁでも、ここだと場所が悪いな。もしかしたらリトが通りかかって聞かれちまうかも。それは困るだろ?」 「はぁ……、それはそうですが」 「じゃあちょっと場所変えよっか! 人が来ないとこ知ってるからさ!」 「……?」  猿山の態度にどこか不審なモノを感じ取るヤミだったが、せっかくの好意を無下にするのも気が引ける。  リトに聞かれるかもという懸念ももっともなので、ヤミは言われるままに猿山について行くことにした。  そうして連れられて来たのは校庭の端にある体育倉庫。  古びたゴムのような匂いが漂う倉庫内で、ヤミは猿山と二人きりになった。確かにここならば人に話しを聞かれる心配はないだろうが、あまり長居したい場所ではない。 「で、結局何なんですか? 結城リトが……いえ、男性が喜ぶことというのは」 「あーうん、大丈夫すぐ教えるよ」  でもその前に、と猿山は続ける。 「ちょっと向こう向いてて貰ってもいい? ヤミちゃん」 「……? こうですか?」  ヤミは少し不審に思いながらも、猿山に背中を向けて自分の身長より高く積まれた体育マットの方を向く。 「そうそう、そのままねー」  言って、猿山はヤミのすぐ後ろにまで近づいてきた。  吐息が髪に触れるような距離にまで近づいた男の気配に寒気を感じ、ヤミは振り返ろうとした。――が、その寸前で。 「うぉおおお、ヤミちゃ~ん!」  突如猿山が声を荒げ、広げた両腕でヤミの体を背後から抱きしめてきたのだ。 「なっ……!?」  不意の出来事に、一瞬思考が止まる。  その間に、猿山は手をヤミの服の中に滑り込ませ、彼女の胸や脚を好き勝手に弄り始めた。 「うへへ、ヤミちゃんの身体やわらけー」  猿山は興奮した様子でヤミの胸をまさぐり、その未発達ながらも少女の膨らみが芽生え始めた感触を楽しむ。  が、金色の闇ともあろう者が、いつまでもそんな狼藉を許すはずはない。 「――やめ……なさいっ!!」  ヤミは怒りの声を発すると、それと同時にその金色に艶めく長髪が意思を持ったように蠢いた。  そして髪の流れが形を造り、巨大な人間の拳を模したシルエットへと変化する。  その拳となった毛髪は、不躾にも身体に抱きついてくる猿山の横顔を勢いよく殴りつけた。 「ふげえっ!?」  猿山は殴り飛ばされ、ズターンと思い切り床に倒れ込んだ。 「いきなり何をするんですか。……えっちぃのはキライです」  侮蔑を込めた視線を床に這いつくばる男に向けながら、パンパンと服を手で払うヤミ。 「こんな場所に連れ込んでどうするのかと思ったら、結局こういうことが目当てですか。最低です」 「ち、違うんだってヤミちゃん……っ!」  しかし猿山は殴られた頭を痛そうに抑えながら、必死な様子で弁明を始めた。 「男が喜ぶことって言ってただろ!? だからさ、今みたいに身体を触らせてあげれば、男は誰だって喜ぶんだって!」 「は……はぁっ?」  言い訳にしても無茶な言い分に、ヤミは呆れ果てる。 「いくら男性が喜ぶからって、こんなこと許すわけないでしょう! というか、結城リトはあなたのように脳みそまで性欲の詰まったおサルさんではないはずです!」 「いやいや、よく考えてくれって! リトの奴よく女の子に抱きついたりしてるだろ? その時アイツ嫌がってたか? 照れてるフリして実は喜んでなかったか?」 「な、なにを……そんなはずは……」  結城リトが常日頃、転んだ拍子だとか、身体を支えようとした弾みだとかに、女子の胸などを触ったり揉んだりとセクハラ行為に及びまくっている危険人物なのは、ヤミもよく知っている。  それが不可抗力的な事故だったとしても、幾人もの少女がその毒牙に掛かっていることは事実だ。  その際彼は慌てて謝ってばかりだとは思うが、そこにラッキーだと思う男性的な気持ちが無いと言い切れるだろうか?  彼も男である以上、そういう行為に興味がないわけではないはずだ。 「でも……結城リトが貴方のように、無理やり身体を触ろうとしてくるはずがありません……!」  確かにリトがセクハラめいたことをしてくることは多々あるが、それでも故意にそんなことをするとは思えない。  ならばそれは、男性として反応してしまう気持ちがあったとしても、望んでいるとまでは言えないはずだ。  しかし、猿山はそれでも食い下がる。 「そりゃあリトが強引に女の子を襲うなんてことは言わないさ。アイツ結構ヘタレだしなー。だからさ、無理やりじゃなくて、ヤミちゃんの方から許可を出して誘ってやればいいだろ?」 「わ、私から……!?」  その提案に、ヤミは目を丸くする。  自分からリトを誘惑し、己の身体を好きにさせる――。それは普段リトの方から事故のような流れで身体を触られるのとは、まるで意味が違う。 「ム、ムリですっ、あり得ません! そんなこと出来るわけないじゃないですか!」  ヤミは頬を染め、顔を背けてそう答える。  宇宙を股にかける殺し屋としてのプライドが……いや、そもそも年頃の乙女としてそんな恥じらいのない真似は出来ない。 「そもそも、私の身体なんかを触って楽しいとは思えません……。ティアのような女性ならば分かりますが……」  自分で言うのは憚られるが、ヤミの体型はリトのような男子高校生から見れば、色気の無いものに映っているだろう。  ティアーユや御門涼子のような大人の女性や、それでなくともララ・サタリン・デビルークや古手川唯のように魅惑的な身体つきの女性たちに囲まれているリトだ。ヤミの身体で誘惑など出来るとは思えなかった。 「いやいやいやっ! ヤミちゃんみたいな超絶美少女ならイケるって! 実際俺はヤミちゃんの身体なら幾らでも触りたいからな!」 「自信満々で言う事ではないでしょう……。あなたの趣向なんて知ったことではありませんし……」  そこまで言って、ヤミは「いえ……」と首を振った。 「あなたに男性の喜ぶことを聞いたのは私でしたね。男子高校生というのは、相手が女性ならば誰でも興奮するものなのでしょうか……」 「まぁそういうとこもあるけど、ヤミちゃんが可愛いってのがやっぱ一番だって! だから自信持って!」 「…………」  おだてられているとは言え、可愛いと言われ悪い気はしない。だからといって、自分の身体でリトを誘惑するというのは余りにも突拍子もない提案で、やはり素直に受け入れられるものではない。 「大丈夫大丈夫っ! リトだって男だから、ちょっと胸とか触らせてやりゃイチコロだって!」 「ですが……」  いつの間にか、猿山の言う事に流されそうになっている。  奥手なリトに自分を意識させるには、それくらい強硬手段に及ぶことも必要なのではと思えてきたのだ。 「まぁでも、さっきみたいに身体を触られただけで相手をぶっ飛ばしてちゃ、誘惑どころか逆に関係は遠退いちまうかもなぁ」 「うっ……」  猿山の指摘にヤミはバツの悪い顔をして、拳の形に変形させていた髪の毛を元に戻した。  確かにいつもリトがセクハラまがいのハプニングを起こした時は、先程のように殴ったりしてお仕置きをすることもある。  だが、それは羞恥心からくる反射的な反応なので、やめろと言われても難しい。 「どうしろと言うんですか……」 「いや、だからさ! 先ず俺で練習しとこうよ!」 「貴方で、練習……ですか」 「そうそう、ヤミちゃんが男に免疫付けるために、俺がリトに変わって協力してあげるよ!」 「協力って、それは……つまり、また私の身体を弄ると……?」 「ま、まぁ少し触るだけだって! ちょっとの間我慢出来るようになればいいだけだしさ!」  正直気乗りはしないし、男に触れられることへの嫌悪感はあるが……その嫌悪感を無くさないとリトとの関係を深められないというのも真実に思えた。  幸いここには他人の目は無い。少し我慢して、男性に慣れることも経験として必要かもしれないと、ヤミは雰囲気に流されてしまった。 「……分かりました。あなたの言う通りにします」 「お……ぉおおおおっ!!」  ヤミが頷き了承すると、猿山はガッツポーズで歓喜の雄叫びをあげた。 「喜びすぎです……。言っておきますが、本当に少しだけですよ」  大げさに喜ぶ猿山にジトッとした視線を送り、ヤミは「はぁ……」と溜め息を吐いた。  とはいえ、結局猿山に自分の身体を触らせることを了承してしまったことは事実だ。  こんな密室で性欲の塊のような男子にその身を自由にさせることの意味を、ヤミはまだよく理解していなかった。

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