壁の中の人類に、娯楽は少ない。 娯楽となる遊び、見世物、読み物など、どれも限りある資源の中では欲を満たすには不足している。 その上、兵舎での生活ではそれも更に制約されることになる。 厳しい訓練と質素な食事の中、兵士たちの一部には、腐敗した行為に手を染める者もいた。 職務中の飲酒程度ならばとやかく言う者もいないが、中には暴力行為、不正な金銭のやり取りなどを隠れて行う者も僅かではあるが存在した。 それらも結局は人間のもつ欲望を満たすためのものであり――中でも性欲に関することは、容易に人間を獣に変える。 その点で言えば、ミカサ・アッカーマン自身は性的なことに関する興味は薄かったが、彼女の整った容姿と体は、男の性欲を掻き立てるには十分なものだった。 その日憲兵団所属の男は、訓練兵のミカサ・アッカーマンを自室に呼び出していた。 訓練兵の中でも特に優秀な者を憲兵団に勧誘するという名目で、一人で来るようミカサには伝えてある。 逸る気持ちを押さえながら椅子に腰掛け待っていると、コンコンと部屋の扉がノックされる音がした。 どうぞ、と男が声を掛けると、扉を開き、目当ての少女が現れた。 艷やかな黒髪に無表情ながら人の目を惹き付ける鼻梁の通った顔立ち、長身で胸の起伏も大きい、整った外見の少女だ。 彼女こそ現在の訓練兵でダントツに優秀な成績を収めている天才、ミカサ・アッカーマンである。 「よく来てくれたね、ミカサくん」 「何の御用でしょうか」 上官である男に、ミカサは平坦な口調で尋ねる。 年若い少女でありながら既に貫禄ある落ち着いた佇まいは、確かな実力に裏打ちされたものに思えた。 「呼んだのは、君の今後についてだよ」 「今後、ですか」 「ミカサくんは、憲兵団・駐屯兵団・調査兵団のうち、どれを選ぶのか聞いておこうと思ってね」 彼は、訓練兵の派兵先について管理する権限を持っていた。 別にどの兵士がどの兵団に入るかを一人で決めている訳では無いが、適正の有無を見定める役割を担っている男の意見は、訓練兵にとっては重要なもののはずだった。 「その件なら、私は調査兵団希望と伝えてあるはずですが」 「ふむ」 男は顎に手を当て、思案するような様子で頷いた。 「調査兵団か……しかしまだ選択を変えることは出来るだろう? 君のような優秀な兵士は、是非とも憲兵団に欲しくてね。どうだい、希望先を変える気は無いかな?」 常に危険の付き纏う調査兵団に比べ、憲兵団は巨人と戦う必要もなく、安全な生活と好待遇も期待出来る。訓練兵の多くは、憲兵団に入ることを目標にしていた。 本来ならば、恵まれた誘いであり、断る兵士は少ないはずなのだが。 「いえ、私は自分の考えを変える気はありません。お誘いはありがたいですが」 ミカサは寸分の逡巡もなく、キッパリと誘いを断ってきた。 「ふむ、そうか」 しかし男は、その答えも想定内という風に、落ち着き払った態度で頷いた。 実際、ミカサが恐らくは勧誘に頷かないであろうことは分かっていたのだ。 ミカサ・アッカーマンが調査兵団を希望していることは、既に伝え聞いていた。 そして、その理由も調べはついている。 「それは、君の幼馴染が関係しているのかな?」 「……エレンのことですか?」 ミカサの幼馴染であり同期のエレン・イェーガー。彼のことを持ち出した途端、ミカサの目の色が変わった。 「彼が調査兵団を希望しているから、君も着いていこうとしている?」 「いえ、それは……」 ミカサは、エレン・イェーガーに強い恋慕の感情を抱いている。幼馴染はもう一人少年がいるようだが、ミカサが特に強い感情を見せるのはエレンが絡む時らしい。 若い少年少女が幼い頃から共に過ごしていれば、恋愛感情の一つも生まれるのはおかしなことではないが、命懸けの現場にまで連れ添うというのは、随分な入れ込みようだ。 ならば、その執着を利用しない手はない。 「エレンは……家族なので」 「だから、君が守らなければと?」 「……はい」 どうやら、やはりエレン・イェーガーがミカサが兵士となった理由であることは確かなようだ。 しかし、明確な理由があるということは、何があってもそれを曲げるわけにはいかないということだ。 そのためなら、理不尽も受け入れざるを得ない。 「うーむ、しかしね、彼は少々気が荒いところがあって、時折問題も起こすそうじゃないか。そういった者を特に危険が大きく、結束が必要な調査兵団に置く――というのは如何なものかな」 「待ってください、エレンはそんな人じゃありません!」 「だが、私がそう判断して報告すれば、彼が調査兵団に進むことは無くなるだろうね?」 「……っ」 狡猾な笑みを見せた男に、ミカサはキュッと口を噤んだ。 自分の置かれている立場が分かったのだろう。ここで上官に従わなければ、エレンの努力が無駄になるかもしれないと。 「その代わりに、私に憲兵団に入れということですか」 ミカサの問いに、男はいいやと首を横に振った。 「その必要は無い。愛しの彼と共に調査兵団に進みたいというのなら、そうすればいい」 ただし、と男は続ける。 「時々私の相手をしてくれれば、だがね」 「……? それは、どういう……?」 意図を理解出来ず顔を顰めるミカサに近寄り、肩を掴む。 そして、手の甲を滑らせ、兵団の制服の上から胸の膨らみを押し上げるようにして触れた。 「…………」 無言のまま、ミカサが鋭い視線を向けてくる。 すぐにでも拳が飛んできそうな迫力だが、それが出来ないことは分かっている。 「なに、少しの間我慢してくれればいいだけさ。そうすれば君たちは自分の希望通りの道に進めるとも」 言いながら、男はミカサの形の良い胸をぐにぐにと手の平で無遠慮に揉み初めた。 訓練によって引き締まった身体に反して柔らかな胸の感触が、心地良く手の中に収まる。 「それ以上私に触れるようなら、今以上に兵士としての働きが期待出来ない身体で暮らすことになりますが」 脅しを込め、威圧するミカサに、しかし男は臆すことはない。 「ふっふ……君が衝動に任せて行動すれば、大切な家族とやらが不利益を被ることになるのではないかな? それでもいいのか?」 「……くっ」 ミカサは歯をギリッと噛み締め、打ち付ける場所の無い拳を握り込んだ。 「安心しろ、お前も愉しめるよう、じっくりとこの身体を育ててやるからな、ふ、ひひ……っ」 指先で胸の先端を探り出し、そこを摘んで引っ張りながら、勃起した己の股間を少女の臀部に擦り付ける。 ミカサは表情こそ崩さないが、握った手が僅かに震えて、静かに怒りを抑え込んでいるようだった。 戦うために鍛え上げた肉体を、己の欲望のために蹂躙する。それが男のなによりの楽しみだった。 そうして、ミカサの屈辱の日々が始まる。