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男子トイレで全裸目隠し露出オナニーとかいう危険きわまりない遊戯


 その日、聖はとても退屈していた。

 さながら血に飢えた吸血鬼や、殺戮衝動に震える人狼よろしく、聖には月に一度くらいのペースでこういう日がやってくる。ただ、暇だ、というわけではない。何をしても解消できない強い欲求のわだかまりを、彼女は"退屈"と形容していた。

 身体が疼いてしょうがない。まるで、どんなに楽しい遊びによっても曇天めいた憂鬱は掻き消せないように、何度自分で解消しようとしても何かが物足りずに、もやもやが募るばかりだ。

 聖は多分、他の女子よりも若干……若干、ちょっとだけ、自慰行為が好きではある。幼い砌から、半ば中毒のように人目を忍んで己を慰め、背筋を立ち上るような恍惚感を楽しんできた。

 自分がそのようになった原因には、いくつか思い当たる節がある。人一倍強い寂しさとか、不安感とか、あるいは単にそういう身体だったというだけかもしれないが……まあ、さして特筆に値するほど珍しい経歴でもあるまい。

 しかしそんな中毒症状が、どんどん麻薬が効きづらくなるように深度を増しているのはちょっとした問題だった。もはや聖の指先では、この肉体の強欲なリクエストに応えることはほとんどできないのだ。……ここまでになってしまうのは月に一度程度とはいえ、そのままでは他の何にも集中できないし、それ以前に、聖もしっかり気持ちよくなりたい。なにせここまで抑圧された欲求不満を一気に解放するような行為は、脳が溶けるほど気持ちいいはずだ。


 聖の視線がその三文字に留まったのは、ちょうどそんなことを考えていた時だった。

 "掲示板"。せめてもの気晴らしを探してスマホで眺めていた、雑多なブックマークリストの中に佇む、なんの変哲もない三文字である。強いて変わったところを挙げるとするなら、今の聖の連想力の方か。

 『自分で過激な事をしても何か物足りないなら、他人に過激な事をさせられるのはどうだろう?』

 昔の掲示板には安価スレという文化があった。そのようにして、自分が何をさせられるのか、安価で決めてもらうのだ。もちろん、どんなものでも命令は絶対……そう考えただけで、聖は自分の内なる被虐嗜好が擽られるのを感じて、少しだけ困惑した。そりゃどっちかといえば自分はMだと思うけど、ここまでだっけ。

 『調教 掲示板』……ダメだ、これはSMパートナーを探すやつだ。もっと広範な……『露出 調教 掲示板』とかで……出た。

 淡々と検索して辿り着いたアダルト系コミュニティサイトの掲示板に、聖は寝転がった姿勢のまま、書き込みを開始した。(こんなエロい人だらけの場所でも、だいたい彼氏や旦那さんにやらされてるのばっかりで、自分からしてるのは見当たらなかったのは、気付かなかったふりをしようと思う)


 ……『スリルが大好きなドM彼女への調教内容を考えてほしい』……という体で書き込んだのは、やっぱり微妙に恥ずかしかったからだ。誰も聖のことなんて知らないし、恥ずかしがるならもう今更なんだけど。

 そして、条件は書き込む前から決めてある。『10個目の提案を絶対に採用する』ことと、『10個も来なかったらやめる』こと。

 中の人が女の子だとはさすがに気付かれてないのか、スレッドの伸びは控えめだった。こんな書き込みをしておきながら、一つ提案が来るたびに、『本当に10個来ちゃったらどうしよう』『今ならまだ間に合う、ここで止まって落ちてくれさえすれば』なんて考えてしまう自分がいて、身体は裏腹に、タイムリミットがじわじわと近づくたびに興奮を増していた。

 やがて、ついに最後の10個目の提案レスがつくのを見届けると、聖は身震いと共に吐息を漏らし、その画面を記録するためスクリーンショットに収めた。


『公園とか駅の男子トイレの個室に入って絶対イくまで全裸目隠しオナニー配信とかどうよ?

 もちろんドアは開けたまま、飛び入り見物歓迎!のスタイルで』


 想像以上に危険で、過激な『命令』が下されてしまった。

 でも、どんな命令であれ、見てしまった以上は、もう逆らえない。そういうルールで初めたのだから。

 聖はしばし目を閉じて命令文を咀嚼すると、むくりと身体を起こして、脱ぎっぱなしにしていた上着を羽織りなおした。


『ありがとう これにします。 じつは私がさせられちゃうことの募集でした。

 ……外で配信は難しいので、スレ残ってたらすこしだけ自撮りしてあげます』


 他人を騙したままなのも気が引けたのか、掲示板には最後にそう書き込んで、閉じた。






 その日、聖には、想定外なことが幾つかあった。

 これまで体験したこともないくらい早く、一度目の絶頂が訪れたこと。

 ……しかしそれ故に、せっかくここまでしたのにこれだけでは勿体無いと、この気持ちよさをもっと長時間楽しみたいと考えてしまった。

 弄り続ければ何度でもイけてしまうくらいに身体の欲求が高まっていたこと。

 ……それだけ昂ぶり続ける快感の波は、聖の理性を簡単に彼岸へと押しやってしまった。

 『見知らぬ他人に命令される』というシチュエーションは、すっかり中毒になった脳をも揺さぶるように響いた。しかもその命令が、今まで怖くてしたこともないくらい過激で、スリル全開なものなのだから尚更だ。

 あと一回、もう一回と、聖は正面に立てたスマホの録画を回しっぱなしにしたまま、次の絶頂を求めては重ね、重ねては求めた。当然、一度イくほど性感を刺激すれば、次にイくまでの時間は僅かずつ延び、彼女の時間の感覚は少しずつ狂っていった。


 彼女はまだ知らないが、想定外だったことはもうひとつある。

 検索上位に出てくるくらい"その筋"では有名な掲示板への、最後の書き込みから、『今からどこかの男子トイレでこの命令を実行する子がいる』と知った閲覧者が結構いるということだ。

 そのうち何人、何十人、何百人くらいが実際に公衆トイレの様子を見に来て、彼女が待つこの個室に遭遇する者がそのうちにいるのかどうかは、まだ誰も知らない……。





文字なし差分

書き文字・台詞含め文字なし差分


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