【極URA】02話「揺らぐ現実の真実」
彼女の言葉を、頭の中で何度も反芻する。
「自分は封印された女神で、現実と歴史は書き換えられた」——
そう語る彼女の真摯な態度と、場を包む厳かな空気が、言葉に重みを与えていた。
【それでも……】
【どうしても信じきれない……】
豊性ノヒメ「ふふん、わらわも分かるのじゃ。不信じるの、当然じゃろ?
わらわだってそんな話を聞いたら……」
「陸で息をして、腹に世界を滅ぼす力を詰め込んだ鯱と一緒に進む、じゃと?
ぷっ、あり得ぬのじゃ〜!そんなの、夢物語じゃろ」
【(まったく理解できない……)】
「ふむ、表情がさらに困惑しておるようじゃな。
さて……わらわの言葉が嘘でないと示す方法、何かあるかの? 」
どうすればいいのか、豊性ノヒメも分からないようだった。
ただ、水面のほとりで、ふたりして立ち尽くしていた。
そんな中、隣にいた陰のあるウマ娘が、三女神像の前で静かに手を合わせた。
……強くなりたいなんて、わがままかな。
でも……少しでも、速く走れるようになりたい。
そうすれば……もう少しだけ、自分を好きになれる気がする。
【……こちらに気づいていない?】
「そうじゃ。わらわがこの場を少し変えたのじゃ。今のわらわたちは、空気のようなもの。誰の目にも映らぬ。」
「……待て、その子……祈っておるのか?」
祈りを捧げるウマ娘を目にし、豊性ノヒメは笑みを消して歩み寄る。距離を保ちながら、その小さな背を静かに見つめた。
「……仕方あるまいの。この子は、走ることには向いておらぬ。」
「女神像によって身体能力は底上げされておるが、それでも限界が低すぎる。
体も脚も、あまりに脆い。どれほど努力しても、同年代には届かぬじゃろう。
」
(……あの子を弄んでおるようで、胸が痛むのぅ。
どうして今の女神像は、ここまで上限が低いのじゃ……)
【……一目で分かるのか?】
「うむ。わらわたち女神には、子らの体質も、運命の流れも見えるのじゃ。」
その瞬間、豊性ノヒメの表情がぱっと明るくなる。
「ちょうどよいの……♫ 本人の許しもなく手を出すのは行儀が悪いが、祈りを捧げておるのじゃろう?ならば、この子でわらわの神力を証明してみせよう。」
「始める前に、この子の体と、その形を心に刻むのじゃ。」
落ち着いた瞳でそう言うと、豊性ノヒメは右手で狐の形を作った。
まるで何かを弾くような指先の動き――。
次の瞬間――指先が弾けるような音を立てる。
途端に世界が傾き、体がふわりと浮く。
目の前が真っ暗になり、意識が遠のいた。
一呼吸ほどの後、体の感覚が戻り、目がゆっくりと開いた。
もともと体の弱かった陰のあるウマ娘は、雰囲気も顔立ちもそのままだった。
しかし、体つきだけがまるで別人のように変わっていた。
豊かな曲線と見事なバランスを持つ身体、しなやかで力強い脚――まさしく理想的なアスリートの体だ。
【……な、何をしたんだ?】
「わらわがしたのは、ほんの一部の『豊性ノヒメが存在していた歴史』を修正し、それをこの子に投影しただけじゃ。」
「つまり、歴史が歪められていなければ――この子は本来、こうであったのじゃ。」
【……そんな馬鹿な】
【人体改造より無茶だ……】
「わらわもびっくりしたぞ!なんじゃこれは……?祝福は足の耐久をちょっと上げるだけのはずじゃったのに!なぜこんなに盛られておるんじゃ!?」
(豊性ノヒメにちらりと見られた気がする)
「まあ、どちらにせよ、この子の未来は安泰じゃな。あとは導いてくれる者さえおればよい。」
「それにしても、妾を封じるために、この子の可能性ある未来を犠牲にするとは……」
「……そなたもようやく信じたようじゃな。妾は封印されし神にして、この世の歴史もまた、歪められておる。」
(豊性ノヒメにじっと見つめられる)
荒唐無稽だと思っていたが、目の前の現実を否定できなかった。
【信じる】
【信じない】 ←
「まだ信じぬのか?そなたが信じてくれぬと、妾は本当に困るのじゃ。
これは紛れもない事実――信じようと信じまいと、真実は変わらぬのだ。」
——————
【信じる】←
【信じない】
「よかったのぅ、やっぱりわらわの目に狂いはなかった!そなたは慧き『種人』じゃ。きっと多くの子らに慕われるであろう♫」
「じゃ、決まりっ♪ 目的はひとつ!
わらわの本当の力を取り戻して、イジられた歴史を正すのっ!」
「そのために、そなたの手を貸して?ねっ♪」
【無理だ、私はただの人間だ】
【断る。魔力なんて渡さない、失礼する】
「いやいや、もう逃げるには遅いのじゃ。わらわたちは、すでに同じ舟に乗っておる。」
「三女神の目から見れば、そなたはわらわの封印を解いた「共犯」なのじゃよ。」
【!?】
「今ここで逃げれば、妾はそなたを守れぬ。
空間も解け、そなたの存在は三女神によって消されるだろう」
「そんなに緊張せんでもよい。説明したいことは山ほどあるし、ちゃんと休む時間も取らせてやるからのぅ♫」
「話を聞けば、そなたの中にもきっと答えが見えるはずじゃ。」
聖女神の軽やかな足取りを目で追う。
その動きの軌跡に沿って、視線はやがて彼女の指先――まるで狐のような手の形に留まった。
遠目に見ると、その「口」にあたる部分が、まっすぐ三女神の像を狙っているように見えた。
「こういう場面こそ、反派のセリフが似合うのぅ。」
「共に歩まぬか。この世界を救うために。」
—————————